
恵比寿のアトレに屋上があるなんて知らなかった。堀江さんに会う前に、屋上にあるグリーンガーデンという屋上で実習先に電話した。緊張するけど、青空を見ながらならきっと大丈夫。そう思って8Fまできたのに、なんだろう。四方八方から音がして、忙しなくて息が詰まりそうだ。気持ちがいいって言うよりも、逃げ出したくなる。さっさと電話をすませて、東口に向かった。
駅前のルノアール。全喫煙。今どき珍しい。どう見たって愛煙家達の溜まり場だ。堀江さんに会うのは2年前に恵比寿スタジオで撮影したのが最後だったらしい。離婚のことを聞きたかった筈なのに、もう結婚して2年も経ってしまった。変わったねと言われたけど、堀江さんは全然変わってない。だけど、今日は珍しくジャケットなんかを羽織っていた。「菅原さん幾つになったの?」って言うから、適当に「33歳」って答えた。
「今日の電車賃、経費につけておいていいから。」話したいことっていうのは、来月、ポートレートを撮って欲しいって話だった。あとは、私の機材をオフィスに置かせてくれないかとか、社カメにして。とか、私からはそんな話をした。あと、大学に行ってるし、進学もしたいってことも話した。私たちって、勿論、友達じゃないけど、仕事仲間っていうのともちょっと違う気がする。お兄ちゃん?いや全然違う。一方、堀江さんは、私の前の夫に勝手にロックミュージュシャン同士のシンパシーを感じてたらしいけど、正直、確かに少し近い気もしてる。嗅覚みたいなものが抜群にいいところが少し、似てる。言葉にしていないこともわかっていたり、我慢して隠してることも見えていたりする。あれってなんなんだろう。
心理学で勉強した事で言えば、第六感。多分それだ。そういう類の人は、歌が歌いたくなるんだろうか。まぁいいや。久しぶりに会えて嬉しかった。ルノアールでアイスコーヒー2つ。そんな注文も良かった。奥に座ってる年配の方は見たことがある人だった。東京の喫茶店あるあるだ。
あっという間に時間が経って、堀江さんは次の仕事へ。電車に乗ると直ぐに、実習をお願いしていたクリニックから電話がかかってきた。非常に感じの悪い感じでボソボソと喋ってる。そして「うちは受け入れてません。」院長先生という人がノー愛想で言った。ぴしゃりって音がするんじゃないかってくらいの話し方だ。「こっちから狙い下げだ!」なんて言わないけど、正直、このヤロー。って思いながら電話を切った。だってさ、いくら見知らぬ人だろうが、笑顔の一つ、会釈の一つでもしたらどうだろうか。例え、それが電話だろうが見えてるよ。私なら「ごめんなさいね。今ね募集してないんですよー」って言うけどね。まぁ勝手に意地悪やっとけ。
駅に着いて、プールに忘れた水着を取りに行ったら、いつものお兄さんが「濡れてたから乾かしておきましたー。」って、え?そんな事ってあるの?受け取った水着はふかふかになって返ってきた。
世の中っていうのは面白い。いやーな奴もいるけど、驚くぐらいに親切な人もいる。なんかさ、楽しくやりたいよねって思う。せっかくの一度の人生なんだし、とんでもなく最悪な事とか、死にそうになる事とかに遭遇しちゃったりもするわけで、だからこそ、日常の小さなやりとりぐらい、楽しげにやりたいよ。
せっかくなので、ふかふかの水着で泳いで帰る事にした。そして、なんだかとっても気分がよかった。今日は多分、スイスイ〜って泳いでた。お兄さん、プールやめようかなって思ってたけど、やめるのやめます。さ、明日からも頑張ろう。ファイト、私。