6月26日

Journal 26.6,2023

昨晩は寝苦しい夜だった。隣で周ちゃんはぐーすか寝ていたけど、枕の横にいる梃子は、はぁはぁと舌をだして熱そうに呼吸していた。時計を見ると時間はまだ夜中の12時。

南西にあるベッドルームの角に出窓が2つある。奥ばった作りは全て白で統一されていて、この家の好きな場所のひとつだ。ベッドルームに朝陽がはいること。これは私の引っ越しの条件だった。白いシーツに、白いカーテン、他の全部も白だけの部屋が朝陽でサーモンピンクに染められていく時間が好きだから。この家を見つけるのは結構大変だったけれど、好きな場所じゃないと暮らしたくないと周ちゃんを困らせただけある。だけど、一つ問題がある。それはベッドルームにクーラーがないこと。

半分融けた梃子とブランケットと一緒に1階の和室で寝ることにした。そして、クーラーの中で梃子と気持ちよく寝るはずだった。昨日、試験勉強をするために3時半にかけた目覚ましが鳴るまでに何度起きたことだろう。クーラーが効きすぎていたのか、どうにも上手く寝れなくて夢に何度もうなされた。

人は記憶を忘却できる。それは失うことを意味してない。自分さえもわからない場所へ失くしてくれるってこと。私の中のどこかへ。ちょっと前に脳の中にある記憶という場所のことについて学んだ。

多分、数日前に二度と連絡をとらないはずだった中目黒の居酒屋の店主から電話があったからかもしれないし、昼に見た是枝監督の怪物っていう映画のせいかもしれない。

「よしみさんきっと好きだから。」と、分福にいるナナコにチケットを渡されて見た万引き家族は酷く感動した。怪物も、きっと似たようなものを受け取りたいと期待していたんだと思う。社会の影に住み着いたどす黒いメッセージを、と。けど、あまり消化されずに、映画は終わった。もしかしたら、脚本が坂本さんだったからかもしれない。酷評をしたいわけじゃなくて、ただ、私の期待が外れただけ。

けれど、描写の美しさや時より不安になるような曖昧な時間は、万引き家族に似た何かを少なからず受けたのは確かで、隠していた筈の記憶が詰め物の下にいる虫歯みたいに小さく疼いた。それに、あの映画は病気が酷くなった頃に一緒に見た映画だ。待ち合わせの時間に来ない夫が電話の向こうで割れるような音で怒っていた。池尻大橋のマンションで、「後で。」と別れたのは2、3時間くらい前のこと。不安は的中した。もうあの頃は無茶苦茶だったから、上映が始まる直前に連絡がとれたけど、とくに驚かなかった。またあの時間が来たんだなって思ったくらい。

「だから、もう作らんでええから。」呆然と立ち尽くす私がいた。

男の大きな声が終わる頃、私の言葉は詰まる。喉に何かを詰め込まれたみたいに、そのまま心までそれが押し込まれたように。私がご飯を作るから悪い。その言葉がどうにも辛かった。どうして、喜んでくれる日があるのに、怒る日もあるのか全然わからなかった。出来る事といえば、気持ちを押し殺すことくらい。それに、作った食事が勿体なく見えて、かわいそうな気がして嫌だった。いや、本当はそれは私のことで、私が可哀想に見えて、けどそんな風に思いたくなかった。

あ、。忘れてた。夢から覚めて一番初めに思ったこと。池尻大橋のマンションに私達はいた。今さっきまで。昔のように冷たくなった食事と朝陽と、癇癪のとまらない元夫。世界から逆行したようなあの時間の中に。

そして、次の瞬間に思ったのは、現実はここだよ。じゃなくて、怖いだった。怖い。肌がひりひりした。それと同時に世界はどんどん過去に侵食されていく。夜はもっと黒くなって、私の温度はその中に飲み込まれていくみたいだ。どうしよう。いや、大丈夫、大丈夫だと思う。けど、不安はどんどん大きくなっていった。椅子に座ったけど、また立って、お茶を入れたけど、口を付けないまま。わからなくてベッドルームへ向かった。

静かに寝る周ちゃんがいる。背中に触れると温かい。とにかく、くっつけるところは全てくっついた。私はここで生きたい。