カレー

カレー 30.4,2023


今日は朝から周ちゃんは仕事。私も家で仕事。午前に母からの電話が鳴った。「GWにみんなでご飯でもどう?」とのことだったけど、GWは忙しいからと断った。「どこも混んでるしね、やっちゃん家でバーベキューでもしようかしら。」と言い母は電話を切った。本当は行きたい。だけど、時間がない。

今日も私は相変わらずでイライラしてる。詰まってる仕事や勉強に忙殺されてるからで、どうにもこうにも上手に出来ない私の不甲斐なさにどうしようもない気持ちで一杯だ。なのに、だいたいは周ちゃんにあたってる。甘えたりもしてる。どっちにしろ、いい加減にした方がいいのはたしか。

“私の帽子知らない?” 周ちゃんにLINEを打つと、”ごめん。持って来ちゃった。” と直ぐに返信があった。洗面所で10分もバタバタと帽子を探してたのに、早く言ってよ。急いで梃子に夕飯をあげて支度をしながらまたイライラした。自転車で飛ばしてプールへ向かうと待ち合わせの時間を過ぎても周ちゃんはこない。家事、仕事、勉強、梃子の世話に夕飯の準備。読書する時間もなければ、ネットサーフィンする時間だってない。もう、なんなんなの。なんで私ばっかりこんなに忙しいんだよ。

帽子を受け取るとさっさと更衣室へ向かった。周ちゃんは私がプールへ入ってからしばらくしてやってきた。無視して一人で泳いでると隣のレーンでビート板で泳ぐ周ちゃん。「どうしたの?」「ゴーグル忘れちゃって。」なんなんだよこいつ、。心の中でまた一人イライラした。「私の途中で貸してあげるから。」ただ、無心で泳ぎ続けた。プールの中では水がぐんぐんと前からやってくる。そして私の身体も水みたいに流れていく。

私と周ちゃんは全く違う。背丈も違えば、女と男っていう性別も違う。私はずっと東京にいたし、周ちゃんは東北や九州にいた。だから、付き合う友達の種類も、遊んできた場所だって違う。周ちゃんは4人兄弟の2番目で、私は3人兄弟の末っ子。私は2回目の結婚で、周ちゃんは初めての結婚。

共通点と言えば三つくらい。チベット文化が好きなことと、家族がアメリカにいること、あとは互いに恋愛はしっかりとしてきたこと。私たちがパズルだとしてもそれが一枚になる日は永遠に来ないと思う。私が周ちゃんを好きになったきっかけはカッコいいからで、周ちゃんが私を好きになった理由は直観。そんな二人が結婚した。別に恋に落ちたわけでもなくて、ただ結婚をした。

趣味も好きな映画も音楽だって全然違う。食べ物の話をしたら最悪だ。採れたての美味しい野菜を私はすぐに食べたいけど、周ちゃんは古い野菜から食べようとする。周ちゃんはティーパックひとつで二つのお茶を淹れるし、コーヒーは恐ろしく濃いけど、私はカフェインレスをしてるからコーヒーはお湯みたいに薄いのが好みだし、お茶は香りを楽しみたいから味気のないお茶は嫌い。

向こうの方にプールサイドを歩く周ちゃんがいる。周ちゃんってあんなにマッチョだったっけ。数え切れないくらい周ちゃんの裸をベッドで見ているのに、なんだか胸がドキドキした。

近くで見ると見えないことがある。ディティールが潰れてしまうというか、本当は複雑に色々が詰まってる筈なのにつるりとした表面ひとつみたいになってしまう。好きになればなるほどに、もっともっと近づきたいのに、近づけば近づくほどに触れているはずの周ちゃんは見えなくなっていく。

だけど、周ちゃんは本当は優しい。いつも丁寧で穏やかだ。私のように感情的になることはないし、いつも同じ笑顔で待っていてくれる。順序立てないと進められないとか、なんでも説明書を読むところからとか、全く理解できないようなことも沢山あるけれど、だけど、だから私はこの男が好きだ。好きなのは顔だけじゃない。もっともっと沢山が好きでそれは私がひとつも持っていないものだ。

顔が小さいくせにマッチョな身体も好きだし、辞書みたいになんでも知ってるところも好きだ。植物をすぐに枯らすところは嫌いだけど、梃子の面倒もよく見てくれるし、私が忙しい時は散歩も行ってくれる。帰りが遅い時は魚を焼いて味噌汁も作ってくれる。周ちゃんは鼻炎だからか味が下手くそだけど、味噌汁はすごく美味しい。それに、悲しい話も嬉しい話もいつも同じように聞いてくれる。寝る前にベッドの横に積み上がった難しい本の話をしてくれるのだって好きだ。なのに、どうして見えなくなっちゃうんだろう。

周ちゃんは私と結婚して本当に幸せなんだろうか。幸せにしてあげたいと思っているのに、私は自分の事ばかりを考えてる。忙しいのは周ちゃんの所為じゃない。