せり鍋

06.12,2023


私が食卓で周ちゃんに聞く事はふたつ。「今日は楽しかった?」「昼は何食べた?」今日も同じように聞いた。話し終えると「よしみはどうだった?」と返ってくる。「ちょっと、調子悪い。」本当のことを言った。調子悪いのは身体じゃなくて、心の方。最近は意気揚々とやってたのに、急にスランプみたいなのがやってきた。とは言っても、大学に入ってからずっとこの悩みは付きまとってる。「勉強が好きなんだけど、それには何の問題ないし、難しくても、とにかくやればいいだけ。そうじゃなくて、なんか、私、本当に勉強してていいのかなって。勉強をすればするほど、どんどん写真から離れていくような気がして。」

通信大学はとにかく孤独との戦いだと聞いていたけど、その通りだ。SNSで同じ学部の方とはやんわりと繋がれたお陰で名前もどんな人なのかもわからない人達と、時々、試験や勉強の情報を交換してる。その人達は大体は転職目的で、心理の世界に骨を埋める気でいる人が大半だ。だから、私とはちょっと違う。将来に向けた清々しい感じのツィートなんかが飛んでるのを見ては羨ましく思う反面、私はどうしたいんだろうと一人勝手に孤独を感じたりもする。

「東京離れて、友達もそうだけど、色々が変わって、勉強は楽しいけど、本当にいいのかな。」この言葉、この1年で何回、周ちゃんに言ったんだろう。「よしみみたいに写真やってて、心理学勉強してる人、他にいる?」「いない。」このやりとりも何回もやった。周ちゃんは沢山の大きな仕事をしてきたからだろう、私みたいにこの一枚の写真がどれだけよく撮れるか、みたいにミクロな事は考えてない。その才能がどう社会で活かせるのか、その特質がどう面白くて、どう人の役に立ち、それがまた自分に還元されるのか、みたいなことを話そうとしてくれる。ユニークであるかどうかが大事で、今の私はその場所へ向かおうとしているのだからと、問題を転換してマクロな視点で答える。

最初はそうか、そうか。なんて安易に面白くおかしく聞いてたけど、正直、当の本人からしてみれば、そんな簡単な話じゃないよ、と怒りたくなる。前例がないことをやるっていうのは、真似できるひともいないし、誰に聞いていいのかもわからないし、いつも視界はぼんやりどころか、暗闇に包まれてる。元気な時はいいけど、つまずくと私は弱い。そこで深く考えてしまうから。

「その先に、何が見えるかわからないんだよ。」今日は少し怒った口調で言うと、「ごめん。大変だよね。わかる。俺も今の仕事に就くまで模索してきたから。だけど、俺はすごくいいと思う。」と返してくれた。「私は周ちゃんじゃないんだよ。」と、意地悪に言い、食器を重ねた。

悔しかった。写真だって、まだまだやりたいことがあるのに、心理学にまで手をだして、それでいて不安になって、全部自分が馬鹿なだけだ。ただ写真だけ頑張ってたらよかったのに。何も考えずに仕事をしてたらよかったのに。周りの人が活躍しているのを見ると、私、何やってんだろうと情けなくなったりする。本当は何度か泣きそうになったけどこらえた。

身体の隅々が気持ち悪いままベッドに入った。