カテゴリー: 和食

おにぎり

和食 13.5,2023


今日もおにぎり三昧だった。ストレスがどんどん溜まっていく。けど、ずっとベッドで寝ている周ちゃんに比べたら、私のストレスなんてワガママみたいなものだ。

あと6日。短いようで長い。

周ちゃんは本当に治るんだろうか。辛い顔ひとつしないですごいなって思う。
昼は有賀さんのスープを作ってみた。少し前に編集の柿本さんが作った本のレシピ。

お茶漬け

和食, 朝食 15.4,2023


パリからの手紙。今日は淡いピンク色の封筒だった。そして、その中身も同じように淡くて温かくて、ああ、恋。そうだ、恋ってこうこう。からだが3cmくらい地面から浮いちゃう感じ。ふわふわして柔らかくて、まるでそうピンク色の毎日の連続だ。その子はもうすぐ結婚する。結婚までの時間をカウントダウンする中、ふたりだけのふたりの時間が紡がれていく日々のことが書かれていた。

最近は忙しすぎて心が何処かへ行ってしまってる。来月にレポートの提出が4つ。そもそも、レポートなんて大学で書いた覚えがない。だけど、自分で決めたことだから。勉強、仕事、勉強、作品を1日にぎゅっと詰め込み過ぎてる。家事は正直もっと周ちゃんにお願いしたいけど、苛々ばかりが募っていく一方でまだ言い出せない。

勉強を始めてからいい事も沢山ある。より一層に写真が鮮やかに見えるようになった。なんだか写真を始めた頃みたいに。ファインダーを覗くだけで世界が少し特別に見える。何かが起こるような何かを見つけられるような。それこそ恋みたいなものかもしれない。

長い事撮ってるんだから、もっと巧妙に考えながらやった方がいいとも思うのだけど、目の前にある光景に深く呼吸をして息を吐くように、スゥー。ハァー。って、最近は写真を撮ることが気持ちが良くて仕方がない。

筍の刺身

和食 13.4,2023

なんだか沖縄での私は我儘のカタマリみたいで、そのまま丸めて那覇空港のゴミ箱にでも捨ててしまいたいくらいだった。昨晩に帰宅し、数日ぶりの家でいつもの私のことをようやく思い出した。周ちゃんは優しくて賢い。とにかく今まで長い時間勉強してきたのだから、頭が辞書みたいになっててもいいじゃないか。それって結構すごい事だし、野良犬みたいにアカデミックとは正反対の場所で生息してきた私と合わなくて当たり前だ。そんな事にいちいち噛み付いてる私はただのバカ。

なんでもかんでも頭の辞書を開く周ちゃんと、目や耳や手で触れた話をする私。きっと辞書には八角が入っていると書いてあったんだろう。だけど、食べてみたらわかるじゃん。これは八角じゃなくて醤油と砂糖だけしか使ってない。「これはやっぱり八角がしっかり際立っているね。」周ちゃんは当たり前のようにトンチンカンな話をする。日常ならまぁいっかと聞き流せることも、四六時中、隣でそんな話をされると我慢ならなくなる。

だけど、私だって周ちゃんからしたらトンチンカン女だろう。「この本何言ってるかわかんないんだけど、なんで急にここでこの言葉使うわけ?」飛行機の中で大学の参考書を開きブツクサ文句を言ってると綺麗に答えてくれた。結局、私の読み間違え。「この前の文章を見ると、この前の数行に説明があるね。これはね、この章では何をしたらいいのかっていう目的について語ってくれてるんだよ。」「え。そうなんだ。そうか、いきなり出て来た言葉じゃなくて、それが大事なんですって言ってくれてたんだね。」周ちゃんからしたら、読めばわかるじゃんって話だ。けど、そんな事は絶対に言わない。

きっと私には一人の時間が必要なんだと思う。朝から晩まで数日間もずっと一緒にいると、どうやら隣にいる周ちゃんは私の一部のようになってしまうようだ。思い通りにいかない取ってつけたような私となった周ちゃんを膝にできたカサブタみたいにとってやろうと、気になって気になって引っ掻いてしまう。こんな事をしてたら嫌われてしまうんじゃないか。海沿いの道路を走りながら何度も考えた。

「周ちゃんって好きな人いる?」ベッドで本を読む周ちゃんの横で目をつぶりながら聞いた。前にも聞いたことがある質問。だけど毎回周ちゃんの答えは同じだ。けげんな顔をしてる。その度に私は一体何が聞きたいんだろうと思う。もしかして、心のどこかで前の婚約者のことを今でも想っていて欲しいとでも思っているんだろうか。

周ちゃんを好きになればなるほどに私は我儘になってゆき、私の妄想の中だけで生きている周ちゃんの婚約者だった女性のことを考えてみたりと私はしょうもない事をし始める。不幸になるのは簡単だけど、幸せになっていくのは人を不安にさせる。

たぶん、ずっと一緒にいたいんだと思う。

夕飯は朝どれの筍を下処理して刺身にした。周ちゃんの知り合いに頂いた大分のカトレア醤油で食べた。「懐かしいなぁ。」周ちゃんは何度もそう言ってた。

ご飯と味噌汁

和食, 朝食 10.3,2023


13年前と同じだった。

師匠に会ったのは2009年の秋。大学生みたいに肩からトートバッグをかけて、何かが始まったばかりのような、これから始まるような初々しさ、いや春の新芽のような清々しさに近い。本当にこの人がフォトグラファー?少し拍子抜けした。

“アシスタントを募集していませんか?” コマフォトに載っていたメールアドレスにメッセージを送ると、”募集はしてないけどポートフォリオを見ることくらいなら。”と返信があった。それから3年間、写真を撮る師匠の横で、同じ目線で被写体をそして師匠を見続けた。

「お久しぶりです!」「あ〜お久しぶり〜。」
歳を重ねれば重ねるほどに思う。この人がいなかったら私は写真を生業になんて出来なかった。どこまでもとにかく真っ直ぐで、強がったりかっこつけたりしない、誰かのことを馬鹿にしたりなんかもしない。向き合うのはいつも自分だけ。弱い自分の事を弱いんだと言いながらも、カメラを構える姿に胸を強く打たれた。

今日会うのは3年ぶり。そしてあの日を境に元夫は家に帰らなくなった。

きっかけを作るのは時間の問題だったと思う。きっと大切な人のせいにしたかったのかもしれない。久しぶりに師匠から手伝ってくれない?とLINEが入った。アーティストの撮影でお台場で朝までの長丁場。それまで週6日で撮影をしていた日々はコロナの影響で仕事がパタパタとキャンセルになり暇を持て余していた。

帰宅したのは7時前くらい。玄関を開けると酒気の中でゆらゆらと溺れている夫がいた。病は年末あたりからじんわりと始まっていた。それは数年ごとにやってくる悪魔。やめたお酒を当たり前のように飲み、大声で発狂したり暴れたり。急に激しく喋りだしたかと思えば、死んだかのようにパタリと連絡が取れなくなったりもした。

元夫の奇行はアレみたいだ。マリオがスターを見つけると完全無敵になるやつ。だけど、あれはゲームの中の話。生身である人間の身体が同じことをしたら身体中が傷だらけになるだろう。よくわからないのだけど、元夫は全身のすべて、心も完全に麻痺してるみたいに見えた。痛みの全ては何処かに消えてしまったようで、アドレナリンに縫い付けられた身体がマリオみたいに爆走していた。

コロナが始まり私を恐怖のどん底に追いやったのは、コロナだけじゃない。元夫と一緒になってからというもの、私は変わった。誰かに「大丈夫?」と声をかけられても酔っ払い相手だし酔拳みたいな暴力だしさと笑い飛ばした。私はミュージュシャンの妻だ。こんな事で泣き言なんて言ってられない。頑なに私は宛もない誰かに牽制し続けた。これが愛なんだって。家族だから私が夫を助けなきゃいけない。だけど、もう我慢も限界で、久しぶりに師匠の顔を見ると直ぐにそれを認めた。

「また嘘ついたの?またお酒のんだの?お酒やめるって言ったじゃん。」夫を叩き起こし責め立てる私の声が部屋中に響き渡った。喉のあたりがジリジリと押し潰されるみたいに苦しくなって、目からは涙がどんどん溢れていく。そして、半年後に離婚した。

元夫はお酒が酷く入ると師匠の悪口を言った。「お前の師匠は中途半端に音楽やりやがって。」って。

悔しかったんだろう。仮にもメジャーデビューしたのに、フォトグラファーをやりながらもミュージシャンとして、今でもラジオや街で曲が流れているSpangle call Lilli line。それに比べ、自分の音楽はどんどん衰退していく。師匠が音楽をやっていたのも、元夫がミュージシャンだったのも、全てはたぶん偶然だけど、もしかしたら必然にしたのは私なのかもしれない。元夫は苦しかっただろう。私は写真も音楽も真っ直ぐにひたむきに頑張ってる師匠が大好きだった。

「よしみちゃんの料理写真は情念があるんだよ。それに、本当に情念の人なんだよ。昔は僕が師匠だったけれど、今は学ばせて貰ってる。」師匠は少し酔っ払っていたのかもしれないし、そうじゃないような気もした。ただ、久しぶりに会ったことを喜んでくれてるみたいだった。毎年送ってる年賀状も楽しみにしてると言ってくれた。今日はフォトグラファーの松村さんも一緒。3人で吉祥寺の暖簾がいい感じの店でビールを飲んだ。師匠は誰もが知ってるようなミュージュシャンのジャケットを撮っているし、松村さんはコウケンテツさんの料理や暮らしの手帖など憧れの雑誌で撮ってる。尊敬する二人のフォトグラファーの前で自分の写真が褒められるだなんて恥ずかしいやら嬉しいやら、何て言っていいのかわからなくて上手く返せなかった。

だけど、もし師匠の言うように私が情念というものを持っているのなら、それは間違いなく師匠から貰ったもの。「僕は本当に自分のことしか考えてないから。」と何度も言ってたけどそうじゃない。なんとなく応募した1wallで、するりと何度か審査を通ったくらいで、ギャラリーに所属したりもしたけど、結局のところ写真作家としてパッとしなかった。言い方は変かもしれないけど、酔っ払っては何台もカメラを壊していたような私を引き取ってくれたのは師匠だ。それまでの人生、世の中を斜めばかりをみていた私に真っ直ぐと前を向いて写真を撮ることを教えてくれた。

何も出来ない私に師匠が怒ったことは一度だってない、嫌に思ったこともない。師匠の車で流れる音楽が好きで、夕陽だとか光が綺麗な時間に「綺麗だね。」って短い言葉だけを交わす時間も好きだった。多分、もしかしたら遠いい過去に同じような場所で生きていたんじゃないか。例えば互いに海の生物だったとか。水の奥底でしか見えない景色を知ってる。そんな感じだった。だけど、私はあんなに立派じゃない。だからこそきっと憧れた。

私が失ったものは沢山あったけど、今日もこうして写真を撮っていられるのは師匠のお陰だ。師匠の強さは私の人生を変えてくれた。

寄せ鍋

和食, 夕飯 13.2,2023

“電話するなら4時間以内にして。”

L.Aは夜。日本は午前11時。
「あのさ、昨日の電話、夜中の1時だから。」
電話に出た姉が最初に言った言葉。
「ごめんごめん。最低だよね。」電話の向こうでヘレナが変な顔をしてる。
「ヘレナどうしたの?」

ヘレナはL.Aに戻ってから体調を崩したらしい。日本で病院へ行ったけど薬の内容を調べるとどうやら抗生物質じゃなくてただの痛み止めだったと怒っていた。

「それで、周三のこと?」
「違うよ。周ちゃんのことは特に何もないよ。性格なんて変わらないでしょ。変えるものでもないし。昨日、ハンドルの向きについて注意を受けたけど、面倒だからハイハイって聞いてたよ。別にそんなものでしょ。」
「それで?」

姉は大体いつもわかってる。何もなくたって姉には電話したいし、する時もあるけど、私からかけてくるっていうのは何かがある時なのだそう。半年くらいモヤモヤしていた仕事での人間関係のこと。自分の気持ちをどう整理したらいいのかわからなくて聞いてもらった。

人を信じたいし出来る限り自分ができることをしたい。だけど、信頼をしてる人が、その人にとって良くしてくれる人の悪口を言ったり、自分の成果の事ばかりに夢中になっていたり、そんな場面に出くわす度に虚しい気持ちになった。「あ、。」って、テーブルに並べられた出来立ての食事が誰かのお喋りで冷たくなっていく瞬間みたいに、すーっと。

それに、
離れていく自分の心が何だか悪いことをしているような気がしてどう収めていいのかわからずに宙ぶらりんのまま、時間がぼんやりと流れていった。時々思い立っては手帳にもう離れよう、みたいな事を書いてみたりするけど、結局、笑顔でこたえてしまう。

「あのね、いい人っていうのは損をするんだよ。うちはやり過ぎるからよくない。世の中、人を使おうって人が沢山いるんだから。ちゃんと自分の身は自分で守らないと駄目。だけどさ、今回それがわかっただけ良かったじゃん。今がよしみのチャンスだよ。こういう時はチャンスだから。あと、嫌なやつとか、その人に対して悪い言葉は絶対に使っちゃ駄目だからね。悪口も絶対駄目。」

さっきまで散々悪口を言ってた姉。「別に悪い人じゃ無いんだから、もうやめてよ。」と言っても止めなかったのに、私の悩みをあっという間に消していった。悪い言葉は使いたくない。悪くも想いたく無い、だからずっとどうしていいのかわからなかった。

誰かの助けになりたい。シンプルな想いだと思っていたけど、とても難しい気持ちみたいだった。自分の身を守ることはとても大事なんだという事もよくわかったけど、いつも誰にでも不審に思って表面だけでやるようなコミュニケーションも嫌だ。

なんだか、最近すごく仕事がしたいと思う。
小さなコミュニティーでいい。信頼のおける人とだけ気持ちのこもった仕事が出来ればいい。今までの考えが薄れてきてる。仕事が大きくなればなるほど出会う人も増えていくし、社会も必然的に広がっていく。昨年までは離婚の傷や自分の生活を整えることで精一杯で私の色々は内側に向いていたけど、最近はもっともっと外へ出てみたいと思うようにもなってきた。

色々な人に出会って、色々な人と仕事して、失敗したり嫌な想いをしたりしながらも、片一方だけがじゃなくて、互いに明るい未来を一緒に見れる仲間を見つけたい。

「よしみ、スペース空けときなね。」
「なんか怪しいじゃんそれ。宗教みたいだよ。」
「本当にそうだから。あ、って何か嫌な感じを受けた気持ちは正しいから。ちゃんと離れる勇気を持つ。そうやってスペース空けると、別の新しい人に出会えるよ。今は超チャンスだから!頑張ってね。その人には感謝だね!!じゃあね。」

それから、ちょっと気づいたことがある。最近勉強してる社会心理学でのこと。胸にひかかっていた誰かのことがわかっていく気がした。それはきっと近い未来に東京で暮らしていて良かったと思うことの一つになると確信さえしてるくらいに。人が沢山いる東京だからこそ出会えた人々。

人を無下にする人たちにも一連の繋がりを見つけてる。好み、話の傾向、仕事の仕方、対人関係など、いくつもの行動が一貫している。これは性格ではなくて何か原因があるって事だろう。そして、そこはなんだか寂しい場所にも見える。

もし、私の心がその人たちにされた事で仮に傷ついていたとしても、それで、そこで、終わりでいい。だって仕方がないことだから。

コストコのサーモン

和食, 夕飯 29.1,2023

朝から梃子を連れてコストコへ向かった。顔より大きなサーモン。値段は5500円。「今日はサーモン手巻き祭りにしよう!」分厚く切ったサーモン。普通の日曜日に祭り。なんだかとっても楽しかった。

豚汁

和食 22.1,2023

今日はひさしぶりに周ちゃんと梃子と山へ行った。山と言っても神社の裏にある小さな小山。年始にだるま市がやっていた水天宮。晴れた日は、遠くまで青い空が広がり、山や小さく見える家々もとても清々しくて気持ちがいい。だけど、寂れて忘れさられたような場所でもあった。ひとりで散歩に来たときは、神隠しにでも遭ってしまいそうで少しひやりとした空気を感じたりもした。だけど、先日の祭でとにかく驚いた。この神社は日本橋に次いで大きな水天宮らしく、この街では普段見ないような人集りに何だか夢の続きでも見ているかのような光景だった。周ちゃんは仕事でいなかったけど、見せてあげたかった。喜ぶ周ちゃんの顔が目に浮かぶ。今日はいつも通りの静かな山を歩いた。梃子は嬉しそうに走ってる。

お昼は昨晩作った豚汁とご飯で昼食をとった。今夜は料理家の角田さんと国立で約束してる。一番の目的は周ちゃんを紹介することだけど、私が会いたいというのも本心だ。特別に何か話したいわけでも、何かを聞きたいわけでもないけど、角田さんといると世界が広がる感じがして純粋に楽しい。本人は自分は変だからと言うけど、全然変じゃない。すごく強くてすごく弱い感じが私はとても人間らしくて一緒にいるとこっちまでいい人間になってしまうような気がするからなのか、その魅力に没頭してしまう。

周ちゃんと角田さんは直ぐに意気投合したみたいだった。周ちゃんがいると私は一言も喋らないでいい。こういう時間はそんなに嫌いじゃない。姉の後ろにいた子供の頃みたい。そもそも、そんなに自分のことを喋らなくていい。聞いているだけで見ているだけで十分。二人の話を笑って聞いてビールを何度かお代わりした。

楽しい夜だった。

夕飯

和食, 夕飯 17.1,2023


今日は朝から撮影。車で行くか迷ったけど結局やめた。あれだけ文句を言ってた電車移動だけど、車の怖さを考えると電車も悪くない。やっぱりどれだけ都内での生活が便利だったか、東京での生活はタクシーと完全にセットだった。だけど、車を運転するようになってから、どこへ行くのも苦じゃなくなったし、遠いい場所にも行きたくなった。不思議なもので、便利さよりも不便さを選んだのに、世界がずっと広がった。田舎に移り住んだ友人たちが口を揃えて言う事だけど、本当にその通りだ。

撮影は時間よりもずっと早く終わった。今日はリンネルの編集の佐々木さん、あと先日に初めてご一緒した森本さん。森本さんは勝手に中山美穂に似てると秘かに毎度思ってる。佐々木さんはいつも丁寧で優しくて的確で、現場はダントツで早い。一緒に仕事をしてきて嫌なことは一つもないし、とにかくスムーズ。あっという間に撮影が終わる。こないだも思ったけど、やっぱり編集者っていうのはすごい。何がすごいかは上手く説明出来ないけど何だかすごい。すごく料理が上手みたいなものと似てる。ちゃちゃっと物凄く美味しいものを作ってしまう感じ。こないだ編集の成田さんと話していても思ったけど、仕事をする相手で私の仕事が変わる。変な話、私のギャランティーが下がってもいいから、いい編集さんがついてくれる仕事がいいとさえ思う。それくらいに仕事が変わる。現場での楽しみも、出来上がるものだって変わる。

前の私ならこんな風に考えられなかった。だけど、今は完全に何をするかより誰とやるかの方がずっと大切。こんなにも私ってのは変わってしまうものかと思うけど、それくらいに仕事への執着が失くなりより一層に仕事が好きになった。仕事だけじゃない。仕事を一緒にしてる人が好きになった。今日も楽しかったな。夕飯は時間も無かったし、冷蔵庫にあるものをとりあえず出した。あとは冷凍浅利と蒟蒻で炒め物を作った。今井真美さんの本で読み、いつか作りたいと思っていたもの。思ったよりもずっと美味しくて周ちゃんは結構気に入ってるみたいだった。

浅利と蒟蒻の炒め物 今井真美さんのレシピをアレンジ
冷凍の浅利
蒟蒻 薄めに短冊切りをしてから正方サイズに切る
大蒜・生姜のみじん切り 大さじ1くらい
醤油 大さじ1/2
味噌 小さじ1
みりん 大さじ1/2

牡蠣と水菜のおろし鍋

冬の料理, 和食, 夕飯 10.1,2023

L.Aの姉から電話が鳴った。「最近どう?」「退屈してる。」本当にその通りだ。大晦日も正月も楽しかったけれどとっくに飽き飽きしている。家に縛り付けられてるような気分だ。最近の周ちゃんが嫌だとは言わなかった。「本当に退屈してるんだよね。」あくびを何度もした。「手の届かない所にあるライトを変えてくれる人がいたらいいのに。」「あっちゃん。それ、いつも言うね。」「結局さ、その役割をしてくれる人が欲しいだけかな。」「そうじゃない。それでいいんだよ。結婚なんてさ、良くも悪くもないでしょ。」「まあね。」大体いつもこんな話になる。「だってさ、こっちで一人で子供育てて、色々やって。全部自分で決めなきゃいけないでしょ。前は全部ニコが決めてくれてたでしょ。」「最高じゃん。そんな最高な事ないよ。自分の人生だもの。全部自分で決めたいよ。」「確かに。」「だからやっぱり彼氏がいいよね。」「そうだね。」結婚を選んだ私が堂々と言えることじゃないけど、彼氏っていう存在はパーフェクトだ。結婚が駄目ってわけじゃなくて、彼氏ほどバランスとれた関係性はない。姉はしばらく彼氏なんて要らないと言った。仕事忙しいし、私、男が出来たらハマっちゃうじゃんって。ごもっとも。今日は周ちゃんのことで特別うんざりしてる。さっさと寝よう。

柚と豚肉の鍋

和食 12.12,2022

11時半に中西君と待ち合わせ。青山の事務所近くにあるふーみんでランチをした。前回も檸檬のラーメンを食べたけど、今日も檸檬のラーメンにした。正確な名前はなんとかの辛味麺だったような。約束していたHOUSEHOLDのカタログを渡して、私は酸っぱ辛いラーメンをすすりながら、中西君は日替わりのすき焼き定食を頬張りながら色々な話をした。店を出て骨董通りのスタバへ移動。私は14時から表参道で一本取材がある。中西君は午後から事務所で撮影をすると言ってた。お互いの時間が許すまで、多分2時間くらいは話したと思う。

新しい家のこと、田舎暮らし、中西君の仕事の話。そして、妊娠したことや流産。そして、その経験で人生はやりたい時に動かないと駄目なんだと思ったこと。そうして、大学の科目履修生を始めてみたこと。中西君は10年前に松陰神社でご近所さんだったけど、4年前くらいに逗子に引っ越した。私より一足先に田舎暮らしを始めた先輩だ。

「田舎暮らしを初めて、妊娠のこともだけど、世界が広いなってなったの。東京では全然見えなかったんだよ。」「そうそう。そうなんだよね。車を持つとまた世界観変わるしね。」「働き方とか仕事への考え方や向き合い方も変わったよ。やりたいことも増えたし、本当になんだろう。世界って楽しいね。」感覚的な話だけど、中西君が田舎暮らしで感じたことと、私が感じたことはとても近い感じがした。東京にいた時はまるで世界の中心かのような、何でも手に入る、何処にでも行けると勘違いしてた。だけど、もしかしたら私達は東京に縛られていた者同士だったのかもしれない。田舎暮らしを始めて、東京には無い景色を目の当たりにした時に多くを失ったのと同時に自由を手に入れたようなとても清々しい感覚を覚えた。誰に頼まれてるわけでもないのに勝手に窮屈になったり、有りもしないような競争に参戦していたのかもしれない。少なからず私はそうやって余計なことばかりに時間を使っていたんだと思う。自由の身になったら、大切なことの為に時間を使いたいと考えるようになった。写真も仕事も人間関係も一分一秒も全て。

中西君は今日もすごく穏やかで可愛かった。スタバで私がいつものデカフェのオーツラテを頼むと、「僕もそうする。」とデカフェをオーダーしていた。話し方や仕草、ゆったりした空気感。相変わらずの坊主だし、変わらない。今度周ちゃんに紹介しよう。引っ越し祝いにとヒバの香りのニューヨークのブランドのハンドソープをくれた。ありがとう。

里芋ご飯

和食 29.11,2022

朝、近所で里芋を買った。芋煮にするか迷ったけれど、今日は里芋ご飯。2年前、うちで作った時にやっちゃんが美味しい美味しいって食べてくれたのを思い出した。山形出身のやっちゃん。元気かな。

生姜の味噌汁

和食 27.11,2022

朝からゆっくりと過ごした。ここ数日、梃子の看病でずっと一緒にいる気がする。合間を見て互いに仕事へ出かけたり、デスクに向かったりはしたけれど、殆んどが一緒だ。小さな灯火をずっと守り続けてるみたいにそっと寄り添ってる。梃子は昨晩からまた少し元気になった。多分、傷口が塞がって痛みも弱くなってきたんだろう。明朝にまた病院なので少しホッとしてる。

午後は2ヶ月ぶりに家族会議をした。結婚記念に写真をいつ撮るか、お墓参りのこと、それから、先日にうちの母が言ってた、二人の目標を作りなさいって話。「家はどうするの?」「どうするって、なにが?欲しいなんて思ったことはないよ。嫌だよ、同じ場所にずっと住むなんて。」「けど、資産にだってなるし。」「ママ、今の時代何が起こるかわからないでしょ。そもそも家なんて欲しくないんだから。」母は季節に一度は何かのCMかのように家を買った方がいいと言い出す。だけど、私にきっぱりと断られるのもいつものオチだ。結局、家を買わなくても、結婚して二人の目標みたいなものを持った方がいいと話は変わった。「お母さんが言ってた目標の話、考えてみようか。それいいなと思って。」周ちゃんが言った。「短期、中期、長期。それから40代、50代、60代で設定してみない?」「それ、なんとか本みたいだね。」私が笑って言うと、周ちゃんが言った。「自己啓発ね。」

じゃあメモ程度にノートに書いてみるね。私が自分が考えてる事を書き始めて、周ちゃんのも聞きながら書いた。面白いものだなと思う。周ちゃんが望むものと、私が望むものはやっぱり違う。ふたりの目標であっても、私達それぞれが異なるように、しっかりと異なってる。例えば、私は海が好きだから泳いでいきたい、だけど周ちゃんは本を読みながら向かいたいから船に乗っていきたい。みたいに。けど、目指す島は同じ。そこでしたい事も同じ。

それに、周ちゃんは子供がいるパターンと、子供がいないパターンとで分けて考えていたのも新鮮だった。逆に私は全くボーダーラインを引かなかった。前の私ならしっかりと引いていたと思う。それよりも、子供が出来たらサポートして欲しいとお願いした。私がやりたい事を諦めるという選択肢はし無かった。それから、来年の事も少しだけ話した。先ずは新婚旅行がしたい。周ちゃんは「北欧もいいな。」と言ってたけど、流石に2度目の新婚旅行も北欧だなんて酷すぎる。「アイスランドいいよ。すっごくいい。けど、砂漠で結婚写真を撮るのもよくない?」こういう時の私って天才って思う。さっと次の展開に持っていける。周ちゃんはニンマリ、きっと頭の中でモロッコを想像して嬉しそうにしていた。「モロッコ。サハラ砂漠。スーク。ベルベル人。タジン鍋も買いたいよね!砂漠で写真、いいでしょ、めっちゃよくない?」「うん。いいね!」

夕飯は周ちゃんが作ってくれた。自然薯のすりおろしたもの、鮭のちゃんちゃん焼き、納豆、昨日のサラダ、ご飯。ちゃんちゃん焼きは料理家の角田さんのレシピ。私が作ろうと本に付箋をしていたのを作ってくれた。周ちゃんは少し汁気が足らなくなったと言ってたけど、十分に美味しかった。それに、最近時々作ってくれる生姜の味噌汁。これはもう周ちゃんの18番と言ってもいい。今日も最高だった。

茸鍋

和食, 夕飯 08.11,2022

「今夜は皆既月食見ながら夕飯を食べよう!」朝に周ちゃんと約束をした。夕飯、何がいいかな。秋の味覚を堪能できるようなご飯を1日中考えていたけど、中々決まらない。夕方の病院が混んで、結局帰ったのは18時過ぎ。せっかくゆっくり夕飯を作ろうと思ったのに、皆既月食始まっちゃう。

椎茸の焼売を作って蒸し器で蒸して、魚介のパスタに柿とバルサミコを使ったパスタに茸のスープ?・・。なんとなく考えていた献立はやめて、1時間くらいで出来そうなものに変更。一つ目のコンロに茸鍋の準備をして、二つ目に砂肝と青葱たっぷりのコンフィーを、もう一つのコンロで銀杏をフライパンで炒った。あとは昨日作った蕪の煮物、納豆、ご飯を準備した。

「ただいま〜。」周ちゃんが帰ったのは19時過ぎ。「始まってるよ!」急いでベランダに上がって空を見上げる。「すごいね。」「うん。すごい。地球と月と太陽が一直線にこれから重なるんだよ。」毎年、何年ぶりだとかいう夜空を見上げてる気がする。昨年もスーパームーンと皆既月食が同時に起こる夜があった。夜中に目が覚めた時、カーテンから溢れてくる光に驚いてベランダに出ると、見たことがないような明るい夜だった。離婚から半年くらい経った、まだ心が痛くて仕方なかったころのこと。夜はタクシーの音がする度に元夫なんじゃないかと真夜中と記憶がシンクロして胸の鼓動が止まらなかったけれど、月が明るくて、隅々まで白く光って見える世界にほっとした。

姉から新車を買ったよとLINE。2023年モデルのワーゲンの写真が送られてきた。車には赤くて大きなリボンがついてる。自分への誕生日プレゼントらしい。先月の交通事故では結局車は大破しちゃったけど、身体に問題はないし、新しい車の事を結果オーライと言ってた。なんだか流産から不正出血が続いていて、気持ちが少し晴れなかったりもするけど、そんなに心配することはないのかもしれない。病院からは生理をリセットするというピルが処方された。妊娠でつくづく思ったけれど、女であることは本当に大変だ。子供は私と周ちゃんのことなのに、女の体を持っているだけで、さまざまな身体的困難を強いられる。

栗ご飯

和食 03.10,2022

今日から月曜日。手術をしてから明日で1週間。色々を始めるには丁度いい。先週もその前も、これからの事を色々と考えていたけど、あまり上手くは進めなかったから、今日がきっとスタートダッシュの日だ。身体もどんどん回復して、もう殆ど100%に近いくらい。お酒も美味しく飲めるようになった。だけど、どうしてだろう。なんだかいつものように頑張れない。気持ちが焦るばっかりで、色々がついてきてない。例えば、心とか。

“電話してもいい?” L.Aは日曜日の夜。姉からLINEが入った。”いいよ。5分後に連絡するね。” 仕事のメールを送ってから電話をかけると、いつものようにご機嫌な夜を過ごしてるようだった。多分、少し呑んでるんだろう。年末はアメリカで皆で過ごそうと話していたけど、L.A行のチケットが驚くほど高い事や、最近L.Aでは朝食にコーヒーを飲みにいくだけで20$はするから大変だとか、コロナの影響で起きているおかしな状況について話をした。それから、私の身体の話や、周ちゃんに相談しようかずっと迷っている事を話した。

「あのさ、考えない。いいのいいの、今は考えないでいいんだから。10ヶ月で人間を作り上げようと猛スピードで変化し始めていたものが、ピタっと止まってしまったのだから、身体もホルモンも脳も心も、今までのようにコネクトしなくなってしまうのは仕方ないことだよ。普通に戻そうと頭ではわかってはいても、振り回された身体やホルモンは必死なんだから、。今はとにかく考えない。考えて、頑張ってもなにも変わらないから。やっても意味ない。一生のうちの数週間、数ヶ月だけだよ。大丈夫。元に戻る日が来るから。」

最近、SNSを見るだけで落ち込んでしまうことも話した。こないだ、韓国人の女性作家の本にも書いてあった。人の幸せを見て、自分の幸せを量るのはおかしいって。旅先の最高シチュエーションにいる自撮り写真をする人、何処かの有名なレストランの食事を美食家のような評価をする人、モデルみたいに自分の服装についてレビューする人、などなど。「私って、幸せでしょ。」と言ってるように見える投稿。韓国人作家の言うように、他人の幸せを見て、私、何が幸せなんだろう。そして、どうして、自分がまるで足りない存在かのように感じてしまうんだろう。インスタが辛いと思うようになってしまった。

「やめなやめなよ。インスタなんて。あんなもん見るもんじゃないよ。自分と比べたって何の意味も無いんだから。それから、周ちゃんに甘えていいんじゃない?少しくらい甘えさせてもらいないよ。」自立してたい、頑張らなきゃ。仕事早く復帰しなきゃ。もっともっと、あれもこれも。だって一人で乗り越えてきたから。大丈夫、。呪文のように言い聞かせてきた言葉は私をどんどん苦しめていったのかもしれない。

姉が言うように、今の私は完全にコネクトしてない。仕事は普通に出来るけど、それ以上の事が多分出来ないんだと思う。作品を作らなきゃとか、新しい仕事をする為のポートフォリオを作り直すとか、今持っている以上の物、シャッターを押す以外のことがきっと出来ない。それに、どういうわけか自分が駄目な人間かのように感じてしまう。理由は全くわからないのだけど、そう感じる。好きなこともやりたいことも知ってるのに、今以上を求めてしまうし、今以上にならないと駄目だと信じてる。恐ろしいくらいに。

「あっちゃんに言われたこと紙に書いて張っておくよ。」「OK、風通しのいいところにしてね。水場はやめてくださいね。」「わかりました。先生。」冗談を言い合って電話を切った。妊娠中にもし流産したらやろうと書き留めていたメモ。あの時は、流産が怖かったけれど、いきなりやってきた妊娠が続くのも怖かった。だから、どっちに転んでもいいようにと、未来にやることリストを書いたのに、今はそれも出来ない。だけど、なんだかすごくほっとした。電話を切って、明るい午後の部屋の中で少しだけ涙が出そうになった。私、気づかなかったけど、辛かったんだ。

今日からやること。家の模様替え。ぼーっとする。一人になる。何もしない。読書。何もしない。散歩する。頑張ったりしない。SNSは見ない。考えない。旅に出る。庭の掃除。写真は撮ってもいい。友達とのお喋りもいい。とにかく楽しいことだけ。何もしない。以上だそう。コピー用紙に書いて冷蔵庫に貼った。ここなら明るいし、風通しもいいしね。週末になったら周ちゃんに話そう。わかって貰えるかな。どう説明したらいいんだろう。人生をサボってると思われないかな。

ちらし寿司

和食 08.7,2022

午後のニュースで安倍さんが打たれたことを知った。大変なことが起きてる。夕飯をすませて、youtubeで報道を見てから早めにベッドへ入った。周ちゃんも私も、特に何か話そうとはしなかった。ただ呆然と夜を終えた。

ちらし寿司
酢飯
マグロのづけ [みりんと醤油でづけにする]
ミョウガ
青ネギ
紫蘇
炒りごま
生姜のみじん切り

素麺

和食 07.7,2022

昼に渋谷でしみるさんと名刺の打ち合わせと、sonyのデジコンを渡した。4月に新しい生活を記録する為に買った久しぶりのデジコン。散々吟味したけど、やっぱりsonyもズームレンズもしっくりこなくて手放すことにした。しみるさんはもうすぐ赤ちゃんが産まれるから写真を撮り始めたいのだとか。私はもう一度フィルムに戻ろうか迷ってる。窓から見える明治通りにはひっきりなしに車だとか、駅に隣接した歩道には人が入ったり来たり。東京はやっぱり変な場所だ。過去にこの場所から歩いて家まで帰っていたなんて、なんだか変な感じ。「地方が変わってるんじゃなくて、東京だけが変なんだよ。」福島の免許センターで教官のおじいちゃんが言った言葉。「車って、最近乗る人が減ってるっていいますよね。」そんな話をしたら、田舎は車がないと生活が出来ないし、車の免許はみんな持ってるよって。私の普通は東京だけの普通。周りの友人達の殆どは田舎出身だけど、みんな、今を東京をどう感じて生活しているんだろうか。

しみるさんとバイバイして、フジモンとミス・サイゴンでランチ。「フジモン、ごめんね。話したい事がありすぎて、とにかく目の前に出て来た言葉だけを話すよ。」田舎暮らしの事、大学や心理学のこと。フジモンが学び始めたきっかけだとか。精神疾患の病を患っている人の話、私が最近いろいろと行き詰っていること。採れたて野菜と東京で食べるレタスの違いについても、鼻息荒くして盛り上がった。スーパーで売ってるのはレタスじゃなかった。いや、レタスなのだけど、レタスはあんなに柔らかくない。パリッと、そう弾けてるよね。同じものなのに、全然違う。世界の認識と田舎で食べる採れたてのレタス違いについて激しく互いに同意した。それはアユルヴェーター的にオージャスが死んじゃうことらしいのだけど、スピリチュアルな表現は置いておいても死んじゃうっていう感覚はよくわかる。流通されている間に、手元にくる頃にはもうオージャスがなくなってしまうのだとか。口の中で感じる限りだけど、ありありとわかる。今さっきまで生きていたのか、もうずっと前に終わってしまったのかが。

それからフジモンの車で富ヶ谷の方へ移動して、移動中も鳴り止まないアラームみたいにとにかく話は忙しなく続いた。「誰を信じるべきか。病気の時にわかったんだよね。」「うん。わかる。」身体も心もどうにもならなくなってしまった時。ゴールさえ見つからなくなってしまった時に沢山の声はいい加減な声にいつしか変わって、私を救ったのも病院だった。中には手助けをしてくれた友人や家族もいたけど、最終的に治療というものが私の生を明日に繋いでくれた。私もどうして心理学が勉強したいのか正確にはよくわからないけど、知りたいことがあまりに多すぎるし、日常のあちこちで歪んだなにか見かける度に敏感に全身が反応してしまう。放っては置けなくなる。元夫の為に行こうとしたアルコールの自助グループ。行ってしまったら病気を認めてしまうことになる気がして結局、区に電話しただけで、折り返しの電話は数週間無視し続けた。世界には言えないことがあまりに多すぎる気がした。言わなくてもいいのだけど、言ってもいいのにって。言えなかった私を見ているようで、救ってほしいと望んでいたのに、いつまでも言えなかった私みたいで。

色々を話していてどうしてフジモンとはずっと友達なのかわかった。フジモンが病で知った世界のことは私が想像することは出来るものじゃない。それは逆も同じくして。だけど、一度でも、自分の生が終わるかもしれないと感じた時。レタスみたい。終わってゆくことを舌の上で気づいてしまったとき。生きるとか死ぬとかが自分の内部でしっかりと確実に理解していくのは恐怖だけじゃなくて、世界への失望みたいなものが見えてしまうからじゃないかって。私ひとりの想像の話だけど、そう思った。だけど、だから。今を生きてる。失望の逆を歩くことにしたから。そんな風にして友達である気がした。

夜はひやむぎ。うちのひやむぎは薬味たっぷり。今夜はもう面倒だったから庭の紫蘇はいれなかったけれど、青葱と茗荷をこれでもかってくらい刻んでたっぷり乗せて食べた。今日はいい日。やっぱり友達はいい。色々な世界のことを教えてくれるし、私ひとりだと間違えてしまいそうなことを気づかせてくれる。

海鮮丼

和食 23.5,2022

今夜は海鮮丼。帰宅した周ちゃんは機嫌がいい。「かわいい子にでも会った?」って聞いたら嫌な顔をしてた。今週に立教大学で講義する資料をまとめてるらしいのだけど、いい感じに出来たから機嫌が良いのだそう。

マグロ丼とワイン

和食 04.5,2022

いつもの通り4時半に起きて作業。今日は周ちゃんとピクニック。昨日の残り物の塩豚と大根の煮物に味噌をいれてスープジャーに入れた。後は残ったファラフェル、夜に茹でておいたゆで卵、それから周ちゃんが朝に握ってくれたこぶしみたいなおにぎりと温かいをお茶を持って9時ちょっと前に家を出た。雨の所為でまだ土はところどころがぬかってる。周ちゃんは何度も大きな声深呼吸を両手を広げた。「屋久島とまでは行かないけど、屋久島を思い出す景色だよ。」「へぇ。屋久島、行った事がないよ。」「九州最高峰の山があって、そもそも屋久島自体が噴火によって出来たところだからね。」「へぇ。」周ちゃんと話しているといつのまにか学芸員が登場する。そのうちに話は私の右耳から左耳へと流れでてゆく。ああ、気持ちがいい。声のさえずりも周ちゃんの声と同じように音楽みたいに聞こえる。なんて穏やかな休日なんだろう。だけど、最近ちょっとだけ怖くなる。こんな穏やかな日常で大丈夫なんだろうか。また、日常が襲われるような事が起きるんじゃないか。ただ電車に乗っているだけで、ただ家でご飯を作ってるだけで、ただ誰かの帰りを待っているだけで、夜中が悪魔になるような日常はもう本当にやってこないんだろうか。幸福になったり不幸になるのは権利でも資格でもないのに、安心で穏やかな生活を送るわたしの日常がある事にときどき不安になる。周ちゃんが自転車で出かける度に「ヘルメットをかぶって。」とひつこく言うのは祈りみたいなものなんだと思う。ある日突然に大切なものが壊れてしまいそうで怖い。事故で死んじゃうなんて事は簡単には起こらないとは思うけれど、絶対にないことなんてないから。

「周ちゃんデートしようよ。」「えーこれってデートじゃないの?」家までの帰り道、夏みたいな太陽がじりじりと暑くてマスクが少し苦しい。「お弁当持ってピクニックってデートだよ〜。」「うーん。確かに。けどさお洒落してないよ。」いつもの散歩の格好。レギンスに大きなシャツを羽織って泥だらけになってもいいようにと履き潰したアシックスのスニーカー。これでデートは嫌だ。「よしみはどんなデートがしたいの?」「舞台見て、ディナー行って、夜の街を歩きたい!大人でしょ。」「いいねぇ。じゃあ、ホテルに泊まろうか。それでホテルの朝食なんか食べて帰ろうよ。」「えー!それはエロいよ。」二人で笑いあった。履き潰したスニーカーじゃなくて、底がまだ綺麗な時々しか履かないようなサンダルを履きたい。少し色の濃いリップをつけてグラスにつく口紅を気にしながら食事をしたい。いつもよりも丁寧に話したりいつもよりも丁寧に隣を歩きたい。いつかはどちらかが先に死んでしまうのだろうけれど、あと何回も何十回もデートしてから死にたい。

野菜炒め

和食, 夕飯 09.4,2022

私はいつも通り5時頃、周ちゃんは7時前に起きた。今日はキュレーター仲間の高橋君と千葉のサボテンの聖地、グランカクタスという店に行く。そのついでにジョイフル本田で庭の土や植物を色々買おうとなってる。ふたりでパジャマのまま庭に出た。周ちゃんが小さなスコップで土を掘り起こす。テコは朝陽の中で庭のあちこちを徘徊してる。気持ちのいい朝。何処に何を育てようか光の中で話した。

高橋君は周ちゃんより少し年下。毎回思うけれど、少年みたい。昆虫博士みたいな緑色のジャケットに白いパンツ、大きな大きな白いトートバッグを持って現れた。「おはよう〜。」二人はしばらくの間、東北の美術館での仕事の話やキュレーターの誰かの話をしてた。まったくちんぷんかんぷんな話。時々、アーティストの奈良美智さんとか、建築家の青木淳さんとか、私でも知ってるような単語が聞こえた。毎日の中にいると忘れてしまうけれど、周ちゃんは学芸員だったんだ。芸術に関する膨大な知識とそれと出会ってきた沢山の経験や世界。私が知ってる周ちゃんの一体どこにそれが隠れているんだろう。私達は同じくらいの年数を生きてきてるのに。何だか少し情けなくなった。私は今まで一体なにをやってたんだろう。恋だとか旅だとか写真、そんな事しかやってない。いや、それしかやってない。

千葉あたりを走る頃には高橋君と私の離婚の話になった。高橋くんは結末みたいなものから話始めた。「あの傷はずっと塞がらなくて、体の一部が失くなったみたいな感じなんだよ。」高橋君の言葉にうんうんと何度も何度も頷く。それぞれの別々の結婚や離婚があったとしても、その痛みはもう私を突き刺したりはしなくても、同じ場所で同じ景色を見ているような気持ちになった。周ちゃんはただ前を見て運転していた。私は私の話を上手く伝えられたかわからなかったけれど、出来る限りの言葉や想いを伝えた。そうしてしばらく離婚やパートナーの話をしていたけど、高橋君が少しでも前に進んだり、少しでも傷が癒えてくれるなら、何時間でも何度でもこの話を続けたいと思った。

それから、高橋君の次の恋をどうするか3人で話した。私は周ちゃんを見つけた時にパートナーに求める3か条なるものを自分の中で決めていた。「高橋君、パートナーに求める3か条って何?」「え〜3つ?足らないよ〜。」「駄目。3つに決めて。」「うーん。まず1つに優しい人かな。それってただ優しいんじゃなくて、例えば身内の人が病になって、だけど自分は仕事が忙しくて調子が良くて、そんな時に仕事はいつだってまた出来るからと諦めて、人の看病に専念出来るような心から優しい人かな。」「そうなんだ〜。じゃあ1つ目は優しい人ね。」「次は自立かな。仕事も生活も自立してる人。家事代行とかする人が悪いってわけじゃないし、忙しい女性が料理をしないで外食ばかりっていうのが悪いってわけじゃないけど、一緒に料理したり、掃除したりしたい。だから、自立してる人がいい。」「なるほどね。けど高橋君、それは自立っていうより生活の価値観じゃないかな。世の中に料理をしない女性は沢山いるよ。働いてる女性には多いものだよ。だけど、それって悪い事じゃなくて、料理を楽しみたい人かそうじゃないかなだけじゃないかな。どちらも経済的には自立してる。だから、高橋君は生活を楽しむ事が人生の中で大事で、その楽しみを一緒に出来る人がいいって事じゃない?だから、価値観だと思うな。」「確かに〜。」「じゃあ、3つ目は?」「知的な人かな〜。話せる人っていうのかな。こうやって色々な話が出来る人がいい。」「高橋君、外的要素はゼロ?心が良ければ、ものすごく派手な服装で髪はピンクで、結構ふくよかな子でも大丈夫?」「うーん。すっごく話が合う子がいたんだけど、どうしても好きにはならなかったんだよね。」「それってさ、高橋君が心だけじゃなくて、女性に外的、性的要素を求めてるって事だよね。例えば、可愛いとか、胸が大きいとか、肌が白いとか、そこに高橋君が恋に落ちるポイントがあるんだよ。」「確かに。じゃあショートの子かな。けど、誰でもいいってわけじゃなくってショートが似合う子がいいんだよね。」「ショートが似合う子がいいってよく男の子は言うけど、それって結局ショートの似合う可愛い子だよね。」周ちゃんと高橋君がわっと笑った。「3つ目は知的じゃなくて、ショートにしよう。」「えー難しいよ。」「ダメだよ。自分の100%理想なんていないよ。それに、性的要素は入れた方がいいよ。後は、大丈夫。相手を知る上でわかっていくものだから。」

私が周ちゃんに出会った時に掲げていた3ヶ条。明るい、身長が175cm以上、セックスがうまい。まず、未来に明るい人が良かった。どんなに苦しい事があっても、どうしようもない事が起きても、生きる事に希望を持てる人は生きる事が上手になる。明るい人は明るくなりたいから、明るく灯そうと努めるその光が周りを温かくもしてくれる。後は性的要素が2つ。だって、性的要素がなければ、動物だとか、友達だとかで事足りる。背の高い男が私はカッコよく見える。あとはセックスが上手ければ、男と女である事を楽しめるし、言葉では通じない事も身体を通してコミュニケーションがとれる。想いなんてものは共有しなくていい。心は私の男の中にそれぞれポツンと置いてあるものだから。それよりも一緒に楽しむことが出来れば、勝手に色々は上手に転がっていくものだと信じてる。私の経験上の話。

高橋君はレアなサボテンを3つ。周ちゃんは色と形が絶妙なサボテンを一つ。あと家に舞茸みたいなピンク色のサボテンを買った。帰宅したのは20時過ぎ。疲れた。暑いサボテンのハウスの中で4時間くらいボテンと格闘したから軽く熱中症気味。夕飯は簡単に野菜炒めにした。ジョイフルで買った金木犀や野菜の苗。明日は庭いじり。楽しみだな。

引っ越し蕎麦

和食 22.3,2022

引っ越し屋さんが来たのは14時過ぎ。片付けが終わったのは13時50分。本当にギリギリだった。どうにかこうにか終わった。周ちゃんは昨晩に展示の撤収があって遅く帰宅したのだそう。低気圧の所為でしんどいって言ってた。先週末にうちの片付けを手伝ってくれたから、周ちゃんの片付けも朝から忙しそうだった。

東京を出たのは18時頃。何とか荷物は全てトラックに乗ったみたい。朝から降ってたみぞれ混じりの雨も止んでた。テコをカバンに入れて電車に乗った。何だか心がここに失いみたい。大好きだった部屋にお別れすらしてない。とにかく疲れた。

改札を出ると東京よりも冷たい風。全身がひんやりとして少し不安になった。本当にここで暮らしていけるんだろうか。真っ暗な海みたいに遠くの景色は何も見えない。タクシーに乗って新しい家まで向かう。何処に向かってるのかこの道が合ってるのかもわからない夜をただ走り続けた。降りると背がすらりとした男性が小さい荷物をトラックから運んでる。「よしみ!」周ちゃんだ。荷物を持ったまま駆け寄ってきた。「お疲れ様〜。」ぎゅっとハグをした。周ちゃんといるとアメリカにいる気分になる。姉の所で生活してる時みたいにハグは挨拶になる。それから全部が終わったのは21時過ぎ。へとへとだ。心底衰弱しきってる。とりあえずお風呂へ入ろう。身体の芯まで冷え切った身体を温めよう。慣れないお風呂に湯を溜めて一緒に入った。お腹空いたな。くらくらする。

お風呂から出て、蕎麦を茹でて、後は簡単なおかずを準備した。鯖缶インドカレー味というのにパクチーを乗せたものと、納豆と、ブロッコリーを茹でたもの。蕎麦は練り梅を乗せて梅そばにした。今日は何も考えられない。動物みたいにお腹だけを満たしてベッドへ入った。

卵かけごはん

和食, 朝食 20.3,2022

朝からちょっと二日酔い。やっぱり飲みすぎた。ぼんやりしたまま引っ越しの片付けを始めた。合間に大学のオンライン説明会を受けて、最後の納品を二つ終えた。ようやく終わった。これで引っ越しの準備を気兼ねなく出来る。

午後はみっちゃんと線路沿いにあるクレープを食べに行く約束をしてる。「一回食べてみたいよね!」って話てから引っ越し前滑り込みのクレープ。結局、最初で最後のクレープ。二人揃ってバナナチョコクレープを頼んだ。クレープ屋の脇にあるテーブルでクレープを食べながらみっちゃんの彼氏の話を聞いた。こんな午後も今日で最後か。

それから商店街のベンチでコーヒーを飲んだ。みっちゃんの運気の話になってゲッターズさんの占いだと金の時計なのだそう。金の時計は12年に一度の運気の良さで仕事運と結婚運がいいとMOREのウェブに書いてあった。そのまま本屋へ行きみっちゃんはゲッターズさんの本を買った。周ちゃんも金の時計。私は金のインディアン。金の時計と金のインディアンは相性がすごくいい、結婚も仕事も相乗効果のような感じだとか。それに私は7年間の闇が明けると書いてあったけど結婚生活と同棲を合わせて8年。あれは闇だったんだろうか。闇だなんて言ったら笑い話。例えるならば炎が燃えたぎる地獄。じりじりと熱くて熱くてたまらなかったな。

みっちゃんに譲ると約束してたうちにある無印の棚をみっちゃん家に運んでバイバイした。「GWくらいに行くよ。」「埼玉で待ってるね!」楽しかったな。帰って夜まで片付けを続けた。

おかゆ

和食 18.3,2022

夜中に目が覚めた。週末中に今抱えてる仕事は終わるんだろうか。ずっと緊張状態で何だか不安になってきた。頭がぐるぐると予定のあっちこっちを行き来してる。昨日ワタルさんとちょっとお茶したのが束の間のオアシスだったな。あと数日で引っ越しなのに胃もストレスで痛いし朝からずっとたまご粥。友達にだって全然会えてない。1ヶ月も前から引っ越しの準備をしてるのにな、東京生活最後のんびり楽しみたかった。椅子に張り付いたように朝から晩まで納品作業。本当に疲れた。明日の夜は後藤さんが来る。2月の頭に婚姻届にサインしてもらった以来。絶対に仕事も引っ越しの準備も終わらせなきゃ。心がどこにあるのかわからないくらいに忙しい。夜に変な夢を見てるけど朝になると覚えてない日が続いてる。

おでん

和食 08.3,2022

今夜はおでん。世田谷通り沿いにある練り物やの、や亀やに早い時間に買い出しに行った。もう一つ数百メートル先によね屋とゆうのがあるけど、どうゆうわけか私が行く日は閉まってる。だから今日も、や亀や。今日のおでんはいつもより少し丁寧に仕込んだ。おかずにルッコラのサラダと蛸と揚げなすのピリ辛和え、ホタテと豆苗の中華炒めを作る。近所のヘアメイクのみっちゃん。自称美術家でプロデューサーの今む。この3人の晩餐会も楽しいご近所会として定着してきた矢先に私の引越し。あと5年くらいは続けたかった。最近あったどうでもいい話とか、ちょっとしたニュースとか、みっちゃんの彼氏の悪口を聞いて、今むのすっとぼけた話をきいて、笑って夜が更ける。そうして私がそろそろ眠いとなり解散。結構、好きな夜だった。今日だって、本当に最高な夜だった。

「私はワンシーズンに2回行くよ。」みっちゃんが言った。「疲れてるの?俺は半年に1回かな。」と今む。「シーズンに1回は来てよ。季節のものを食べたり、餃子を巻こうよ。お願いだから遊びに来てよ。」友達が食卓を明るくしてくれた。帰る人が帰らなくなって、作った料理も捨てる一方で、食卓を照らすライトの外側が真っ暗になった頃、友人達がやってきてくれた。心から感謝してる。ただの飲み友達だった今むも、アシスタント友達だったみっちゃんも、いつしか親戚みたいな感じになった。すごく寂しい夜も、すごく虚しい夜も、彼等がいたから食卓だけは何とか灯を灯してくれてたように思う。そうして食べて、笑って、また明日がやってくる。そんな繰り返しを、とにかく続けて続けて今日がやってきた。どん底だってとにかく食べまくって、どんどん痩せていく身体があっても胃袋をパンパンにしてやった。もし、私みたいにどん底に落ちちゃった誰かを見つけたら、まずうちの食卓に来てって言おう。私が彼らに救ってもらったように、この食卓で誰かの胃袋を一瞬でもいいから一杯にしてあげたい。お腹が減ったらまた来てほしい。いつしかそれが血や肉や明日への希望に変わるはず。

寂しい。すごく寂しい。東京を離れたくない。
ちょっと泣きそうな夜だった。

手巻き寿司

和食 23.2,2022

最近の癖で今日も早く目が覚めた。時間はまだ5時前。目をつぶっても何だか寝れない。出かける前に色々とやりたい事がある。もう起きようかな。なんだか少し緊張してる。ただ指輪を取りに行って役所に婚姻届を出すだけなのに。

待ち合わせは11時に表参道ヒルズ。トイレに寄って化粧を直したから3分くらい遅れた。ちょっと変な気分。ワクワクしてるっていうか、何だかそわそわに近くて、だけど平然を装ってる感じ。指輪は想像通りでとっても可愛かった。周ちゃんの指を通ってゆく指輪をじっと見た。軽い感じで「いいね。」って声をかけた。やっぱり何だかそわそわは止まらない。

店を出て、明治神宮に参拝へ行く前にジャイロでお茶でもしていこうとなった。チャイのグラスを握る周ちゃんの指に指輪がある。変な感じ。”あの人、既婚者なんだ。そりゃイケメンでいい男そうだもの。早くに誰かに取られてるよね。” いい男を見つけた時に言うフレーズが頭をよぎる。周ちゃんも既婚者の仲間入りなんだ。何だか変な感じ。

周ちゃんは指輪が気になるようで、手をかざしたり、手を裏表返してみたり、指輪をしきりに見ていた。可愛いな。嬉しいんだろうな。本当に周ちゃんって可愛い。可愛すぎる。私は、あ、久しぶりって思ってしまった。この指にする指輪は1年ちょっとぶり。嬉しいような、ああ妻にまたなるのかというずしりとした重みがかかるような気も少し。ただ、もう意気込んでない。幸せになるぞ〜とか、頑張っていい家庭を作る!とか、そうゆうのは無い。全然実感はわかないけど、あっという間に周ちゃんと結婚をした。

夕飯
手巻き寿司
タコとワカメの酢の物
イカの塩辛
長芋のイカスミ炒め
ウドの味噌マヨ和え
ズッキーニとシラスのペペロンチーノ
納豆
酢飯
ほうれん草とお揚げの味噌汁

手巻き寿司

和食 03.2,2022

朝に仕事を終えて、三茶にある婦人科の病院へ。先週の血液検査の結果がでるのと、生理後にする血液検査の為。「お渡しした手帳は持ってきました?」先週に妊活ノートのようなものを渡された。「すみません。持ってきてないです。」「持ってきてって受付で言われなかった?」先生の口調はちょっと怒ってるように聞こえた。年齢的に卵子の数がやっぱり少ない、風疹の抗体が下がってる。けど、それ以外は問題ないとの事。そして来週の生理が終わったタイミングで子宮卵管造影検査をするのだとか。話がどんどんと前へ進んでいく気がした。年齢的にもう時間が無いと何度も言ってた。何だかもやもやする。私、検査をしに来ただけなんだけどな。

家に戻って梃子を連れて周ちゃんと電車で実家へ向かった。病院での検査結果や先生と話したことを伝える。何だか話しているうちに段々と苛々してきた。何で私、焦らされなきゃいけないんだろう。身体の問題と、私がどうしたいかは関係ない。「私達のこれからは私達が決める事だよね。」周ちゃんに聞いた。時間が無いと言われても、無かったとしても、そのチャンスを失うかもしれなくても、他人に私の人生を決められたくないよ。子供が欲しいかどうかは私と周ちゃんのそれぞれの気持ちを確認した上で決めたい。子供の有無は私の幸せに比例するなんて思ってない。だって今のままでも十分に幸せだし、この幸せが子供を作る上で失くなってしまうのなら正直惜しい。

「章、早く立って!」母が周ちゃんに挨拶をした。「妻の雪子です。宜しくお願いします。」こうゆうのは人生で2回目。確か5年くらい前にもやった。当時、母は卓上焼肉がブームで、借りてきた猫みたいになってる何も話さない元夫にひつこく肉を食べるように薦めていた。元夫は下を向いたままで箸もビールも進んでない。父は無言でお酒を煽っていた。変な話、あの時から世界は予感していたんじゃないか。朗らかに誰が見てもつまらない食卓だった。私はどうでもいい話をどうにかこうにか一生懸命に一人で続けた。

父はいつも風呂に入ってから晩酌をする。これは私の習慣でもある。「章、お風呂入っていいわよ。」「いや。ううん。今日は大丈夫。」食卓に私達が座ると10分もしないうちに父はポツポツと話しだした。国分寺や清瀬、若い時に遊んでいた場所の事、母との出会いが西武園遊園地だった。母のお兄ちゃんが営んでいた喫茶店のメニューをレタリングで書いたのは当時デザイン学校に通っていた父だったのよ、と母が横から話に入ってくる。父は、今日の父は何でこんなに楽しそうなんだろうか。気づけばすっかりお酒も入ってご機嫌になっていた。リビングに飾ってある結婚式の写真を指さして、「なんでヤスタミが俺のカミさんの隣で新郎みたいに立ってんだよ〜!」と、もう50年近く前の写真を見て笑ってる。ヤスタミは父の親友。我が家ではヘスって呼んでる。母も仲がいい。そして、私はあの父と母の結婚式の写真がすごく好き。母のレースのドレスと笑顔もビートルズに憧れていただろう父やヘスの窮屈そうな小さなスーツもあの一枚の中に流れている時間が洒落ていて好き。今でも止まってない感じがいい。

父と母は、私達三人兄妹が家を出てから何だかちょっと恋人みたいになった。それは時々姉とジェラシーするくらい。夏は二人で海水浴に行き、秋は温泉宿に、今年は2週間の船旅をするのだそう。「部屋から海がみえるんだって。パパはずっと海を見ていられるし、ママは船の上でエクササイズしたりしようと思って!」二人とも楽しそう。周ちゃんはちょっと緊張してるけれど、父や母と一緒になってお喋りしてる。昨日から胃の調子が悪いと言ってたけど、もしかしたら今日の挨拶のことで緊張してたのかな。

帰りの電車で周ちゃんと話した。「なんか大丈夫だったね。」「乾杯する時によろしくお願いしますってよしみのお父さんが言って、あ、そうなんだって思ったよ。」「私も。」2人で顔を見合わせて笑った。別にドラマみたいに娘さんを下さいみたいな事は必要ないと思ってた。だけど、周ちゃんは結婚をさせて下さい、と言うつもりだったのだそう。「籍はいつ入れるの?」「子供は?」「どこに住むの?」具体的な話は両親の口からは一切出て来なかった。昨年の12月に母に周ちゃんの事を話した時はまだ早いとショックを受けていたけど、もう落ち着いたらしい。いつだったかに「どうせ駄目って言ったってするでしょう。」とも言われたけど、全力で反対されたらやめてたかもしれない。私が決める事だけど無理矢理するもんでもない。それに、人生において結婚は全てじゃない。ただ、周ちゃんと一緒に幸せになりたいなって思っただけだから。

今日の夕飯は手巻き寿司。「あの人は何が好きなの?」母が聞いてきた。「手巻き寿司だよ!」周ちゃんの好物、手巻き寿司。私の好物でもある。実家の手巻き寿司って美味しい。なんでこんなに美味しいんだろうって毎回思う。いい夜だった。

芋煮

スープ, 和食 18.1,2022

朝から淡々とデスクワークを終わらせて夕方。先週の疲れが何だか残ってる。家でのひとりの時間が本当に好きだなと思う。日が暮れる頃に夕飯を作り始めて、合間に作業を進める。そしてお風呂にゆっくり入って、早い時間にベッドに潜って本を読んだり日記を書いたり。そして、湯たんぽみたいにホカホカの梃子にひっついて夢の中へ。

結婚10時間、私14時間。黒木華さんのドラマでのセリフ。私の中では人生の名言となってる言葉。どんな結婚生活を、どんな風に私の時間を大切にしていけばいいのかずっとずっと考えてる。週末婚みたいな形だとか、物理的にひとりの時間を確保できるような結婚がいい。だけど、ちょっと現実的じゃない。透明人間になる術を習得できたらいいなと思う。これなら出来そうな予感。私を家のどこかで見かけても、見て見ぬふりをしてもらえばいい。

芋煮
味噌、みりん、醤油 大さじ1
酒 1/3カップ

里芋 3、4個
豚肉 200g [本当は牛]
こんにゃく 1/2枚
ごぼう 1本
ねぎ 1/2本

最初に鍋に豚肉と味噌を焼き付ける。酒と一緒に10分煮込んだら取り出して、水を足して野菜を柔らかく煮た後に肉を戻して味を調整。