午前は新宿で美容皮膚科のカウンセリング。年末、後藤さんに「勧誘とか一切断れば無料で出来るから。」と言われていたのをすっかり忘れていた。若くて綺麗な女の子のひつこい勧誘にうんざりして直ぐに店を出た。妊娠を終えてから一気に増えた肝斑。妊娠後に増えると聞いていたけど、こんなにも増えるものかとげんなりしてる。やっぱり新宿は嫌い。逃げるように湘南新宿ラインに乗って逗子へ直行した。今日はフジモンと会う約束をしてる。最後に会ったのは妊娠前の夏のいつか。渋谷のミス・サイゴンでランチをした。結婚祝のお礼に達磨をあげたら嬉しそうにニコニコ笑って喜んでた。一見よくわからないものとか、不思議なものを全力で喜んでくれるフジモンは可愛い。子供のように無邪気な姿を見ているだけでこっちまで幸せな気持になる。フジモンはパリのマユミちゃんの親友。マユミちゃんは大好きな友達の一人だけど、その友達のフジモンもいつしか大好きな人になった。
年始に旦那さんのショータさんが事故を起こした事がずっと気になっていたから聞いてみると、身体には問題ないとの事でほっとした。ショータさんと、かかんの新しいPR動画の打ち合わせの約束をしていたので、打ち合わせの件が止まり申し訳ないとの事だった。お詫びに今日のランチ代を貰ったよ、と嬉しそうに言ってた。ランチは鎌倉野菜が美味しいモダンダイニングみたいなレストランで丁寧に作られた野菜を使った定食を食べ、散歩がてらに鶴岡八幡宮を歩いた。平日なのに週末みたいな人混みの中、夏に妊娠した事や、それで大学での勉強を決意したことなど話した。いつ何が起こるかわからないし、本当に辛かった。仕事も写真も大好きだけど、子供が出来ることが嫌だったわけじゃないけど、なんだか自分の人生から阻害されたような孤独感を味わったこと。周ちゃんは決して無視していたわけじゃない。当たり前のように私の日常が奪われてゆく中でいつもの通り仕事へ出かけただけだ。仕事、遊び、やりたかった事、やるべきだった事も。どうして女の私だけがこんな辛い想いをしなきゃいけないんだろう?事故のように起きた妊娠に対して、もどかしくて腹だたしくて悔しかった。フジモンは隣で大笑いしてる。「よしみちゃん!わかるわかるよ!うちだってさ。」男と女が不平等になるのは今に始まった話ではないけど、女性が妊娠したり、子育てをする事について、正直聞いてないよこんなの!と思った。これは周ちゃんが悪いなんて話じゃない。きっともっと大きな話だ。社会とか、歴史とか、ずっとずっと広くて大きな場所のこと。あのフツフツと煮えたぎる想いのことを鼻息荒くしながら参道で話し続けた。
「男なんて所詮わからないんだから。」姉が言ったあの言葉は本当に明答だと思う。勿論、悪意のある答えじゃない。だって、これは互いに思いやろうみたいなままごとで解決できる話じゃない。やっぱり私達は他人であって、別々の生き物であって、尚且つ性別も違うとしたら、尚更わかりあえっこない。お腹が痛いと言ってるのに、冷えた水でも飲んでねと渡されても、その優しさは痛みに突き刺さるだけだから飲めない。そんな風に妊娠をしたら男がより一層に嫌いになった。笑顔の可愛い妻でいたいなんてのは理想にもならない空想。
今日、特に話したかったのはフジモンの大学の話。2年前から心理学を勉強してる。あと働いてるクリニックの話も。私も大分解決しない人になったと思う。もうジャッジはしたくない。いいとか悪いとか。人の悪口もだけど言わない。肯定もしない。考えれば考えるほどに、答えなんてものはなくなっていく。フジモンもそうだ。二人で人の話を沢山した。頭を抱える程じゃないけど、あちらこちらに転がってる誰かの奥底にあるような暗くて皆んなが見ないようにしているような話をコーヒーを飲みながら淡々と話し続けた。同じようなことを勉強しているからというのもあるだろうけど、こんな風に話を出来る友人は他には一人だっていない。
前の夫の話も少しした。口から出したのは初めてだった。今だから考えられること。病のことについて、今どう生きているか。そしてあの病は彼の未来をどうしていくか。正直なところ、最近はあの病気のことをもっと知りたいとさえ思ってる。本来であれば忘れるべき過去なのに、これから料理し、さらには食べてみたいだなんて。「私の生命力やばいよね。」って冗談混じりに話すと、フジモンはまた大笑いしてた。本当にどうかしてると思う。だけど、きっとこれが生きるってことなのかもしれない。