朝食

朝食 17.7,2022

相変わらず新婚みたいな生活を続けてる。夜はキスをして寝て、朝はまたセックスをする。もうこれが最後のセックスなんだろうと思うけど、もう他の誰かとしなくていいと思う。もう十分に誰かを愛したり愛されたりを繰り返してきたから、きっと私の隅々までが欲してない。一昨日の夜に周ちゃんが少し変なことを言ったのは、きっと私が悪かった。私の方がずっとデリカシーがないから。

「三茶が好きかって聞いたでしょ。」「うん。英語でね。」「気になって考えてたの。好きというわけじゃないし、住みたいとも思わない街。だけど、胸に何かがすごくひかかって。それでね、思い出したんだけど、昔に付き合ってた男を振った街だったの。あとはすごく好きだった子のお母さんがやってるスナックがあって、デートで訪ねたりして、それから、少し年上の人、会社とかやってる面白い男が好きだったんだけど。初めてというか誰かと結婚したいって思ったんだよね。彼と出会ったのも三茶だったの。あとは、20代前半の大学生の頃に初めて三茶に行ったんだけど、2つくらい上の好きな男の子の家でさ、何度か通ってさ。」「えー!?よしみにとってすごい街じゃない。」「自分でもびっくりしてるよ。何も思い入れないと思ってたのに。それから、まだあるんだよ。10年付き合ってた子とね、結婚しようとしてたのだけど振ったの。別れた後に居酒屋でご飯たべたのが三茶で。そしたらまだ俺の女だって言われたんだけど。あれも三茶だった。彼と会ったのはそれが最後。あとは、元旦那さんと出会ったのも三茶。」それから、少し機嫌が良くなかった。思い違いかもしれないけど、なんか変だった。私の恋愛のほとんどが三茶だったことじゃなくて、あまり話さない元夫のこと?

私は別に周ちゃんの前の彼女の話だって、前の彼女達とどうセックスをしてたとか平然と聞ける。私の話だって、笑い話のように色々を引張りだしてきては楽しませてあげることが出来る。だけど、一番最後の婚約者だけは別だ。彼女の事は未だに気になるし、私のジェラシーが見え隠れする度にばれないかとヒヤヒヤするときだってある。そんなこと、私の一人問答だってこともわかってるのだけど。

周ちゃんは昼からフィールドワークにでかけた。今日は近場に行くのだそう。私はフィルムのスキャニングとか、映像機材の事とか、一昨日にアップデートしたパソコンの整理とかをした。夕方に図書館に行って、無人販売所で夕飯用にほうれん草、トウモロコシ、ゴーヤを買って、最近ハマってる神戸のクラフトビールを駅前に買いに行った。「陽が暮れる時間がすごく気持ちがいいんだよ。」「へぇーそうなんだ。」「山がね、さわさわ言うの。ひぐらしの音も聞こえるし。山だとか空がすごくきれいなんだよ。風がね、昼はないのに、いい風がふくんだよ。」夕飯を食べながら話した。夏がきてから食卓が鮮やかになった。地場で採れる夏野菜のお陰だ。毎晩、食卓に並ぶ野菜の話をしてる。新鮮な野菜の味は濃いから調味はなるべく薄味にする。それが薄ければ薄いほどに、シンプルなほどに周ちゃんは喜んで食べる。

馬鹿みたいなのだけど、一度目の結婚のときも同じように思った。このままでいい。この時間が何度も何度も続くだけでいい。もう誰も愛さなくていい。このままどっちかが先に死ぬんだろうけど、どっちでもいい。ただ、それまで思い切りに愛していこう、って。人間ていう生き物は変わらなくて、馬鹿みたいだなと思う。一度目の結婚とは全然違うのに、一度目みたいな気持ちに落ち着くことがある。けど、周ちゃんとの結婚は圧倒的に違うものもある。それは何も望んでいなかったって事。私を幸せにして、子供を産みたい、誕生日は一緒に祝って。結婚してとも思わなかった。ただ、別々でいてくれればいい。それだけをお願いして結婚をした。今、想うことは、周ちゃんを幸せにしてあげたい。また大切なものを失うのが怖いんじゃない。過去を後悔してるわけでもない。ただ幸せであってほしいと願っていたい。お腹いっぱいでいて欲しいとか、ぐっすり眠って欲しいとか、そうして翌朝は寝坊してしまうくらいに寝て欲しいとか、朝ごはんを美味しい美味しいって口いっぱいに頬張って欲しいとか、無邪気なままに沢山のなにかに満たされていて欲しいと毎日想う。

最近、またハグの形が変わってきてる。それが具体的にどうなのかはわからないけど、ハグの中にあるものを掴むような感じが、何度やってもまた感じるそれが重ねても重ねても嬉しくなる。何度食べても美味しい好物みたいに。