
ひとりでワインでも飲もう。いや、けど咳が酷くてそれどころじゃないかな。とにかく仕事へ行こう。そう思って部屋を支度をしてると周ちゃんが部屋をノックした。
「俺はよしみが好きだから、一緒に誕生日を祝いたい。」そう言い放った周ちゃんに抱きしめられたら涙が溢れた。あれ、私って悲しかったんだっけ。胸はさらっとしてるのに、玉葱を切った時みたいに涙が勝手に頬をつたっていく。
「わかった。じゃあ18時に帰る。」「うん。」周ちゃんも私も仕事へ出かけた。我慢してた?いや、そういう感じじゃない。強がってるつもりもない。じゃあどうして泣いたんだろう。
夜は結婚記念日に行った鰻屋へ行った。鰻もそこそこ美味しいけど、この店で一番好きなのは、店の内装とBGMがないこと。高い天井。庭に広がる竹林。調度品はオーナーの趣味なのか、インテリアデザイナーのセンスなのか、古い民藝品が飾ってある。離れにあるトイレのお香の匂いもいい。洒落たスパイスだのハーブだのって匂いじゃなくて、シンプルに白檀の匂い。平日の夜は大体空いていて、今日も貸切状態だった。
昨日までの喧嘩が嘘みたいに、また平穏に戻った私たちは、白ワインを片手に沢山の鰻を食べた。今年の豊富は5つ。前は写真の話をよく聞いてきた周ちゃんだったけれど、最近は心理学の話を聞いてくる。私もだんだんと答えられるようになってきた。