
今日は機材の修理に行きがてら、昨日漬けたキムチを新宿で編集の柳瀬さんに、青山で中西くんに、夕方に渋谷で今むちゃんに渡した。大量に漬けたキムチがあっという間に失くなってしまうのは少し寂しい気もするけど、美味しくできたものを誰かに食べて貰えるというのは寂しいよりもずっと嬉しい。それに、人に会う度に、今年もどうにか生きていたんだなと静かに嬉しくなる。たったの一度死にそうな経験をしたくらいで大袈裟だなと思うけれど良かったと安心してしまう。
最後に会った今むちゃんとは渋谷の駅前のDEAN & DELUCAでお茶をした。いつも通り少し遅れる私と、いつも通り時間丁度にくる今むちゃん。到着するとやたら大きなマグカップに並々のコーヒーを指でさして「これ、間違ったかな?Mなんだけど。」と笑ってた。私のは普通のサイズのカップに入ったMサイズのホットのアップルサイダー。「私のはMだよ。」エムとエルの発音をしながら笑いあった。秋にイタリアに行ってからパスタにハマってる今むちゃん。今でも毎日パスタを食べてるのだと嬉しそうに話してる。プロみたいな包丁が欲しいんだ、アルミのフライパンってなに?フライパンってそもそもいくつ必要なの?質問攻めの嵐だ。「ごめんね。話せる人がいないからさ、楽しくて。」「いいよ。来年はパスタツアーしようよ。」
今むちゃんのパスタの話がずっと続いた後に質問した。「あのさ、ちょっと悩みがあって。」「え、なになに。」「いや、なんか話しづらいんだけど。」「え、何。」「あのさ、うーんと。実は勉強がすごい楽しくて。きっと田舎暮らしを始めたり、東京を出たことも理由だと思うんだけど。」「うん。何よ。」「あのね、私、きっとこのままだと、勉強が楽しくて友達がどんどんいなくなると思う。」きょとんとした顔の今むちゃん。次に大笑いした。「なんだよ。それ、超面白いじゃん。」「えーちょっと待ってよ。私勉強が本当楽しいんだよ。けど、勉強すればするほどに、なんとなく遊んでた友人達の話が全然楽しめなくなっちゃって。前は、見てるだけで可愛くて仕方ないって感じだったのに。なんか。」「なんとなくって言っちゃってるじゃん。」「え?違う!友達だよ。友達は悪くない。悪いのは私が変わったんだよね。そうだよ。」
「わかるよ。僕もあるよ。いや、結構そうだよ。」「え?」それから、しっかりとひつこく説明した。今まではきっと楽しめていたのに楽しめなくなっちゃったとか。なんだか自分だけアウェイに感じちゃうとか。それで、寂しいってことも。「うん。わかるよ。けど、いいんじゃない?だって楽しいんでしょ。今。」「そうなの。だから相談してるんじゃん。すごく楽しい。心理学の勉強が本当に楽しい。勉強すればするほどに楽しい。どんどん世界が広がっていくし、社会学も哲学も生物学も色々と派生するんだよね。本当に楽しくて仕方ないんだよ。だけど、どんどん離れていく気がして寂しい。話が合わないっていうか。なんだろう楽しくなくて。私が悪いんだよね。」「うん。いいんじゃない。」
答えはきっと私も気づいていたんだと思う。静かに諭されて、そのまま心理学から進化論の話になっても、そのままに納得してた。「結局、人間は動物なんだよね。だから僕は動物描いてるんだよ。」今むちゃんが言った。「けどさ、人間の脳はどれだけ環境に影響を受けてるか知ってる?」「え?なにそれ。」そう、昨日に勉強していたこと。人間は遺伝的な影響も十分に受け取るけれど、どんな親に育てられ、どんな友達や恋人と過ごし、何を見て何を食べそれをどう心が捉えるか。そして、今いる時代の社会がどんな風に成り立っていたかなど、環境が人間としての性質に与える影響はとても大きいのだそうだ。そして、それを受けとる側の私達の個性にどう活かせるか。活かすっていうのは、きっと楽しいってことだと私は捉えてる。世界にはどうしても変えられないこともある、例えば丸い鼻や小さすぎる耳とか、それこそ親だって変えられない。だけど、その変えられない何かを覆すくらいに大きく変えることも出来る。それは今日そのもの。私が変わっていくのもきっと自然なこと。新しいものに出会えば、古いものが小さく見えたり、つまらなく見えることもある。そうやって人はどんどん進化していく。だから、寂しいけど、きっとこれでいい。「今は違うかもしれないけど、また一緒に楽しめる時もくるかもしれないし。それに、新しい友達作ればいいじゃん。」いまむちゃんが言った。