
17時、渋谷は緊急事態宣言が出ても、まだ人が結構いる。編集の山若くん家の近所のカフェまで歩く。並木橋の交差点で信号が赤になった。丁度半年前くらいに、同じ交差点で同じ様に信号を待ったと思う。未だ夏のど真ん中で、暑いのか暑くないのかよくわからなくて、とにかく世界がずしりと重かった。
信号が青になるまで、不思議な時間を過ごした。
ここに立つ私も、私の前を走る車も、反対側で待つ人や、信号機に、ビルや街も夜も全てが軽やかだ。私にのしかかっていた何かはいつしか消えたんだ。あの重みは、一体何だったんだろう。
よく、事故の前にスローモーションに見えるって言うけど、私は私を苦しめるものがいなくなって、世界の重力が消えて見える。まるで自転車の重いギアから一番軽いギアに入れ替えたみたいに。くるくるとこげる。そういう感じ。寧ろ軽くて怖いくらい。
生きるって楽だったんだね。可笑しいな。軽いよ。とってもここは軽い。変だけど、全身が軽い。信号が変わって、カフェまで急ぎ足で向かう。
「写真を見てくれない?」そう、お願いしたのが半年前。あっという間のようで、果てしなく長い時間だった。話してなかった事を、ゆっくりと話す。夏はきちんと話せなかったし、出来なかった。ただ気持ちよくて撮ってた写真じゃないし、私が世界に嘘を吐き続けた年月があまりに長くて、どこからどう話していいのかわからなかった。
こんな日が来るなんて、変だな。変なの。山若君は本が好きな人。私が知ってる本好きの中でもダントツで好きな人。私の話を聞きながら、メモに何枚も何枚も、すらすらと装丁のイメージを描いてる。この人に相談して本当に良かった。楽しそう。
タイトルだけ決まった。
ずっとやってた菊地食堂じゃなくって、新しく始めた日記のタイトルになった。「新しい日記のタイトルを変えたの!eat new meっていうタイトル、可愛いでしょ!!」new meは、英語で心機一転とか、新しい自分とかそういう意味。「こんにちは、はじめまして、新しい私だよ。」私的にはそういう感じでネーミングしたけど、山若君はなんかエッチっぽいって笑ってた。だけど、カタカナで描くとすごくいいって、はしゃいでた。どっちにせよ、楽しそうで何より。私はタイトルが決まって嬉しい。
内容はこれから。思ってたより内容のボリュームがあったみたいで、纏められないってなった。「1500Pの写真集なんて無いよ!」って。確かに、ハリーポッターに出てきそうな魔女の本みたいになりそうだね。デザインも誰にお願いしていいのかわからないし、お金も数十万の話じゃなかった。ちょっとハードな内容になるし、何かを言ってくる人もいるかもしれない。だけど、人生は簡単じゃ無いし、仕方ないよ。生きてるんだから。毎日はそんなに美しく無いし、美しいのだから。
希望のある本になるといいな。