ゆうきのカポナータ

洋食 29.4,2020

8年前、夫がやっていた今にも潰れそうな中目黒駅前のバーで、ゆうきに週一回お店を手伝ってもらっていた。ゆうきの日は、彼女のファンでほぼ貸切状態となる。バイオリニストでグルメの会をしている彼女には沢山のファンがいた。その日だけはゆうきオリジナルのメニュー。だけど、カポナータだけは作って、とお願いした。

私の高校生活は素敵な友人に恵まれたと思う。ゆうきと私の他に、年上の青年実業家な彼氏がいてリッチな生活をしていたエリ。とびきりな美人か、とびきりセンスのいい女にしか興味がない裏原をこよなく愛していた繭。松戸のマックでバイトしていたみき。いつも皆が口を揃えて言ったのは、みきは普通。今思うと、とても失礼な発言だけど、嫌味とかじゃなくて彼女のスタンダードな生活にみんな少し羨ましかったんだと思う。学校が終われば、東京から地元の松戸へ帰り、マックのバイトと恋と地元の友達で大忙しな平和で安全な高校生活。勉強は中、性格も良好、明るくて、口も丁度よく悪く、休みの日はクッキーを焼くような笑顔が可愛い娘だった。

当時の私の注目は心理学とタトゥー。勿論、誰ひとりとしてそれを知らない。みんなで騒ぐのは昼食時と休み時間。それ以外は、それぞれが、それぞれのすべき事のために駅前のマックで軽くお茶をして、バイバイ。まるで会社の同僚みたい。仲はよかったけれど、何か以上に突っ込むことはしない。だから卒業旅行に行こうだなんて誰も言わなかった。

ゆうきの拘りと言えば、マイ唐辛子を持ち歩き、購買のうどんを真っ赤に染める事だった。そしてグルメ狂。時に狂いすぎて、空腹時にマックのチラシを食べているのを何度も目撃した。それから、ジャニーズの追っかけ。全国をあちこち回りいつも忙しそうだった。そんな彼女とは、他の子たちとも、高校を出てからもずっと友達関係は続いた。

どうして私達が友達になったのかわからない。援交や薬物でどんどんガリガリになる真っ黒なギャルとも、クラスで一番大人しい子とも、運動部のエースとも、誰とでも隔てなく仲よしだった私達だったけれど、食事の時間だけは、いつも一緒で最高に楽しんだ。喧嘩なんてした事は一度だって無い。後になって思えば、みんな食べる事が好きだった。スタンダードみきも、結局大学卒業後に突然ミクニさんのところへ弟子入りして、その後パリへ飛び立った。

夏が来る度にゆうきのカポナータが食べたいと思う。昨晩、ふと思い出してメールした。「カポナータのレシピを教えて!」直ぐに返信があった。「忘れちゃった。確か、焦がしニンニクと、パルメザンチーズが決めて!」ん?チーズなんて入ってない。何度も店のキッチンに隠れて食べていた私だから忘れるわけがないよ。まぁいいや、何となく作ろう。だけど、やっぱりゆうきのカポナータが世界で一番美味しい。