早朝、家の前に出した荷物を何も言わずに夫は運んで行った。ずっとそわそわした。ダメだ、気持ちの一ミリだってもう戻っちゃいけない。だけど、これが最後だと思うと伝えたかった。
「僕は変わりたいんだ。もう絶対にお酒で傷つけない。だから一緒にいて欲しい。」ポッケに入った婚姻届、折り曲げられた婚姻届を見て素直に嬉しかった。その数ヶ月後に私達は籍を入れた。2016年の事。お酒の事はずっと誰にも話せなかった。それから1年後にまたアレは始まった。
夫にメールする。
「何の話合いも出来ていないのに、離婚で本当にいいの?私達は8年間、ずっと一緒にいたんだよ。」
返答は無し、ずっと夫は無視だ。4月からずっと無視。どんなに酷い事をしても無視。「お前が悪い。」酒を飲んで夜中に泥酔して言う言葉はいつも同じ。「うざったい。俺の好きなようにさせろ。俺は忙しい。」
中目黒の酒場で私から家を追い出されたと夫が言ってると耳に入る。情けない。どうして嘘ばかりつくんだろう。私だけじゃない、世界にも自分にも嘘をついてる。そんなに自分の身を守る事で必死なのかな。私が作り続けた食事、あれは一体なんだったんだろう。この家にいる全てが夫の帰りを待っていた。毎日毎日、また同じ夜を一緒に過ごせるようにと静かに待ってた。
「助けを求めない溺れる人を助けると溺れますよ。」夏に夫の事で行った心療内科の先生の言葉。ちゃんと聞けば良かったと思う。夜みたいな一日がいる。秋の風が気持ちがいい筈なのに、身体に当たるそれが怖い。頭がどこかに置いてきたみたいな感じがする。空は青くて晴れてるのに、太陽の温かさが届いてこない。私、たぶん溺れた。