
夜中に夢にうなされて目が覚めた。元夫との地獄な毎日がリプレイする夢と、子供の頃からよく見る海に溺れる夢。この1年、元夫の名前は一切口に出さなかった。その言葉だけで、全身が凍りついてしまうから。「あの男」「元夫」「彼」みたいに、一切シルエットが見えない言葉で呼んでいたのに、昨晩、ベッドで目を閉じた後、何故か名前が不意に出てきた。「菊地くん」って。きっとそれが悪かったんだと思う。
怖くて目が覚めたけど、その数時間後にやってきた今日はさっさとそれを消してくれた。早朝に三人で海を走って、虹を見た。海から山にかけてかかる大きな虹。あんなに大きな虹は久しぶり。今日はそれぞれが忙しい日。明日のイベントの準備や、私は宿の撮影がある。それから昼過ぎに旧友の谷くんと会う約束もしてる。谷くんと会うのは6、7年ぶり。最後に会ったのは、茨木かどこかでお菓子工場の映像の撮影の時にディレクションをお願いした時。背が低くて派手な顔をした女の子と5年くらい付き合った後に結婚して平塚の方に家を買い、その直後に離婚した。二人に何が起きたかわからないけど、彼女はいつも色々が突然な子だったから、きっと離婚も突然だったんじゃないかなと思った。数カ月後、10年くらい働いていた会社を呆気なくやめて富山へ帰った。彼女の一人でも出来てるといいな。出来てることを願って会った。
「離婚した当初は、明日からどうやって生きていけばいいのかわからなくなってさ。」当時の私は「世界には女なんて一杯いるんだから大丈夫だよ〜。」なんて、どこにでもあるような言葉をかけたけど、離婚をしてからあの言葉がどんなに下らなかったのかわかった。だから、何だか申し訳ない気持ちだったし、少しでも幸せでいてほしいと願ってた。
「嘘でしょ。聞いてないよ。」
薬指のシルバーの指輪を見せる谷くん。ニンマリとしてる。コロナ禍と年下の女性と再婚したのだそう。あの谷くんが?いつもノンビリしてて、ぼんやりしてて、誰にでも優しいけど、なんだか頼りなくて、「優しくしすぎたから逃げられたんだよ。」共通の友人のたろちゃんんが言った言葉を私も頷いてしまったけど、その谷くんが結婚だなんて。
「本当にありがたいよ。すごく感謝してる。それに、今がすごく幸せだよ。」
谷くん、目から涙が溢れそうだった。谷くんってこんなにしっかりしてたっけ?こんなに堂々と幸せについて語るような男だったっけ?今日の谷くんは私が知っている中で1番カッコよかった。身内だけでやったという結婚式の写真を隅々まで見せて貰って、とにかく心から祝福した。
「あのね、私、離婚したんだよ。」
「えー!そうかぁ。よっちゃん大変だって言ってたもんね。」
「うん。でね、結婚するの。」
「えー!!」
次に来る時は旦那さんと新居に泊まりに行くねと約束した。谷くんに会えて良かった。谷くんは自分の事のように私の離婚についても結婚についても話を聞いてくれた。夜は恒例の温泉。今日は氷見の秘湯。日本でも5本の指に入るという秘湯なのだそう。山奥にぽつんとある。今にもお化けが出てきそうな廃墟風の温泉。男湯と女湯は藁一つだけで仕切られていた。フミエさんと今日は湯船に浸かりながら結婚生活について話した。いつもみたいに笑って話してるうちにあっという間にのぼせた。
夕飯は海鮮鍋とささやんが作ってくれたイカリング。あまりに美味しくて、みんなで何度も美味しいを連呼。ささやんはニコニコ嬉しそうだった。可愛いな。山若くんはイカリングを独り占めしたそうだったけど、最後の一つを貰ってすごく喜んでた。夕飯の後、山若くんと二人で口笛のリサイタルショーを皆に披露。笑いすぎてお腹がよじれすぎて盲腸になりそうになったけど、なんであんなに笑ったんだろう。曲は久保田利伸さんのLA・LA・LA LOVE SONG。練習には何時間も費やした。あの曲ってやっぱり名曲だな。