歯医者の治療でL.Aから帰国しているヘレナと原宿で買い物。昨日は横浜だったのに、今日は原宿経由で千葉。疲れた。けど、夏ぶりに会えて嬉しかったし楽しかった。次はカウアイ島で会おうねって約束をした。ヘレナ達が夏休みに行くカウアイへ便乗しようという考え。「周三も来て!」と何度も言ってた。
「何でそんなに周ちゃんが好きなの?」
「だって、可愛じゃん。周三。優しいし。
それに、ヨヨに優しくしてくれるから。これが一番好きなとこだよ。」
ヘレナの日本の名前は優しい姫と書いて優姫。
小さい頃はどうしようもなく我儘だったのに今じゃ私よりもずっと大人に見える。ヘレナが向ける優しさはヘレナ以外の全てに平等に与えられてる。困ってる人がいたら直ぐに手を貸すし、知らない人でも当たり前のように親切にする。そんな風にヘレナといると少し自分がちっぽけに見えたりして、私の方がずっと歳をとってるのに恥ずかしくなるくらいだ。
「ジプシーのようにあちこち住まないで家を建てなさい。」
ひつこく言う母の言葉を聞いたのか、姉は日本、オーストラリア、L.Aのあちこちと移り住むのをやめて家を建てた。ニコちゃんの仕事が理由だとも思うけれど、彼女達の人生はジプシーそのもの。面白かったのはクリスティーナアレギラと過ごしたディズニーランドでのクリスマス。結構、いい人だったよと言ってた。クリスマスツアーか何かだったんだろう。ヘレナはそんなクリスマスを子供の頃から過ごしてた。そして早くに父親を亡くした。葬儀の次の日、後を追うように亡くなった親友だったスカイちゃんと楽しそうに遊んでる写真を撮ったのを覚えてる。あの頃、姉もヘレナも、私の人生も今思えば無茶苦茶だった。
大学は2年早く卒業らしく来月からニコチャンのパートナーだった人のチームでアシスタントとして音楽の仕事を正式に始めるのだそう。帰って直ぐにオレゴンのツアーに参加。18歳から働くだなんて、私が18歳の時は恋かダイエットかファッションの事しか考えてなかったのに。そういえば、こないだ国立で入った喫茶店でヘレナと近い歳の男の子が彼女と店のマスターと話していた。「まだ働きたくないから。院に行こうと思って。明日が試験結果なんですよね。」
日本の子はモラトリアムが長いように感じる。モラトリアム、大人になるまでの猶予期間。私も長いこと猶予の中をスイスイと現実から逃げるように泳いできた。離婚をしてからようやく大人を感じたとういうか、地に足をつけて歩いき始めたように思う。もういつまでも逃げられない。しっかりと歩かなきゃと決めた。警察から、弁護士事務所へ行った帰り道に、夫と住んでいた家から引っ越す時にそう誓った。もう私の夢はここで終わりなんだって。
ずっと昔に「子供を産まない人はいつまでも大人になれないのよ。」
と、母が言った。当時はまだ二十歳くらいだったし、偏見くさいこと言ってるなぐらいにしか思わなかったけれど、今は少しだけわかる。
中年の友人達。何が本当で何が嘘なのかわからない話ばかりをよくしてる。夢と現実が曖昧でむちゃくちゃだ。けど、十分にわかる。夢みたいな現実をこのままにそっとして置いて。いつか結婚したい、いつか家が欲しい、いつか素敵な人が現れる。いつかは毎日のおまけみたいなものでいい。現実的に言えば、もう卵子は殆ど残っていないし、そんなに条件のいい男や若くて可愛い女はとっくに誰かの隣で今日も愛を着実に育んでる。だけど、全部知らない。本当は知ってるけど知らなくていい。
人生は難しい。許されるならばいつまでだって子供でいたい。甘えていたいし、自由でいたい。縛られたくないし、けどお金は欲しいし、楽で生きたい。怖いことは見たくないし、知らないことは知らないままでいい。だけど、そればかりだと飽きてくるってこともわかってる。