カツオ丼

Journal 07.5,2023


周ちゃんが数日ぶりに帰宅した。漁師みたいに灼けた肌。ちょっと別人みたい。帰ってすぐにハグをしたら溶けるみたいにホッとした。だけど、数日間のひとり暮らしはやっぱり最高だった。私が大金持ちだったら、東京かどこかに絶対別邸をつくるだろう。マンションの小さな一室じゃなくて、ちゃんと綺麗に光の入る、ベッドもダブルベッドの別邸を。それは夢のまた夢の話だけど。

午前に納品を終えて、急いで電車に乗って代々木公園へ向かった。夕方前に青山のアップルストアの予約をいれてる。買ったばかりのapple pencilが壊れたからだ。夏みたいな天気の今日。風だけは台風みたいにビュービュー吹いていた。代々木公園、思い出の場所だ。本当にここではよく遊んだ。仕事をサボったり、デートをしたり、写真も沢山撮った。渋谷は私が一番好きな街なのかもしれない。今ほど流行っていなかった奥渋や上原も好きな場所だった。自転車であちこちを走った。朝が来るまで好きなだけ思いきりに遊んだ。クリスマスにデートしたレストラン、ビルの一角にある友達の古着屋、代々木公園の交番前交差点で恋に落ちたこともある。その彼とは宮益坂の交差点で深夜に長いキスをした。

今日は山形からでてきたざおー家族と、昔よく遊んでたメンツが集まって代々木公園でピクニック。みんなそれぞれに家族が出来て、お母さんやお父さんになってたり、立派になっていたりと、話す事が沢山あるような気もしたけど、何から話していいのかわからないような。結局、最近あったような事だけを話した。後は風が強くて、砂埃がいろいろを持っていってしまったように思う。

色々と想うことがあるはずなのに、思い出せないことが沢山ある。だけど、思い出のことよりも、時間は変わったんだってことを考えてた。みんなとは20代の頃に出会ったけれど、今は40代そこそこ。もう、誰も渋谷では遊ばない。

駅前で生カツオを見つけて買って帰った。カツオの叩きを作って、ご飯を炊いて酢飯にしてカツオ丼を作った。久しぶりの周ちゃんとのご飯。私と結婚してくれてありがとう、不意にそう思った。口には出さなかったけど、代わりに周ちゃんが大好きだよと伝えた。

昼間、和美ちゃんが「よしみちゃん、幸せになって本当に良かったね。」って言ってた。今が完全な幸福?とは言えないけど、昔の私と比べたら180度違う世界を生きてる。家は安心で安全な場所に変わった。夫にもう振り回されることはない。寝ないで仕事に行くこともないし、泣きながら仕事へ向かうことも無くなった。撮影中にものすごい数の着信が携帯電話に残ることも無くなった。歯の奥をぐぅっと食いしばらなくなり、代わりによく笑うようになった。

時間はみんなそれぞれに自由に与えられている筈なのに、私はどうしてあんなに苦しい場所にいたんだろう。夫のことを愛していたからだけど、本当にそれだけだったんだろうか。

時々、今でも考えるけど、答えはきっとノー。