カレースープとトースト

Journal 08.10,2022

朝から予定がぐちゃぐちゃ。普通に起きたのに、ちゃぶ台のある部屋で朝食を食べていたら、電気カーペットのやんわりとした温もりに二人してすっかり包まれてしまった。せっかくの土曜日なのに、今日は朝からテコの病院やジムニーの試乗の予約、それからリビングに観葉植物と玄関先にも幾つか根が強そうな植物を買いにホームセンターへ、それから都内で友人達とディナーを予定してる。周ちゃんはきっと平日と変わらない忙しさ。時間は10時をずっと過ぎてる。スズキの予約が10時。周ちゃんは朝のシャワーはお決まりだし、私は梃子の散歩に行かなきゃ。全く間に合わない。

最近、街に走るジムニーを見ては、少し飽き飽きとしてた。流行ってるんだ。じゃあ、要らないかな。母の乗っていた赤いジムニーで色々な場所に行ったのを憶えてる。ジムニーに乗った時間の事を特に憶えてる。父の車に比べたらずっと乗り心地が悪いのだけど、タイヤの上にあたる部分に座って振動を感じるのも好きだった。夏は暑いし、冬は寒くて、けど好きだった。私はいつも母と一緒に車に乗ってたと思う。うちの教育方針なのか、祖母のそれなのかわからないけれど、よく幼稚園だとか小学校を休んで、車で何処か遠いい所へ出かけた。学校で皆と遊びたい気もしたけど、友達には言えない何処だかわからない場所に行くのはとても楽しかった。半分くらいは多分、祖母の仕事の休日に母と祖母のデートに私は連れ回されていただけな気がしてる。けど、特別な時間で良かった。兄や姉よりもずっと私の方があの派手な祖母との時間は長い。ハイヒールで歩く度に強い香りや肩でふわふわと踊る髪が不思議で面白かった。母と祖母のデート。そして赤いジムニー。いつからか、私も大人になったらジムニーに乗るものだと信じて止まなかった。もう大人もずっと飽き飽きしていた二年前、離婚して引っ越した松陰神社のマンションの敷地内にある駐車場がひとつぽっかりと空いてるのを見てやっぱりジムニーに乗ろうと思い出した。母は赤だけど、私は白かなって。神様は信じてないけど空から降ってくるみたいに心の声が聞こえた。

周ちゃんはお金に細かい。きっと貧乏生活からの癖なんだと思うけれど、とてもしっかりとしてる。色々と話し合い、高騰してるらしいジムニーの中古を買うならば、Hondaフィットにしようとなった。フィットも丸っこくて可愛い形だったので、まぁいっかと思ったけれど、やっぱりジムニーに乗ってみたいと話して今日の試乗となった。まだ買うかどうかはわからないけど、自分が車屋で新車の試乗するなんて、車屋のピカピカの窓ガラスの中のテーブルに座ってローンの話をするなんて、人生って本当にわからない。想像もしなかったことがいきなりやってくる。私はすっかり気に入ったけど、周ちゃんはやっぱりお金の事も考えてるみたいだった。「上に自転車を乗せられるし、フィールドワークの幅が広がるよ!」なんて調子のいい事を言ってみたりしたけど、冷静によくよく考えてた。私はただ、夢なだけ。だから、乗りたい。

ホームセンターでバタバタと買い物をして急いで家に帰り、電車に飛び乗った。周ちゃんはのび太くんみたいに3秒もしないうちに寝て、私はブッダの本を読んだ。心理学者、クリスティンネフ博士の提唱するセルフコンパッションがブッダの慈悲の瞑想に由来する事が気になっていたから。数日前から亀の速度でのんびりと読んでる。というのも、姉がこないだ「クリスチャンやめる」と言い出したのがきっと理由。イスラムとかキリストとか、アメリカで様々な人種の人たちと日常的に多国籍文化圏に身を置き暮らす姉の宗教体験については、自身もクリスチャンになり、やっぱり仏教だと思ったのだそう。誰がいいとか悪いとかじゃなくて、私はそうかなと思ったのだとか。

けど、姉の云うことはよくわかる。私達がたまたま姉妹となったのだろうけど、まるで戦友なんじゃないかと思う事がある。人生で一番ピンチだった離婚時、ヒーリングだとかオーラだとかチャネリングだとか色々と周りの誰かに聞いてはやってみたけど、どれひとつとして残念ながら数時間以上の効果はなく、先立って私を潤してくれたのは心療内科。科学的に立証されてる国家試験を持った人達が培った努力は私の明日や命をあっという間に救った。スピリチュアルな世界は夢があってロマンティックだから素敵だと思う。それに元気な時は楽しい。一喜一憂するのも華がある。だけど、本当に力がでなくなってしまった時に、酸素よりも役にたたなかった。同じ時期、姉はニコちゃんを亡くして、アメリカで遺産相続や会社の5つの裁判を2年間の間ずっと戦い続けた。姉を救ったのは宗教だった。歴史のあるキリスト教の信者となった。もうやめちゃうらしいけど。

18時にold nepal。ユウチャン、ミサちゃん、ミサちゃんの彼のヒロさん。そして周ちゃんと私。不思議と言えば不思議な面子だし、必然といえば必然的な感じ。ユウチャンとはもう10年くらいの仲だし、ユウチャンはミサちゃんの親友で本人はそうは言わないけど半ば環境問題のアクティビストで、ヒロさんはアジアをメインとしたジャーナリストで、周ちゃんもアジア圏のフィールドワークを主に活動する学芸員。そして、私と周ちゃんの初デートのレストラン。old nepal。もし、若かりしき頃の私がチベット文化圏で行われる鳥葬に興味を持たなかったら、周ちゃんとは結婚していなかったし、周ちゃんが私にnepalで買ったあっちでいう所の幸福のサインだとゆう手の形が掘られた小さな木片をくれなかったら、周ちゃんはただのイケメンで終わっていたと思う。それに、イケメンは好きだけど、こりごりだった。バンギャでもない特別美人でもなんでもない私が絵に書いたようなメジャーデビューを果たしたバンドのイケメンボーカルと結婚した理由は今でもわからないけれど、やっぱり離婚するまで彼の事が好きだった。イケメンと愛をシンクロさせたくなかった。だから、周ちゃんは嫌だった。けど、今となっては周ちゃんはイケメンのお面を被った周ちゃん。

家に帰宅したのはもう日を超えていた。だから田舎は嫌。本当に不便で面倒くさいけれど、好きな所もある。一緒に帰ってくれる周ちゃんだってそう。この人の為にじゃないけど、この人がきっかけでこんな辺鄙な田舎に引っ越した。良くも悪くも人生を変えてくれた。今でも恋しい世田谷だけど、世田谷では見えない景色。残念ながら人生を拡張された気分。知らなくてもいいことだけど、知ったらきっとまた別の場所に行ける感じ。「NYに住みたいかな。」ヒロさんが言った。ミサちゃんが来年からインドに住む。そんな話の流れでヒロさんが言った。少し年が私達よりも年上のヒロさん。周ちゃんも同じ様に言ってたけど、とにかく魅力的な人だった。周ちゃんはきっと女の私が思うよりもずっとヒロさんの魅力にハマってる。知的で自由で、きちんと恐れも持っていて、そして誰の事も傷つけない。その上でまた別の場所へ歩もうとする勇気。別に二人がいちゃついていたわけではないけど、ヒロさんが当たり前のようにミサちゃんを褒めるのを聞くのも心地が良かった。なんだか私や周ちゃんがずっと子供に見えたし、私も、周ちゃんも、互いにもっと別の世界を知って、そして愛したいとも思った。それに、今日はすごく心理学が勉強したいと思った。どうしてかわからないけれど、それぞれの色々な人生が私の色々に刺激を与えてくれた気がする。心理学に触れていると私の色々が生き生きする。写真も同じ。生物的に、生理的に、血が全身に綺麗に通っていて気持ちがいいと感じる。

いい夜だったな、きっと周ちゃんもだろう。時々、まだ半年ちょっとの夫婦だけど、腹が立つのと同じくらいに周ちゃんの幸せを願うようになった。横から見ると、目の脇に笑い皺を何本も並べる。ぎゅぅっと。それを見る度に私の胸もぎゅぅっとなる。恋とかじゃなくて、どうか幸せになって、と重ねるように願ってる。もし、それが叶うのならば、きっと私は幸せになれると確信さえしてる。そうして私なんてものはさっさと捨てて、大切な人の幸せのことだけを考えて生きていけたらいい。