朝、散歩に行く前に1Fの機材入れを整理していると、来週に使う撮影用の機材がないことに気づいた。え?嘘でしょ。どこ?え、忘れた?まさか。捨てるのが得意な癖に忘れ物には異常にふだんから神経を尖らせてる。その理由はよくわからないけど、必ず、自分がいなくなる場所を見返す癖があるのはずっと昔からそうだ。全然、記憶にない。けど、勉強を始めてからというもの、私の殆どの記憶は勉強で消費されていってると思う。「昨日の中華さ。」「え?なんの話。」「え?!」こないだの周ちゃんの驚いた顔を忘れられない。酷くけげんな顔をしてた。
手帳を開いて、その機材の在処を記憶をたよりに探してみると、4月4日。LEEの撮影だった。まじか。スタジオに連絡するも、忘れ物はありませんと直ぐに回答があった。だよね。スタジオさんなら直ぐに連絡をくれる筈だ。まさか、電車?あんなに大きな機材、電車に忘れるかな。幾つか乗り継いでる。あちこちに電話や警察の遺失物検索のページで探しながら、同時に新しい機材が直ぐに手に入るか調べた。44,000円。大きくため息。
中々繋がらない電話が繋がって、それらしき物が清瀬駅を経由して飯田橋の警視庁遺失物センターにあるとのこと。今日は周ちゃんは飯田橋の本社にいる。朝、いきなり本社へ行くと言い出し、出かけて行った。こんな事ってあるもんだな。周ちゃんに連絡して代理で取りに行ってもらうことにした。
なんだか機材探しであっという間に昼も過ぎて、撮影の準備をして、遅い午後から仕切り直して心理的アセスメントの勉強。ネットで試験の傾向を探してみると、”5回落ちてます。”とか、”この試験が受からな過ぎて留年しました。” “この教科のために5、6冊読みましたが全然わかりません”とかとか。不安になるコメントばかりだった。試験内容も全くよくわからない。構成既成概念が、妥当性が、信頼性係数が、。なにこれ。教科書はもう読み終えたのに、なんのことだか全くわからない。雨雲が広がっていくみたいに、気持ちがどんどん暗くなっていった。この試験、本当に受かるんだろうか。
なんか、私、ダメだ。こんなに勉強してるのに、。どうして上手くいかないんだろう。そもそも、普通にフォトグラファーとして頑張って仕事してるだけで良かったんじゃないか。そしたら、友達とも遊べただろうし、好きな物を買って、週末は好きなようにお酒を飲んでいた筈だ。周ちゃんとだって、あちこちにドライブへ行って。もっともっと本当は料理がしたいし、仕事もしたい。なんでわざわざ、こんなに大変なこと始めちゃったんだろう。バカみたい。心理学は楽しいけど、なんだか医療みたいな話も多いし、統計学みたいな数学的なことや、哲学のように概念の話もあるし、もうなんなの。
だめだ。プールに行こう。”周ちゃん、何時に帰る?” “じゃあ、18時ね。” 参考書とプールの支度を持って駅前へ向かい、西武で生ワカメと発酵バターと食パンを買った。なんか全てが上手くいかないような気がして哀しかった。けれど、夏みたいな夕方の風はやさしくて、せめてもだねと思った。
今日のプールは混んでる。ふくよかな女性がいて、最初はダイエットの為に通ってるのかなと思ったけど、多分、昔に水泳を競技としてやっていた人なのかもしれない。海の生き物みたいに水の中をするすると泳いでいく。なんて素敵なんだろう。綺麗だな。しばらく呆然と見てた。人って、その人にしかできないことがある。なんだか、すごく感動した。
「夕飯の支度をしてないの。」「じゃあ、あそこの中華行ってみる?」帰りがけに寄った中華。店内はガラガラだったけれど美味しかった。「今日は飲ませて。」ビールとレモンサワーを飲んで、帰りにセブンでポテチとビールを買って帰った。周ちゃんはダイニングテーブルで梅仕事を始めて、私はソファーでビールを飲みながらLINEニュースを開いた。ひさだな。最近は携帯も殆ど触らなくなった。「周ちゃん!広末涼子が不倫だって!知ってる?」「どうでもいいけど、知ってる。」周ちゃんは何度も枕詞のように、「どうでもいい」と言ってた。広末涼子のことが好きだったのかな。それとも、芸能ニュースをバカにしてたのかな。どうでもいいネタをニュースしたっていいじゃんと思った。不倫か。広末涼子は幼馴染の佳代ちゃんと同じ高校で隣の席だったと聞いたことがある。私にとってはそれぐらいの記憶で、同じポケベル世代ってだけ。記事には2度の不倫だと書いてあったけれど、昔、薬物の話もあった気がする。人って変わらないんだろうなと思った。家族がいるのに、そんなに自分の人生が大事なのか。なんだか、昔を思い出すようで少しだけ辛くなった。
今日はもう嫌だ。勉強はしない。