夕飯

Journal 15.1,2021

「今夜は仕事が遅いから、電話できるよ。」元気が無い姉が気になって、夕方にメールした。いつもは私が早く寝ちゃうから、時差の関係で中々夜は電話出来なかった。

23時ちょっと前。帰宅して、缶ビールとポテチを食べてたら、姉からのLINE電話が鳴る。今日撮ったデーターをPCにダウンロードしたり、少しレタッチしたり、麦酒を呑んだりして、お風呂に入って、歯を磨いて、お喋りはずっと尽きないままにベッドに潜った。そこからしばらく話は続いた。

ジェニファーロペスとか、ケイティーペリーとか、著名な女性が苦難を乗り越えたドラマをまとめた番組のyoutubeが一昨日にメールで送られてきた。

「見た?」
「見たけど、悲しそうな事しかわからない。」
「単語を拾えばわかるでしょ。」
「早すぎてわからないし、とりあえず悲しそうな事はわかったから。」

姉は最近になって気付いた事があるんだそう。

「皆が同じ事を言ってて、すごくわかるんだよね。絶望的な瞬間が来て、その時に一人ぼっちになって、孤独になって、恐怖の中に落ちてしまったって。ケイティーはコンサートの直前に夫から “離婚しよう” ってメールが入ったんだよ。ジェニファーは、家庭環境があまり良くなくて、子供頃から自分の居場所を探し続けて2度離婚を経験した。彼女達は、自ら一人ぼっちを選んだ事で、人生を変える事が出来たって。孤独はあまりに恐怖だった。だけど、行動を起こした。簡単じゃなかったって。自分の道を見つけるまで本当に苦しくて、大変だったって。お金や名誉があったから出来たんじゃ無い。皆と同じ様に孤独は恐怖なんだよ。だけど、そこに立ち向かった。だからね、悲しまないで。よしみは強かったよ。強さが無いと、選べない事なんだよ。」

急にそんな話を言われて、声が詰まって目が熱くなった。本当にそうなのかな。

妻だから、経済的に心配だから、子供がいるから、家族だから、もういい歳だから。自分の周りで、そういう声を沢山聞いてきた。その気持ちがとってもわかるし、納得してた。それが答えだって思ってた。私もそうだったから。

もしかして、夫を、彼を好きだから離れたくないと言わなかったのは怖かったの?一人になる事が不安だっていう気持ちが潜んでたのかな。怖い。私と同じ、怖かったの?

姉の友人のアッコちゃんが日本への移住を決めた。コロナで半年くらい日本に帰国してた。アッコちゃんは、20年前に姉とはモデル仲間として知り合った。数年後にL.Aに移り住んでチャイニーズアメリカンと結婚した。こないだ、四人の子供達と旦那さんと家族会議をしたんだそう。「ママは日本に住みたい。ここがママが暮らす場所だってわかった。だから、ママはこのまま日本に残りたい。皆んなはアメリカに帰ってもいいし、日本にいてもいい。だけど、どうしてもママとアメリカで暮らしたいって言うなら考える。」アッコちゃんにとって家族はとっても大切な存在。本当にいつも仲良しな家族。だけど、家族の前に、彼女は自分の選択を尊重したんだそう。

「私達には出来ない選択だよ。だけどさ、もう変えよう。自分にいつだって選択肢を与えないといけないよ。」


「実はさ、私、一回、キッチンで包丁を握ってる時に、このまま殺したら楽になれるかなって頭をよぎった事があるんだよね。」私の打ち明けた小さな秘密に、姉は大爆笑した。

「わかるー!私も、凶器そうな物を家に見つけては、これで殺せるかな。って考えた事あるよ。こりゃ一発でダメだなぁとか。」

「実は、もう一つあって。もう本当に耐えられなかった時、彼は病気だから怒っちゃいけないって友達に止められてた時、勿論、暴力なんて絶対にふるえないし、とにかく私は耐え続けなきゃいけなかった。どんな事をされても。病気が最悪だった大地獄の時期の事。夜中に泥酔して帰宅した彼のリュックが玄関に転がってて、そのリュックにはPCが入ってて、リュックを手に取って足元に何度も何度も真っ暗闇の中で落とした事があるよ。PC壊れてしまえって思って。今、考えると相当にイっちゃってるよ。」

姉は声をあげて笑ってる。

「相当やばいね!だけどさ、そこまで自分を追い込んで耐えないで良かったんだよ。逃げたら良かったんだよ。ずっとずっと早くに逃げるべきだった。自分が選んだ事。もう、これからは楽に生きようよ!」

私達は似てる。全然違うけど、似てる。夢中になったり、頑張りすぎて、誰かの為に自分を見失う事がある。なんだかすっごくスッキリした。夜中の2時。むちゃくちゃ笑い続けた。

楽でいよう。
ぐーたらしたり、頑張らないとかじゃない。不安を放置したり、今から目をそらす事でもない。楽しい方を選ぶ。自分が楽かどうかって事。もし、傷つけられたら許さないでいい。だけど、心に負った傷が、同じ様に誰かを傷つけない為に、そこから離れる勇気を持つ事も大切かもしれない。笑うだけが人生じゃない。だけど、笑う為の決断はできる。

東京で一緒に住みたいって姉が言った。
私の家には、デンマーク製の丸いテーブルに椅子が三つ。もう一つ欲しい椅子があって、それを買ったら、私と姉家族と一緒に食卓を囲める。ちょっと値段が高い椅子。欲しいな。今日はマグロ丼。三茶に破格な八百屋があって、その前にいい魚屋があって、先ず人がごったがえした中で野菜を買って、次にゆっくりと魚を買う。とっても楽しいコース。美味そうな若芽と、立派な鮭を2枚、夕飯用にネギトロを買って帰った。

夕飯
マグロ丼
セロリとワカメとはんぺんなどの味噌汁
小松菜とひじきのオイルとコレーグース煮
大根と柚子の浅漬け
納豆