帰りたい。
18年前に使ってたAriaを、当時買った店にメンテナンスに出したら、なんも問題ないって。お店のお兄さん、終始嬉しそうだった。私も嬉しかった。「雑に扱ってたのに」って言ったら、「簡単に壊れたら困りますよね」って。カメラは何台壊したのだろうと思うけれど、Ariaは壊れなかった。
帰りたいなとずっと思ってる。けど、私が帰る場所ってどこなんだろって思ったりもする。ただ、誰の写真でもいいから、そこにいさせて欲しい。こっちの世界に来てから、自分は完全たるマイノリティーだったんだと気づいた。良い面で言えば、なんとかここまで生きながらえてきたねという自分への賞賛。悪い面で言えば、マジョリティの中に浸かる感覚を思い出したこと。正直、とんでもなく辛くて、何度も大学院やめると言った。今のところ未遂で終わっているのは、正直、それが正解なのかもわかんない。
古い記憶というのは、封印するためにあるのではないかと思うほどに、過去のことを忘れてる。もしかしたら、忘れたことにしていたのかもしれない。逃げて逃げて、逃げまくって、ここまできたのだろうに、すっかり忘れて、大学院へ喜んで入学した私って、本当に馬鹿なのだろう。
勉強は嫌いじゃないけど、誰かが嫌いな訳じゃないけど、いやだ。院生仲間に相談を受けることもちょくちょくあるし、年代関係なく仲間と戯れ合うのも好きだけど、集団になると嫌になる。同じ方向を向く巨大な矢印。もしくは、平らな土地のように、よくならされた平野の上に立された時、私に当たる風がなんだか強いように感じる。思い違いなのか、いや、なんだろう。違和感だけじゃない。小さくしっかりと積み上がっていく罪悪感がヒリヒリとしてくる。
別にフツーの人なんだけど、なんてことない人なんだけど、苦しくなる。こないだ今むちゃんと飲んで、安心したんだった。久しぶりに、安心して飲んだ。今むちゃんは、さらさら艶々の長い髪を無造作に束ね、カウンターでタバコを吸いながらウーロンハイを飲んでた。夏に彼の個展の最中に、その艶々を三つ編みに結ったのだけど、可愛かったな。
飲んだ帰り道、過去に私がかけた言葉に腹がたったのだ、と急にカミングアウトしてきたけれど、すごく嬉しかった。咄嗟に謝ったけど、心の中ではニヤニヤした。素直に世界が愛おしくなる。どうか、私を晒さないで欲しいなと思う。隠れて生きていたいなと思う。欲しいものなどないのだから、そっとしておいてほしい。帰りたい。