カテゴリー: Journal

9月8日

Journal 08.9,2022

朝に少し吐き気がして、昼になれば治る。そんな数日が続いてる。今朝も朝食はあまり食べられなかった。朝から雨の予報だけど、東京に来れば来るほどに空が明るくなっていった。なんだか、今日はいい日になりそう。今日の編集は成田さん。映像は大場さん。大好きな二人と、ライターは柿本さんとういう女性だった。柿本さんの事は事前に成田さんからとても素敵な年上の女性の方ですと聞いていたけど、あっという間に好きになった。話し方も仕事の進め方も、とても心地がいい大人の女性。

「読者さんは、これ、出来ますか?」料理家のワタルさんが料理する手を止めて言った。ワタルさんがそう言う度に嬉しくなった。少し前のレシピ撮影の現場で配合がおかしい料理があった。そこそこ大きなプロジェクトだったから、とにかく現場はかつかつ。料理家も編集者も望んでしたわけじゃない事はわかってるけど、撮影は中断されなかった。レタッチでどうにかごまかされる料理、この料理は誰に届くんだろうか。あの日の事を思い出した。とても虚しかった日のこと。

ワタルさんの質問に対して丁寧に答えるライターの柿本さんや共に意見を重ねる編集の成田さん。側にいる大場さんも映像を撮りながら輪の中で話してる。平和や安全と同じで色々は当たり前なようで当たり前じゃない。小さくて見過ごしてしまいそうな優しさを、皆で拾い上げていくみたいだった。そして、それは綺麗に前へ前へと有機的に回転していくように見えた。それぞれがそれぞれの役割を全うしていくみたいに。撮影を始めて数時間で今日の現場がとても好きになって、当たり前の大切な事をきちんと伝えようとするワタルさんの料理をしっかりと私も撮りたいと思った。そして沢山の人に広まってほしい。この料理を作った人もそれを食べた人にも。

「自分の所に来た野菜がどう作られてるのか知りたかったんです。それを知れば知るほどに農家さんがどんなに大変な思いをして作っているのか。草むしりを手伝うだけでも色々な事を考えさせられるんですよ。」ワタルさんの素材への知識と圧倒的な愛情の深さ。撮影中の読者へのこともそうだけど、全て同じ。いつだって私達はひとりじゃない。料理を届ける相手もいれば、料理を提供する為に素材を作ってくれる生産者もいる。沢山の人の中に料理人としての自分が存在している事。日本各地、様々な場所を訪ねて、実際に畑に出て、農家さんの仕事を手伝う。そういう事を繰り返していくうちに自分の料理がようやく見えてきたとも言ってた。キッチンで立ってるだけじゃ見えない。きっとそんな感じだったのかな。少しわかる気がした。ベランダでハーブを取ってきては絵に書いたような料理が出来上がっていく。なんて綺麗なんだろう。シャッターを切りながら、皆の歓声を何度も聞いた。作られたばかりのとても美しい料理。そして、それは食べればなくなり、胃袋を満たし全身をじんわりと温めてゆく。やっぱり料理って楽しい。本当に最高なこと。

挨拶を交わすのを忘れちゃうくらい軽快に話し始めるカナちゃん。彼女も若きエース、料理家。今日の被写体のもうひとり。事前に頂いてた今日の献立を見る限り、大体、こんな感じかなと想像が出来てたけど、その中身は初体験のものばかり。料理が好きだけど、料理ってやっぱり楽しい。美味しいのもっともっと根源。生きた食材を自分の手で調理する時のわくわくした気持ちや、それがどんどん料理として一つの形になっていく時の胸の高まりだとか、側で見ていて色々な感情が沸々と湧き上がるようだった。それに、彼女がお金を稼ぐことよりも、何処まで生活水準を下げて自分の好きなことが出来るかという事に挑戦した時期があるという話も面白かった。それは貧しくなることを意味してるわけじゃなくて、美味しいものが食べられなくなることでもなくて、とても楽しかったと話していた。郊外に引っ越した理由もその一つだとか。美味しいごはんとワイン、そして仲間がいればお金がなくても楽しめるし、自分が望むものをきちんと得れたのだそう。笑顔で話すカナちゃん。ワタルさんよりもさらに若い。

一日があっという間に終わり、十分過ぎるほどに今日が満たされているのに、成田さんとも全然話していないし、大場さんや、柿本さんとも色々話したかったし、若きエースの二人とも話したい。まだ食べたい。美味しい食後の別腹のデザートみたいに、あの場所でずっと満たされていたかった。

9月4日

Journal 04.9,2022

今日は昼からしみるさんといまむが遊びに来てくれた。なんだか世田谷の時みたいで懐かしい。みんなで集まって、食卓を囲んだり、お喋りしたり、楽しかったな。いつしかいまむは彼女と別れて、しみるさんは結婚して、もうすぐ子供が産まれる。埼玉の暮らしで失ったものと言えば、友人達との時間だけど、みんなにそれぞれの時間が流れてもまたこうして他愛も無いお喋りが出来るだけで幸せな気もした。

いまむは結婚のお祝いにとバーミュキュラのフライパンをくれた。私と周ちゃんからは、誕生日プレゼントに先日の那須出張で見つけた周ちゃん曰く超レアらしいお面をあげた。那須で見つけた時に、Googleで検索してもその実態が明確にわからない事に「やっぱりGoogleには皆が知ってる事しかないよね。」と言い、学芸員としての血が騒いだのか子供みたいに興奮していた周ちゃん。お面はニンマリととした顔で笑っていて、なんだかいい顔だった。それは、春の個展が終わってから元気が出ないと嘆いていたいまむにぴったりな気がしたし、超レアなら尚更、周ちゃんも酷く興奮しているし、広い民芸店の一角で見つけた事も、なんだか宝探しみたいで良かった。しみるさんには犬の張り子を先日の御礼と、安産を願って渡した。犬には昔から安産祈願や家庭円満の意味があるらしい。

それから、4人で食卓に座って私の新しい名刺のペインティングをした。前回の名刺のテーマは地味。誰にも気づかれないような、誰だかわからなくなってしまような名刺。さらっとした名刺にして欲しいとお願いして作って貰った。フォントはAesopのロゴデザインでも使われているもの。色は何色かわからない暖色にしてもらった。あの時は離婚して直ぐの頃で、元夫の名字をもう使いたくないと改名に迫られて、友人達の公募により結局一番シンプルだったyoshimiに決めた。好み的に言えば平仮名、そして明朝が良かったけれど、少しでも地味にしたかったから、英語の方にした。とにかく1ミリだって傷つきたくなかった頃のこと。フリーランスで働いているのに、どうか、私の事を構わないで下さい。そんな想いが込められていた。今となっては、過去の私らしい名刺。

新しい名刺は、東京の住所の記載を抜いたものを作らなければならなかった理由があって作ったけど、最近の色々も手伝って、もっと私らしい感じの名刺にしようと思った。明るくて楽しい感じの。少し前の苦い仕事の経験を考えても、ああいう写真は出来れば撮りたくない。誰かみたいになる必要もないし、有名とか偉くならなくてもいい。髪の毛を派手な色にしたり、フォトグラファーですからみたいな感じも、もう見るのだって疲れた。きっとそういうのが大事な時代があったんだと思う。だけど、もう変わってきてるのだから、東京を抜け出したように、さっさとドロップアウトしようと思った。

郊外の田舎暮らしを始めて、驚く事ばかりだったけれど、なにより胸に響いたのは野菜のこと。私が今まで食べていたのは、一体なんだったんだろう?採れたての野菜は同じ物とは思えないくらいに美味しかったし、全部が100円。東京で買っていた野菜と殆ど値段は変わらないのに味は格別に違う。世田谷で時々買っていた有機野菜はカレーも作れないような量で千円くらい。そして、本当に美味しいかどうかはよくわからなかった。ただ、安全だよっていう言葉だけを信じて買っていたように思う。地産地消やフードマイレージ。今までだって出来るだけそうしようと心がけていたけど、ようやくその意味がわかった。だって、美味しくて、楽しい。日に日に赤くなるトマトも、早朝に梃子の散歩に出かけて畑仕事をしてるおじちゃんと挨拶を交わすのも楽しい。畑を覗いては次にやってくる野菜を待ち遠しく思うのも楽しい。地産地消でもフードマイレージでも、試みっていうのは、自分にも還元されることを意味していたんだなって。誰かの為、何かの為にやることは素晴らしいことだけれど、その支点には自分がいないと楽しくない。だって、私が生きている世界なのだから。

「食卓みたいな感じが良くて。」私の意図を汲んでデザインしてくれたのは今回もしみるさん。表面は箔押しで色なしで名前を入れて貰った。庭の茄子や近所で採れた玉ねぎ、それからスーパーで買ったビーツなどでベジタブルダイを作って、箔押し部分にペイント。ペイントで名前が表現できるようになってる。ペインティングも食卓を囲むようにわいわいとやりたかったから、しみるさん、いまむ、周ちゃんの四人で描いた。それぞれが好きなように自由に。いまむは「俺は描かないよ。」と言ってたけど、みんなが楽しんで描いている様子を見てやり始めた。「楽しいでしょ。」と聞くと、「だって、よしみちゃんに失敗したら怒られると思ったんだもん。」と言い、何枚も何枚も描いていた。確かに私はいまむに直ぐに怒るけれど、絵くらいで怒るだろうか。いや、怒るかもしれない。いまむは絵描きだからか、なんだかすごく情緒的な感じのものを描いてて、これは人に渡してもよいものかと思う程だったけど、まぁいいかとなった。

みんなで楽しみたい。誰か一人が、誰かが失敗して、誰かだけが。そういうのは好きじゃないし、やりたくない。食卓と同じ。楽しくお喋りしながら、お腹を一緒に満たそう。そういう仕事がしたいなと思う。昼からしくしくとお腹が痛んだけど、いい日だった。やっぱり友達は大切だし、彼らとは何だかんだと10年くらい仲良くやってる。いつもありがとう。周ちゃんもありがとう。

マンゴーと海老のサラダ

Journal 29.7,2022

出張中に母から送られてきた果物や野菜が冷蔵庫を占領してる。野菜室の奥に熟れてるマンゴーを見つけた。周ちゃん食べたら良かったのに。どうしよう。私はときどき、素晴らしいアイデアレシピを思いつくことがある。夕飯に作ったマンゴーと海老のサラダ。目をつぶって唸る周ちゃん。私もここはタイだと思った。あまりに美味しくって、ふたりともいつまでも上機嫌だった。

人生で一度しか行ったことがないけど、タイを数日放浪したことがある。覚えてないくらい、小さな街や、小さな島みたいなところに行った気がする。鍵の壊れた宿に泊って、適当にバスに乗って、適当に降りて、適当に船に乗った。一緒にいた友人のお陰だと思う。いい加減な若者だった私達のいい加減すぎる旅。友人は朝ごはんに野ざらしの街の食堂でレッドカレーを食べて辛すぎると怒ってたけど、トイレットペーパーのないタイ式のトイレについては何も言わなかった。ものすごく甘くてものすごく辛いタイのごはん。不思議なのだけど、それがどうにもこうにも合う。

マンゴーと海老のサラダ
よく熟れた甘いマンゴー
ボイルした海老
パクチー
干しエビのみじん切り
ナンプラー
トムヤムペースト
レモンを絞ったもの

7月27日

Journal 27.7,2022

今朝も3時半に起きた。結局、ホテルから現場に向かっても、自宅から向かっても変わらない時間に目が覚める。ベッドでしばらく本を読んでると、部屋がどんどんオレンジ色で一杯になってゆく。最近気に入ってる青山のホテル。窓が大きくて、夜は東京の街を、朝は太陽を独り占め出来る。撮影が終わったのは夕方の18時過ぎ。ホテルに戻って機材を置いてから瞳ちゃん家に猫を見に行った。数ヶ月前に瞳ちゃんは念願の保護猫を飼うことに決めた。

何だか今日はすごく清々としてる。心に溜まっていたものが、吹っ切れたようにも思う。仕事の事で人間不信になった自分を、馬鹿じゃん、だとか、ズルく生きたらいいよ、とか、心にもないような言葉をぽいぽいとかけてみたりして。かと思えば、頑張ってる友人を思い出して何とか前へ進めと背中を押してみたり。ここ数日は、よく編集の成田さんの事を思い出した。仕事での愚痴を季節が変わるみたいに私に溢してゆく成田さん。彼の事を心から尊敬しているし、彼のそれは私に勇気さえ与えてくれる。

だけど、そう思えば思う程に、なんだコレって思いながらシャッターをきる事に心が苦しくなる。写真が好きで膨大な写真を、料理本や雑誌、写真集を数え切れないくらいに子供の頃から見てきたのに、そうして沢山を私なりに勉強してこの職についたのに、私よりもずっと写真を知らない人がとんちんかんな写真を、表現としておかしな写真をこれが写真だと言う。これは一体何を誰に語るの?私の心が苦しくなるのは私が撮りたいものを撮れないからじゃなくて、インド人はカレーを手で食べるけど、日本人はラーメンを手で食べないよ。「だって数字が伸びるから、だってクライアントがそう言ってるから。」そんな事を言われたって、火傷しちゃうよ。痛いよ。可愛そうだよ。愛がないじゃん。って、心がぎゅうっと小さく潰されそうになる。やっぱり思い出しちゃう。「よしみちゃん。それって愛があるんかな。」絵描きの健太郎さんとお仕事をする時に言われた言葉。ここに愛がないのに、どうやったら愛を届けられるんだろうか。健太郎さん、本当にそう。愛ってのは交換するものだよね。片一方だけが満足するものは愛じゃない。だから、やっぱり何度も成田さんを思い出した。だって、面白い本を作りたい。そういう過程で彼に出会ったから。それはただ、やみくもに仕事をするとか、頑張るってことも意味してない。

今日は仕事の事で、写真を撮ることで沢山を考えた。熱い夏の日。太陽の光で写真が撮れることが、とにかく嬉しかったし気持ちが良かった。仕事で出会う人は色々な人がいて、好きになる人もいれば、そう思えない人もいる。けど、きっとそれでいい。無理してみんなを好きになる必要なんてない。だから、精進して前へ進もうと思う。嫌なことがあったとしても、悲しんだとしても、傷ついたりしても、それは昨日までの事。写真が撮りたいのは明日の話。だから、まったくもって大丈夫。すっごく楽しみながら、すっごく頑張ろうと思う。

夜は久しぶりに広尾を歩いた。アシスタントの時によく通った場所。西麻布の交差点にクロマートというプロラボがあって、撮影が終わるとフィルムを出しに行った。11年前のこと。よく師匠と蕎麦を食べたし、よく師匠の車で通った道。ロケが多い撮影では、夏は死ぬほど熱くて、冬は死ぬほど寒かった。色々と大変なこともあったけど殆どもう覚えてないし、いい記憶ばかりが残ってる。そういえば、師匠はとても温厚な人だったけれど、写真のことで雑誌の編集者と言い合いになった事があると聞いたことがあった。やっぱり、写真のことでは譲らなくていいんだ。

7月22日

Journal 22.7,2022

2泊3日の出張。キックオフミーティングと土地のリサーチを兼ねて。周ちゃんと梃子、家族を連れての仕事旅行。結局、私は免許が予定通り取れなくて、周ちゃんが運転をしてくれた。なんだかすごく穏やかな3日間で、穏やかすぎて私は何かを勘違いしてしまいそうなくらいだった。そうして、私はまた一気に怖がりに戻った。ひとりの時は強くなれるのに、誰かがいると思うと気を抜いてしまうらしい。怖いことを怖いと声にだしたら怖くなるし、嫌なことを嫌だと言ったらもうしたくなくなる。周ちゃんは私のことを自立してると言うけど、全くだ。十分過ぎるくらいに周ちゃんに甘えているし、甘えてばかりいる私にもういい加減にしてよと思う。

打ち合わせに5分くらい遅れて会議室に入ると、丁度なっちゃんが自己紹介をしている時だった。2年ぶりのなっちゃん。最後に会ったときは私はきくちよしみという名前で、そういう人をやってた。だけど、なっちゃんはやっぱりなっちゃんで、大勢の前で話すなっちゃんはなっちゃんだった。ゆっくりと探るように声を出す話し方や、すらっとして背が高くて線が細い感じとか、柔らかそうだけど芯のある感じや、一気になっちゃんの輪郭がしっかりと見えてくるようだった。打ち合わせが終わり、なっちゃんはそのまま次の打ち合わせに入って、私は周ちゃんと近くの店でランチをしながら待って合流。それから、新しく出来たGood newsとか、タミゼに行った。「よしみちゃん〜。元気そうで良かったよ。」「なっちゃんのお陰だよ。あの時、私の周りには離婚した人がいなかったから。すごく勇気を貰ったんだよ。」周ちゃんとなっちゃんはアート関連の仕事で共通の色々があるみたいで話が盛り上がってた。それから、あの時はそんな話を聞かなかったけど、なっちゃんが東京と田舎の2拠点暮らしをしていたことや、超東京のど真ん中に住んでるのに、自然が無いと生きていけないとか、車が好きだから時々一人でドライブしてるとか、知らないなっちゃんの話を沢山聞いた。

「よしみとなっちゃんて中学の同級生だったみたいだね。昔からの友達みたいって思ったよ。」「え。違うよ。大人になってからだし、なっちゃんは友達の紹介で出会ってさ。そもそも、その友達も、しみるさんの同僚だし。だけど、なっちゃんって素敵だよね。所謂、東京の綺麗なお姉さんなのに、仕事も立派だし。なのにというか、あの独特な空気感。」「そうだね。バランス感が絶妙だよね。」「そう。色々な意味ですごくフラットなんだよね。」

新しい仕事のメンバーで偶然また再開したなっちゃん。次の打ち合わせの時は、車で温泉を巡ろうねって話をした。思い出の中にいたなっちゃんも好きだったけれど、ずっとずっとまたなっちゃんが好きになった。

7月12日

Journal 12.7,2022

21時09分。周ちゃんはまだ帰ってこない。今夜を密かに楽しみにしてた。夕方に駅前に買い物へ出かけた。コスキチでアムリターラのバスソルトとエコストアの歯磨き粉を買って、西武の地下でパッケージが可愛いクラフトビールを買って、西友でポテチとバナナを買った。今夜の準備は万端。外は雨が降ってるし、夏なのに肌寒い。周ちゃん、大丈夫かな。今日も自転車で出かけてる。

「明日はディナーミーティングだから。」「何それ?飲み会でしょ?」「夕飯を食べるだけだよ。」「え、それ、ただの飲み会じゃん!」「知らないよ。だって上司がディナーミーティングって言ったし。」「へぇ。楽しそうだなぁ。いいなぁ。何食べるんだろうね。朝帰りにならないといいなぁ。タクシーが朝の5時に家の前できゅっと止まってさ、そっと玄関が開いて、寝室に入ってきた周ちゃんから石鹸のいい香りがしてさ、小さな声で遅くなってごめんねって。朝帰りはきついなぁ。」「もう、やめてよ!」周ちゃんは少し本気で怒ってた。「冗談じゃん!ごめんね。全然いいんだよ。飲み会だっていいんだから。」幾らだって最悪な事態は想像出来るよ。だけど、周ちゃんがそうじゃないことは最初から知ってる。いつもみたいに一人ドラマを作って楽しんでいただけ。それに、もし本当にそんな事があったとしても大丈夫。私達はそんな事じゃ死なないし、ただ、最低って思って嫌いになるだけ。好きとか嫌いで片付くことは簡単なんだよ。

こないだ友達が浮気されたことを許せないって言ってた。「いいんじゃない。」って伝えた。いいと思う。許さなくていいよ。許してもいいとも思う。どっちでもいいよ。ただ、許したくないって自分が言ってるなら、許したくない自分と一緒にいたらいいんじゃないかな。お気にいりの皿を割ったとしても、しばらくは落ち込むけど、そんなに時間をかけずにわかる。もう戻らないって。だから、忘れたくないんだと思う。相手の問題じゃなくて、答えはきっと自分で、愛したかったとか、愛されなかった自分についてとか。愛の話がすればするほどにそれは愛じゃない。愛っていうのは、信じることも出来るし、望むことも与えて受け取れることも、なんでもどうやら出来る。だから、愛っていうのは嘘も簡単につける。尊くもあれるし、ぽいっと捨てられるものにもなる。愛っていうシールをつけると、どこでも通行許可が通るみたいになっちゃうけど、実際にはどこも通れない。愛だけじゃ、結婚もできない時代だし。愛だけじゃお金持ちにもなれない。だから、許せないのなら許さなくてよしだと思う。大切なのはたぶん、そんな自分と向き合っていくことで、いつか答えがでる日を信じて戦い続けるしかないんだと思う。友達に話すのもそうだし、どんどん世界に馴染ませていくうちに、苦しんだり悲しんだりを繰り返していくうちに、何かが見えてくるんじゃないかなって。

7月9日

Journal 09.7,2022

朝一番で三茶へ向かった。「Do you like this town?」駅を出ると周ちゃんがふざけて聞いてきた。「So so…」好きかと聞かれると、Yesとは言えないし、嫌いでもない。だけど、思い出は詰まってる。沢山の人と、沢山の時間と。二十歳を超えたあたりからの思い出があまりに多すぎる。長くいすぎた。ここで別れを告げた男もいたし、ここから好きになった男も、昔のようにここで再会した男もいる。街は変わったと言えば変わったし、変わってないと言えば変わってない。汚くてごちゃごちゃしていて若い人や生活をしている人がぎゅっと小さな街に収まってる。笑って過ごしているうちに夜中が勝手に過ぎて、「あ、朝だ。」隣にすとんと腰を下ろす朝に誰も驚いたりしない。ただ居座れる場所。ここに長居しすぎて出れなくなってしまう人は多いんじゃないか。呑気なふりして浸かってられるから。

駅から歩いて2分くらいのところにある区民集会所で期日前投票をして、三茶を直ぐに出た。それから幾つか立ち寄りをして、鈴木理作さんのARTZONでの展示へ。周ちゃんとは途中ではぐれて、結局出口で出てくるのを待った。だけど、これでいい。これがいい。展示中にお喋りだとか、展示中に目で合図をしあうなんて疲れちゃう。互いの時間に没頭するのがいい。駅まで向かう間、今さっきまで目の前で起きていたこと、そこで見ていた全てが上手に街とシンクロできなくて、「良かったね。」「すごく良かった。」を何度か繰り返した。話したいような話たくないような、複雑な想い。展示だけのことじゃなくて、その背景には自分も紐づいてくる。だから感想を言うというのは、少し躊躇う。西武線に乗り継ぎをする頃にはあの写真が、あのキャプションの言葉がと細かいディティールについて話し始めた。私が写真を撮ってることが恥ずかしくなった事も伝えてみると驚いてた。「あんなもの見せられて、恥ずかしいよ。写真撮ってる自分が恥ずかしいよ。」私が最近疑問に思っていたこと、写真の仕事や写真を撮る人、撮ること、撮るの周りにある環境に嫌気がさしていたこと。その答えを見せつけられたように思ったし、ショックだった。仕事を始めて悲しいことは、褒められることは増えていくのに、いい写真が見えなくなっていくこと。それは私だけじゃなくて私の周りでも平然な顔で起こっていく。見たのはアートだけど、写真のことでもある。とにかく恥じらいを感じた展示で私の色々が火照った。悔しい?虚しい?情けない?悲しい?その感情の矛先はどこへ行きたいのかわからないけど、いい出会いだったと思う。

駅前で串カツ田中を食べて家に帰った。

朝食

Journal 05.7,2022

朝食はトーストを焼いて、アイスコーヒーとメロンと一緒に食べた。

パンケーキ

Journal 04.7,2022

朝はゆっくりと過ごした。周ちゃんは珍しく二度寝をして、私は読みかけの本を読んだ。寝起きの周ちゃんとぽつぽつと話し始めたアドラー心理学の話で盛り上がって、もっと詳しく話そうと散歩に出た。お題は結婚コンプレックスについて。

結婚2回、離婚1回。もう結婚にはコンプレックスも何も無い。だけど、確かに一度目の結婚では、しっかりとコンプレックスの渦にしっかりとぐるぐる巻にされていた。今思い出すとゾッとするような会話を既婚者の友人と当たり前のように話していた。「独身の友人って、どうして独身なのか理由がわかるよね。」「わかる。わかる。」たまたま結婚しただけなのに、そこには何故か断絶された大きな境目がしっかりと見えていた。あれって一体何だったんだろう。「それってさ、中学とか高校の時に男が童貞か童貞じゃないかみたいな話に似てるよ。どんなに勉強ができても、運動ができても、童貞捨ててるやつの方がすごいみたいになっててさ、今となっては本当に意味の無い話なんだけど。」「その例えすごいね。」幻想がいつしか現実になる。それは未婚者も既婚者も一緒になって作り上げた世界のように見えた。敢えて口には出さないけど、そこに漂う空気みたいに誰しもが感じてたんじゃないか。そうやって結婚コンプレックスは双方の想いの中で勝手に堂々とひとり歩きしてる。

離婚して良かったなと思うのは、結婚からドロップアウトしたと思っていた私が、結婚は私の意思で捨てたのだと理解した時。離婚した私にバツがつくのではなくて、私が駄目だから離婚したわけでもなくて、私達の関係性は生きていく上で私も彼も幸福になれないと判断したから。私は幸せになる為に結婚をやめた。彼が病気だったりとか、お酒で暴れるからじゃない。愛が失くなったわけでもない。最期までしっかりと愛していたし、だから憎んだ。それに、離婚してしばらくすると、独身の友人が私の食卓を賑わすようになったのはとても面白いなと思った。彼女達は私が知っていた以上に自立していて、器用に自分の為に幸福を作りあげる事が上手な事にも驚いた。中には彼氏がいない女も沢山いる。そして、時々、気になったのはシングルである彼女達がシングルである事に引け目を感じているように見えたこと。私からしたら何ひとつだって欠けてない。男と幸せを交換なんてしなくたっていい。

結婚を決められない彼氏ともう長いこと同棲してる友人は別れるタイミングを失って、次の人を探すこともいつしか諦めて家を出れない全てを飼い猫の所為にしてる。美人で可愛らしい女だったけれど、最近はもうあまり会ってないし、誕生日にメールしたら、もう祝う歳でもないからとさっと返信がきた。既婚者の友人は夫が子供を欲しがらないそうで、仕事もあるし、子供は別にいいかなって言ってたけど、彼女が夫と旅行やデートをしないのは猫が3匹いるからだと言ってた。最近結婚した友人は長い事セックスをしてない。結婚願望が強い子で結婚しないのならもう先は無いくらいに半ば脅しかけた状態で結婚を決めたけど、よしみちゃんははまだ付き合いたてだからセックスしているだろうけど、うちはもう4年くらい付き合ってるからさ、私も別にしなくていいしと言ってた。離婚して気づいたのは、男イコール幸福みたいな幻想も結婚コンプレックスの延長線上にあったこと。いつでもどこでもひとりでも誰といても幸せになっていいのだし、どうして結婚したり男がいたら我慢しなきゃいけないんだろう。それに、別に結婚状態は自然自発的に幸福を生むものじゃないし。夫や彼氏っていう人間は湧き出る泉のように私に幸福を与え続けてくれるものでもない。上から目線で語らう幸福に蓋をする既婚者と、どこか引け目を感じながらも自ら幸福を積み上げてく未婚者。もちろん全ての女がそうじゃないけれど、私の知ってる東京では珍しくない光景。いい悪いじゃなくて、そこはただ、一方通行で冷たい場所に見えた。そっと腕を掴もうとしたら、さっと引き払われるみたいに。

「結婚コンプレックスってなんなんだろうね。」「男でも会社員だとあるかもしれないけどね。」「ただの幻想に過ぎないのにね。」結婚なんてというか、結婚はいいものもでもないし、すごいことでもない。ただの制度。そこに幸福を肉付けしていくのは互いの努力であって、結婚自体には何の価値だってない気がする。それに、個人的には独身の女たちが羨ましい。周ちゃんのことは世界で一番愛しているけれど、いつ誰と恋に堕ちてもいいなんて、あまりにロマンティックすぎる。それを世の中は自由気ままというかもしれないけれど、どうして一度きりの人生を好きに生きちゃいけないんだろうか。

夕飯

Journal 26.6,2022

午後に編集のリリさんが、その後に入れ替えで夜から編集の成田さんが遊びにきてくれた。それぞれの朗報は心温まる話でとにかく嬉しかった。今日の周ちゃんは緊張していたのか、まるでインタビュアーみたいに喋ってた。

周ちゃんは私との出会いについて、直感で結婚を決めたとプロポーズのときに言っていたけど、若くして結婚を決めたリリさんの決断はすごいし、その気持ちが僕にはわからないって話をしていて、変なのと思った。周ちゃんは用意周到だ。何でもよく考えて物事を決めるし、そのお陰で私は安心で安全な生活が送れてる。私は直感的な男をよく知っているし、それは周ちゃんとは真逆に生きてる男だった。じゃあ、周ちゃんの言う通りでいいはず。だけど、どこか胸にひっかかる。だって、じゃあそれなら私は周ちゃんのどこに何に魅力を感じたんだろう。夜は一言も喋らずに背を向けて寝た。

メロントースト

Journal 25.6,2022

上野に着いたのは11時過ぎ。上野公園口で降りると、真夏のど真ん中に放り出されたみたい。熱々に混ぜられたそれはあっちこっちに弾けて飛んで行ってしまいそう。人混みを見ているだけで目がクラクラした。周ちゃんの後を追いかけてレストランへと急いだ。「なんでこんなに混んでるの?」私がイラついて言うと周ちゃんはいつもみたいに笑ってた。途中で何枚か写真を撮って到着。しばらくして父、母、姉とマルコとヘレナ、兄とりーちゃんが到着。それから10分くらいして、周ちゃんのお母さん、弟、先週コロラドから帰った妹のみつきさんと子供達が部屋へ入ってきた。周ちゃんは朝から落ち着かない。話を半分聞いているようで聞いてない。席について慌ただしいままに頼んだドリンクを手にして乾杯をすると姉が計らったみたいに泣き出した。「ちょっとー!」「ごめんごめん。だってさ。」つられて妹のみつきさん、周ちゃんのお母さん、私の母まで目に溢れる涙を拭い始めた。

姉の涙や鼻水が私のピンク色のハンカチを濡らしていく中で、私にも色々が溢れていった。兄は代理人となり、連絡が取れなくなった元夫と離婚の交渉人役として色々を進めた。その間、姉は毎日、多い時で日に2度か3度、電話をくれた。元夫からの何かがある時だけじゃなくて、私の心が冷えてゆこうとする度に電話を鳴らしてくれたんだと思う。私の離婚は最後は一人で終えたけれど、私が一人で終えられるようになるまで兄弟が必死に終わらせようと助けてくれて、支えてくれた。「これは裁判するしかないよ。」冷静だった筈の兄が言いだした時、「裁判はやめよう。」一番裁判を望んでいた姉が裁判はすべきじゃないと言った。「これ以上苦しむことはないんだよ。裁判をしたらもっと傷つく。それに、長い時間もかかる。彼を法的に罰したとしても苦しまなきゃいけない。あの男がした事は許されないことだけど、私たち家族が望むことはよしみが1日も早く幸せになることだから。」それから姉はもう裁判って言葉を言わなくなった。いつも、「うん。」「うん。」って私が話す言葉をただただ全てを受け入れるように聞いてくれた。私が笑う日を一番に望んでくれた家族は、過去の色々を白状な程に忘れて笑ってる私を見て、笑って泣いた。

料亭から見える上野の不忍池は緑緑しくて力強い夏だった。あの日々の事をこれからもどんどん忘れていったとしても、今日のことは忘れたくない。周ちゃんは色々を頑張りすぎて疲れたのか20時過ぎには布団に子供みたいに転がってた。今、私も私達家族もすごく幸せだと思う。みんなが笑ってる。とにかくそれだけでいいと思った。家族が好きだ。大好きだ。先週に姉には言ってある。「また昔みたいにL.Aに通おうと思って。もちろん一人で。」「え?なんで。」「前の結婚の時は、奥さんとしてそういうのダメかなって思ったんだけど。私の人生だから。」「いいんじゃない。」



6月24日

Journal 24.6,2022

“お祝いを渡したいのだけど。” 夕方過ぎにいまむからメールが入った。春の個展が終わってからずっと元気がでないと聞いてたから、メールを貰って少しほっとした。”ちょっと意見が聞きたいの少し時間ある?” “いいよ。” 電話をかけると外にいるようで、遠くに子供の声が聞こえた。「仕事のことだよね。それで。」メールで書いた内容の続きを手短に話した。「よしみちゃんが言いたいこと、それが全部?」「端折ってしか話してないけど、だけど大丈夫。もう解決してるし、私が聞きたいことは別のことだから。」「そうだよね。端折ってるよね。とりあえずわかった。じゃあ話していいかな。まずなんだけど、それ、とても酷い話だよ。俺が仕事をする上で話すと、。」いまむはいつもよりもずっと早い口調で話はじめた。私に起こったことが仕事としてどれだけ被害を被っているのかとか、仕事をする上でのクライアントとの関係性として不当であること、それから、私がそれを庇う必要がないことを強く指摘した。そしてどうすべきかも3つくらいに提案してくれた。私は相手を悪者にしたくなかったから、もっとしっかりと出来事の詳細を話した。

いまむは代理店仕事が多い。いわゆる誰もが聞いた事のあるようなビッグクライアントのディレクションやプロデューサーをしてる。今までにきっと大変な現場や、どうにもならない事だとか、とにかく色々を乗り越えてきたんだろうと思った。いまむが話している言葉には重みがあって、ずしりとなにかを感じた。だから、こんなにも怒ってるんだと思った。こんないまむを見たのは初めて。だからか、いまむの言っていることは正しいようにも聞こえた。どんな立場であろうと対等に仕事をすべきであること、フリーランスだからって立場が低くなる必要はないし、きちんと尊重すべきなんだよ。じゃあ悪いのは誰か。そこまで話は進んだ。

電話を切ると部屋の中も外も夜がすっかり始まっていた。窓から周ちゃんの自転車が駐車場に停まる音が聞こえる。だいぶ長い時間話し込んでたみたいだった。部屋で着替える周ちゃんに電話のことを話すと、目を赤くして涙を拭うのをみた。気づかないようにしたけど、そんな周ちゃんの姿を見て私も泣きたくなったし、話し続けた声は少し震えていた。「いい友達を持ったね。僕もディレクションの仕事をしてきたけど、本当にその通りだと思う。」それから、私に起きた事だけじゃなくて、周ちゃんが過去に経験した仕事の話を聞いた。信頼関係が崩れること、そういう人がいること、そして、やっぱり信じたいと思う気持ちがあるのは悪くないってこと。そうやっていい仕事を築いていきたいってことを熱く語りあった。

なんだかとにかく驚いてる。いつもふにゃふにゃしてるいまむが酷く怒ったことも、私が知らないうちに自分を責めていたことも、良好な関係を築きたいが為に相手を庇っていた事も、そしていつしか被害を被っていたんだということも。いつもよりもずっとやりずらかったその仕事にはきちんと理由があちこちにあって、その理由が答え合わせみたいに見えた。いまむが最後に言った言葉が胸にずっと響いてる。「よしみちゃん。信頼していいんだよ。」私が一番に恐れていたこと。信頼関係は築かない方がいいの?一線を引いて仕事はした方がいいの?独立してから信じてやってきた仕事のやり方が崩れて、なんだかもうこの仕事をやめたいとも思ったけれど、そうじゃなかった。いまむがそうじゃなくしてくれた。「どんなに大変なクライアントだろうと、どんなに大変な仕事であろうと、仕事はうまく回せるんだよ。それが僕らの仕事だから。」

変な話だけど、私はやっぱり愛を信じてる。温かい人や温かい場所が好きだ。自分さえ良ければいいなんて思いたくないし、誰かが悲しんでいたり、誰かが大変な想いをするのもいやだ。一緒に笑いたいし、泣くときも一緒でいい。いつかいまむと仕事がしたい。そして、私はこれからもしっかりと信頼して行こうと決めた。それから、車を買ったらいまむを海へ連れて行ってあげよう。私達は海が好きだから。何もなくても夏じゃなくても秋も冬も春だって海を見に行くのが好きだから。

6月23日

Journal 23.6,2022

朝食は瞳ちゃんと外苑前のベルコモンズ跡地にできた青山グランドホテルにあるBELCOMOでモーニング。青山が好きだけど、青山は子供の時から知ってるけれど、変わったんだろうか。変わっていなそうな気もする。レストランの朝は東京にしか生息していなそうな男や女がちらほらといた。まるで紙面みたい。綺麗に全てがパズルのように整理されてる。

席について瞳ちゃんはアボガドトーストを、私はサラダパンケーキを頼んだ。お互いの近況や、瞳ちゃんが最近少し困っていることや、仕事の話をした。最近ずっと考えてることがあった。田舎暮らしを初めて気づいたことがある。新しい未知の生活と共に私の中にやってきたイライラは私が東京をコントロールする女だったからだということ。離婚して一人暮らしを始めると、とにかく楽だった。好きな時に寝て好きな時に起きて、好きな時に食べて好きな時に酒を飲む。誰にも何も言われない部屋で。1日中パジャマを脱がなくてもいいし、洗いざらした下着が捨てられなくてもいい、日記はいつまでもテーブルに開いたままで、一昨日に食べる予定だった食べかけのケーキだって冷蔵庫に眠ったままでもいい。だって1人じゃ食べきれないもの。いつかきっと食べるもの。

やっぱりあの服が欲しいと思って電車に飛び乗れば、あっというまに新宿伊勢丹に着くし、PMSが始まれば固く家の扉を閉じて携帯はカバンの中に入れっぱなしにすればいい。誰かがいないだけで、私だけの世界はこんなにも早く上手にくるくると、手を上げれば直ぐに止まるタクシーみたいに、スムーズに世界へ向かって走っていく。私がひとりになって手にしたのはコントロール出来る世界。簡単にそれが手に入る東京だった。瞳ちゃんの話を聞いていて、そんな私の事を思い出した。「積み重ねていないことが好きじゃないの。」瞳ちゃんの言葉に深く同意した。私もそう。だけど、東京は空っぽの紙の家を簡単に建てられる。あたかも、本物かのように。

周ちゃんがこないだ言ってた。「東京はなんでも買える場所だよ。」それは、東京はなんでもが手に入らない場所だっていう意味らしい。日本のあちこちに行き、その土地の研究を重ねていく中で知ったことは、その場所でしか見えないこと、手に入らないものがあるってことだそう。流通には乗らないもの。それはどんなにお金をだしても東京では出会えない。物だけじゃなくて人も事も同じくして。

数ヶ月前にミオちゃんに「どうしてあんなに結婚で苦しんだのにまた結婚を選んだの?」って聞かれた。すごくいい質問だと思った。もし私達が動物だというならば、きっと私はこのままだと危ないと思ったのかもしれない。どんどんと世界をコントロールすればするほどに私の世界は狭くなっていく。色々が見えなくなっていく。中年にさしかかって生きやすさを手に入れた分、きちんと失うものもあった。そして、東京を出たからこそ私がそういう女だったんだって気づいた。ひとりで生きていくのは楽しい。今思い出してもうっとりする日々ばかりだった。久しぶりに友人と沢山の話をして、沢山のことを考えた。

6月22日

Journal 22.6,2022

3時半に起床。歳をとるたびに心の棘が私の眠りを妨げるようになっていくように思う。大したことじゃないのになと頭ではわかってるけど、今日もそう。白湯を入れてもう一度ベッドへ横たわった。目をつぶってるだけでもきっといい。それに、今夜は世田谷の家の近所の友人とご飯の約束をしてる。夜は私をしっかりと癒してくれることはもうわかってる。

撮影が終わったのは早い夕方。予定よりもずっと早く終わった。外苑前のホテルに戻ってバスタブに湯を張っている間、ポテトチップスの封を開けてビールを一気に飲んだ。待ち合わせよりも少し早くホテルを出てZARAへ寄ってからレストランへ向かった。表参道。この道を歩くのに何かを感じたことなんて一度も無かったのに、子供の頃も、大人になる途中も、大人になってからも、ただの通りだったのに、ここは表参道なんだって。2日目の東京の夜、いつか東京へ帰りたいと心のどこかで感じていた気持ちはもう殆どないみたいだった。ここは、東京は、これ以上は私を満たしてくれなそう。楽だけど、稼いで買って、稼いで食べてのサイクルをぐるぐると回るだけの東京にはずっと昔に飽き飽きしてたんだった。東京が気に食わないのはいつだって浮ついてるから。どうしてそんなにみんなが騒いでるのか全くわからなかったから。私の心は全然弾んでなくて寂しかったから。東京は寂しくないけど、寂しかった気もする。

店の少し前でいまむと合流。いつもの通りでいまむは全身真っ黒の服。店に入るとしみるさんはビールを、たまちゃんは何味がわからないというビビッドなピンク色の酵素ジュースを飲んでいた。私といまむはワインをオーダー。この4人で囲む食卓は久しぶり。正月以来かな。お皿に盛られた美しい料理は少し塩気が多くて、話す度にワインで流し込んだ。薄暗い店内をローソクが灯す夜はそこにある全てが綺麗に輪郭をなしていくみたい。たまちゃんは来月で妊娠8ヶ月になる。ずっと気持ち悪いと笑ってたけど、たまちゃんの笑顔を久しぶりに見た気がする。時間はあっという間だ。春はいつしか終わってもう夏がくるんだった。そして秋が来る頃にふたりの赤ちゃんが産まれる。いまむはみどり荘でやった個展のあとからずっと元気がないと言ってた。もう4ヶ月も経つのに、私が引っ越してからも4ヶ月。それぞれの時間がそれぞれでそれぞれだ。帰り道の表参道。コロナの前みたいに沢山の人がいて、通りにあるブランドのショップでパーティをしているのか、アップテンポの大きな音がいつかの東京のようだった。

佐藤錦

Journal 21.6,2022

昨日は朝にパリのマユミちゃんから手紙が、夕方に福島の教習所から山形の佐藤錦が届いた。仕事から帰った周ちゃんにさくらんぼの包みを冷蔵庫から見せると嬉しそうな顔。周ちゃんは山形で8年の間、大学と大学院に通い、そして大地震が起きて中国への留学を諦めて震災復興に2年。そして、3年前に別れた婚約者と出逢った。周ちゃんにとって山形は思い出が沢山詰まったところだ。その頃の私と言えば、やっぱり東京で恋しかしてなかった。世田谷で一緒に生活してたグラフィックデザイナーである寺の坊主と別れて恵比寿でデペロッパーの男の家に転がり込んだ頃。スチャダラパーのボーズさんに可愛がってもらってた彼に夏に野音でやってたスチャとTOKYO No.1SOUL SETのライブへ連れて行ってもらったのがきっかけで恋が始まった。それから、かせきさんのミックスを貰ったりして、私の中には東京がまた色濃く流れて行った。周ちゃんとは年が一つしか変わらないのに、当時の私はとにかく東京でうだつの上がらない生活をしてた。夜ともすっかり仲良しで、名前の知らない友達は数え切れないくらいにいて、私もその中の一人みたいで恋でもしてないと息が切れそうだった。けど今日も明日も明後日も昨日も同じだったから、哀しいこともなければ、お財布はいつも空っぽだし、何も失うものもなければ何でも手に入るような気分だった。そんな頃にまゆみちゃんと出会った。まゆみちゃんと出逢ったのは当時バッハで働いてた山口くん家で今は奥さんになった坂本美雨ちゃんと付き合いたての頃に開いた華やかな家飲み。私は前日に大西さんとカエルさんせいかちゃんと祐天寺のばんで呑みすぎて泥酔してどこかでこけたからお湯割りのお酒を飲んでた。まゆみちゃんはそんな私を気に入ってくれたのか、どうしてかわからないけどあっという間に私達はなかよしになり、パリにも2度ほどお邪魔して、1度は作品撮りを手伝ってくれた。

さくらんぼを食べながらまゆみちゃんの話を周ちゃんにした。まゆみちゃんがパリに行った経緯とか、グラフィックデザイナーをしてたとか、センスが抜群にいいとか、なかなかいない友達だとか、両腕に入ってるサークルのグリーンとブルーのタトゥーの話とか、そして、過去のまゆみちゃんが大好きだけど、最近のまゆみちゃんは昔を脱ぎ捨てたように変わって今まで以上に素敵になったという話をした。それから手紙の中に私の過去の色々、離婚したり結婚したりの色々な行動が今のまゆみちゃんに勇気をくれたよって書いてあったのが嬉しかったことも話した。私はさくらんぼを動物みたいに貪って食べながら話し続けて、周ちゃんはただただ笑顔で聞いてくれた。

食卓で光るさくらんぼ。私が知っているさくらんぼよりもずっと大きくて、ずっと赤くて綺麗。私はまゆみちゃんが大好きだし、私の方こそまゆみちゃんに沢山の勇気を貰ってる。それに、こうして話を聞いてくれる周ちゃんといるようになって、昨年よりも一昨年よりもずっとずっと人生が鮮やかに色づいてきてる。幸せは作るものだとよくいうけど、私はいつだって幸せになりたかったし、そのことについては努力を惜しまずやってきたつもりだけど、頑張ったからと言って手に入るものじゃなかった。それは私の中に内包されているものではなくて、私が愛してる人たちの愛情のそれぞれが世界を色鮮やかに照らしてくれてるように見える。温かい色で光って見える。

昼食

Journal 20.6,2022

お昼を過ぎる頃に料理の下ごしらえが終わって庭のバジルをたっぷりと収穫した。今日は久しぶりに朝から夏日。梅雨の合間の晴れだからか、すごく気持ちがいい。顔を真っ赤にして家に到着した後藤さんとマサくんに冷えたビールグラスを出して4人で乾杯。周ちゃんはいつものノンアル。食卓から見える部屋中にある不思議なものに興味津々のふたり。いつの間にかそれは日常になってしまったけれど、確かに周ちゃんの不思議なものたちは奇妙だ。やたらと大きな木のスプーンとか、何に使うのか検討がつかない形をした網だとか、初めて見るようなものばかり。周ちゃんはひとつひとつの品を嬉しそうに紹介していた。周ちゃん曰く、リビングのテーマは食だそうで、食にまつわる世界の色々な道具が置いてある。それは古いものから新しいものまで。今日だけじゃ終わらなそうな長くておかしな説明に後藤さんは終始笑い、マサくんはふむふむって感じで頷いていた。

日が暮れても食卓にライトをつけて話は続いた。麦酒からワインへ、そして珈琲に切り替えて、次にお茶を入れてと話は尽きること無く続いた。運命のようなものは信じたくないと常日頃から口酸っぱく私には言い聞かせているけど、後藤さんに池尻の居酒屋で15年ぶりに会ってから数年。私達は結婚を捨て、それぞれの新しいパートナーと食卓を囲んでる。あの夜に会えたのに理由があるとしたら、今言えることはありがとうしか思いつかない。元夫が日に日に手に負えなくなっていき、私の沈み切った顔が友人達をどんどん遠ざけてゆく中で後藤さんは躊躇うことなく家に駆けつけてくれた。今日他愛もない話が出来ることが、一緒に熱々のジェノベーゼパスタを頬張り、持ってきてくれたメロンが喉をするりと通ってゆく時間がただとにかく優しい。優しすぎて危うく気づかないくらいだった。こんな日が私達の間をあたりまえのように流れていくなんて。

お祝いにくれたやちむんの水差し。私も周ちゃんも水差しが好き。だから出掛け先で美しい水差しに出逢っても簡単には買わない。ミントを活けた水差し、なんて素敵なんだろう。

今日の献立ー
スパイス煮卵
わさび菜のサラダ
胡瓜とひき肉の酢大蒜の炒め物
青柚子と白味魚のセビーチェ
黒酢とナンプラーの照り焼きチキン
ポテトフライとサワークリーム
家と近所の野菜でカポナータ
家のバジルでジェノベーゼ

6月13日

Journal 13.6,2022

朝からバタバタとポートフォリオのプリントをまとめて、急いでバスに乗った。打ち合わせは昼過ぎから。ふみえさんとの待ち合わせに10分遅れて現地に到着。ギリギリセーフだった。これだから田舎は嫌だ。2時間も早く家を出たのにな。

前に書籍の色校で来たことがあったビルだった。今っぽいオフィスからは東京がよく見える。当たり前のように住んでた街なのに、東京にいる方が今でも安心するのに、私の家はもうここじゃない。心が東京にシールみたいに張り付こうとしてるのがわかる。話は意図せぬ感じでトントンと進んだ。ふみえさんは背筋を伸ばして話を続けてる。やっぱりふみえさんって人が好きだし憧れる女性だなと思った。たくましくてかっこいい。ふみえさんがNYや東京でバリバリとテレビの仕事をしていたのがわかる。

担当の編集者の女性は偶然というか夢みたいというか、憧れの写真家の方とチームを組んで撮影されてる編集者さんだった。こんな事ってあるんだろうか。例えるならビヨンセと一緒にツアーを回ってるプロデューサーとテーブルを囲んでるみたいなもの。こんなにどきどきしてるのは久しぶり。心臓が飛び出そう。夢の夢の夢みたいな出会い。地球の裏側の砂漠に寝そべって星の数を数えるとか、アラスカでエキスモーと一緒にアザラシーの血を飲む方がずっと簡単。望んでも会えないような方に会ってしまった。もう今日があるだけで十分だなとも思った。心が弾んでる裏側でこないだの仕事の事がずっともやもやとした。写真が好きだけど、写真を撮ることに自信を失くしてる。最高と最悪が私の心の中を半分ずついるみたい。

ラーメン

Journal 31.5,2022

朝から雨。昨日より10度も気温が低い。多分、周ちゃんは低気圧でダウンしちゃうんだろうな。低気圧であんなに辛そうな人、今まで見たことがない。日中、授業の合間に美容ライターの長田さんのラジオで低気圧のダウンはまるでPMSだという話を聞いた。そりゃ辛い訳だよ。頭痛だけじゃなくて、気持ちのダウン。軽い鬱状態を示してるってこと。PMSは酷い人だと死にたくなる症状も出るほどだし、それはPMDDという鬱病の一種でもある。大丈夫かな。雨が強くなる度に気になった。

技能練習の授業を2回連続で受けて旅館に帰宅。今日の無線講習。車内がクーラーでガンガンだった。どう消していいのかわからないし、先生からは一方的にコースの指示がくるだけ。冷えきった身体、首も肩も慣れない運転でガチガチ。お風呂に入ろう。背筋がゾクゾクする。部屋に戻って横になったらいつの間にか寝ていた。

夕方過ぎに目を覚ました。すごくスッキリしてる。ノートパソコンで納品作業をし始めると旅館のおばちゃんから内線。「熊谷さん、夕飯まだ来ないの?」「今行きます!」慌てて食事場へ行った。「今日はラーメンだから。」おばちゃんはカセットコンロでグツグツと鍋に入ったスープを温めてる。おばちゃん、スープは煮詰めちゃ駄目だよと思った。今日もやっぱり旅館のご飯はしょっぱくて中々な味。昼の弁当も。準備して貰うのはとても有り難いけど、驚くほどに不味い。なんてことのないお浸しでも絶妙な味がするし、ご飯は毎回粒が見えないくらいぐちゃぐちゃ。うちのご飯が食べたい。そして、お腹一杯になってご機嫌で寝たい。

「私にどきどきしないでしょ。」今夜の周ちゃんは想像よりずっと低気圧のダメージを受けてなかった。「え?なにそれ。だって、ほうれい線伸ばしながら電話してる人にどきどきしないでしょ〜。」「そうじゃなくて、私達はどきどきが始まる前に付き合って結婚したでしょ。どきどきしたかったなと思って。」「え〜難しい質問だよ。」周ちゃんと離れて1週間。今更になって私は恋をしてると思う。テレビ電話に映る端正な目や鼻、綺麗な眉。綺麗に灼けた肌。周ちゃんを見る度に顔が少しゆるむ。授業中、何度も周ちゃんを思い出しては、先生が周ちゃんだったらどうしようと妄想しては小さく胸を高鳴らせてる。それから、周ちゃんの前の婚約者が大学の先生だった事も一緒に思い出して少しだけ嫌な気分になってやめる。なんて下らない考えだろうと思うけれど、好きな男の好きだった女は嫌い。わたしよりもずっと素敵な気がしてしまう。立派なアーティストだったと聞いてるけど、絶対に美人で賢くて私のように騒がしくない。きっと周ちゃんはその才能にも惚れ込んでいたんじゃないか。大学でその人を見かける度に、数え切れないくらいどきどきしたんだろう。

周ちゃんに出会って7ヶ月。結婚して3ヶ月ちょっと。今さらだけど、福島に来てから私は周ちゃんに恋をし始めた。順序がばらばらだけどこれは恋。周ちゃんに会いたい。

Journal 28.5,2022

合宿2日目。変な夜だった。話したいような話したくないような。周ちゃんは私を嫌いになってしまったんじゃないか。そんな気がしてならない。「低気圧の影響でまだ少し体調が良くないよ。だけど、今日は結構勉強できたよ。」顔がおかしい。調子が悪い時の周ちゃんの顔は糊で貼りつけたみたいな顔になる。そこには温度が一切消えていて、紙ぺら一枚みたい。真ん中をびりっと破いたら、うずくまった周ちゃんが隠れている気がする。だから、それ以上は触れられない。

電波が悪いみたいで話が途切れ途切れになった。何度も周ちゃんから「ちょっと聞こえなかったよ。」と言われて、同じ話を何度もした。「途中少し聞こえなかったかも。」しばらく黙った。別に聞こえても聞こえなくてもいい。ただ、生活が上手くいってないことや、梃子のことで不安になった気持ちだとか、丁度色々が重なったタイミングの状況について、それは私達の問題じゃないからと伝えたかっただけ。田舎暮らしを始めたのは私達の問題だけど、私が不具合を起こしているのは私達の問題じゃない。そこは私が解決するところだ。周ちゃんは十分に助けてくれてる。こうして、家を空ける度に梃子の面倒を見てくれたり、仕事で帰りが遅い時はご飯を作ってくれたり。十二分な程に頑張ってくれてる。私の問題。

1時間半くらい、よく繋がらない電話を続けた。会って話したい。私の感情が溢れる度に周ちゃんは私を嫌いになっていく気がしてならない。周ちゃんの笑顔が失くなったのは、本当に低気圧のせいなのか、私のせいなのかわからない。私は気持ちを素手で掴んでしまう。周ちゃんはそれを壊れ物かのようにそっと扱う。私達は似ているようで全然違かった。

ピンクの薔薇

Journal 20.5,2022

あ、打ち合わせ!気づいたのは9時50分。呑気にソファーでインスタ見ながら紅茶を飲んでいた。急いで支度をして書斎に向かう。今日は新しい仕事の打ち合わせ。コロナ前にあった連載は気持ちいいくらいきれいサッパリ全てが打ち切りとなった。なんだか今年から新しい風が吹いてる気がしてる。春に始まったキリンの仕事もそう。年単位のプロジェクトが始まる。またこうしてチームでの仕事が出来ることがすごく嬉しい。会社勤めは私には難しかったけれど、チームでの仕事は性に合ってる。久しぶりに会う現場にもスタッフにもどんどん愛着が湧いていくし、その楽しみはどんどんと膨らんでゆく。

今回の仕事は今までとはちょっと違うお仕事だった。コロナが始まってから、撮るだけじゃない仕事も増えた。考えたり、提案したり。撮影以外の仕事。今回もそんな感じのお仕事の依頼。食に纏わるプロが集まったメンバー。「ワカナさん、私で大丈夫?」打ち合わせの途中に何度も聞いた。メンバーの中には何人か知ってる顔もあった。

2年前、まだ離婚なんて選べなかった時に、まだ元夫が病気だなんて認められなかった時に、私達夫婦がやっぱり普通じゃない事やモラハラという言葉をナッチャンの話で知った。ナッチャンはデザイナーのちあきちゃんが連れてきてくれた子。一緒にうちでご飯を食べて、シングルだと聞いて勝手に作本さんを紹介したりして。背が高くてすらっと伸びた手足。街角で通り過ぎた時に、あ、綺麗なお姉さんって、辺りの空気がさらっとするような感じの子。離婚する頃、過度なストレスと目まぐるしく変わってゆく元夫が起こす色々な酷い現実が受け止められなくて夏が終わる頃には鬱が発症。わりと早い段階でストレスの軽減と共に病は治っていったけれど一部の友人を除いて殆ど誰とも連絡を取らなくなった。ナッチャンに最後に連絡したのは離婚の報告。それがきっと最後。「よしみちゃん、離婚して、今がすっごく楽しいよ!」初めて会ったときにナッチャンが言った言葉を何度も思い出した。いつか私にもそんな日が本当に来るんだろうか。朝から晩まで苦しくて、次の日が来ても朝から晩まで苦しい。そんな日がずっとずっと続いているのに、本当に?私はこの地獄から夫の色々から本当に抜け出せる?本当に終わる?何も酷いことがない今日が、ただお喋りしたり、ただ食べたり、ただ普通の、何も考えないで、目から涙がこぼれないで、歯の奥を食いしばらないで、胸が潰れるような事が起こらない今日が私にも本当に戻ってくるの?

人生っておかしい。世界で一番愛している人生を捨てたら私は死んじゃったけれど、命があればいつでも生き返ってこれるし、過去にいた友人にも会える。離婚を機に沢山の人と縁を切った。元夫と関係する人は全員と会わないことに決めて、元夫の影が見える場所には近づかない。「私たちのことを助けて」とお願いした人もいたけど、もう会いたくないから会うのはやめた。愛の為にと信じて我慢して嫌な人に会うのはやめた。きっと私は必要以上に色々を失ったと思うけれど、あの時間にあった元夫と関係のない色々までまとめて捨ててしまったけれど、こうやってまた会える友人だっている。

ナッチャンに打ち合わせで会ったら結婚を報告しよう。

パンケーキ

Journal 17.5,2022

4時くらいにパッと目が覚めて部屋で作業を始めた。なんだかもやもやする。気持ちが落ち着かなくて時間ばかりが追いかけてくるみたい。それに今日はいつもよりもずっと身体がどんどん冷えていく。6時過ぎ、梃子が周ちゃんを起こした。「ごめんね。周ちゃん。」「大丈夫だよ。」「お腹が好きすぎて気持ちが悪いよ。パンケーキが食べたい。」「うん。じゃあ、俺が焼くよ。」最近ハマってるパンケーキ。今日はちょっとスペシャルだった。チョコレートシロップと蜂蜜を交互にかけて、パンケーキを切る手とパンケーキを食べる口は忙しく一緒に動いて、あっという間に完食。「ああ、お腹一杯。」お腹は一旦満たされたけれど不安がまだ続いてる。直ぐに部屋に戻って納品作業をした。周ちゃんは仕事へ出かけて、コーヒーを入れ直してまた仕事。不安は未だ続いてる。spotifyでいつもなら聞かない感じのアユルベーダーのラジオを流しながら作業を淡々と終わらせた。不安はやっぱり続いてる。

午後は茅ヶ崎で一本取材。うちから茅ヶ崎だなんて小旅行じゃなくて、ちょっとした旅行だ。電車で2時間半。殆どが居眠りしたり、目を閉じたりした。不安はまだ電車と一緒に移動した。昔もよくあった。不安になってしまう日。気づいたら無くなってた。不安な日は話したくない。だけど、1度目の結婚をしてから無くなったような気もする。だけど、それはそれで、また別の、私のじゃない大きな不安がやってきた。やっぱりPMSなのだろうか。それとも更年期?30代から始まる人もいるって言われてる。どちらにせよ、ホルモンバランスが原因な気はしてる。

現場で久しぶりになおきさんに会った。あまりに突然でビックリして、ビックリしすぎて不安がそのまま飛んでいった。撮影はさっと終わって、さっと帰った。帰りに少しお喋りをしてなんだかすごく楽しかった。料理家さんの取材だったからか、フミエさんとの料理本の事だとか、フミエさんって素敵だよなとか、なんだか頭の中に色々がぐるぐると回った。フミエさんとお喋りがしたい。

朝のポークカレー

Journal 11.5,2022

「卵は?」「いる〜。」カレーをもった茶碗に生卵を落とした。私の方の茶碗は黄身が割れて茶碗の下へと垂れ落ちてゆく。カレーの次の日はカレー。これは私のルール。何度か言い続けて朝にカレーを出したら、周ちゃんも「朝はカレーだね。」って言うようになった。今日は数日ぶりに裏山に散歩へでた。森の朝はやっぱり深々としてる。すぅーっと全身が吸い込まれていくみたい。ああ、気持ちがいい。

昼は黙々と仕事。時々、新しい携帯でインスタとかLINEを見た。新しい携帯の操作がまだよくわからない。音が鳴るたびに気になって見てしまう。午後は駅前に睫毛パーマをかけに行って、ママの誕生日プレゼントを買って、OKストアで買い物をして帰宅。こないだ派手に自転車で転んでから少し自転車が怖い。左足のすねには青とか紫とか黄色とかマーブル模様みたいな大きな痣がずっとある。右足はその前の週に自転車置き場で強くサドルが皮膚に食い込んで血が出てかさぶたになった傷もまだある。東京で生活していた時は自転車が大好きだったのに、この街での自転車はなんだか好きじゃない。道路はボコボコしていて走りづらいし、駐輪場がとにかく停めずらくて、絶対に誰かの自転車に身体のどこかがぶつかる。もう、なんだよ。なんだか帰りは少し落ち込んだ。東京での暮らし、こっちにきて初めて松陰神社のあの家が恋しくて少し寂しくなった。

裏山は大好きだけど、この街は好きになれるんだろうか。お気に入りの喫茶店やカフェはgoogle mapを何度見たって見つからないし、好みのパンやスィーツを買える店も無い。家だって前の方がずっとずっと住みやすかった。それに、新しすぎる感じの内装は正直好みじゃない。食材を買うのもすごく不便で、野菜は最高だけど、それ以外のものは駅前に行かないとない。歩いて7分の所にあるスーパーは買って納豆だとかお酒。肉も魚も心が踊らないものばかり。上町のオオゼキみたいに全国から集められた季節の色々な野菜や魚や肉や調味料を思い立った時に買える店が近所にある事はすごく貴重なんだって事に今更気づいた。当たり前にあった東京での生活は十分過ぎるほどに物に溢れてて、右を向いても左を向いても私の欲望は満たされてたみたい。

帰って庭の野菜に水をあげて、みっちゃんに昨年もらった蜜柑のお酒を飲んだ。飲みながら夕飯の支度をして、お風呂にはいって、請求書の整理をした。夕飯は素麺。今夜も少し遅く帰宅した周ちゃんは満面の笑みでご飯を食べてる。「今日は元気が無い。」と伝えたけど何も聞いてこなかった。少しだけ飲みすぎた。早々にベッドへ入って抱き合って寝た。ここにあるのは、裏山と採りたての野菜。あとは、愛くらい。L.Aの姉の所に住むように暮らしていた数週間の事を思い出した。あの場所もここと少し似てる。だけど、すごく楽しかった。生活を変えたい。せっかくの田舎暮らし、東京を想って生活するなんていや。

食卓

Journal 09.5,2022

朝は東京で取材が一本。2年ぶりの編集の田中さん。名前が変わった事とか、元気だった?とか色々な話をした。それから、クライアント先の担当の子が産休に入ったとの朗報も聞いた。びっくりしすぎて嬉しくて胸がドキドキした。最近いいニュースばかりを耳にしてる。L.Aのアミちゃんはお父さんが亡くなった事を新しい携帯のニュースで知ったけど、再婚をしていることも知った。もう10年くらい前、ヘレナと一緒によく写真を撮らせてもらってた下の娘がコロナが起きる少し前に病気で他界して、だから、だからというか心から良かったと思ったし嬉しかった。あと、女の子のカップルの友人が養子縁組をして結婚をするし、それに、友人が結婚を決めて、夜には成田さんから “彼女が出来ました!”との報告。「周ちゃん!成田さん彼女が出来たって!!!」ベッドで開いたLINEからの朗報を周ちゃんに伝えると目を丸くして喜んでる。「最近、周りが愛で溢れてるんだよ。すごいよ!すごくない?」「本当だね。それってよしみのが伝染してるんじゃない?」「それは申し訳ないくらいないよ。私からは何も溢れてない。」「だって、よしみだって周りの友人に彼氏が出来た時に俺と出会ったわけでしょ。」「えー。確かに、行動を起こすキッカケにはなったね。だけど、そんなめっそうもない。違うよ。」ただ言えることは、みんなはみんなの人生を今を愛してるってことだ。嬉しいとか楽しいと思う気持ちがここにあって、私の友人たちの場所にもそういう気持ちがふわふわと泳いでいるんだとひとり勝手に感じるだけで胸がじんわりとした。

先日、リリさんといつもの通りで成田さんがどれだけ素晴らしい子かっていう話をした。これはもうルーティーンみたいなもので、だけど心から互いに成田さんへの愛を話した。成田さんへの愛情がたっぷりの私達だからこそ、この朗報に乾杯したい。ハートを沢山いれて “おめでとう。” ってメッセージを返した。早く成田さんの新しい彼女とみんなで一緒にわいわいと食卓を囲みたい。食べる音や笑い声だとか引っ切り無しに美味しい時間が食卓の上で鳴り続ける夜。きっといい夜。いや、絶対に素敵な夜。もしかしたら少し飲み過ぎてしまうかもしれない。ああ、恋しいや。まだ来ない食卓が恋しい。

しそトースト

Journal 28.4,2022

四時半過ぎに起きて支度。周ちゃんんも梃子も直ぐに起きてきた。周ちゃんが朝食をさっと作ってくれた。紫蘇のトースト、一昨日の残り物のハヤシライスをお湯で薄めたスープ、それからいつものバナナジュース。スタジオに着いたのは8時。家に着いたのは20時過ぎ。今日もよく働いた。いい1日だったな。周ちゃんはGW前の仕事で色々と忙しいみたいで帰ってきてからもずっとスマホで仕事をしてた。昼のお弁当は鰻だった。

麺線

Journal 28.4,2022

梃子の病院から帰宅したのは18時前。ポストにごっそりと郵便物が入っていた。あ、パリのマユミちゃんからだ!パリにあるようなカフェの絵が描いてあるポストカードと深い緑色の封筒。タイムラグで2通まとめてきたんだ。昼に作った麺線がよっぽど美味しかったのか、周ちゃんは夜も麺がいいって言ったから夕飯は拉麺を一緒に作った。私は美味しいサーモンか美味しい鰻が食べたかったけど、どう考えても今からは買えないから想像だけして諦めた。明日は四時半起き。ベッドに入ったのは20時半頃。周ちゃんはいつも通り難しい本を読んでる。私はマユミちゃんへ手紙を読んで返信を書いた。戦争が始まって中々手紙が送れない時期が続いていたからなんだかすごく新鮮な感じがする。マユミちゃんの手紙には日々のパリでの暮らしが日付ごとに記してあった。手紙の中には数ヶ月前の私の話も書いてあって、自分のことなのに誰かの話みたい。たったの数ヶ月でお互いにまた色々が変わった。そうしてもう春は過ぎようとしてる。”日本の桜がみたい。” 4月のいつかの手紙の一文。マユミちゃんはもう何年日本に帰ってないんだろう。会いたいな。遠いいのに近い、だけど遠くにいるマユミちゃん。今年こそ会えるかな。

返信手紙に引っ越しはようやく落ち着いたけれど私の生活がまだ上手く言ってないことを書いた。上手くいってないっていうか、一人の暮らしのようには暮らせないことが少し苦しいんだと思う。どうやったって時間が足らない。梃子との時間だって減ってる。日記をゆっくりと書く時間だとか、英語の勉強も、あと作品を作る時間も。色々。瞑想とか朝の散歩も出来てない。一人の晩酌も無くなった。だけど、周ちゃんとの時間を選んだのは私だし、一緒にいる時間も惜しいくらいに過ぎていく。

赤魚の干物

Journal 25.4,2022

目覚ましと同時くらいに起きたと思う。スッキリと目覚めた。静かにゆっくりと起き上がってみると、腰がすっとベッドから離れた。あ、大分良くなってる。恐る恐る階段を降りて支度を始める。ちょっとまだ痛いけれど、昨日よりはずっといい。窓から登り始めた陽がうっすらとピンクオレンジに廊下を染めている。今日は天気が良さそうだな。

それから30分くらいして周ちゃんが梃子と一緒に起きてたきた。「おはよう。まだ5時だよ。大丈夫?」「うん。パンと卵でいい?」「うん。ありがとう。」周ちゃんのトーストは今日もたっぷりのマーガリンが塗ってある。スクランブルエッグもいつものとおり甘くて美味しい。たっぷり塗るのはバターで、マーガリンは少しでいいんだけどなといつも思うけれど、いつも言わない。私がパリで覚えたパンの食べ方ではバターは食べるものだと教えたから。バターとマーガリンは周ちゃんの中では同じみたいだった。

「遅くなってすみません。」「いえいえ、道路混んでましたから。それに8時に着きたかったからピッタリですよ!」新宿から乗ったタクシー。メーター横にある時計を見たドライバーさんと目を見合わせて笑いあった。時計は8時00分。家を出たのは6時。前だったら考えられないような移動時間。だけど、田舎暮らしの不便にも段々と慣れてきた。世田谷の空は青々しくて綺麗。陽が強くなりそうだな。幸先がいい。とりあえず無事到着したからきっと何とかなる。午前は殆ど屋外での撮影。帽子、持って来れば良かった。クラクラしてくる。腰の事を朝に相談しておいたので、編集の本郷さんも野崎さんも気を使ってくれた。腰のことを考えて、とにかく調子に乗らないようにと途中途中で言い聞かせた。撮影は順調に進んで、さっと片付けてタクシーに乗った。特急列車にたまたま乗れてあっという間に駅に到着。予定よりも1時間早く帰ってきた。なんだか今日は面白いくらい移動がスムーズ。駅ビルで赤魚の干物とホタルイカの刺身を買ってタクシーに乗った。腰の様子は思いの外順調。どうしちゃったんだろう。帰れなくなったらどうしよう。そんな心配までしてたのに。夕飯は周ちゃんが買っておいてくれたインドなんとかっていうIPAのビールを飲んだ。本郷さんが帰り際に「よしみさん忘れ物!」とスタジオの外まで走って持ってきてくれたお土産のビールは明日の楽しみにした。本当はこっちが飲みたい気分だった。だけど周ちゃんが体調が悪いみたいで元気が無かったからそうした。「なにか嫌なことがあった?」何度か聞いたけど、お腹と頭が痛いのだそう。何でもないといい。

お好み焼き

Journal 23.4,2022

朝にSONYのデジコンが届いた。最近また日常を撮ろうと昔みたいにフィルムでとも思ったけれど、忙しい毎日の中でフィルムを現像、印刷するのも、高額になったネガフィルムをばかすか買うのは日常が撮りたい私にとっては非日常的過ぎる。どんどんと消化されていくものが日常なのに、カメラが嗜好品みたいに時々だけ手にとっては愛でる様な物になったら、大事な何かをきっと平気で見逃していくと思う。とりあえず首にぶら下げて周ちゃんと梃子を撮ってみる。使い慣れないズーム機能、「すごい、すごい。」と驚いてると周ちゃんが遠くで笑ってた。

木曜日の夜に痛めた腰がどんどん悪化していく。昨日は大分楽だったのに笑っても痛いし、座っても痛いし、なんだか腰を超えて足だとか内臓だとかも痛く感じてくる。立ってるだけでもそわそわしてくる。なんなんだろうこの感じ。午後に結婚ノートを持って近くの喫茶店に自転車で行った。まるで夏日の午後。周ちゃんは短パンにTシャツ。私も帽子を深く被って日焼けしないように大きめの薄手のシャツを羽織った。宮崎駿さんご夫婦がよく来られるという喫茶店。店内ではネゴンボ監修のカレーも食べれる。のんびりした午後みたいですごく良かった。私の腰痛を除いては。落ち着いたフリをしていたけどずっと何とも言えない痛さだけが続いた。ああ、痛い。時折走る激痛に「痛っ」と声が出る度に眉間に皺を寄せて心配する周ちゃん。「今夜は俺がお好み焼きを作るよ。」納豆とシーフードと豚肉とってバラエティーに富んだラインナップ。腰痛の為に夫が晩御飯を作ってくれる。夢見たいなシュチュエーションだった。それに、今日のお好み焼きも最高に美味しかった。周ちゃんは張り切って何枚も何枚も焼いてて、楽しそう。腰はどんどん悪化していくけど、周ちゃんが嬉しそうで良かった。

月曜は長丁場の撮影。大丈夫なんだろうか、この腰痛。東京まで電車に乗れるのか、荷物を持って歩けるのか、家中を這いつくばって歩いてるのに、大丈夫なんだろうか。不安ばっかりが募っていった。

焼き筍

Journal 22.4,2022

「愛してるから!」夕方の16時。周ちゃんが饂飩を茹でながら珍しくちょっとだけ大きな声でキッチンから叫んだ。周ちゃんの言葉に思わず笑ってしまった。周ちゃんってもしかしてもうすぐ死んじゃうのかな。よく思う。本当によく思う。しきりに思う。それって最期に言うような言葉だよね。恥ずかしくて嬉しくてどうしていいのかわからなかった。

今日は朝から診断書を病院へ取りに行ったり、皮膚科へ行ったり、銀行の名義変更。ためていた細かい用事を済ませた。駅を出たのが朝の9時過ぎ。帰宅したのは16時。途中に暑くて強い日差しにクラクラしてコーラを飲んだだけ。お腹もすっかりペコペコを通り越していた。「お昼食べてないの、こんな時間だし冷たい饂飩でもさっと食べようかな。」何も言わずに饂飩を茹で始めた周ちゃん。私は末っ子だから甘えるのは得意な方だと思う。だけど、まだ甘えてないよ、周ちゃん。今日会った色々を話した。うんうんと聞きながら饂飩を茹でる周ちゃん。「ねぇ、周ちゃん。どうしてそんなに優しくしてくれるの?」毎日ありがとう、ばっかり言ってる。きっと梃子はありがとうって言葉に意味もわからず飽き飽きしてるんじゃないかってくらい。いつもいつも。本当にありがとう、だ。だからって、「愛してるから!」だなんて返さないでほしいよ。困るよ。標本にでもしたいよ。ぺたっと時間を止めておきたい。夜の夜までずっと「愛してるから!」がリフレインした。

東京、楽しかったな。池袋なんて都会過ぎてビックリした。いつも遊ぶのは渋谷、青山ばかりだったからかな。世田谷区とか目黒区の事はよく知ってるけど思ってるより東京の色々を知らないかもしれない。帰りに駅ビルにあるロフトでジェットストリームのボールペンを買いに寄った。ジェットストリームはほぼ日の仕事をしてから使ってるお気に入りのボールペン。2016年からジェットストリーム一択。柔らかいタッチのペン先がスラスラと文字を泳がせてくれなきゃいやだ。銀行だとかホテルで丸くて太いボールペンに出会った時の私の萎え度は半端ない。あまりにがっかりして私の名前は最低最悪なぐちゃぐちゃのミノムシみたいな形となる。ロフトのペンコーナー。ジェットストリーム。探しても探してもない。あれ。おかしいな。絶対にないわけがないのに。あ!ジェットストリームコーナーが特設されてる。え!!あれだけ私言ったよね。ジェットストリームはカラーデザインを見なした方がいいって。なんとピカチュウとスヌーピーのコラボレーションペンが売ってる!!正直ピカチュウが誰なのかは知らないけれど、ものすごく可愛い。ああ、良かった。ようやく来た。しかるべき日が来たよ。ボールペンに600円。高い。だけど、買う。ピカチュウは誰だか知らないけど買う。

「なんとピカチュウのジェットストリーム!梃子みたいでかわいいよね。」「そうだね。」冷たい饂飩をすすりながら周ちゃんにペンを見せた。今日はリモートで家で作業していた周ちゃん。肌が助けた薄いTシャツに白いシャツを羽織ってる。家着にしてはかっこよ過ぎてないかな。色っぽいじゃないか。若い男には申し訳ないくらい興味がないのは周ちゃんの所為だ。中年男子の周ちゃんの色気。どうしようもない。

今日の献立
念願の焼き筍
春菊とハムのサラダ
ねぎと砂肝のナンプラー炒め
焼キャベツと黒豆の味噌
新玉ねぎのドレッシング
素麺
納豆

フレンチトースト

Journal 21.4,2022

今朝の梃子は飛び切り元気だった。可笑しいくらいに梃子は日に日に明るくなっていく。私と二人の生活に戻った時も気づいたら兎みたいにぴょんぴょん飛び跳ねていたのに、最近じゃ手の平サイズの赤ちゃんだった時みたいに世界に安心しきってる。「梃子はね、100語くらい言語がわかるんだよ。だから何でも言葉で話すようにしてるの。」周ちゃんは梃子の目を真っ直ぐ見てよく話をしてる。あの話しは嘘じゃなかったんだけど、周ちゃんは律儀にも人と話すみたいに梃子と会話してる。周ちゃんの前に座り静かにその話を聞く梃子。大体の話はわかっていそう。梃子とはもう10年以上一緒に暮らしてるけど、今の生活が気に入ってるのがわかる。周ちゃんの横で寝て、周ちゃんの膝の上に座って、周ちゃんにお気に入りのねずみや赤ちゃんの時からずっと一緒のグレーの猫の人形を毎朝、毎晩、ひつこく周ちゃんの元に持っていっては遊んでよと尻尾を振って吠える。そしてまた朝が来て、「周ちゃん、朝だよ起きて。」人間の言葉で言うならそんなフレーズで嬉しそうに吠え、周ちゃんと一緒に今日を始める。

「なんか今日の梃子はすごい元気だね、どうしちゃったの?」ちょっとはにかみながら困った顔の周ちゃんが梃子と一緒に起きてきた。周ちゃんのまいったなぁ〜って顔が私は大好き。寝ている周ちゃんを起こすのは止めて欲しいけど、あの顔の周ちゃんを見るとニヤニヤしてしまうから複雑。もし取っておけるならば箱にでもしまっておきたい。そして時々開いてはニヤニヤして楽しみたい。

今日は家で仕事。あっという間に夕方になって周ちゃんが帰ってきた。そのままお互いの書斎でまた夜まで仕事。18時を過ぎた頃に周ちゃんが部屋をノックした。「ちょっとご相談で。新宿テアトルで前に話してたデザイナーの平野くん。クウネルとかやってた。出てる映画が今日最終日らしくて。」「うん。行っておいでよ。トマトスープ作ってあるから食べてから行ったら?」

最高に美味しかった。こんなに美味しいスープパスタは人生で一番かもしれないってくらいに最高だった。昨日の塩だけで煮たポトフにトマト缶を入れて少し煮た後にナンプラーで調味してオレガノを少々。ラザニアのパスタをちぎって湯でボイルしたものをトマト味のポトフ鍋に入れひと煮立ちさせてからお皿に盛る。オリーブオイルを垂らして出来上がり。「あと2杯は食べれるよ。」「ほんと美味しい!」

周ちゃんが帰宅したのは23時。雨に振られてずぶ濡れだった。「おかえり〜!」「おめでとうございます〜。」丁度その頃にヤフオクで近藤昭作さんのヤマギワの照明を落札した事をLINEで伝えていた。ずっと気になっていた照明。畳の部屋の照明をどうするかずっとずっと迷っていたけどやっと決まった。外はまだ雨が強く打つ音がしてる。数時間だったけどひとりの夜、最高だったな。人の気配がしない部屋、私が暴れようが喚こうが誰にも何にも言われない空間。麦酒を1缶だけ書斎で飲んだ。どうせ私達は別々の形の中にいるのだから、同じ屋根の下にいなくたっていい。離れたら離れたでより一層に愛しくなったりもする。そんな気分に浸れた夜だった。

塩ポトフのトマトスープ
スペアリブ
ソーセージ
春キャベツ
新玉葱
人参

トマト缶
ナンプラー
オレガノ
オリーブオイル

塩以外の調味料は最後に入れる。スペアリブと玉ねぎは1時間程煮込んで、キャベツと人参を入れて30分程、ソーセージを入れて30分。翌日にトマト缶を入れて30分、調味してひと煮立ちさせる。器にもってからオリーブオイルをかける。リーブオイルをかける。