


朝5時過ぎに起きて作業を始めようとテーブルに着くと、山若くんが部屋から出てきた。「おはよう。よしみさん、お風呂に行こうよ!」未だ半分寝てるような顔だった。真っ暗の中、海の遠くに赤オレンジ色の光が燃えるように光ってる。時間は6時を過ぎていたけど、夜の中を車で海岸沿いを真っ直ぐと走った。今向かってるのは海が見える露天風呂のある温泉。
お風呂から帰るとフミエさんがご飯を炊いててくれた。昨日の夕飯の残りのつみれ汁と炊きたてのご飯に卵をかけて卵かけご飯。昨日二人が喫茶店のママと仲良くなって貰ってきたハバネロ味噌も美味しかった。今日も天気が良さそう。これから私とフミエさんはナッチャンと一緒にイベントで使う野菜の収穫をしにヨロさんの畑へ向かう。山若くんは「お皿は僕が洗うからいいよ。」って支度で忙しない私達の為に後片付けをしてくれた。山若くんから出る言葉はたいがい尖ってるけど、山若くんって人の中身には優しさがたっぷり詰まってる。この旅でより一層に山若くんが好きになった。
カメラを二台ぶら下げて撮るのはすごく疲れる。天気が最高だし、畑も最高だけど、案の定酔った。時々、カメラのズシリとした重さだとか、慣れない変な体勢が続くと気持ち悪くなる。撮るのをやめてナッチャンと車の中で休憩した。ナッチャンはあと2週間で赤ちゃんが産まれる。色々と私達の為に動いてくれるけど、なるべく安静をとってる。車の中でイベントへの不安な気持ちとかを少し聞いた。こんなに大きなお腹をして、今に不安が無い方が不思議だと思う。出来るだけ何でもいいから役に立ちたいって思った。
畑の収穫の後はみつおの山へ行った。前回の時はみつおさんに会えなかったけど、今日はみつおさんと近所のお友達が顔を真っ赤にして畑の中の小屋で宴会をしている最中にお会い出来た。同じ日本でこんなに伸び伸びと自由に生きてる方がいるって思うと、都会の日々の中での不意に歪みそうになる出来事に出会っても無かったことに出来そうな気がした。びっくりするくらい大きな白菜とカブを頂いて、疲労が溜まってる私とフミエさんの甘い小麦が食べたいっていうリクエストでナッチャンお薦めの焼き菓子屋さんへ寄って貰って宿へ戻った。
ベッドルームに午後の光が差し込んでる。この時間のこの部屋が好き。午後は陽だまりの中で作業をしよう。いつしかベッドに転がって眠っていた。起きると山若くんが帰ってきたみたいで午前に買ったケーキをフミエさんと食べようとしてる所だった。「ケーキを開けたら起きてきたー!」って二人が笑ってた。私はアラームが鳴ったから起きたんだよって何故か一生懸命に弁明。寝起きのケーキ、すごく美味しかったな。フミエさんは1Fのキッチンへ戻った。私は作業へ戻って、山若くんも仕事を始めた。
“夕焼けが綺麗ですよ〜。” 笹やんからグループラインが入る。「山若くん!夕陽が綺麗だってよ!」カメラを二台持って屋上へ走った。なんて綺麗なんだろう。溜息だけがでた。今頃、みんなこの夕陽を見てるのかな。ナッチャン、フミエさんの顔が浮かんだ。私はこの人達が本当に好きだ。食卓を共にして同じ寝床で暮らしを共にする。宿を営む笹やんとナッチャン。滞在メンバーである料理家のフミエさん、編集者の山若くん、そして私。富山へ来る前は初めてのシェフインレジデンスでの共同生活だとか色々に少し不安だったけど、すっかりと気に入った。いや、どっぷりと愛してる。日常の中にはこんなにも色々な物が詰まってるんだって。
夕焼けが綺麗ですよって、すごく素敵な言葉だな。日々を愛で出した私はきっと東京へ帰ったら寂しさで一杯になるんだと思う。後2日。レジデンスの最終日は周ちゃんが東京からやってくる。