今日は朝一で周ちゃんと三茶の病院へ行く約束をしてる。3時半に目が覚めて、色々な事を考えた。新しい家の事、結婚の事、子供の事。気づいたら7時も終わる頃。急いで支度をしていたら周ちゃんが家にやってきた。昨晩は気分悪く電話を切った。周ちゃんは何も悪くないし、心配してくれてたのに、とにかくうんざりだった。家が決まらなかったのは別に誰も悪くないし、お互いの所為だと言えばそれぞれが悪かった。周ちゃんを責めないし、私自身も責めたくない。だけど、気持ちは伝えたいと思って、家の事も、子供の事も、今の気持ちを伝えたら、ただ電話をしてきた。何も言わずに、ただたわいも無い話だけを。わかる。それが優しさなのはわかった。だけど、全然嬉しく思えなかった。
「パンを持ってきたよ。朝ごはん食べた?」出発まで後10分なのに、何を言ってるんだろう。ちょっとイライラした。世田谷線に乗って三茶へ向かう。仕事の話をした。少し気持ちが楽になる。お互いに違う島の話をするっていい。それだけで離れられる気がした。周ちゃんが嫌いな訳じゃなくて、周ちゃんに甘えている自分が気持ち悪い。病院を出てモスバーガーでランチをしようとなった。「正直、私は子供が欲しいかよくわかってない。」「うん。俺も子供がいる生活もいいし、いない生活もいいなと思ってる。兄弟に子供がいるから、もう母も満足しているだろうし。だけど、子供を作っておけば良かったみたいな話も聞くから、後悔しないようにしないと。」私が嫌いな話をした。よく子供を持たなかった人が後になって後悔するからという話。それって本当にそうなんだろうか?ってよく思う。「周ちゃん、その話をよくする人いるけど、それって私嫌い。だってさ、子供がいない分、楽しい事いっぱいしてるでしょ。結局、どっちを選ぼうが楽しい筈だし、どっちを選んだって後悔するかもしれない。要は今が楽しければ、過去を後悔なんてしないよね。私は全く後悔してないよ。子供を若いうちに産んでおけば良かったなんて全く思わない。だって、子供がいたら出来ないことを今まで楽しんできたし。」
私はまだイライラしてる。午後はフミエさんの味噌作りに行った。フミエさんや瞳ちゃんに会ってすごく落ち着いた。それに、フミエさんの料理がやっぱり好きだなと思った。今日は味噌作りだけど、料理家というフミエさんが大好き。私とは正反対の星に住んでる。ただ、なんだか元気になれる。フミエさんは周ちゃんに豆をあげてた。氷見で会った時に2人はキッチンで豆の話で盛り上がっていた。心配はしてなかったけど、こんなにすんなりとフミエさんと仲良しになるなんてと驚いた。
家路に着いて、新しい椅子が届くから周ちゃんは留守番を、私はサミットへ行った。今夜は無水鍋で温野菜と豚キムチ、あとは豆腐とアボガドの醤油麹のせ、納豆とめかぶ、釜揚げしらすと大根おろし、ご飯。簡単に作れるものにした。周ちゃんはいつも野菜を切ってくれる。残りの調理を私がする。その間にそれぞれがお風呂に入る。これがルーティン。席についてワインをぐいっと飲んで聞いた。「私って我儘だよね。周ちゃんの過去の彼女で最低な我儘ってなに?」周ちゃんの過去の最低我儘話は、それは我儘ではなくて、心の病だと思った。本人は病だとは言わなかったし、それが何処まで愛だと思うかって難しいよねって話してたけれど、「それは、多分病だよ。」ってハッキリと言った。もうワインも何杯も呑んでいたから、言った。私もそうだけど、病院へ行って知った事。「周りの人、家族とか、恋人とか、そういう人が手に負えないってなったら病だと思われます。今日は旦那さんの事で困って病院へ来られたんですよね。」心療内科で精神保健福祉士の方に元夫の相談をしていた時に言われた。周ちゃんが彼女と別れた理由は我儘だったそう。その我儘は何を言ってるのかも不明で、真面目に対峙しようとしたけど、どんどんとエスカレートしていったのだとか。元夫がおかしいのは気づいていたけど、普通の時もあったし、友達だっているし、病気じゃ無い。ただちょっと調子が悪いだけ。だけど、違かった。私の我慢が彼の病を病じゃなくしていた。病気ってある日突然なるものじゃ無い。普通の人がなる。病気でも友達だっているし、仕事も出来たりもする。結構簡単に心の病は転がってるらしかった。普通に歩いて、普通に何かを食べて、普通にその辺に座ってる。別にそんなに特別な事じゃ無いんだってわかった。
昔の彼女の我儘話から、恋愛がいつも歪んでしまう私の友人の話、周ちゃんが過去に職場で上司の女性に振り回されて大変だった話、どうしてか人を傷つけてしまう女の話になった。話しているうちに、話を聞いているうちに、なんだかすごく周ちゃんが可哀想に思えてきた。どうして周ちゃんはいつも優しいんだろうって思っていたし、周ちゃんが嫌な顔をしているのを見たことがない。顔から表情が消えるのは何度か見たことがあるけれど、今朝もそう。それ以外はいつも優しい。いつも優しい。何だかな、何やってんだろう。私がイライラするから、今日も周ちゃんは優しかったんだ。帰りに先日仕事で腰をやっちゃったんだと話してた。キッチンで腰を抑えてるのを見て気づいた。今日ずっと痛かったんだ。
この人は我慢をする人だ。私が告白された時に「あなたには幸せになって貰いたいって思ったんだ。」って話をしていて、一体、この人は何言ってんだろう?って思ったけれど、わかった。周ちゃんは幸せになりたいんだ。
私に出会う前に別れた婚約者の話を聞いたことがあった。何だか淋しそうに見えた。きちんと愛し合っていたんだろうと感じたけど、周ちゃんは彼女の悪口なんて一つも言ってないけど、それは平等そうじゃなかった。私には私が抱える問題があるように、周ちゃんにも私の知れない問題を抱えてる。だけど、隣にいるのならば、我慢しないでと言ってもしちゃうんだろうけれど、我慢しなくてもいいのかもしれないって少しでも気づいて貰えたらいいなって思う。
周ちゃんが優しいのと、我慢してるのを感じるって事を伝えた。堂々と話すのは可哀想かなと思ったけれど、私が思っただけだからと軽く話した。周ちゃんは皿を洗いながら何も言わずに聞いてた。「周ちゃん、毎週日曜日は私の悪口を一つ言う日にしよう。人の悪口を言ってはいけないとか、笑顔でいなさいとか、人には優しくとかあるけど、そうじゃない時があっても良くて、嫌な顔したり、嫌な事を言ってもいいんだよ。」周ちゃんは考えてる。「えー!うーん。確かに。しないかな。」「人には良いところも悪いところもあるし、周ちゃんが気分が悪かろうが、嫌な顔をしようが、それと周ちゃんの良さはイコールしないよ。まずは、人の悪いところを探す練習をしよう。やり過ぎたら、ストップかけるから。」「えー。」
いつも笑っていないで欲しい。そんな事したら、いつか何かが切れちゃうと思う。怒ったり、苛々したり、八つ当たりしたりしていい。毎度は困るけれど、適度にやって貰わないと隣にいる私もきっとおかしくなる。晴れてばかりの毎日は心が枯れてしまう。