
今朝も3時半に起きた。結局、ホテルから現場に向かっても、自宅から向かっても変わらない時間に目が覚める。ベッドでしばらく本を読んでると、部屋がどんどんオレンジ色で一杯になってゆく。最近気に入ってる青山のホテル。窓が大きくて、夜は東京の街を、朝は太陽を独り占め出来る。撮影が終わったのは夕方の18時過ぎ。ホテルに戻って機材を置いてから瞳ちゃん家に猫を見に行った。数ヶ月前に瞳ちゃんは念願の保護猫を飼うことに決めた。
何だか今日はすごく清々としてる。心に溜まっていたものが、吹っ切れたようにも思う。仕事の事で人間不信になった自分を、馬鹿じゃん、だとか、ズルく生きたらいいよ、とか、心にもないような言葉をぽいぽいとかけてみたりして。かと思えば、頑張ってる友人を思い出して何とか前へ進めと背中を押してみたり。ここ数日は、よく編集の成田さんの事を思い出した。仕事での愚痴を季節が変わるみたいに私に溢してゆく成田さん。彼の事を心から尊敬しているし、彼のそれは私に勇気さえ与えてくれる。
だけど、そう思えば思う程に、なんだコレって思いながらシャッターをきる事に心が苦しくなる。写真が好きで膨大な写真を、料理本や雑誌、写真集を数え切れないくらいに子供の頃から見てきたのに、そうして沢山を私なりに勉強してこの職についたのに、私よりもずっと写真を知らない人がとんちんかんな写真を、表現としておかしな写真をこれが写真だと言う。これは一体何を誰に語るの?私の心が苦しくなるのは私が撮りたいものを撮れないからじゃなくて、インド人はカレーを手で食べるけど、日本人はラーメンを手で食べないよ。「だって数字が伸びるから、だってクライアントがそう言ってるから。」そんな事を言われたって、火傷しちゃうよ。痛いよ。可愛そうだよ。愛がないじゃん。って、心がぎゅうっと小さく潰されそうになる。やっぱり思い出しちゃう。「よしみちゃん。それって愛があるんかな。」絵描きの健太郎さんとお仕事をする時に言われた言葉。ここに愛がないのに、どうやったら愛を届けられるんだろうか。健太郎さん、本当にそう。愛ってのは交換するものだよね。片一方だけが満足するものは愛じゃない。だから、やっぱり何度も成田さんを思い出した。だって、面白い本を作りたい。そういう過程で彼に出会ったから。それはただ、やみくもに仕事をするとか、頑張るってことも意味してない。
今日は仕事の事で、写真を撮ることで沢山を考えた。熱い夏の日。太陽の光で写真が撮れることが、とにかく嬉しかったし気持ちが良かった。仕事で出会う人は色々な人がいて、好きになる人もいれば、そう思えない人もいる。けど、きっとそれでいい。無理してみんなを好きになる必要なんてない。だから、精進して前へ進もうと思う。嫌なことがあったとしても、悲しんだとしても、傷ついたりしても、それは昨日までの事。写真が撮りたいのは明日の話。だから、まったくもって大丈夫。すっごく楽しみながら、すっごく頑張ろうと思う。
夜は久しぶりに広尾を歩いた。アシスタントの時によく通った場所。西麻布の交差点にクロマートというプロラボがあって、撮影が終わるとフィルムを出しに行った。11年前のこと。よく師匠と蕎麦を食べたし、よく師匠の車で通った道。ロケが多い撮影では、夏は死ぬほど熱くて、冬は死ぬほど寒かった。色々と大変なこともあったけど殆どもう覚えてないし、いい記憶ばかりが残ってる。そういえば、師匠はとても温厚な人だったけれど、写真のことで雑誌の編集者と言い合いになった事があると聞いたことがあった。やっぱり、写真のことでは譲らなくていいんだ。