晩酌

『わたしを選んでくれる人』 " 雑誌の企画で綴り始めた日記 ", Journal 01.6,2021

午後過ぎに帰宅して、夕方にテコの散歩へ行った。昼食はさっき食べたばかり。ぼんやりしてる。温かい風の中でフジモンとメールしながら歩いた。フジモンは大学でカンセリングを学んでいるから色々と詳しい。今はDV加害者プログラム・マニュアルという信田さよ子さんの本を読んでるのだそう。以前に信田さんの本に救われた事があったのを思い出した。

夫が暴れたり大声で喚いても、それを知ってる夫の友人・知人らは当たり前のように何も言わなかった事にずっと違和感があった。年に一度くらいしか会わない友人が、あなたは共依存なんじゃ無いの?と伝えてきた事があった。色々と何かがしっくりとこない感じの理由は信田さんの本でわかった。

熊田曜子さんの事件をニュースで見た時に思わず「お疲れ様。」と声が出た。問題はそれぞれに全く異なる筈だけど、私もご飯を100回どころじゃ無く捨てていた。つい最近も誕生日を家族で祝ったというインスタの幸せな投稿も不思議じゃない。私も夫が暴れる数ヶ月前に仲良く新婚旅行に行った。帰宅するのが怖いのもよくよくわかる。私は夜中が怖かった。最期は怖くて堪らない家でベッドに潜り、朝まで時計の数字が増えたり減ったりするのを眺めながら、チェーンを閉めて飲酒していない夫の帰りを待った。

元夫がよく通うバーに、彼が喚く時に使う言葉「NIDOTO AERU TO OMOUNAYO」とローマ字で書かれたステッカーが入り口のドアに貼ってある。私も何百回と言われた言葉。変わり果てた男の目を思い出す。そのステッカーを初めて見た時に胸がぎゅっと締め付けられた。

うちは病気からの間接的なDVだったけど、この問題が普通じゃ無い事に気づくのにかかった年月は8年。夫にこんな事は間違ってるからやめてと言い続けても、夫がそれを聞いてお酒をやめても、いつでも戻れる場所が準備されていて、世界は夫を見て何も言わず、世界は私を見て無視をした。

フジモンが女性軽視問題について、ちょっと気になっているって話をした。うん、わかる。そうだよね。私も信田さんの本で自分が共依存ではなかった事がわかって、その時に気づいた。これってもしかして社会問題の一つなんじゃないかって。

男だからお酒を浴びるように飲んで喚いても許された?男だから汚い声で誰かを罵って、偉そうな態度で大きな音を立てたり、何かを殴ってみたり叩いてみたり出来た?

もし、私がやったらどうなっちゃうんだろう。何百回と彼がやった事をたったの一回でも私がやったら、きっと二度とその店には行けない。家で暴れても同じ。きっと誰もが言うと思う。奥さんは一刻も早く病院に行った方がいいよって。

強い力や大声をあげて威嚇するのは、男の特権では無いし、女はそれを我慢する生き物じゃない。酒場でも家でも街でも公園でもどこでも、やっていい場所なんて、どこにも無いんだとわかった。女が専業主婦であった日本の社会背景が、男には権力があるという概念がDVやモラハラに化けた。「奥さんなんだから、彼を立てなよ。」とか、「奥さんなんだから、どんと構えて家で待ってなよ。」と彼らに言われても、疑問が心を突き刺していたのは、私が女だからで、彼といつでも平等でありたいと訴え続けたからだと思う。彼が自分のやった事を当たり前だと確信出来たのは、世界が許容してくれたから。


帰宅して早々にお風呂に入った。晩酌を作ろう。何だか何もしたくない気分。冷蔵庫は空っぽ。ぬか床を回しながら浅漬けの胡瓜とカブと茗荷を出す。残り物の麻婆豆腐と、冷蔵庫の奥にあったトマトを卵と炒めよう。半分残った柔らかいアボガドは、鰹節とマヨネーズで和えてディップにして味付け海苔で食べよう。ビールが無い。うーん困った。そうだ、新生姜の甘酢漬があったな。あれでガリ酎を作ろう。

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『わたしを選んでくれる人』6月1日 ” 雑誌の企画で綴り始めた日記 “
「お付き合いしたいってハッキリ言って欲しい?」
「まだよく知らないから検討させてください。」

一つ上の彼はフランクに私に話しかけてくる。テンポよくアプローチをしてくるけど、親切だから悪い気はしない。お酒が入れば、中学生みたいな話が始まる。「一番最後にキスをしたのはいつ?」この会話楽しいのかな。私は全くつまらないよという顔をした。

誰かに好意を抱かれる事は嬉しい。だけど、今が寂しいから一緒にいたいとは思いたくない。そうゆうのは駄目。冬は人恋しいと言って誰かとセックスばかりする女が友人にいたけど、彼女にはいつも彼氏がいなかった。寂しいを利用すると、女は不味くなるのかもしれない。隣で視ていても、彼女からはいい匂いが一度もしなかった。

ご馳走してもらって悪いなと思ったので、帰りに飲んだ事が無いという、駅前にあるブルーボトルコーヒーをご馳走する事にした。帰宅して、ひとりで麦酒をあける。

翌朝、企画担当の編集の山若君からメッセージ。「どうだった?付き合う?」「3%」。恋に堕ちたい度も3%あたりを行ったり来たり。私の中には未だ突然に消えてしまった夫がいて、彼はもうこの世にはいない事も知ってる。