6月24日

Journal 24.6,2022

“お祝いを渡したいのだけど。” 夕方過ぎにいまむからメールが入った。春の個展が終わってからずっと元気がでないと聞いてたから、メールを貰って少しほっとした。”ちょっと意見が聞きたいの少し時間ある?” “いいよ。” 電話をかけると外にいるようで、遠くに子供の声が聞こえた。「仕事のことだよね。それで。」メールで書いた内容の続きを手短に話した。「よしみちゃんが言いたいこと、それが全部?」「端折ってしか話してないけど、だけど大丈夫。もう解決してるし、私が聞きたいことは別のことだから。」「そうだよね。端折ってるよね。とりあえずわかった。じゃあ話していいかな。まずなんだけど、それ、とても酷い話だよ。俺が仕事をする上で話すと、。」いまむはいつもよりもずっと早い口調で話はじめた。私に起こったことが仕事としてどれだけ被害を被っているのかとか、仕事をする上でのクライアントとの関係性として不当であること、それから、私がそれを庇う必要がないことを強く指摘した。そしてどうすべきかも3つくらいに提案してくれた。私は相手を悪者にしたくなかったから、もっとしっかりと出来事の詳細を話した。

いまむは代理店仕事が多い。いわゆる誰もが聞いた事のあるようなビッグクライアントのディレクションやプロデューサーをしてる。今までにきっと大変な現場や、どうにもならない事だとか、とにかく色々を乗り越えてきたんだろうと思った。いまむが話している言葉には重みがあって、ずしりとなにかを感じた。だから、こんなにも怒ってるんだと思った。こんないまむを見たのは初めて。だからか、いまむの言っていることは正しいようにも聞こえた。どんな立場であろうと対等に仕事をすべきであること、フリーランスだからって立場が低くなる必要はないし、きちんと尊重すべきなんだよ。じゃあ悪いのは誰か。そこまで話は進んだ。

電話を切ると部屋の中も外も夜がすっかり始まっていた。窓から周ちゃんの自転車が駐車場に停まる音が聞こえる。だいぶ長い時間話し込んでたみたいだった。部屋で着替える周ちゃんに電話のことを話すと、目を赤くして涙を拭うのをみた。気づかないようにしたけど、そんな周ちゃんの姿を見て私も泣きたくなったし、話し続けた声は少し震えていた。「いい友達を持ったね。僕もディレクションの仕事をしてきたけど、本当にその通りだと思う。」それから、私に起きた事だけじゃなくて、周ちゃんが過去に経験した仕事の話を聞いた。信頼関係が崩れること、そういう人がいること、そして、やっぱり信じたいと思う気持ちがあるのは悪くないってこと。そうやっていい仕事を築いていきたいってことを熱く語りあった。

なんだかとにかく驚いてる。いつもふにゃふにゃしてるいまむが酷く怒ったことも、私が知らないうちに自分を責めていたことも、良好な関係を築きたいが為に相手を庇っていた事も、そしていつしか被害を被っていたんだということも。いつもよりもずっとやりずらかったその仕事にはきちんと理由があちこちにあって、その理由が答え合わせみたいに見えた。いまむが最後に言った言葉が胸にずっと響いてる。「よしみちゃん。信頼していいんだよ。」私が一番に恐れていたこと。信頼関係は築かない方がいいの?一線を引いて仕事はした方がいいの?独立してから信じてやってきた仕事のやり方が崩れて、なんだかもうこの仕事をやめたいとも思ったけれど、そうじゃなかった。いまむがそうじゃなくしてくれた。「どんなに大変なクライアントだろうと、どんなに大変な仕事であろうと、仕事はうまく回せるんだよ。それが僕らの仕事だから。」

変な話だけど、私はやっぱり愛を信じてる。温かい人や温かい場所が好きだ。自分さえ良ければいいなんて思いたくないし、誰かが悲しんでいたり、誰かが大変な想いをするのもいやだ。一緒に笑いたいし、泣くときも一緒でいい。いつかいまむと仕事がしたい。そして、私はこれからもしっかりと信頼して行こうと決めた。それから、車を買ったらいまむを海へ連れて行ってあげよう。私達は海が好きだから。何もなくても夏じゃなくても秋も冬も春だって海を見に行くのが好きだから。