昨日は鉄輪温泉に泊まった。昔ながらの湯治場の雰囲気が色濃く残る町並み。宿泊した柳屋も元々は湯治場だった場所をリノベーションして作った宿。宿について直ぐにお風呂につかった。静かなお風呂は一番風呂だった。水面に西陽がキラキラと反射してる。湯と光の中に溶けてゆく身体。このままどんどん身体を委ねたらどうなるんだろう。気持ち良すぎてちょっと怖くなった。
部屋に帰って寝ていた周ちゃんとSEXをした。確か今朝もした。仲居さんが朝食の支度で部屋に入ってきて慌てて寝てるフリをした。付き合って3ヶ月。20代の恋人達のようにしてるSEX。何だか少しくすぐったい感じもする。これはいつまで続くんだろうか。当たり前のようにきっと失くなっていくのだろうけど、それはいつなんだろう。一回めの結婚は元夫がわたしに嘘をつき始めるまでセックスレスにはならなかったけれど、回数が減っていく度に何だか女がどんどん剥がれていく様な気持ちになった。身体が性欲を強く欲しているわけではないのに焦りや不安を感じて、挨拶みたいにする軽いキスやハグだけがどうにか女であることを日常に繋ぎ止めてくれていた気がする。
朝食を食べ、少し街を散策した後に、日本で三泉に入ると言う火口にある塚原温泉へ車で向かった。強い温泉は長く入ると効能が強くて疲れると聞いたことがある。この塚原温泉も長く入らないようにと注意書きがしてあった。周ちゃんに聞いたところ、酸性が強いのでピーリング効果があって、産毛が溶けるのだとか。雪がちらついてる中、火口を見に山を登った。「あの煙の下にマグマがあるんだよ。」周ちゃんが言った。綺麗な石が落ちていて二つ拾うと周ちゃんも一つ拾った。周ちゃんは同じ事をする癖がある。私がやると周ちゃんもする。その逆はあまり無い。
火口から降りてお風呂のある場所へと戻った。掘っ建て小屋の中にある家族風呂。大きな窓からは鬱蒼とした山が見える。薄い雲が速いスピードで通り過ぎて、大きな窓から強い日差しが出たり入ったりしてる。風呂場の中にある影と窓から入る光が交わろうとしない。いい影だし、いい光。洋服を脱いで、アクセサリーを外してお風呂へ入った。2人入ると丁度いいサイズの木のお風呂。強い酸性で顔がピリピリしてる。ああ、写真が撮りたいな。周ちゃんとお喋りしながら何度も思った。この旅で何度も思った。今、撮ったらいい感じの写真が撮れそう。何度もカメラを取りに行こうかと考えたけど、結局、脱衣所のカメラを手にしたのはお風呂から出てから。やっぱり撮れなかった。
本当のところ、ずっとじれったい。撮りたいのに上手く撮れない。ああ、今って思うけれど、どうやってカメラを周ちゃんに向けていいのかわからなくなる。「今撮ってもいい?」たまに声をかけて撮ったりもするけど、声をかけると緊張して写真なんてどうでもよくなってしまう。フィルム代だってバカにならないし、心がどんどん沈んで撮るのをやめたくなったりもするけど、やめない。こうやって撮れないを繰り返していくうちに、きっと撮れる日が来るから。
別府空港に着いたのは18時半過ぎ。カボスの絵が描いてある缶チューハイを飲んでる人を何人か見かけて無性に飲みたくなる。「周ちゃん、カボスサワー飲んでもいい?」「もちろん。」ベンチに座ってカボスサワーをグビグビと飲んだ。すっかりひとりでご機嫌にお喋りしてる私がいる。私が笑うと、周ちゃんが笑った。周ちゃんはお酒が苦手だから飲んでない。だけど一緒になって陽気になってる。今日、2軒目の掛け流しの旅館の風呂が水風呂で私が子供みたいに拗ねて、そして貝みたいに閉じた。初めは優しく声を掛けてくれていたけれど、その後、周ちゃんも静かに運転をしていた。やっぱり周ちゃんは同じ事をする癖があるみたい。