トマトとシャケのスパゲッティー

洋食 21.5,2021

カメラの点検のついでに、大場さんに教えてもらった森山大道さんの映画を観に行った。映画館、何年ぶりだろう。最後に見たのは映画監督をやってる友人にチケットを貰った、万引き家族だった気がする。六本木で元夫と見た。1回目の酒乱が始まって間もない時だった気がする。いつもの様に待ち合わせした場所に夫はいなくて、待てども待てども時間だけが過ぎ、メールも既読にすらならない。今思えば、アレは病気の一つだったのだろう。完全なる躁状態。映画館の前で突っ立ったままでいると、開始直前に電話が鳴った。「俺はビジネスで忙しいんだよ!」電話が割れる様な声で怒り狂う夫。たったの数時間前に「じゃあ、後で。」と言って出かけて行ったのに。躁状態の時はよく出てきた、ビジネスっていうワード。いつもの酒場での飲酒もビジネス。友人とのお茶もビジネス。女性とのLINE交換もビジネス。全部ビジネス。ビジネスだから、俺の邪魔をするなとよく怒り狂ってた。

双極性障害についてはよく知らなかった。だけど、カウンセリングを勉強してる友人に、夫の事を不意に相談した時に指摘された。もしかしたら、って。もうどうにも出来なくって、心療内科へ夫がアル中かもしれない!と駆け込んだ時に言われたのは、アル中もそうだけど、双極性障害の方が強く出ているとの事だった。ああ、そうかって。ようやく納得が出来た。双極性障害を調べると、どれもこれも夫の話をしてるのかと思った。世の中には、売れないミュージュシャンをリスペクトする酒場があるみたいで、そこでは、いつもいつも同じ顔が集まり、同じ酒を飲み、同じ話が飛び交っていた。中目黒の一角。きっと悪い人はいないと思う、だけど彼等は元夫が暴れるのを好んで見てた。彼等にとって夫はスターであり、夫にとってもそこは輝ける場所だった。

映画を観ながら、何だかボンヤリと色々を思い出す。映画館はいつも元夫と来てた場所だ。アレが来ない時期は、まるで別人で優しくて楽しい人だった。いつも肩を並べてポップコーンを齧りながら映画を一緒に見た。酒を飲めば飲むほどに、双極性障害は酷くなる。それだけは、天気が変わるくらいにハッキリとわかった。自分にとって誰が友達で、誰が大事なのか、よく考えて行動してと何度もお願いしたと思う。中目黒の酒場があなたの居場所なのかどうか、よく考えてと。

躁状態になるから、普段言わない様な口調になったり、大声をあげたり、喚いたり、しまいには手を出したりする。中目黒から帰る夫が、壁やテーブルを稲妻が走る様に叩くのも何度も見た。だけど、暴れて数分も経つと、何事もなかった様にケロっとしてる。毎日という場所は舞台で、そこで何役も演じてる様に見えた。いつしか、男という人間が発する強い力にも慣れて、男の大声も騒音程度に聞こえて、どうせ殺されはしない。これは私への甘えだとわかっていたから、目の前を受け止める事が彼への抱擁だと信じるようになったけど、違かったのだろう。

1時間くらい経ったかな。眠くて眠くて、二の腕をつねった。二の腕をつねりながら数十分が経ち。いよいよクライマックスだろうというシーンに入り、印刷所でどんどんと刷り上がっていく本たち。泣きそうになる。私の感動ポイントは製本だった。なんだかなと思いながら、映画館を後にする。世界堂で額装用のマットを注文をして帰宅。

遅い昼食に、昨日焼いた鮭をほぐして、トマトとナスと一緒にスパゲッティーを作った。