カテゴリー: カレー

カレー

カレー 17.1,2025


今年からちょっと生活スタイルを変えてる。思いの外、上手に回り出している気がしてる。今日はカレーを作った。本当はもっと料理がしたいのに、とモヤモヤしながら2年間も過ごしてしまった。そうやって、欲しいものと大事なものをトレードしてしまうのは、私の癖だ。

けど、生活は大事なことも知ってる。だって、生活の上に生きてるし、やっぱり美味しいものが食べたい。心も身体もいつもそれを欲してる。それに、ずっと憧れてきた大きな出窓のあるキッチン。こんなの絶対にないよ、、ってピンタレストでピンを打ちながらも、結局どこかで諦めていたのに、どういうわけか、いや、ようやく出会えた。

だから、というか、、。自ら色々を選んでいるのだから、ちゃんと好きなことをしようと思う。今年は、太陽の光の中で料理が作ろう。

チキンカレー

カレー 01.12,2024


昨晩、夕飯を食べながら周ちゃんに「もう12月だってよ!」と言うと、「今年1年どうだった?」と、返ってきた。「不安ばっかりだよ。」と言ったのに、周ちゃんは嬉しそうな顔をしてる。

大学はもうすぐ卒業する。実習も今週で最後だ。先々週、心理士の先生が「うちで働いていいって、院長先生が言ってたよ。」と言ってくれたけど、正直、自分の気持ちがよくわからない。先生は、臨床を経験してみたらいいんじゃないかって勧めてくれて、その通りかもしれないとも思った。けど、本当にいいんだろうか。不安でしかない。

それに、。写真だって、全然、まだまだ今のままじゃダメだと思う。ワガママが言いたいわけじゃないけど、仕事には仕事の写真があることもわかってるけれど、そうじゃなくて、いい写真が見たいとか、いい写真に出会えると信じてる自分がいる。どうしていいかわからないけれど、諦めきれない。

ただ、ひとつ。最近になって思うことがある。今がぐちゃぐちゃであろうとも、それとは別に、ここは平和だ。限りなくどこまで行ってもきっと、今日と同じ明日が、また明後日も、そしてその次もと続いてくれそうな気がしてる。世界はいつだって連続の続きではない筈なのに。

周ちゃんと家族になってもうすぐ3年。1年目、2年目と、それなりに色々なことがあったし、新しい結婚の形みたいなものをずっと模索してきた。というか、愛みたいなものに飽き飽きしてる私にとって、この結婚がなんの為のものなのか、正直わからないまま籍をいれたから、どこかにいつかは着地したいと願っていた。だけど、結局、その新しい形は見つからないままに、3年目に突入し、新しい家に引っ越して今年も終わる。

ダイニングテーブルは、左側が周ちゃんで中央が私の席。ベッドは左が周ちゃんで右が私の枕。風呂は私が先で時々周ちゃんが先に入る。料理は私が作って周ちゃんが洗う。パズルみたいに、綺麗に日々の中に私たちは収まり、大学のレポートに苦しんだ日も、思うように写真が撮れなくて泣いた日も、年始に姉と大喧嘩した日だって、いつもと変わらない今日のように寝床へついた。周ちゃんは左で私が右の枕で。

最近の私は弱いと思う。人に強く言われることが増えた気がする。ほんの数年前は無かったことだ。けど、言い返さないし、言われっぱなしでいいと思ってる。憎みもしない。心理学を勉強するようになってからそうしたくなった。それから、弱くなった自分に加えて出来ないことも増えた。数年前までは、写真さえ撮っていれば、それで食べていられるのならば、何も怖くないと信じていた。だけど、今は、写真も全然撮れないと思うようになったし、世界は写真だけじゃないことの方がずっと多くて、その中で自分が生きてるんだということを知った。そしたら、出来ないことが増えた。だけど、だから、私には曖昧という選択肢が残されたこともわかってる。

今は、頑張れば頑張るほどに、色々な世界を知らされるし、私はどんどんぐちゃぐちゃになってゆく。だけど、私が混色雑多で混ざりに混ぜられてしまっても、今日も横には梃子と周ちゃんがいる。ここが私の家で、「家族」というもの、みたいだった。

そして、どんな日でも、それが最悪でも、最低でも、最高だったとしても、「家族」は隣にいる。そして私は、ただただ、今日も、いつもと同じように前に進めるようになった。

弱くてもぜんぜん駄目でも世界が広がってゆく一方でも、心は不安でいっぱいでも、前に知らない場所へ、先へ。

先週のカレーに生卵

カレー 29.4,2024


周ちゃんがシンガポールから帰ってきた。新しい自転車をあっちで買ったらしい。一言、言ってくれればいいのに、とも思ったけど、一人暮らしを思いっきり楽しんでた私だって沢山を言ってない。きっと、それでいいんだと思う。私たちはきっと、どっちかがいなくなっても、それなりに生きていけるタイプなんだろう。

人生なんてそれぐらいラフな方がきっといい。だってさ、もう辛いとか嫌だもんね。私も、周ちゃんも。なんで私たちがたまたま結婚しちゃったのか、少しわかった気がした。

夕飯は先週のカレーに生卵を落としたもの。明日か明後日は、ちゃんと作ろうと思う。

二日目のカレー

カレー 23.4,2024


今日は寝坊した。寝たのが少し遅かったし、寝坊しようって決めてたからだ。ゆっくりと起きて、キッチンでキウイを剥いて、そのまま立ちながら食べて、コーヒーを入れて、請求書を作って、部屋は昨日のままで荒れてる。いい感じ。リビングの花瓶の水が濁ってる。放っておこう。

周ちゃんがいない毎日は調子がいい。周ちゃんのことは大好きだけど、やっぱりひとりが好きみたい。今更だけど、前の夫とそれなりに上手くやっていた時期が長かったのは、年がら年中ツアーに出て、そのまま何処かへ遊び呆けてくれてたからだろう。

最初は一軒家にちっちゃな梃子と私だけなのかって思うと、なんだかあちこちがすぅすぅして見えたけれど、今はあれもこれも冷蔵庫の中身もどこもかしこも全部が私の一存で思い通りなのだって思うだけで、浮足たってくる。別にいつも我が儘し放題なのだけど、いや、本当はそうじゃないのかもしれないな。

昨晩にビデオ通話で話た周ちゃん。やっぱりイケメンだった。もっと美人な女と結婚したらよかったのにって思うぐらい。夕飯は二日目のカレー。全然悪くない。


カレー

カレー 22.4,2024

忙しない週末を過ごしたせいか、今日が何曜日なんだかわからない。ただただ、眠い。



ポークカレー

カレー 04.3,2024


周ちゃんとはまだ喧嘩してる。喧嘩できない周ちゃんとは言い合いにはならない。だけど、このまま出て行ってやろうかと思うくらいだ。

カレー

カレー 11.2,2024


授業1日目。生徒のだいたいは、医療や福祉、学校関連の方が多い感じだった。昼もひとりで食べ、特別に仲良くなろうとは思わなかった。これって昔の大学時代と同じじゃんって思いながら、けど、別に不自由はないし、寂しい?いや、。友達は欲しいな、とも思うけれど、打算的な考えで人と一緒にいるのは嫌だ。それならひとりの方がずっと楽。だけど、多分、昔よりもずっと大人になったからだろう。私とは全然異なる目的で同じ場所にいる人たちについて、それはそれで面白いなと思える自分がいた。

授業、むちゃくちゃ楽しかった。先生が心理学の難しさのことを、教科書読んでも全然わからなかったでしょ?って言う意味が手にとるようにしてわかった。教科書や参考書を読んで理解したことと、先生から知る心理学はまるで別物。それはコンビニのお弁と街の定食屋で食べるご飯くらいに違う。いちいち1つ1つに感動した。むちゃくちゃ楽しい。私の頭が足りるのならば大学院にいきたい。

ダルバート

カレー, Journal 09.12,2023


リリさんに相談を受けたのは1年くらい前だったと思う。「よしみさんに撮ってもらいたいんです。」リリさんがインターンでRiCEの編集部に入ったのは、何年まえだろう。私は確か、あの頃は “きくちよしみ” で活動してて、「きくちさーん」って呼んでくれるリリさんを思い出す。

リリさんは、私の知ってる限りでは、二度目の恋で結婚をした。一度目の恋が始まり、そして終わったとき、そして、りくさんと恋が始まり結婚を決めたとき、そして、妻になった今。リリさんが新しいリリさんの顔になるのを何度見たのだろう。女の子が女性になっていく時間の一つ一つは断片的な記憶とともに今も私の中にある。

ヘアメイクはみっちゃんにお願いして、スタジオは新宿にある小さな白ホリのスタジオ。アンティークのドレスに包まれたリリさんとリクさんが目の前に立ち、笑ってる。

帰りの電車で、なんだ、そうかって。最近になって急に人を撮りたくなったのは、もう色々が恐いと目を背けたりする必要がなくなったからだ。子犬みたいに無邪気に戯れる二人を見て、ああ、なんて素敵なんだろうってわたしの全部で感じてた。

とても、いい日だった。

ダルバート

カレー 11.11,2023


久しぶりの周ちゃんのダルバート。週末にこうして料理を作ってくれるのは、本当にありがたい。試験まであと2週間。その後にレポート6本。そして、12月は結構しんどめの試験がひとつ。朝にワクチンを打ったからなのか午後はだるかった。

ダルバート

カレー 18.6,2023


帰ったら、統計と、研究法と、心理的アセスメントの残りをやらなきゃ。勉強を途中で切り上げて自転車でプールへ向かった。「あーだるい、ねむい。だるすぎる。」自転車を走らせながら、ブーブー言う私に周ちゃんが笑いながら言った。「女子高生みたいだね。」「え。そうかな。だってだるいんだもん。今日は私は泳がないよ。浮いてるだけにする。」

言葉の通り、今日のほとんどの時間はプールに浮いていた。17時過ぎ。陽はすっかり夏だ。まだまだ明るいし、斜めに水の中に差し込む光は遠くから見てもきらきらしてる。光と一緒に水の中へ潜ると、そこは子供の頃の夏の日のようだった。皮膚が憶えている過去は水に刺激されて、今と過去の真ん中みたいになる。ああ、気持ちがいい。だからプールはいい。この感覚はやめられない。

少しストレスが溜まってるのかな。昨日は5時間しか勉強ができなかった。最近、進みが悪いから自分を責めてるんだろう。どうしようっていう焦りもある。そんな変なループにハマってる。なのに、ずんと重くて言うことのきかない身体。止まらないあくび。私の心と身体は今アンバランスだ。

いつも通り私の方が早く更衣室から出て、ベンチで周ちゃんを待った。周ちゃんは男だけど、支度が遅い。逆に言えば、私がは女なのに支度が早い。どちらにせよ、大体、私は待ってる。だけど、最近は遅いと思う代わりに、待っている間に日記を書いたりすることにした。腹を立てても仕方ない。彼は遅くて私は早いだけのこと。帰りにスーパーで酎ハイを2本買った。今日は飲まない筈だったけれど、ロング缶も1本買った。もう勝手にしてと思った。

人には第六感がある、のだそうだ。というのを、数日前に勉強した。それは、人の能力の一つとして、知識よりもずっと確かである、らしい。簡単に言えば、”嫌だなと思う感覚は合ってる。” ってこと。だから、今日の私のことを勝手にさせてみようかなと思った。今、私は何をすべきか知ってる。と信じて。私をコントロールする然るべき私のことは捨てて。

夕飯は周ちゃんが支度してくれたダルバート。今日は鯖で作ってくれたけど、いつも通り、周ちゃんのダルバートは日本一美味しい。美味しいダルバートは沢山あるだろうけど、新鮮な野菜がたっぷりでスパイスは柔らかめ。私好みで言うことなし。

カレー

カレー 30.4,2023


今日は朝から周ちゃんは仕事。私も家で仕事。午前に母からの電話が鳴った。「GWにみんなでご飯でもどう?」とのことだったけど、GWは忙しいからと断った。「どこも混んでるしね、やっちゃん家でバーベキューでもしようかしら。」と言い母は電話を切った。本当は行きたい。だけど、時間がない。

今日も私は相変わらずでイライラしてる。詰まってる仕事や勉強に忙殺されてるからで、どうにもこうにも上手に出来ない私の不甲斐なさにどうしようもない気持ちで一杯だ。なのに、だいたいは周ちゃんにあたってる。甘えたりもしてる。どっちにしろ、いい加減にした方がいいのはたしか。

“私の帽子知らない?” 周ちゃんにLINEを打つと、”ごめん。持って来ちゃった。” と直ぐに返信があった。洗面所で10分もバタバタと帽子を探してたのに、早く言ってよ。急いで梃子に夕飯をあげて支度をしながらまたイライラした。自転車で飛ばしてプールへ向かうと待ち合わせの時間を過ぎても周ちゃんはこない。家事、仕事、勉強、梃子の世話に夕飯の準備。読書する時間もなければ、ネットサーフィンする時間だってない。もう、なんなんなの。なんで私ばっかりこんなに忙しいんだよ。

帽子を受け取るとさっさと更衣室へ向かった。周ちゃんは私がプールへ入ってからしばらくしてやってきた。無視して一人で泳いでると隣のレーンでビート板で泳ぐ周ちゃん。「どうしたの?」「ゴーグル忘れちゃって。」なんなんだよこいつ、。心の中でまた一人イライラした。「私の途中で貸してあげるから。」ただ、無心で泳ぎ続けた。プールの中では水がぐんぐんと前からやってくる。そして私の身体も水みたいに流れていく。

私と周ちゃんは全く違う。背丈も違えば、女と男っていう性別も違う。私はずっと東京にいたし、周ちゃんは東北や九州にいた。だから、付き合う友達の種類も、遊んできた場所だって違う。周ちゃんは4人兄弟の2番目で、私は3人兄弟の末っ子。私は2回目の結婚で、周ちゃんは初めての結婚。

共通点と言えば三つくらい。チベット文化が好きなことと、家族がアメリカにいること、あとは互いに恋愛はしっかりとしてきたこと。私たちがパズルだとしてもそれが一枚になる日は永遠に来ないと思う。私が周ちゃんを好きになったきっかけはカッコいいからで、周ちゃんが私を好きになった理由は直観。そんな二人が結婚した。別に恋に落ちたわけでもなくて、ただ結婚をした。

趣味も好きな映画も音楽だって全然違う。食べ物の話をしたら最悪だ。採れたての美味しい野菜を私はすぐに食べたいけど、周ちゃんは古い野菜から食べようとする。周ちゃんはティーパックひとつで二つのお茶を淹れるし、コーヒーは恐ろしく濃いけど、私はカフェインレスをしてるからコーヒーはお湯みたいに薄いのが好みだし、お茶は香りを楽しみたいから味気のないお茶は嫌い。

向こうの方にプールサイドを歩く周ちゃんがいる。周ちゃんってあんなにマッチョだったっけ。数え切れないくらい周ちゃんの裸をベッドで見ているのに、なんだか胸がドキドキした。

近くで見ると見えないことがある。ディティールが潰れてしまうというか、本当は複雑に色々が詰まってる筈なのにつるりとした表面ひとつみたいになってしまう。好きになればなるほどに、もっともっと近づきたいのに、近づけば近づくほどに触れているはずの周ちゃんは見えなくなっていく。

だけど、周ちゃんは本当は優しい。いつも丁寧で穏やかだ。私のように感情的になることはないし、いつも同じ笑顔で待っていてくれる。順序立てないと進められないとか、なんでも説明書を読むところからとか、全く理解できないようなことも沢山あるけれど、だけど、だから私はこの男が好きだ。好きなのは顔だけじゃない。もっともっと沢山が好きでそれは私がひとつも持っていないものだ。

顔が小さいくせにマッチョな身体も好きだし、辞書みたいになんでも知ってるところも好きだ。植物をすぐに枯らすところは嫌いだけど、梃子の面倒もよく見てくれるし、私が忙しい時は散歩も行ってくれる。帰りが遅い時は魚を焼いて味噌汁も作ってくれる。周ちゃんは鼻炎だからか味が下手くそだけど、味噌汁はすごく美味しい。それに、悲しい話も嬉しい話もいつも同じように聞いてくれる。寝る前にベッドの横に積み上がった難しい本の話をしてくれるのだって好きだ。なのに、どうして見えなくなっちゃうんだろう。

周ちゃんは私と結婚して本当に幸せなんだろうか。幸せにしてあげたいと思っているのに、私は自分の事ばかりを考えてる。忙しいのは周ちゃんの所為じゃない。

ダルバート

カレー 23.4,2023


昨日は久しぶりにナッチャンに会った。那須で仕事の打ち合わせで会った以来だ。今日は朝は仕事と庭の植え替え、午後は選挙へ行ってから近所の喫茶店で周ちゃんと勉強。昨日のお酒が少し残ってる。

前に角田さんが「年齢が過ぎても前へでたがる方もいらっしゃるけど、どうしてなんでしょうね。」って言ってたことを時々思い出す。昨晩はやっぱり飲み過ぎた。ずっとモヤモヤしてることが原因だろう。片手にビールを持ちながら周ちゃんに聞いた。

「どうして自分だけの利益のために必死になっちゃうんだろうね。そういう人っているよね。」「いるよ。そんな人、会社なんて沢山いるよ。」「自分だけ昇進するとか、お金を貰うとか、目の前の目的だけの為に周りを排除?なんて言うんだろう。なんかさ、上手く説明できないんだけど。」「そういう人とは一緒にいたくないかな。」「それ、それだよ。それが答えだよね。」

結局、目の前の何かは手に入ったとしても、「ああ、残念な人。」って人に思われたら、失った信頼を元に戻すことは難しい。もしくは、同じような目線で付き合っていくしかない。この人は私にとって利益があるの?ないの?って。だから、やっぱりそんな面倒な関係なら面倒だし、そもそも楽しくない。

けど、私も若い時はそんな時期があった。数年だけデザイナーをしていた頃のはなし。社長に気に入られたいとか、特別に思われたいとか。あの頃は本当に青臭かった。思い出すだけでもゾッとする。

「けどさ、そういう人って結局、そうするしかない人なんだよ。」
周ちゃんが言った。確かに、青臭い私にはそんな事しか出来なかった。一緒に働いてる人と楽しくやりたいとか、作ったもので誰かを喜ばせたいとか、私のことばっかりで誰かのことを想ってあげる余裕がなかったし、足らない自分を補うことばかりを考えていた。

勝手なものだなと思うけれど、人って他人へまで期待してしまう生き物だ。けど、現実はそうじゃないこともある。その人の想像しない一面を知った時に、あっそう。バイバイ。なんて簡単にはいけなくて、目をつぶってみたり、自分のほっぺをつねってみたり、どうにもならなくて、私が見間違えたんだと問題の矛先を自分に向けてみたりすることだってある。だけど、結局どれにしたって虚しいからであってどうにもなれないまま時間だけが過ぎていく。大人になればなるほど、頭で理解することが増えていく一方で世界は明確な答えを教えてくれなくなった。

私の今日は味の決まらないカレーみたいだ。

モツカレー

カレー 30.1,2023

パリのマユミちゃんから手紙が届いた。封筒の中には2022年12月18日の手紙と、年始にバカンス先から送る予定だったカードも同封してあった。もし、ずっと私達がお互いに東京にいたら今でも友達でいただろうか。友達の友達だったマユミちゃんはいつしか大切な友人の一人になった。私達の共通点は何もない。学校も仕事も趣味も、マユミちゃんがどんな男の子がタイプだったのかも知らない。一つだけ共通点があるとすれば、マユミちゃんは両腕の手首に丸のタトゥーが入っていて、私は左腕にフロイトの言葉が入ってる。それくらい。だけど、互いに入ってるって事しか知らない。その意味も聞かないし言うこともない。文通も3年目に突入。2021年の年賀状から始めて、半年もしたら来なくなるだろうと思っていた手紙。今のところお互いにやめる気配はない。他愛もない日常を一方的に書いているようで、なんだか励まされたり励ましたり、笑ったり泣いたりしてる。そして、マユミちゃんはバカンスがくる度にパートナーと聞いたことがないような名前の街へと旅に出る。私の知ってる日本人は誰も行かないだろう美しそうな街。もうしっかりとしたヨーロッパの人なのだなと思う。最近、友達が減った事を手紙に少し愚痴ったけれど、マユミちゃんの手紙にも同じような事が書いてあった。なんとなくの友達はなんとなく連絡を取らなくなって、仲が良かった友人とはより深くなったって。嬉しかった。寂しさを持て余していた私にとって十分過ぎるくらいに温まる言葉だった。

それから、”最近、服がずっと要らなかったんだけど、こないだいいブランド見つけちゃって。沢山欲しいけど、そんなに働きたくないから、そこそこに働こうと思う。” と書いてあった。マユミちゃんは元々服の学校に行ってたし、いつもマユミちゃんらしくお洒落をしていて、今でもパリコレの仕事を手伝ってるくらいだ。だけど、好きだからとか欲しいからといって自分の生活を壊してまで手に入れたいとは思わないと決めてる所がやっぱりマユミちゃんらしくて素敵だ。

そこそこに働く。いい言葉だな。数日前に私とフジモンが話していた事に過ごし似てる。バランス良く生きたい。仕事は好きだけど、仕事以外だって人生だから。何かを消費する為に死ぬ気で働くなんて嫌。「最近は、あっても撮影は週2日くらいかな。」仕事の事を聞かれたフジモンに返答すると「丁度いいね!」と笑顔で返ってきた。以前は週6日撮影していたし、1日に数本の現場が入ってるのが当たり前だった。こないだ会った中西くんも言ってた。「よしみちゃん、前は忙しそうだったもんね。」私は心だけじゃなくて、それ以外の沢山もどこかに置いてきてしまっていただろう日々。あの時はとにかく時間は私を窮屈になるまで押し込んでいたし、苦しかった。もう戻る気は勿論ない。それに、あの時は写真を撮っていたというよりも、お金を稼いでいた感じだった。人それぞれだと思うけれど、仕事は人生じゃない。その方が私にとっては気持ちがよく写真が撮れる気がしてる。スイスイと自由型で泳ぐ方がより早く進めるとゆうか、こんな風に浮いたり潜ったり出来るんだと、知らない私を見つけて驚いてみたり、教えてくれた誰かに感謝したり。まだまだ手探りではあるけど、今のところいい事づくし。

夕飯はモツカレー。モツを蒟蒻と大根と一緒に薄めの麺つゆで煮てから、カレーに入れる。カレーはスパイスは使わないでカレールーとソースで調味。スパイスカレーも好きだけど、こういう味がしみしみのカレーも好きだ。周ちゃんはすごく気に入ったみたいでお代わりしてた。

チキンカリー

カレー 24.1,2023

久しぶりにカレーを作ったら周ちゃんがとても喜んでくれた。「どうやって作ったの?」「スパイスカレーにルーをひとかけ入れると美味しんだよ。」レシピを話すと驚いていた。それから二人してご飯もルーも何度もおかわりをした。最近はスパイスカレーを作っても嫌がられないから嬉しい。カレー文化はあっという間にここ数年で浸透したなと思う。スパイスカレーを作って喜んでくれるBFなんてここ10年の話。「どっちのカレーが好き?」と聞くと、100%で普通のカレーと返ってきた。どうやら時代はどんどん生きやすくなっていく。最近は本当に生きやすい。大嫌いだった冬も大寒波だと言うけど、そんなに寒く無い。働くこともそうだし、勉強もそう。私の人生も大分生きやすくなった。まだまだ今でも夢の中では誰かに責められているけれど、そんなに心には響かない。苦しみの一つや二つあるよね。その程度で今のところは収まってる。

今日は少し山の先にある湖まで車を走らせた。私の毎日で生きづらいというか怖いものと言えば車だ。助手席に周ちゃんが乗ってくれると運転は楽しい。だけど、まだ一人で運転するのが怖い。ずっと憧れていた。写真で少し稼ぎ始めた頃に車を買おうかなんて考えたりもしたけど免許は持って無かった。口では車が欲しいとか車が運転したいとは言ってたけど、今思うとそれは叶わない夢の話で良かったんだと思う。東京にいた時の私は夢を語ってるのが好きで、語ってるくらいが丁度良かった。夢は夢だからいい。苦しいのなんて嫌だもの。

新しい生活を機に免許を取って年末に車も買った。もう言い訳は出来ないし、いい加減に怖いなんて言いたく無い。けど、どうしていいのかわからないし、周ちゃんに聞いても少しずつ慣れるものだとしか言ってくれない。そんなのわかってるよ、けど、怖いんだもの。どうにもこうにも答えが見つからなくて一昨日にgoogleで検索した。”車、怖い、慣れるまでの時間” googleによると5000キロ走ると車に慣れてくると書いてある。恐怖っていうのは見えないから怖いもの。だから恐怖は見えるようにしたらいいんだ。5000キロか。大体だけど、それが私の恐怖の量になるのかもしれない。とりあえず昨日から毎日何キロ走ったかメモに記すことにした。

私が生きる上で知った事の一つにどんなに苦しい事もいつかどうにかなるっていうのがある。一人目の夫が暴れていなくなった時に覚えたこと。これは今だから思うけれど夫の所為じゃない。夫はいい人間とは言えないけど、私が私を責め続けたから酷いことになった。だっていつだって逃げる選択が出来たのだから。夫に振われた暴力や暴言。そんな事よりも私が人生を放棄したら、いつしか自律神経はどうにかなってしまい鬱が発症した。そこに立ってるだけなのに世界がぐるぐると回るし、吐き気がするし、骨と皮だけみたいになった皮膚に小さな風があたるだけでも怖くて仕方がなかった日々に覚えたこと。どんなに小さな一歩でもいいから、亀より遅くてもいいから前に進めば今よりはマシになる。1日0.1ミリでも10日で1ミリ、3ヶ月、1年と経てば3.6cmにもなる。たった3cmのヒールを履いただけだって世界っていのは見え方が変わるのだから、ものすごく小さい前進だったとしても、たったの1年でも今日より世界はものすごく変われる。怖くても絶対に出来ないなんてことはないと思う。息を吸うくらいに小さな努めでいい。というか、小さな努めしか出来ない。だって怖いもの。けど、続けたらいつか何かが変わる。残り4984キロ。逆に言えば4984キロ走ったらこっちのものだ。

鯖とトマトと檸檬のカレー

カレー, Journal 09.12,2022

撮影を終えて帰宅。なんだか今日は料理をする気がしなかったので、出かける前に鯖を檸檬とスパイスに漬け込んでおいた。あとは朝にやった野菜をスパイスで炒めて、サラダを適当に作って、カレーを作った。買ってきたワインを飲みながら、いつもよりも長く夕飯をした。周ちゃんは私が今日学んだ勉強のことを興味深く聞いてくれた。もし、私が正規生で大学に入学したり、大学院にまで入学するような事があったら、それは周ちゃんのお陰だ。背中を教えてくれたのもそうだし、勉強の楽しさを教えてくれたのも周ちゃんだ。まだ来ぬ未来のことだけど、周ちゃんに有り難うと伝えた。それに、勉強を初めてから写真の見え方も変わるような気がしてる。心理学は思っていた以上に日常の少し突っ込んだような学びだった。いつまで勉強が続くかわからないけど、続けていく限り。きっともっと世界の写り方が変わっていくように感じてる。

ダルバート

カレー, Journal 04.12,2022

今夜はダルバート。日曜日だけど一緒にいる。夕飯は周ちゃんが作ってくれた。少し前の私なら目くじら立てて、私の日曜日を侵害されたと怒っただろう。だけど、今日はありがたく頂いた。自覚は無かったけれど、やっぱり流産後のホルモンの所為だろうか。とにかく周ちゃんや結婚が嫌だった。周ちゃんが大好きだし結婚も後悔してるわけじゃないのに、なんだか嫌で嫌で仕方無かった。

来週はいよいよ梃子の抜糸。

ダルバート

カレー 13.11,2022

ピルを飲み始めて6日目。段々と調子が落ち着いてきたものの、夕方の腹痛はやっぱり治らない。それに、なんだ昨日あたりから生理前にやってくるPMSみたい。それも過去の感じの。離婚時は最悪だったけど、そのもっと前のPMS。苛々したり、少しアンダーな気分になるやつ。そして、何故かビールとポテチを片手にNetflixを見たくなる。夕飯はラーメンか酸辣湯。これも決まってる。大体ひとりでこのコースをだらだらと続ける。

今日は何故か日曜日なのに周ちゃんがダルバートを作ってくれた。日曜日は別々に過ごしたいと口を酸っぱくして伝えてるのに、さらに体調だって悪いのに。早い夕方からだらだらとビールとNetflixは始まってるけど周ちゃんは出かけたまま帰らない。「もう、本当にカレーは作らないでいいから。」なんて言えないし。お腹も空いてるし。お腹が痛いから早くベッドに入りたいし。周ちゃんのカレーは最高に美味しいけど、想像の3倍は時間がかかる。ああ、もう厭。今食べたいのは、10分もかからず作れる熱々で優しいラーメンやスープなのに。

周ちゃんのカレーは今日も最高に美味しかったけど、最高に辛かった。

ダルバート

カレー 15.10,2022

今夜はダルバート。周ちゃんの18番。白身魚とトマトのカレーとトマトのアチャール。私が知ってるダルバートの中で一番好きなダルバート。勿論、oldnepalのダルバートも、恵比寿のソルティーモードも美味しいけど、周ちゃんの作るダルバートはうちみたいで美味しい。妊娠してた時はこれでもかってくらい檸檬をかけて食べたけど、今日はほどほどにした。先週に左手の薬指を派手にやけどしてしまった。「手が痛いし薬を塗ったばかりだから檸檬をかけて。」とお願いしたけど、かけて貰ってる時に右手でかけれるじゃんと気づいた。

妊娠が終わってから、私達はなんだか急に夫婦らしくなったように思う。妊娠してる時はもう離婚したいと思うくらいに嫌になったけれど、私の体調もすっかり戻り普通の日々に戻ると、周ちゃんの事がもっと好きになっていた。前の好きとは少し違う。私と関係なくして、どうかあなたの人生が幸せであってねと願っていた筈だったのに、今はどうかこの日々の中からいなくならないでと想う。

朝、隣に梃子が寝ていて、その横に周ちゃんの顔が見えると、このままで、ここでもう十分だからと時間を止めたくなる。多分、梃子が最初に死ぬ。こないだ乳腺炎が見つかって、もしかしたらまた癌かもしれない。来月にセカンドオピニオンを受けるまで未だ手術を渋ってるけれど、乳腺炎が原因で思っているよりも早く死ぬかもしれない。周ちゃんだっていつか死ぬ。私だってそうだけど、私達がこうして一緒に同じベッドで過ごす時間が刻々と削られていくような気がして、胸が少し苦しくなる日が増えた。最近はもう写真は好きな仕事で、写真はなにかを表現するものじゃなくていいやと思うようになってきたけれど、それとは別に今を未来の私の為に記録したいと思うようになった。

望んでいたけど、望まなかった家族という形に、私達は日に日に形どられていく気がする。幸せだなとも感じるけれど、なんだか切なくて嫌になる。

ネパールカレー

カレー 17.9,2022


今夜はゆうちゃんとみさちゃん、みさちゃんの彼と周ちゃんの4人でオールドネパールで食事をする約束をしてたのに、私の体調不良が理由で日程を変更してもらった。何週間も前から楽しみにしてたのに。周ちゃんは本まで買って予習してた。初めてのデート以来のオールドネパール。

友達に会いたい。ここ一ヶ月、ろくに会ってない。話し相手はずっと梃子だし、もう枯れてしまいそう。10月になったらきっと大丈夫。体調もきっと良くなる。

今夜は周ちゃんがオールドネパールの本のレシピにあるカレーを作ってくれた。



カレー

カレー 01.9,2022

今日も朝から体調がいい。午後、書道家に転身した山田さんが遊びに来た。3週間後にパリで展示があるらしく、パリのまゆみちゃんの事をLINEのビデオ通話で紹介した。「ハロ〜ちゃみちゃん。」「ちゃみ〜!」半年とか1年ぶりのまゆみちゃんはすっかりパリの女。小花柄の黒いワンピースに眉毛よりずっと短い前髪。ビデオに映る白い壁の部屋はヨーロッパそのもので、いつもの様に子供っぽく笑うまゆみちゃんじゃないし、簡単に結いた髪もその首元もやっぱりパリ。文通で色々は聞いてるけど、私が知っているよりもずっと素敵な恋をしてるんだろう。山田さん交えて色々な話をした。それから、私達の愛称が互いにちゃみだって事も後に付け加えて説明した。ややこしい話だけど、愛称でもあり、lovelyとかHi!!みたいな挨拶にも使う。何かに由来してる訳でもないし、全く謎めいた言葉だけど、ここ何年も二人とも気に入っているし、やめる気もない。「へぇ。面白いですねぇ。」真面目な顔をして山田さんが言った。

山田さんは一緒に仕事をしていた時とは別人みたい。昔、大学生バイトでIDEEで働いてた時に10くらい年が離れた白井ちゃんの事を思い出した。いつも声が小さくて、「ねぇ、よしみ。どうしよう。もう嫌だ〜。」って仕事中に半べそかいてたのに、バイトをやめて数カ月後にパリで会った時はまるで別人だった。「白井ちゃん、なんだか人が変わったみたいだね!」「私ね、なんでだか、パリにいると生き生きするの。」パリのあちこちのチーズ屋さんに連れていってくれて、流暢に楽しそうに話すフランス語。見てるこっちまでわくわくした。そして、二十歳そこそこの私にチーズとバターというのはただの添え物ではなくて、メインディッシュになることも教えてくれた。

パリのまゆみちゃんとバイバイして、夕立が終わり夜になった所で山田さんも帰宅。時間は18時過ぎ。急いで夕飯の支度を始めた。山田さんのお母さんが育てたとゆうジャガイモを貰ったので昼に火にかけておいたチキンスープに入れてカレーを作って、ゴーヤのサラダ、茹でておいたビーツをスライスしてビネガーをかけた。

「今日ね、山田さんってゆうお姉さんが来たんだけど、書道家に転身してさ。」「へぇ。下の名前は?」「山田しおりさん。」「これ?」携帯でささっと検索して画面を見せてくれた。「素敵だねぇ。」周ちゃんは学芸員だからか、山田さんの作品にとても関心を持ってるようだった。「家に一枚欲しいね。」「そうだね。すごくいいね。」「ヨーロッパでうける理由がわかるよね。」「うん。炭の濃淡がいい。」山田さんはこのままヨーロッパでの活動が盛んになって、白井ちゃんや、まゆみちゃんみたいにパリに行ってしまう気がした。そしたら、まゆみちゃんに会いに行くときに山田さんにも会って、三人でお洒落なレストランでワインでも飲みたいなと思った。

朝カレー

カレー 21.8,2022

「昨晩、夜中に “楽しいね〜。” って寝言を言いながら笑っていたよ。」朝に周ちゃんに聞いた。よっぽど合宿が楽しかったのか。だけど、朝食にカレーを食べて二度寝をした時は悪夢で目を覚ました。やっぱりと思ってしばらく扇風機の前でぼーっと風に当たりながら考えた。私達の家はマンションの一室になっていて、今と同じ田舎暮らし。上の階に先輩が住んでいて、ある日、先輩が勝手に大家さんと一緒に私達の部屋の一室をリノベーションして住んでいた。その先輩は若い時によく遊びに誘ってくれて、とても良くしてくれる方で、歳が離れていた大人だったし、いつでも笑顔で応えていたように思う。嫌なことなんて殆ど無かったけど、一度だけBFと別れた時にメールで怒られた事をきっかけに距離を置くようになった。正確には無視されるようになったのかもしれない。暑い夏の日だった。太陽がいつものようにギラギラと夏を始めた朝に長文のメールが何度も携帯を鳴らして、胸がドキドキして怖くてよくわからなかったけど謝罪した。先輩は勘違いしているようだったけど、弁明しようとは思わなかった。私達ふたりの事だから。夢の中の私が、”ああ、もう嫌だ!” と、どうにも出来ない夢の中の現実にぎゅうっと締め付けられたところで目が覚めた。

下らない夢だった。それに、大して怖い夢でもない。だけど、そういう気持ちを思い出した。大きな圧力に押し付けられそうになる感じ。嫌だという気持ちはしっかりとあるのに、それを吐き出せないとき。私は違うと思っているし、それは良くないとわかってるのに、私が私を押さえつける。すごく嫌なのに。絶対に嫌なのに。これはきっと私の心の癖なんだと思う。完全に離婚のトラウマからやってきてる。

少しして起きた周ちゃんに、さっきの夢の話しだとか、昨日話した山若くんとの事を聞いて貰った。「俺は、よしみが作っていたの、凄く良かったと思ったよ。」私の作ったものが変更になったことを気にしてたんだろうか。山若くんは編集長だから意図に従わないと。私の想いに気づいたんだろうか。「今の面白い話しだね。」周ちゃんは嬉しい時に私の頭を撫でる。あまり綺麗じゃないと思う話を、私は別に綺麗ばかりじゃなくていいやと思って話しをすると、喜んでくれる。「行動パターンだよね?」「まぁ、その一つだよね。」「いいとか悪いとかじゃなくて。心理学勉強してるっていうのもあると思うんだけど、なんだか客観的に見ちゃって。」「うん。そうだね。」「嫌な奴だよね。私。」「いや、すごく面白い話しだったよ。悪い話しはしてないよ。話してくれて有難う。」

周ちゃんが出かけてからも、しばらくずっと胸がつかえていた。外の空気が吸いたくて駅前の本屋に欲しかった心理学の本を買いに出かけた。ついでに薬局に行ったり、スーパーで魚を買ったり。だけど、頭はずっと夢や山若くんとの話を考え続けた。このわだかまりは一体何なんだろう。山若くんのアドバイス。それが私の景色と異なってる事をありありと感じてる。けど、それは悪いことじゃない。それに、私が見たくない景色の話が面白くなかったとしても、それが凄いみたいに話されても、それをやってみたらとか、彼女や有名な写真家まで例えにだして話されても嫌なものは嫌だ。ただ、山若くんが悪いって事とは全然違う。

帰宅してからフミエさんにメールを入れた。”フミエさん。今回の作品って皆んなのものだけど、フミエさんらしさが出ているかどうかって、考えてもいいと思っています。編集意図に沿ってもいいし、沿わなくてもいいし。私自身、考えるべきだと思ったので、気になったのでお伝えしました。もし、必要があれば、私の写真を使って下さい。” “よしみちゃん。ありがとう。私も実は今日考えてたの。”

自分らしさってなんだろうと考えたり、誰かに合わせなきゃと自分を隠してみたり、あっちに行ったりこっちにきたりと忙しく考えて嫌になるときがある。別に好きでこんな風に考えてるわけじゃないのに、こんな事を感じてしまう自分が悪いような気さえしてくる。私は写真を撮るのだから、ああでなきゃ。こうでなきゃ。みたいな余計な事も勝手に色々を手伝ってきたりして。だけど、違う気がした。大事なことは、誰が、自分がじゃなくて、みんなで一緒に対話できるような場所があるかどうか。食卓と一緒。目の前にあるご馳走を分け合って食べる。勝手に檸檬をかけたり、好きだからと独り占めしたり、食べ方が間違ってると指摘したり、そんな事をしたら誰かは気持ちがいいかもしれないけど、誰かは楽しくなくなる。美味しいねって、それぞれがそれぞれの感覚で心やお腹を満たせれば、一緒に幸せになれる。

ここ最近、もう日記はやめようかなって思ってたけど、やっぱり書く事にした。私が嫌なことを考えてしまっても、今朝みたいに周ちゃんがいいよって言ってくれて嬉しかったし、山若くんが、夕飯を撮っていたら「イートニューミーやっとる!」と叫んでて、なんだか嬉しかった。合宿、楽しかった。色々な事を考えた。

黒酢のチキンカレー

カレー 28.6,2022

午前は近所にある病院で健康診断を受けた。待合室でやっぱりと思って周ちゃんにLINE。私がもやもやしてたこと。なんだかここ数日厭だったことを少しだけ書いて送った。メールで伝えるのはよくないから今夜周ちゃんの友人が来る前に少しだけ。多分、PMSのせいもある。変なことまで色々と考えた。この人と結婚する意味ってなんだったのだろう?心がひっくり返したみたいにパタンと私は違う色になって、二日間、周ちゃんには触れなかった。触れて欲しくなかった。

朝に梃子の散歩にでると、周ちゃんから手を繋いできたけど、私はそっと手を離した。周ちゃんは昨晩から気づいてる。「俺が悪いんだよね。ごめん。」って寝る前に言ったけど、どうして嫌なのか整理のつかない気持ちを閉じて、「今日は暑いね。」と言って背中を向けて寝た。周ちゃんは私のどこに惚れたんだろう。現代美術を学んでる彼にとって、文化人類学と共に生きてきた彼にとって、数々の作品や偉業を成した沢山のアーティストと肩を並べて仕事をして、そんな恋人がいた彼は私のどこに魅力を感じたんだろう。女や人生に疲れちゃったんだろうか。

私みたいな中途半端な女が周ちゃんを満たすには半日で十分な気がする。写真作家になるのはいつかに諦めたし、だからって商業にどっぷり浸かるのも拒んで、どれもこれも私なりの塩梅で世界から見てきた答えがこれだ。

中途半端。そして、それは私らしい。偉くも凄くもならなくていいけど、強くなりたいとも思わないけど、私は私の声を聞きたい。こんな私のどこが周ちゃんの心を動かしたのかさっぱりわからない。そして、最近の周ちゃんは以前よりももっともっと私を好いてる。庭に置いた朝顔の鉢を毎朝覗きにくる子供みたいに、私を見てる。その眼差しがくすぐったくもあり、嬉しくもあるけど、本当に全くわらない。それに、今日だってまた私は怒ってる。けどそれは周ちゃんが私の怒りについて褒めてくれたからだ。「よしみの良いところは怒ること。誰かを貶める為のものじゃなくて、何かを変えるきっかけになるから。すごいと思ったんだよ。」何がどうなってるのかやっぱりわからない。ただ、私が私を思いっきりに生きようとすると周ちゃんは気に入っていくように感じる。

夜にキュレーターの高橋くんと、佐藤くんが家に遊びに来てくれた。佐藤くんはベーグル作りにはまって、先月に岡山までパン屋の修行に行ってたのだそう。美術館と食というテーマで新しい事業を立ち上げようと考えてるのだとか。3人で仕事の話をしてる。私の知らない周ちゃんを見るのが私は好きだ。緩やかな曲線が私と混じり合ってる時も好きだけど、メガネひとつとっても、その際立った輪郭に胸が少し赤くなる。周ちゃんじゃなくて、夫とか、男みたいに見える。

高橋くんは東北の美術館へ4年間いくのだと聞いた。新しい仕事、新しい暮らしが始まる。あちらでの生活がどんな風になるのか想像しただけでも楽しそう。仕事、芸術、雪。そこはどんな世界なんだろう。素直にすごく羨ましい。最近、私は変わりたいと強く望むようになった。東京にいる時はこのままでいる事を常に考えてたのに、真逆だ。なんなら、もっと田舎へ、海外で暮らしてみたいとも思う。私が知らない私を世界の事を知ってみたい。東京の仕事や東京の友達も大切だし大好きだけど、味をしめちゃったみたいだ。有名レストランで食べる有機野菜がのったお皿の上はインスタで見たとおりに華やかで美しいけれど、田舎で食べる地場野菜は舌の中であまりに刺激的で私の記憶を掴んで離してくれない。人生があと何年かわからないけど、ちゃくちゃくとビンゴカードを潰していくよりも、ビンゴしてみんなに凄いねと褒められるよりも、ビンゴしないって決めちゃうのも野蛮で私らしくて素敵かもしれない。どうせ死んだら消えちゃうのだから。