パンケーキ

Journal 11.8,2023


久しぶりに寝坊した。起きたのは6時過ぎ。昼過ぎまで勉強して午後はプール。夜は柳澤さんのお家へ遊びに行った。うちから車で12分。湖のそばだと聞いていたけど、こんなに近いなんて驚いた。

柳澤さんは周ちゃんのことを「イケメンだ。イケメンだ。」と何度も言ってた。そう、周ちゃんはイケメンだ。絵に描いたようなイケメン。意思のあるしっかりとした眉に、真っ直ぐと見る目。鼻筋は上にすぅっと通り、背も高い。腕や肩にはTシャツの上からでもわかるくらいの丁度いい筋肉がのっている。おまけに肌もツルツルだし、ハゲてもいない。それでいて仕事もできる。出会ったばかりの頃、「女性とは面倒な関係になりたくないので、距離を置いて付き合うようにしてる。」という言葉を聞いたけれど、ああ、モテる人が言うやつ、と思った。

友人、知人に紹介すると、周ちゃんのことを素敵だと皆が口を揃えて言う。だけど、その度にじゃあどうして私だったんだろうと少しだけ胸の辺りがさわっとする。

2人の箸は皿の上でぴたりと止まったまま、民俗学や歴史の話で盛り上がっていた。柳澤さんはとても不思議で素敵なお姉さん。編集者やライターっていう雰囲気じゃない、どちらかと言えば文筆家や漫画家みたい。独特な空気感がある。そして、何だかいつも小さく笑っていて、一緒にいると勝手に空気が和んでいく。ふたりを見ながら柳澤さんが築地で買ってきたというカツオを食べ、ワインをガブガブと飲んだ。遠くで花火が鳴ってる。涼しくて心地のいい部屋。義母のさちこが漬けてくれたというお新香と梅干し。さちこが漬けた胡瓜は義父のけさおが畑で作っているものだそう。美味しくないわけがない。酸っぱい顔をしながら梅干しをつまみワインをまた飲んだ。

私は民俗学も歴史も知らない、だからって他の文化圏にも大して興味がない。恥ずかしくなるほどに色々を知らない。今、流行ってる曲や本や映画だって知らない。私にあるものと言えば、ほとんどが我流で覚えた料理と写真ぐらい。自分のことを蔑むわけじゃないけど、やっぱり周ちゃんが私を選んだ意味がわからない。ひとりポツンとしながら、食事を続けた。末っ子だからか、こう言う時間は嫌いでも好きでもなくて慣れてる。耳だけふたりの場所に参加した。酔っ払う柳澤さんはやっぱり素敵だった。

今夜は飲みすぎたな。周ちゃんはどうして私だったんだろう。自分を嫌うのはもうやめようと決めたけど、少しだけ不甲斐なく感じた。何もない毎日が好きなだけじゃだめなんだろうか。そんなことは誰も言ってないのに、私がそう言ってる。