トマトとほうれん草のスパゲッティ

Journal 05.11,2020

昨晩、兄の元にようやく彼から連絡があったそうだ。
彼の話は変だった。すっぽりと犯した全てが抜け落ちていた。現実だけが、ぽつんと残ってる。兄は困惑していた。

息を切らせて興奮して話す兄。それは無意味な事を私は知ってる。自分の常識で彼の話を聞いちゃいけない。彼の言葉じゃなくて、今、どういう行動をしてるのか、どうしたいのか意図を汲んであげないと、こっちが壊れる。彼との対話は簡単じゃない。

彼は、ある時期が来ると天地がひっくり返り別人となる。ある時、肩書きを沢山持つ人となっていた。プロデューサー、デザイナー、アーティスト、経営者、オーナー。見知らぬ人にいきなり自己紹介をして名刺を渡しまくる。一度や二度じゃない何十回とそんな彼を見てきた。それが段々と加速すると、人を使うようになる。音楽しか出来ない彼はまるで大社長かのようになって、とても威厳的で、身内の色々な弱い人に悪態をつき、汚い言葉や強い言葉を当たり前のように放つ。「お前さ、要らないから。別にもう連絡しないでいいから。」そんな風に人を物みたいに切っていった。お金も有り余るように持っているような態度になって、キャバクラに行くようになる。普段はシャイな人なのに見知らぬ女性との交流が激しくなっていく。毎晩違う女性と遊んでる。そんな時期が数ヶ月と過ぎると、「もう死にたい。」「もう音楽なんてやりたくない。」と、ベッドから数ヶ月出てこないような時が続く。「もう何も出来ないよ。ねぇ俺はどうしたらいい??ねぇ。」朝から晩まで弱々しい声で甘えてくるこの質問は私にまとわりついた。癇癪の時間も酷かった。それは完全に子供のそれ。だけど、数分も経つとケロッとしてるか、もしくは急に悲観的になって「どこにも行かないで」と私の腕を離さない。目は完全に怯えていて、全力で私に甘えた。彼の行動パターンを私は大体に熟知してた。こういう性格なんだって思って上手にやりくりしながら、奇妙な現実を誰にも公言する事なく私達の8年間は過ぎていった。彼の秘密を話す事は彼を傷つける事にもなるし、私は彼から離れなきゃいけなくなるんだろうという事もどこかでうっすらと気づいてたんだと思う。だから隠した。

今日は朝から辛い。だんだんと頭痛が始まってくる。私のトラウマはそんなに簡単には終わらしてくれない。駅を歩いてると、くらっとした。頭が破裂しそう。過度なストレスが溜まると、固まる。目の前は忙しなく動いているのに、私は石みたいに、ぽつんとその場所に停止してしまう。あれが始まると私は何も出来なくなる。

早く帰宅して横になる。苦しい。やらなきゃいけない事がたっぷりあるのに。兄の話していた彼が私の中でループする。人を憎みたくない。変わり果てた彼でも嫌いにはなれない。ただ、全身で嫌がってる。名前でさえ耳が拒否してる。ただただ、怖い。

少し横になってから、デスクに座った。
さぁ、始めよう。少しずつでいい、前に進もう。