カテゴリー: Flower

アネモネ

Flower 13.2,2021

「私は覚えてるよ。彼が向き合うことから逃げたんだよ。」

何だか毎日の中に埋もれてしまって、離婚を後悔してるみたいって事をメッセージすると春名さんが教えてくれた。私の記憶は断りもなく勝手に色々を忘れようとしてるみたい。そしてストーリーを上書きし始めてる。あの日々の事を彼女は覚えてる。全てじゃないけど、殆どを知ってる。口には出せない様な事も。春名さんの言葉がずんと身体に響いた。そうだった。彼は逃げた。通り魔みたいに人を刺して逃げた。顔を隠して、私しか知らない顔を隠して逃げて行った。

夜中に姉から電話が来る。ポールさんのアビュースについて苦しんでた。今、結構ダウンしてる。ずっと私に同意を求めてくる。「わかるよ。」何度もそう返した。

何だかどっと暗い気持ちでベッドに潜った。よくわかるから聞きたく無いって思ったけど、姉と話して良かった。それに、友達に感謝してる。私の不幸を覚えていてくれて、ありがとう。

気持ちの良い朝。過去を思い出したら、何だか強くなれる気がした。昨日買ったアネモネが朝陽の中で気持ち良さそうに開き始めた。強く生きるっていうのはこういう事な気がする。

バジルの花

Flower 19.8,2020

成城石井の横に定期的に出してる花屋を帰りがけに覗く。隣にいたお婆ちゃんが「桔梗を頂戴」って、お店の女性にお願いした。「お花、家にあるといいのよ。仏壇に飾るの。」一緒にお婆ちゃんの話を聞いた。うん、お花があるといい。生きてる物が家にあるってすごくいい。

母が花の仕事をしてたから、うちは青い匂いがいつもしてた。玄関にはバケツが沢山置いてあって、何かの帰りがけに仕入れをお願いしてる花屋に寄って帰るのがいつもだった。ダイニングテーブルで仕事の花を活けたり、畳の部屋で生徒さんに教えてる。それが母で、それが花だった。剣山や花器のある部屋に行って触って出したりしまったりするのが好きだった。花が綺麗なのは知っていたし、それは別に特別じゃないって思ってたけれど、今は特別。そこにあるだけで、気持ちがいい。

子供の頃に母の本棚にある華道の本を読み漁った事もあったけれど、覚えてない。一度、二十歳を過ぎてぷらぷらしてた時に、お花教えてって母にお願いしたら直ぐに断られた。「お金を払って勉強してきなさい。」って。「じゃあ、やめる」。小学校に上がる前、青山の小原流会館に通うのにいつもくっついて行った。お弁当持って。確かマイメロディーのピンクのお弁当箱。マイメロディーの顔の形をしたむちゃくちゃかわいいやつ。帰りは表参道の駅前でダンキンドーナツに寄るか、アメリカのお菓子を売ってる店で不思議なお菓子を買うのが楽しみだった。「お金を払って勉強しなさい。」今はその言葉がよくわかる。

好きな事には好きなだけお金を使おう。そんなとこでケチったら心がすれる。それに、興味が無いならやらない方がいい。辛い事も頑張る事もしなくていい。自分が好きな事を思い切りにやろう。バジルの花を沢山買って帰った。すごくいい香り。

ベージュのケイトウ

Flower 14.8,2020

夕方に撮影が終わって帰ってきた。いい写真が撮れた。
なんだか変な話で毎日こんなに頭が破裂しそうで地獄なのに、ちゃんと睡眠が撮れているからなのか、いい写真が撮れる。レンズを覗く時にしーんってなって、じーっと見れる。その時だけ胸の痛みは感じない。静かな中で落ち着いて撮れる。睡眠って本当に本当に素晴らしい。

撮影が終わったのなら、今日はもう終わり。もう何もしたくない。私の生きる時間が終わったみたいになるし、嫌な夜がこれからくる。さっさと今日を終えたい。財布を持ってオオゼキへ向かう。ぼんやりと買い物かごに何かを入れてる。花売り場を通る。目がぴたりと止まった。ベージュのケイトウ。初めて見た。絶妙な色でむちゃくちゃ可愛。桔梗やガーベラなんかに混じって一際輝いてる。お洒落すぎてびっくりした。添えてあるピンク色のケイトウとの色合いが抜群で目が覚めた。帰って空いた牛乳瓶に飾る。唸るくらいに可愛い。