アスパラとトマトとモッツレラのスパゲッティー

パスタ 01.4,2023


午後から角田さんと三鷹のマルシェへ行った。今日の約束は少し前に会って話したいと言われていたことだ。年始に私の撮った映像を見て感動したと熱々の湯気がこちらまで届くようなメールをいただいた。尊敬する角田さんからの突然の連絡に正直すごく驚いたけど、なにかの間違いかもと冷静に現実から目を背けたりして、ただ、ありがとうございます。とだけ返した。だから、会って話したいというのは、夢の話だろうと勝手に決めていた。

角田さんは変わってる。本人も「私は変わってるんです。」とよく言うけど、本当にその言葉の通り。同じような人に会ったことがない。一緒にいると驚くようなことばかりを言いだすし、かと思えば人への愛情が深くて胸を打たれてみたり。料理を生業にしているけど、どんなことよりも先ず人を大切にする姿や、そうして物の本質を嗅ぎ分ける嗅覚みたいなものが抜群に長けてるような、それが何かはハッキリとはわからないけれど、たぶん生物的なセンスとゆうか、不思議な魅力がある。

今日は角田さんの知り合いのお店をいくつか回り最近私が夢中になってる青梅野菜の、のらぼう菜の話なんかをした。それから近くの喫茶店へ入って色々な話をした。

「言葉でなんて説明していいのかわからないんですけど。」私よりも年上で、ずっとずっとキャリアがあって、立派な仕事を沢山してきてる角田さんは、偉ぶることもないし、お姉さんみたいな感じで話すこともないし、本当に素直にわからなくて、その言葉が見つからないけど伝えたいと一生懸命に言葉を探していた。そんな様子を見ているとじわじわと目頭が熱くなっていった。

前に男のカップルと一緒によく彼らの家で食卓を共にしていた時があった。あの時間が私は大好きだった。男なのか女でもないような、同じ液体の中にいるスープみたいに流動的に流れてゆく。同胞感に臆することなく、おのおの流されながらもぺちゃくちゃと話し続ける。みんな同じじゃん。そんな気持ちが心地がいいし安心だし、恋人とベッドの中で柔らかい毛布に包まれているような。だけど恋人の前みたいに女になる必要もない。久しぶりのあの感覚に似ていた。

「あの時は離婚直後で、なんというか、食べなきゃというか生きなきゃって。とにかくもう怖いことから逃げちゃいけないって。そう思って映像を撮り始めたんです。」

頼んだアイスコーヒーを一気に飲んで話を続けた。私があの日々の中で大変だったことは日記に書いてるくらいで姉以外の誰かには話してない。ほんの2年前の話だけど、まだ毎日が怖くて仕方がなかったし、生きてるんだか死んでるんだかもよくわからなかった。身体の感覚が半分麻痺しているような毎日の中で撮り続けた。

角田さんに私のことは殆ど言ってない。だけど、生きなきゃと必死になっていた私のことを、水に洗われる紫蘇や、フライパンの上で回るスパゲッティの映像から、とにかくそう感じたのだとか。

今の自分の気持ちが全くよくわからない。だけど、帰り道に角田さんの背中を見ていたらなんだかすごくハグしたくなった。

春の夜風が冷たくて清々しい。角田さんといると明るいきもちになる。