トムヤムラーメン

エスニック 05.9,2021

今日は恒例の何もしない日曜日。何も考えちゃいけない、作業もだめ。ただ、心地よい事だとか、ワクワクする事をする日。早い昼にトムヤムラーメンを作った。こないだ実家に帰った時に母が持たせてくれたもの。多分、最近母がハマってるんだろう。トマトの塩麹和えと茄子の薄切りを入れて、最後にカボスを絞ってベジラーメンにした。今日の夕飯は後藤さんと。後藤さんの新居へ遊びにいく約束をしてる。午後を過ぎる頃に近所の器屋さんへ向かった。先日の夕飯のお礼にイチジクを渡して、お祝いにあげるお皿を一枚買った。深い茶色がとても綺麗なお皿。器屋さんのご夫婦は今日も笑顔。こんなに仲良くいられるのなら、二人家族っていう選択もいいな。

新宿から総武線に乗った筈が気づいたら恵比寿。あー、逆走しちゃったんだ。ぼんやりしすぎてたな。けど、まぁいいか。時間より少し遅刻しちゃうのは申し訳ないけど、こういう感じはきっといい。だって今日は頑張らない日だから。

家のドアを開けると、マンションの一室にあるようなプレスルームだった。「これ、プレスじゃないですか!」私の声にニンマリと笑う後藤さん。洋服や靴が綺麗に色や形別に並んでる。調光はややアンダーで、まるでお洒落なレストランみたい。けど、ここはレストランでもプレスでもなくって、家。

一年前の夏、元夫の為に足を運んでいた心療内科で先生に言われた。「菊地さん、助けを求めていない人を助けようとすると、あなたが溺れますよ。」先生が言った言葉が現実になったのは、それから一ヶ月後くらい。私はずぶずぶと底なし沼にひとり溺れて行った。「よしみ、大丈夫?いつでも行くよ。」後藤さんがあの時に何かを感じてたのかどうかはわからないけれど、直ぐに池尻の家へ来てくれた。そして、ガランとした部屋でご飯を食べてお酒を飲んだ。「考えたって仕方ないんだから。」笑い飛ばす後藤さんの笑顔がすごく温かった事はよく覚えてる。だけど、あの時に何を話したのかよく覚えてない。あの頃の私の話はきっと支離滅裂だったと思う。たったの数ヶ月で別人になってしまった夫がゴミを捨てるように家族を捨てた。新婚旅行へ行ったのも数ヶ月前だし、暴れることがわかってるから、もうお酒はやめると誓ったのも、私達の老後の為にと貯金を始めたのも数ヶ月前のこと。酒乱も乗り越えて、結婚して3年目でようやく私達はここからスタートだと思って安心して湯に浸かった矢先の事だった。だから、あの男にちゃぶ台をひっくり返されて、あちこちに散らばった皿や料理も、私にかかった熱々の何かも、痛くても怖くても、悲鳴なんてあげる暇もなくただ座って見る事しか出来なくて、今ならわかる事も当時はたったの一つもわからなかった。だから、私は心療内科の先生の言葉の通り、夫を信じれば信じる程にすんなりと堕ちていった。

後藤さんも昨年末に離婚した。私より別居が長くて、離婚に少し時間がかかってるみたいだった。大変な問題だったと思う。新しい家を買って、リノベーションを終えて、心機一転、この夏から新生活が始まった。「私さ、最近ね、イヤホンつけて歩いてる時ににやけてたり、鼻歌歌ったりしてるの。」昨年、後藤さんはあまり自分の離婚については深く話さなかった。あの時、実はどんな想いだったとか、あんな事があったとか、今夜は色々な話をしてた。そして、離婚して本当に今が幸せで楽しいって。悲しかった日の事も、今の毎日の事も、満面の笑みで話す様子に私まで笑っちゃうくらいにいい笑顔だった。それに、結婚していた時よりも仕事が楽しいって。後藤さんから仕事の話を聞いたのは初めてかもしれない。面白い話を沢山してくれた。

嬉しくて嬉しくて堪らない夜。帰りは半蔵門線で三茶までの数十分ぼーっとした。嬉しさが一杯で駅が来ても駅が過ぎてもぼーっとしてた。家に帰ってからもしばらく嬉しくって、私は鼻歌を歌わないけど、いつもの様にご機嫌でテコとお喋りしながら、ベッドに飛び込んだ。

私がさくらの様にお勧めしてるコアラマットレス。後藤さんの新居にもダブルのコアラマットレスがどーんと置いてあった。「とにかく騙されたと思ってコアラのダブルでお願いします!」と、私の声を信じた友人達は続々とコアラをお家へ招いてる。「よしみが言ってたベッド、これにしてから私直ぐにに寝ちゃうんだよ〜。」後藤さんが笑顔で言った。苦しかった夜も、悲しくて潰されそうな夜も、普通の夜も、今夜の様に嬉しくって堪らない夜も、コアラはどーんと優しく私を受け止めてくれる最高のベッドだもの。そりゃ最高ですよ。

目が覚めたのは朝の4時、ベッドサイドで煌々と光るスタンドライトを消してまた寝た。何だか可笑しな夢を見てたみたい。ニヤニヤしながらまた眠りについた。私のコアラに包まれて。