
21時09分。周ちゃんはまだ帰ってこない。今夜を密かに楽しみにしてた。夕方に駅前に買い物へ出かけた。コスキチでアムリターラのバスソルトとエコストアの歯磨き粉を買って、西武の地下でパッケージが可愛いクラフトビールを買って、西友でポテチとバナナを買った。今夜の準備は万端。外は雨が降ってるし、夏なのに肌寒い。周ちゃん、大丈夫かな。今日も自転車で出かけてる。
「明日はディナーミーティングだから。」「何それ?飲み会でしょ?」「夕飯を食べるだけだよ。」「え、それ、ただの飲み会じゃん!」「知らないよ。だって上司がディナーミーティングって言ったし。」「へぇ。楽しそうだなぁ。いいなぁ。何食べるんだろうね。朝帰りにならないといいなぁ。タクシーが朝の5時に家の前できゅっと止まってさ、そっと玄関が開いて、寝室に入ってきた周ちゃんから石鹸のいい香りがしてさ、小さな声で遅くなってごめんねって。朝帰りはきついなぁ。」「もう、やめてよ!」周ちゃんは少し本気で怒ってた。「冗談じゃん!ごめんね。全然いいんだよ。飲み会だっていいんだから。」幾らだって最悪な事態は想像出来るよ。だけど、周ちゃんがそうじゃないことは最初から知ってる。いつもみたいに一人ドラマを作って楽しんでいただけ。それに、もし本当にそんな事があったとしても大丈夫。私達はそんな事じゃ死なないし、ただ、最低って思って嫌いになるだけ。好きとか嫌いで片付くことは簡単なんだよ。
こないだ友達が浮気されたことを許せないって言ってた。「いいんじゃない。」って伝えた。いいと思う。許さなくていいよ。許してもいいとも思う。どっちでもいいよ。ただ、許したくないって自分が言ってるなら、許したくない自分と一緒にいたらいいんじゃないかな。お気にいりの皿を割ったとしても、しばらくは落ち込むけど、そんなに時間をかけずにわかる。もう戻らないって。だから、忘れたくないんだと思う。相手の問題じゃなくて、答えはきっと自分で、愛したかったとか、愛されなかった自分についてとか。愛の話がすればするほどにそれは愛じゃない。愛っていうのは、信じることも出来るし、望むことも与えて受け取れることも、なんでもどうやら出来る。だから、愛っていうのは嘘も簡単につける。尊くもあれるし、ぽいっと捨てられるものにもなる。愛っていうシールをつけると、どこでも通行許可が通るみたいになっちゃうけど、実際にはどこも通れない。愛だけじゃ、結婚もできない時代だし。愛だけじゃお金持ちにもなれない。だから、許せないのなら許さなくてよしだと思う。大切なのはたぶん、そんな自分と向き合っていくことで、いつか答えがでる日を信じて戦い続けるしかないんだと思う。友達に話すのもそうだし、どんどん世界に馴染ませていくうちに、苦しんだり悲しんだりを繰り返していくうちに、何かが見えてくるんじゃないかなって。