
いつもの通り4時半に起きて作業。今日は周ちゃんとピクニック。昨日の残り物の塩豚と大根の煮物に味噌をいれてスープジャーに入れた。後は残ったファラフェル、夜に茹でておいたゆで卵、それから周ちゃんが朝に握ってくれたこぶしみたいなおにぎりと温かいをお茶を持って9時ちょっと前に家を出た。雨の所為でまだ土はところどころがぬかってる。周ちゃんは何度も大きな声深呼吸を両手を広げた。「屋久島とまでは行かないけど、屋久島を思い出す景色だよ。」「へぇ。屋久島、行った事がないよ。」「九州最高峰の山があって、そもそも屋久島自体が噴火によって出来たところだからね。」「へぇ。」周ちゃんと話しているといつのまにか学芸員が登場する。そのうちに話は私の右耳から左耳へと流れでてゆく。ああ、気持ちがいい。声のさえずりも周ちゃんの声と同じように音楽みたいに聞こえる。なんて穏やかな休日なんだろう。だけど、最近ちょっとだけ怖くなる。こんな穏やかな日常で大丈夫なんだろうか。また、日常が襲われるような事が起きるんじゃないか。ただ電車に乗っているだけで、ただ家でご飯を作ってるだけで、ただ誰かの帰りを待っているだけで、夜中が悪魔になるような日常はもう本当にやってこないんだろうか。幸福になったり不幸になるのは権利でも資格でもないのに、安心で穏やかな生活を送るわたしの日常がある事にときどき不安になる。周ちゃんが自転車で出かける度に「ヘルメットをかぶって。」とひつこく言うのは祈りみたいなものなんだと思う。ある日突然に大切なものが壊れてしまいそうで怖い。事故で死んじゃうなんて事は簡単には起こらないとは思うけれど、絶対にないことなんてないから。
「周ちゃんデートしようよ。」「えーこれってデートじゃないの?」家までの帰り道、夏みたいな太陽がじりじりと暑くてマスクが少し苦しい。「お弁当持ってピクニックってデートだよ〜。」「うーん。確かに。けどさお洒落してないよ。」いつもの散歩の格好。レギンスに大きなシャツを羽織って泥だらけになってもいいようにと履き潰したアシックスのスニーカー。これでデートは嫌だ。「よしみはどんなデートがしたいの?」「舞台見て、ディナー行って、夜の街を歩きたい!大人でしょ。」「いいねぇ。じゃあ、ホテルに泊まろうか。それでホテルの朝食なんか食べて帰ろうよ。」「えー!それはエロいよ。」二人で笑いあった。履き潰したスニーカーじゃなくて、底がまだ綺麗な時々しか履かないようなサンダルを履きたい。少し色の濃いリップをつけてグラスにつく口紅を気にしながら食事をしたい。いつもよりも丁寧に話したりいつもよりも丁寧に隣を歩きたい。いつかはどちらかが先に死んでしまうのだろうけれど、あと何回も何十回もデートしてから死にたい。