
慌ただしい週末だった。残りのクッキー全部を独り占めしようとキッチンに戻ったのが悪かった。クッキーを握りしめて2階へ走ったその時に事故は起きた。
古い一軒家の床は、どうしてこんなにもよく滑るのだろうか。床に落ちる時に硬くて脆い音がしっかりと聞こえて、あ、これはやばい、。と思った次の瞬間に頭部が打ちつけられた。ゴトンって。
軽い脳震盪のせいか、しばらく吐き気がでて悪寒が続いた。転んで全治1ヶ月みたいな事故は何度かやったことがある。何とか立ち上がって、強打した左肘アイスノンで冷やし、力が全く入らない左手をだらりとしながら、右手を使って、キッチンクロスで思い切りに圧迫した。ギンギンに冷やして感覚を麻痺させて痛みを和らげさせては、少し休んでを繰り返してるうちに2時間が経ち、周ちゃんが帰宅。
“すっ転んで骨を折ったかも!” 帰宅前にメールした時は、LINEを右手で打ちながら、ひとり笑った。おいおい、ギャグかドラマみたいじゃんって。帰宅した周ちゃんの顔は心配って文字で溢れてる。「緊急病院に行く?」「明日で大丈夫。骨か打撲だと思うし。」破れたキッチンクロスで首から吊るされた私の腕は可哀想というよりも、滑稽そのものだ。
土曜日の午前。駅前の病院でレントゲンをとった。レントゲン室が暗室のような懐かしい薬剤の匂いがした。かれこれ勤続年数30年みたいな看護師さんに「もしかして、、。フィルムですか?」と聞くと、「そう。」とのこと。「写真撮ってもいいですか?」と再び聞くと、「記念に好きなだけどうぞって。」
先生に肘を強打した経緯を話した。「お家で走ったの?」「はい。」「お家では走らないでね。これ、ヒビがね、いってるのわかる?まさか、、とは思ったけど、相当痛かったでしょ。」って。
それから、看護師さんを呼んでギブスをつけてくれた。看護婦さんはまた直ぐにどこかへ行ってしまい、脱いだパーカーが上手く着ることができない私をみかねて、一緒に着せてくれた。ギブスを支えるサポーターをして欲しいと頼むと、しばらく奥でごそごそとやってから、昭和の香りがするパッケージの台湾製のサポーターを「これこれ」という感じで開封し、つけてくれた。何度も、「うーん。わからないな。」と言ってた。
このお爺ちゃん先生は、周ちゃんが出張中に負傷して、中国の病院でMRIだとか散々精密検査してもわからなかったアキレス腱断裂を、周ちゃんの話とそっと触れただけで診断し、その直後に「今から紹介状書くから、この足で直ぐに行って。」と、漫画に出てきそうな名医の如く周ちゃんを救ってくれた先生だ。手術した先生曰く、あとちょっと遅かったらまずかったとのことだった。
周ちゃんからはいい先生だと聞いてたけど、待合室で楽しそうに話す老人だとか、診察室から中々出てこない年配の患者さんたちを見ても思った。googleのコメントで病院選ぶのはもうやめよう。
病院は、勿論病気を治すところだけど、私の骨が繋がるのは3週間後だけど、心身ともに痛かったのは最初の2時間だけで、特に私のドジっぷりを悔やみもしていないし、最悪だなんていう風にも思ってない。結局、ロキソニンも家に沢山あるから要らないと断ったから、先生と話して、レントゲン写真を撮って、ギブスして貰っただけだ。ほんの数時間前と、そんなに変わってない。
なのに、すっかりと元気になっていた。毎日はこういう続きできっといんだ。
ここ数日梃子の下痢が続いて、朝に血便をだした。周ちゃんは先週ノロだった。そして私の骨のヒビ。周ちゃんは不穏だと怖がってたけれど、私はなんだかすごくスッキリしてる。リビングですっ転んでヒビ。笑っちゃうよね。可笑しいよ。
いい先生に出会ったな。たぶん、写真やってるのと、心理学勉強してる共通点もここなんだろうとも思った。臨床は個人に対するアプローチだけど、写真も同じで、一つの被写体に向かう。
先生は私がクッキーを独り占めしたから走ったことを知らない。最後に「急がないでいいんだよ。」って、言われて、ちょっと後ろめたさもあったけれど、嬉しかった。人生は楽しい方がいい。急いで一生懸命になることもいいけど、楽しくなかったら意味が無い。きっと私はそっちタイプだ。
大学に入ってからは、卒業しなきゃ!と急いでばかりいたけれど、もう急ぐのはやめだ。