
なんだか沖縄での私は我儘のカタマリみたいで、そのまま丸めて那覇空港のゴミ箱にでも捨ててしまいたいくらいだった。昨晩に帰宅し、数日ぶりの家でいつもの私のことをようやく思い出した。周ちゃんは優しくて賢い。とにかく今まで長い時間勉強してきたのだから、頭が辞書みたいになっててもいいじゃないか。それって結構すごい事だし、野良犬みたいにアカデミックとは正反対の場所で生息してきた私と合わなくて当たり前だ。そんな事にいちいち噛み付いてる私はただのバカ。
なんでもかんでも頭の辞書を開く周ちゃんと、目や耳や手で触れた話をする私。きっと辞書には八角が入っていると書いてあったんだろう。だけど、食べてみたらわかるじゃん。これは八角じゃなくて醤油と砂糖だけしか使ってない。「これはやっぱり八角がしっかり際立っているね。」周ちゃんは当たり前のようにトンチンカンな話をする。日常ならまぁいっかと聞き流せることも、四六時中、隣でそんな話をされると我慢ならなくなる。
だけど、私だって周ちゃんからしたらトンチンカン女だろう。「この本何言ってるかわかんないんだけど、なんで急にここでこの言葉使うわけ?」飛行機の中で大学の参考書を開きブツクサ文句を言ってると綺麗に答えてくれた。結局、私の読み間違え。「この前の文章を見ると、この前の数行に説明があるね。これはね、この章では何をしたらいいのかっていう目的について語ってくれてるんだよ。」「え。そうなんだ。そうか、いきなり出て来た言葉じゃなくて、それが大事なんですって言ってくれてたんだね。」周ちゃんからしたら、読めばわかるじゃんって話だ。けど、そんな事は絶対に言わない。
きっと私には一人の時間が必要なんだと思う。朝から晩まで数日間もずっと一緒にいると、どうやら隣にいる周ちゃんは私の一部のようになってしまうようだ。思い通りにいかない取ってつけたような私となった周ちゃんを膝にできたカサブタみたいにとってやろうと、気になって気になって引っ掻いてしまう。こんな事をしてたら嫌われてしまうんじゃないか。海沿いの道路を走りながら何度も考えた。
「周ちゃんって好きな人いる?」ベッドで本を読む周ちゃんの横で目をつぶりながら聞いた。前にも聞いたことがある質問。だけど毎回周ちゃんの答えは同じだ。けげんな顔をしてる。その度に私は一体何が聞きたいんだろうと思う。もしかして、心のどこかで前の婚約者のことを今でも想っていて欲しいとでも思っているんだろうか。
周ちゃんを好きになればなるほどに私は我儘になってゆき、私の妄想の中だけで生きている周ちゃんの婚約者だった女性のことを考えてみたりと私はしょうもない事をし始める。不幸になるのは簡単だけど、幸せになっていくのは人を不安にさせる。
たぶん、ずっと一緒にいたいんだと思う。
夕飯は朝どれの筍を下処理して刺身にした。周ちゃんの知り合いに頂いた大分のカトレア醤油で食べた。「懐かしいなぁ。」周ちゃんは何度もそう言ってた。