
「マッチングアプリして!」
編集の山若君から相談を受けたのは、小豆島のレストランで。あれから数ヶ月、本当にマッチングアプリをする事になった。私は私じゃなくなって、誰かと出会う。そういう企画。
何だか抵抗あるなっていう気持ちと、どんな世界なんだろうっていう興味。だけど、いいよって返事したからにはやろう。勇気を出して登録。写真が苦手だから、私の顔写真が携帯の中には殆ど無い。昨年に伊勢神宮に行った時の写真を思い出した。友達とのライングループからダウンロードして登録。
「自分じゃない人になって欲しい。」そういうオーダーだったけど、そもそも、今の私は自分が誰なのかわからない。ついこないだまで、私は別の姓をなのって、死んだら入る墓は大阪だったのに、今はまた別の名前だ。マイナンバーカードは、次の更新まで新しくならないみたいで、大きく表示されてるのは今の私の名前じゃない。備考みたいな箇所に米粒より小さな文字で、今の名前が書いてある。きっとあと6年間、マイナンバーカードを出す度に、私の名前は違うんですって備考欄の本当の名前の事を説明しなきゃいけない。だけど、一体、本当の私ってなんなんだろう。
午後、山若君と駒沢のスノーショベリングに中村さんに会いに行った。「マッチングアプリで誰かになって、と言われても、今の私は空気みたいなもんだから、既にもう誰だかわかんない。」って、二人に言った。だけど、その意味が理解出来ないって言われた。そりゃそうだと思う。私だって今の自分がわからないんだもの。上手く説明出来ないよ。
「今の私を例えるなら、理科室の端っこにある人体模型。半分出てて、ヒリヒリするでしょ。不安でしょ。半分無いよね。」中村さんは、それいいねー!って喜んでたけど、結局、二人には理解されないまま話は終えた。
マッチングアプリでメッセージが来る人との私との会話もよくわからない。私は誰と対話してるんだろう。よくわからない見えないメッセージのやりとりを続けてる。