カテゴリー: Journal

8月21日

Journal 21.8,2023


久しぶりに飲みすぎたせいか、二日酔い。気持ちが悪くてデスクに向かえない。頭がぼーっとするから勉強は出来なし、手を動かすだけの編集作業だって無理だ。リビングのソファーに転がってバリのホテルを探してた。午後は病院。なんとか重い身体を引きずって向かう。

今日は院長先生だった。こんなに大きな病院の先生だから、さぞかし偉そうな方なのだろうと勝手に想像していたけど、どこかの小さな島で小さな病院でのんびりと何十年と診療を続けていそうな、穏やかなおじいちゃん先生だった。「乳がんもちゃんと検査してね。」と言ってた。

帰って少しだけ勉強して夕方から周ちゃんとプール。帰りにずっと気になっていた町中華に入って、タンメンと餃子を頼んだ。狭くもない広くもない店内で夕方のニュースが鳴っている。耳を傾けると富士山が混雑大変だみたいに言っていた。常連さんが次々に店に入ってきて、「いつもの。」とか、「ビール。」みたいに手短にオーダー。私達の注文も頼んでから10分もしないうちにやってきた。ラーメンは驚くほど熱くて、炒めた野菜はくたくたで、麺はぶよぶよに伸びてる。

私も周ちゃんも綺麗にラーメンを平らげて店を出た。「ぶよぶよだったね。」「うん。」私達の会話もそれ以上でもそれ以下でもなかった。それよりも、そこに住みついている空間の温もりみたいなものが味わえたようで思いのほか気分がよかった。たぶん、周ちゃんも私と同じことを感じていたと思う。

今日からまた色々と頑張ろうと予定を立てていたのに、二日酔いでダウン。何やってんだろうと情けなくもなったけれど、感じたり考えたりすることをシャットダウンするっていうのは悪くなかった。夜は早々に寝た。

8月20日

Journal 20.8,2023


夕方から編集の成田さんとリリさんと東長崎にあるイタリアンで飲んだ。RiCEの東京特集で取材した店だそうで、素敵なお店だった。成田さんの最近の恋の話をつまみにリリさんと私とあれやこれやと勝手なことを言って飲んで食べて、ほどよく酔っ払って、店をすぐ隣にあるMIA MIAにかえて、ドーナツにかぶりつきながら、またワインを飲んだ。リリさんはアマレットが入ったカフェオレを注文。小さな街の日曜日の夜、どこからともなくやってきた若者だとか外人だとかでごった混ぜになった熱気むんむんの店内はのぼせそうだった。私もカフェオレだったなと後悔。

出来るだけ静かな場所を探して逃げ込むようになったのはいつからだろう。成田さんの声が遠くに聞こえたり、見知らぬ男の子と目があったり、全部が懐かしい感じがした。あの人たちは今どこで何をしているんだろう。夜だけしか会わない友達もいたし、名前を知らない友達もいた。今は子供とサザエさんでも見ているんだろうか。バカみたいに真夜中を共にして、泡のように全部消えていった今、かすかな記憶だけが残ってる。どこまで行っても終わりの見えないような長い時間を費やしたはずなのに、死ぬ時には思い出さない気がする。それくらいに少しだけしか残ってない。

リリさんは編集という仕事が自分には合ってないと言ってた。成田さんはこないだ紙面でタイの取材をしてからより一層に海外の仕事を増やしたいと言ってた。二人の対極的な話をそうかそうかって聞いた。自分にいつも正直でまっすぐなリリさんと、どんなことがあってもくじけずに前へ向かおうとする成田さん。それぞれにそれぞれの人生があって、これからはまたそれぞれになっていく。私がもうきっと会わない友人たちも、それぞれにどこかへ向かって行ったように。

久しぶりに会った二人と、久しぶりに飲みすぎたお酒。駅まで迎えに来てくれた周ちゃんは起きて待っていてくれたんだろう。眠そうな顔でハンドルを握る。ああ、変わったんだと思った。私が自分で決めた人生だ。田舎暮らしも、大学生活も。スムーズに感じられないのは、なんだかしっくりこないのは、私が勝手にしたこと。あのまま東京にいたら、ずっと同じでいられたのに。変わるのは孤独で不安で苛々する。

ふたりに会えて良かった。


パンケーキ

Journal 11.8,2023


久しぶりに寝坊した。起きたのは6時過ぎ。昼過ぎまで勉強して午後はプール。夜は柳澤さんのお家へ遊びに行った。うちから車で12分。湖のそばだと聞いていたけど、こんなに近いなんて驚いた。

柳澤さんは周ちゃんのことを「イケメンだ。イケメンだ。」と何度も言ってた。そう、周ちゃんはイケメンだ。絵に描いたようなイケメン。意思のあるしっかりとした眉に、真っ直ぐと見る目。鼻筋は上にすぅっと通り、背も高い。腕や肩にはTシャツの上からでもわかるくらいの丁度いい筋肉がのっている。おまけに肌もツルツルだし、ハゲてもいない。それでいて仕事もできる。出会ったばかりの頃、「女性とは面倒な関係になりたくないので、距離を置いて付き合うようにしてる。」という言葉を聞いたけれど、ああ、モテる人が言うやつ、と思った。

友人、知人に紹介すると、周ちゃんのことを素敵だと皆が口を揃えて言う。だけど、その度にじゃあどうして私だったんだろうと少しだけ胸の辺りがさわっとする。

2人の箸は皿の上でぴたりと止まったまま、民俗学や歴史の話で盛り上がっていた。柳澤さんはとても不思議で素敵なお姉さん。編集者やライターっていう雰囲気じゃない、どちらかと言えば文筆家や漫画家みたい。独特な空気感がある。そして、何だかいつも小さく笑っていて、一緒にいると勝手に空気が和んでいく。ふたりを見ながら柳澤さんが築地で買ってきたというカツオを食べ、ワインをガブガブと飲んだ。遠くで花火が鳴ってる。涼しくて心地のいい部屋。義母のさちこが漬けてくれたというお新香と梅干し。さちこが漬けた胡瓜は義父のけさおが畑で作っているものだそう。美味しくないわけがない。酸っぱい顔をしながら梅干しをつまみワインをまた飲んだ。

私は民俗学も歴史も知らない、だからって他の文化圏にも大して興味がない。恥ずかしくなるほどに色々を知らない。今、流行ってる曲や本や映画だって知らない。私にあるものと言えば、ほとんどが我流で覚えた料理と写真ぐらい。自分のことを蔑むわけじゃないけど、やっぱり周ちゃんが私を選んだ意味がわからない。ひとりポツンとしながら、食事を続けた。末っ子だからか、こう言う時間は嫌いでも好きでもなくて慣れてる。耳だけふたりの場所に参加した。酔っ払う柳澤さんはやっぱり素敵だった。

今夜は飲みすぎたな。周ちゃんはどうして私だったんだろう。自分を嫌うのはもうやめようと決めたけど、少しだけ不甲斐なく感じた。何もない毎日が好きなだけじゃだめなんだろうか。そんなことは誰も言ってないのに、私がそう言ってる。




7月24日

Journal 26.7,2023


昨日、母に貰った花。実家に帰ったら母と父が新婚旅行で行った時のハワイの写真を思い出した。何でだろう。何でかな。

7月25日

Journal 25.7,2023


昼過ぎから腰痛が始まった。痛い、やばいな。周ちゃんに熱が少し上がってきたこと、腰痛が辛いことを伝えると、「今日はやめておこう。」だった。夕方に渋谷植物園のリニューアルのプレスリリースに行く予定がある。けど、。せっかくだしな。周ちゃんもその為に在宅にしてくれたのに。「車で駅まで行ってもいい?」「もちろん。けど、無理しない方がいいよ。」

腰痛は軽くなるどころか時間と共に悪化していった。やばいな。途中、騙し騙し、youtubeで勉強しながら何とか気を紛らわして渋谷へ到着。人でごった返した駅。どんどん開発されていく渋谷だけど、昔も今も、いつまでも完成しない中途半端な感じがむしろ渋谷らしくて好きだなと思った。やっぱり、ここは落ち着く。

こないだライターの柳沢さんが、田舎暮らしが好きだけど、今でも東京に帰りたいと思うことがある。と言ってたのを思い出した。二十歳ごろからここで遊んできた。隣の駅に住んでいた時は歩いて帰ることもよくあった。それは1度目の結婚の時。その10年くらい前、中目黒に住んでいる時はよく自転車でここを走っていた。青と緑を足して割ったような色のお気に入りのビアンキに乗って。

ほっと全身の力が抜けてゆく。植物園まで歩く道のりは誰か友達に会えそうな気がしたし、通り一つだって色々な思い出がある。その昔は黄色のビーチクルーザーに乗っていた。その時はこの通りの先の恵比寿に行く手前の自転車屋で一目惚れして買った。まだ大学生でお金がなかったから、割と安いビーチクルーザーは手が出しやすかったし、少しだけカスタムした。

到着すると編集の浅井さんが迎えてくれた。今日来たのは、浅井さんに誘われたからっていうのが1番の理由だけど、今住んでる場所で土地のことを知りたいと料理家の角田さんと活動を始めたこともある。ここの館長に就任されたアーバンファーマーズの小倉さんに会ったのは、ワールドの仕事で何年も前のこと。あの時はラフォーレの前のビルの屋上でポートレートを撮らせて頂いた。暑い夏の日で前日に畑で熱中症になったと辛そうにしていたのを覚えている。その小倉さんといつも仲良くさせて頂いてる浅井さんが知り合いだなんて、世の中とは面白いもの。

浅井さんが丁寧に隅々まで新しい植物園のことを紹介してくれた。バナナとマンゴーの電磁波から作ったというアンビエントな音楽が流れている瞑想ルーム的な部屋も面白かったし、屋上はお茶の木とビールのホップを育て始めたというのも、嬉しそうに話すその感じが、すごくよかった。私は場所は人だと思ってる。そこで楽しんでる人たちがいるからこそ、その場所へ会いに行きたくなる。だって、渋谷がまさに私にとってそうゆう街だったから。

それからLFCコンポストの代表のたいらさんっていう女性を紹介して頂いた。もちろん、あのバッグ型のコンポストはもうずーっと何年も前から知ってる。コンポストを始めようと思った時に一番初めに気になった商品でもある。最近、我が家では夏で微生物が活性化していることも手伝ってコンポストブームが来てる。生ゴミがどんどん土に返っていく様子は見ていて楽しいし、そこで捨てた野菜から新たに芽がニョキニョキと育っていくのも楽しい。たいらさんには我が家のコンポスト事情の話を少し聞いてもらってアドバイスを頂いた。正直、お会いできて無茶苦茶嬉しかった。想像していたような感じの方ではなくて、ずっとずっと素敵で素朴な女性だった。

コンポストは環境問題のことで3年前に東京のマンションのベランダで始めたけど、今は違う。コンポストの中で循環する世界を目の当たりにできることが楽しいとか、それは生ゴミを処理してくれて、豊かな土を作ってくれて、なんなら新しい野菜の芽まで育ててくれる。環境のためというよりも、今はご褒美と言った方がしっくりくる。ただ、楽しいからやってる。結果、誰かのためにもなってる。たいらさんと話をしていて、大事な事をちゃんと思い出せた気がした。それに、そもそも、環境のためにという理由だけでは中々楽しめないっていうのもある。マスト的な考え方はどうしてか辛くなってしまうから。

結局帰宅したのは20時。もう腰痛は悲鳴を通り過ぎて感覚が半分麻痺してる。あまりの痛みに空腹までもが奪われてしまうくらいに。帰宅してもしばらくは床に転がっていた。しばらくしてからシャワーを浴びた。周ちゃんはせっせと洗濯を取り込んでくれたり、梃子にご飯をあげたりといろいろをやってくれてる。夕飯は周ちゃんが造った天ぷら饂飩。天麩羅は帰りに駅前で買ったもの。生姜をたっぷりすって食べた。食事を済ませて布団へ寝っ転がった。ああ、辛い。どうしたらこんなに痛いんだろうってくらいに痛い。

天井を見ても壁を見ても痛い。携帯を見たって痛いし、”腰痛、緩和” のキーワードでgoogle検索し続けるだけだ。しばらく痛みに打ちしがれながらぼんやりと考えた。外で見る周ちゃん、かっこよかったな。何度かエレベーターや駅で私ぐらいの中年女が何度か周ちゃんを見ているのを見た。「私の夫よ。」なんてことは思わない。周ちゃんは私の物じゃないし、今はたまたま私と一緒にいるだけ。そうじゃない。彼女たちに、わかるよ〜と共感したかった。だって電車で口開けて寝ているのを見ても、なんてまぬけな顔をしているんだろうと放って置いたくらいだもの。周ちゃんは周ちゃんであって、私は私。同じ姓を名乗ってるけれど、他人であり、どこまでいっても自分ではない誰かだ。

家を出ると、周ちゃんはよりいっそうに他人になって、何だかいいなと思った。家にいる周ちゃんも好きだけど、外にいる周ちゃんも結構いい。外にいる周ちゃんが服を着た周ちゃんで家にいる周ちゃんは裸って感じだ。見えない部分があるというのはとってもいい。ひとり勝手に想像してニンマリした。

7月23日

Journal 23.7,2023


千葉から帰宅するとまゆみちゃんから手紙が届いていた。勉強のこと生活のこと、ヨーロッパのどこかの海へ行った話、そこで水がきらきらしていて綺麗だったとか、HUGOにこんな話をしたら、こう言ってたんだよ。とか、日々のことが少しずつ丁寧に書いてあった。何だろう、特別になにってわけじゃないし、小さな日々の話なのだけど、胸がじわじわと温かくなっていく。

もし、私達が文通していなかったら、まゆみちゃんの毎日のことはきっと知れないだろう。インスタの写真は、きっとパリの素敵な街並みや美味しいご飯のことは教えてくれるかも知れない、旅先の綺麗な景色だとか、猫の可愛い姿なんかもきっと見れるだろう。だけど、そうじゃないこと。誰にも言わなくてもいいけど、自分にとっては大事だったり、少しだけ特別なこと。たぶん、思い立って切った前髪ぐらい誰も気づかないようなもの。

海から帰ってきて、海の手紙を読むのはなんだかとてもいい気分だった。今すぐにでもまた海に行きたい。夕飯は母が作ったしらすと焼き鮭の丼。帰りに母が作った色々をどっさりと持たされた。お稲荷さん、春雨サラダ、魚介のアヒージョ、アスパラの肉巻き、サーモンと海老のヨーグルトサラダ、ワカメと胡瓜の酢の物、後は昼に揚げたのだろう天麩羅。

海から帰ってきて、海の手紙を読み、母のご飯を食べる。こんな幸せなことはない。

ピーナッツバター

Journal 12.7,2023


みつきさんを駅まで送って、そのまま周ちゃんとプールへ行った。昨日、今日と3時から勉強してる。ちょっと睡眠不足ぎみだ。リフレッシュのつもりで行ったプールだったけれど、思いの外泳いで、酸欠で頭がズキズキしてる。帰宅して横になると、気付いたら夜だった。

なんだかすごく疲れてる。駅でハグしたみつきさんは、思ったよりも小さかった。さっきバイバイしたばかりだけど、みつきさんにまた会いたい。

夕飯

Journal, 夕飯 05.7,2023

毎日のもの、例えばオムレツの形だとか、そんなことがあまりに愛おしく思えた日だった。

生理が近いのかな、今日は珍しく車に乗るのが怖いと思った。こういう日はなんでも怖い。胸のあたりがざわざわする。「やっぱり電車で行こうかな。」「もう免許とってから、半年乗ってるのだし、技術的に言えば何も問題ないよ。だけど、怖いと思うなら電車で行ってもいいんじゃない?」周ちゃんが言った。免許取り立ての頃は不安に思う日があったけれど、今日みたいな気持ちは久しぶりだ。

どうしよう。迷っているうちに時間だけは勝手にすぎていった。もう出る時間だ。急いで機材を積んで出発した。いつからそれが消えたのかはわからないけれど、車を走らせて10分も経たないうちに今朝いきなりやってきた恐怖はどこかへ去り、いつものように走っていた。畑には少し早く着いた。今日は映像の撮影。

映像を撮り始めたのは2年前。その時の映像を見た角田さんが声をかけてくれた。角田さんは、時々、驚くようなことを言う。知らない時間のことを知っているかのように話しだす。今日もまたそんなことを言ってた。

午後はキッチンでの撮影。和彦さんがいつものように角田さんのお手伝いをしてる。髪がさっぱりしていて夏らしかった。ふたりは時々、喧嘩してるのかな?って思うことがある。かと思えば、楽しそうにふざけあって話していたりする。まだ出会って半年くらいしか経ってないけど、たぶん喧嘩はしてない。じゃれてる。そんなことも少しづつわかってきた。

和彦さんがオムレツを焼いて、角田さんが、あ、いつものねって顔をした。「真帆ちゃん、あぶないよ。」和彦さんが角田さんのことを真帆ちゃんって呼ぶ音がどういうわけか、すごくすきだ。何度か和彦さんが角田さんに言った。角田さんのトウモロコシの切り方を心配してる。

「オムレツ、この形は綺麗じゃないけど、こうゆう綺麗じゃない方が美味しかったりしますよね。」真ん中でぱっかりと割ったオムレツ。私には潔く黄色だけのオムレツは綺麗に見えた。

和彦さんは途中で歯医者に出かけて角田さんとは陽がくれる前まで話した。帰りに渡したいものがあると言い、アロマのスプレーをくれた。

生活がすきだ。本当にだいすきだ。そこだけに存在する会話、風に揺れる洗濯もの、割れたオムレツ、夕方の音が部屋に入ってきて、キッチンは薄暗くなっていく。

綺麗じゃない方が美味しかったりする。その言葉が染み渡るようにわかる。だけど、私にはそれがあまりにも愛おしくて仕方がなかったりもして、ただ嬉しかった。綺麗だった。写真は撮ってない。撮れば良かったと後悔する気持が半分。残りは無理に撮るよりもここにしまっておきたいという気持が半分。

最近、写真からは離れてる。だけど、より近づいてるような気もする。

7月3日

Journal 03.7,2023

腰深く座り、足は裸足で投げ出して座ってる。空いた皿はカレー皿かな、となりにはサラダが入っていただろう器がある。汗のかいたグラスはきっとアイスティーだ。片手には本。ただ、だらしなく思うままに読書にふけていた。

駅の上にある本屋の隣接したカフェで遅い昼食をすませていた中年の女性を見て思った。人生、そんなに頑張らなくたっていいのかもしれない。私もあんな風に全部を投げだしたい。彼女は主婦かな。仕事を休んでいるのかやめたのか、フリーランスなのか、子供はいなそうな感じだ。さっき本屋で立ち読みした益田ミリさんの本を思い出した。まるで本から出てきたみたいな女性だった。

朝一番で行った病院。正直、面倒だった。実際のところ、本当に妊娠したいかもわからない。昨年に流産した時はまた妊娠してみたい、なんて思ったけれど、今の生活を失ってまで本当にしたいのだろうか。今、私が一番に望んでいることはテストに受かることだ。あとはエーゲ海で青をたくさんみたい。青い空、青い海。目に写る世界を青でいっぱいにしたい。

「卵がないのよ。昨年の流産がやっぱり悪かったかな。」耳がタコになるくらい聞いた。とはいえ、まだ数回しか病院には行ってない。だけど、もうその先生の声のトーンに嫌気がさしてる。だけど、周ちゃんにはまだ言ってない。先生のその重い声を聞く度に、「別に大丈夫ですよ。」と喉まで言葉が出てきてやめる。だって、私、別に今のままで十分に幸せなんだけどって。年齢的に卵が少ないことくらいわかるよ。私は羽が生えてないのに空を飛びたいなんて思わない、いたって現実的な性格だから。

朝一番で病院に行ったけど、「診察は午後からです。」冷たくあしらわれて病院を出た。一度家に帰るのも面倒だしと駅前で時間を潰したのが悪かった。好きで始めた勉強も思いの外、不安になることが多い。先週くらいに周ちゃんに聞いた。「勉強、苦しいけど楽しい。こんな勉強ばっかりしてる奥さんでいいのかな。」「人生の夏休みって思ったらいいんじゃない?俺はすごくいいと思う。贅沢な時間だよ。」と周ちゃん。贅沢か。あまり私にはハマらない言葉かもしれない。

ビジネス乗ってハワイ行くとか、ミコノス島でバカンスするとか、そういうのが私の贅沢だ。もしくは、明日地球が吹っ飛ぶんですけど、新宿の伊勢丹でなんでも買ってきてくださいって言われるとか。けど、今の私には伊勢丹に欲しいものはあまりない。帽子好きの母に夏の麦わら帽子を贈ってあげたいくらいかな。

周ちゃんには感謝しかないし、今の私の人生は苦しいとは言っても、私の知ってる苦しみからしたら、遊びみたいなもんだ。だけど、駅前の女性が素敵で羨ましく思った。私、勉強したくて焦ってばかりいる。今の時間でさえ、ここにいないみたいに焦ってる。

頑張りたいとか、手に入れたいものがあるとか、向かいたい場所があるとか、そういうのもいいけど、そうじゃなくてもいい。何かに呪われたように、息をするように勉強ばかりして、一人勝手に苦しんでる毎日を少しだけ投げだしたくなった。今年こそ新婚旅行に行こうと周ちゃんと話してる。勉強が忙しくて行けない気もしたけど、行ってもいい気もした。別にすぐに死ぬつもりはないから新婚旅行なんていつでもいいじゃんとも思う。だけど、私も平日の昼間にダラダラと本屋の前のカフェで本を読むような女になりたいとも思う。

もうここまできたのなら、周ちゃんの言うように贅沢とまでは行かなくとも、これは楽しむ時間なんだ。大学生活は社会からドロップアウトしてるようで後ろめたさもあったけれど、仕事をやめたわけじゃない。何かや誰かにならなくたっていい。

益田ミリさんの新刊を買った。新婚旅行はやっぱりエーゲ海がいい。試験は全部合格したい。

7月2日

Journal 02.7,2023

3時過ぎに起きて勉強して、オンラインで試験。それから、いつもよりゆっくり散歩に出かけて、庭の草いじり。夕方に梃子を美容院に連れて行き、合間に長崎ちゃんぽんを食べにいくことにした。

「あー麦酒のみたい。」「飲んだら?車、オレ運転するよ。」時間は17時前。こんな時間に麦酒だなんて、最高すぎる。「じゃあ、飲む!」

帰宅して風呂に入って8時前には寝てた。すごく疲れた。試験のあとの焼失感、初めての時は魂が抜き取られたみたいになったけど、それも段々と慣れてきた。それに、そうゆうものすべてひっくるめて最近の毎日が結構好きだ。この街もこの家も暮らしもちょっと苦しい勉強も。単調だけど、小さい日々を積み重ねてると感じる。

春に植えたトマトや茄子はあっという間に私の背丈くらいに延びて、次々と実をつけてる。

6月26日

Journal 26.6,2023

昨晩は寝苦しい夜だった。隣で周ちゃんはぐーすか寝ていたけど、枕の横にいる梃子は、はぁはぁと舌をだして熱そうに呼吸していた。時計を見ると時間はまだ夜中の12時。

南西にあるベッドルームの角に出窓が2つある。奥ばった作りは全て白で統一されていて、この家の好きな場所のひとつだ。ベッドルームに朝陽がはいること。これは私の引っ越しの条件だった。白いシーツに、白いカーテン、他の全部も白だけの部屋が朝陽でサーモンピンクに染められていく時間が好きだから。この家を見つけるのは結構大変だったけれど、好きな場所じゃないと暮らしたくないと周ちゃんを困らせただけある。だけど、一つ問題がある。それはベッドルームにクーラーがないこと。

半分融けた梃子とブランケットと一緒に1階の和室で寝ることにした。そして、クーラーの中で梃子と気持ちよく寝るはずだった。昨日、試験勉強をするために3時半にかけた目覚ましが鳴るまでに何度起きたことだろう。クーラーが効きすぎていたのか、どうにも上手く寝れなくて夢に何度もうなされた。

人は記憶を忘却できる。それは失うことを意味してない。自分さえもわからない場所へ失くしてくれるってこと。私の中のどこかへ。ちょっと前に脳の中にある記憶という場所のことについて学んだ。

多分、数日前に二度と連絡をとらないはずだった中目黒の居酒屋の店主から電話があったからかもしれないし、昼に見た是枝監督の怪物っていう映画のせいかもしれない。

「よしみさんきっと好きだから。」と、分福にいるナナコにチケットを渡されて見た万引き家族は酷く感動した。怪物も、きっと似たようなものを受け取りたいと期待していたんだと思う。社会の影に住み着いたどす黒いメッセージを、と。けど、あまり消化されずに、映画は終わった。もしかしたら、脚本が坂本さんだったからかもしれない。酷評をしたいわけじゃなくて、ただ、私の期待が外れただけ。

けれど、描写の美しさや時より不安になるような曖昧な時間は、万引き家族に似た何かを少なからず受けたのは確かで、隠していた筈の記憶が詰め物の下にいる虫歯みたいに小さく疼いた。それに、あの映画は病気が酷くなった頃に一緒に見た映画だ。待ち合わせの時間に来ない夫が電話の向こうで割れるような音で怒っていた。池尻大橋のマンションで、「後で。」と別れたのは2、3時間くらい前のこと。不安は的中した。もうあの頃は無茶苦茶だったから、上映が始まる直前に連絡がとれたけど、とくに驚かなかった。またあの時間が来たんだなって思ったくらい。

「だから、もう作らんでええから。」呆然と立ち尽くす私がいた。

男の大きな声が終わる頃、私の言葉は詰まる。喉に何かを詰め込まれたみたいに、そのまま心までそれが押し込まれたように。私がご飯を作るから悪い。その言葉がどうにも辛かった。どうして、喜んでくれる日があるのに、怒る日もあるのか全然わからなかった。出来る事といえば、気持ちを押し殺すことくらい。それに、作った食事が勿体なく見えて、かわいそうな気がして嫌だった。いや、本当はそれは私のことで、私が可哀想に見えて、けどそんな風に思いたくなかった。

あ、。忘れてた。夢から覚めて一番初めに思ったこと。池尻大橋のマンションに私達はいた。今さっきまで。昔のように冷たくなった食事と朝陽と、癇癪のとまらない元夫。世界から逆行したようなあの時間の中に。

そして、次の瞬間に思ったのは、現実はここだよ。じゃなくて、怖いだった。怖い。肌がひりひりした。それと同時に世界はどんどん過去に侵食されていく。夜はもっと黒くなって、私の温度はその中に飲み込まれていくみたいだ。どうしよう。いや、大丈夫、大丈夫だと思う。けど、不安はどんどん大きくなっていった。椅子に座ったけど、また立って、お茶を入れたけど、口を付けないまま。わからなくてベッドルームへ向かった。

静かに寝る周ちゃんがいる。背中に触れると温かい。とにかく、くっつけるところは全てくっついた。私はここで生きたい。

夕飯

Journal 22.6,2023


帰宅したのは18時過ぎ。今日の撮影は思ったよりもずっと早く終わった。帰りがけに編集の成田さんにタイ土産だというピーラーを頂いた。私は数日前に発売した冬に撮った料理本をあげた。

駅まで周ちゃんが梃子を連れて車で迎えにきてくれて、駅前で買った鯵と鯛の刺身を片手に車に乗った。雨はまだ少し降ってる。車を買ってから生活がぐんと変わった。東京では当たり前のように週に何回もタクシーに乗っていたけど、タクシーはしばらく乗ってない。その代わりに自分で運転をするか、周ちゃんが運転をしてくれる。車を買ってから半年くらい経つけど、まだこれが現実だとは本当は思ってない。ちょっと変な感じがしてる。

夕飯は貰ったピーラーでソムタムを作ろうと麺棒を探すが一向に見つからなかった。その時点で疲れがピークになってきて、きっと乱雑な感じで引き出しを閉めたのかもしれない。閉まる筈の棚からカトラリーがガラガラと大きな音を立てて床に落ちた。「ああ、もう嫌だ。」

最近は、”あ、枯渇した。” っていう瞬間がわかるようになった。それまでなんとか頑張っていても、急に力尽きてしまう。別にストレスが前より溜まったからっていうわけじゃないけど、なんだかそうなった。

「疲れちゃって。もう生姜をすりたくなくて、冷奴はやめた。」食卓におかずを並べながらボソッと周ちゃんに伝えると、「そういう時は僕にお願いして。」と返事が返ってきた。え、。なんだ、そっか。え、そうなんだ。

なんでもひとりでやろうとするのは私の悪い癖だ。そうやって全部を私だけで完結させようとするから苦しくなる。私、なんでもできる。じゃなくて、一緒にやろうって言えばいいだけなんだ。私を苦しめてるのは私。わかってる。

最近の周ちゃんは私の取り扱いに慣れてきている。

6月21日

Journal 21.6,2023

今日は6年ぶりにライターの柳澤さんに会った。初めてお会いしたのは神保町の蔦が生い茂ったような喫茶店だったような気がする。暑い夏の日で店内はすこし薄暗かった。その頃はまだ料理写真を始めたばかりで、いつか料理本を撮ってみたい。だけど、どうしたらいいんだろう。料理写真の何が正解なのかもまだよくわかっていなかったのに、とにかく料理本が撮ってみたい。そう思っていた。だけど、それは夢みたいなものでもあった。

その頃は編集者の友達なんて全然いなくて、出版社に出入りしているざおーに相談すると、先輩を紹介してくれた。それが柳澤さんだった。そして、その1年後くらいにたまたまリンネルの撮影で長野でご一緒して、撮影が終わってから長野の街を一緒に歩きまわったりもした。森岡書店の森岡さんのお手伝いをしてる、とか、器が好きだとか、文を書く以外のことでも、気が赴くままに働き生きてる、私の知らないずっと遠くにいる大人の女性って感じだった。

今日は料理の撮影。現場で数時間ご一緒して、帰り道もずっとお話をしてわかったことがある。この不思議な空気感は大人だからじゃなくて、柳澤さんのものなんだ。掴めそうで掴めないようなふわりとしていたもの。それが何なのかはわからないけれど、側にいると、とても心地がいい。

それから、もう一つ、すごく驚いたことがあった。それは、ご近所さんだってこと。以前に仕事が遅くなったら渋谷とかに泊まってると聞いたことがあったけれど、まさかのまさかだ。

帰りの電車で、「この土地の好きなところを3つ教えてください。」と、聞いてみると、1つ目に湖、2つ目に裏山、あとは、湖までの遊歩道がいいとか、有名な建築家らしい人が作ったという森の中にある墓地を教えてくれた。酒好きの柳澤さんのことだから、酒の店の話になるだろうと予想していたけど、実際にその場所に立ってみないとわからないような、目を閉じても肌が感じるような場所ばかりだった。写真では簡単には撮れないであろうもの。形あるものを撮るのは簡単だけど、感覚的なもの、例えば、光景みたいにその場所を全身を使って感じるものを写真にするのは難しい。だけど、記憶の中に五感で残るものはずっと掴んで離さない。恋をした日に聞いた誰かの唄や、泣きながら食べた味のわからないご飯とか。

今度、近所で飲みましょうねと約束をして、LINEを交換して別れた。

6月17日

Journal 17.6,2023


午前は病院へ行って、帰りに周ちゃんと駅前のフードコートで昼食をとった。私はモスバーガーで、周ちゃんはいきなりステーキ。来週試験だから、こんな事してる場合じゃないのにな、なんて考えながら、食事を続けた。周ちゃんは紙エプロンにジュージューと飛び跳ねる油を気にする事なくナイフとフォークで夢中になってステーキを食べてる。

「さっきの看護婦さんの話さ、私わかったんだよね。」「???、どういうこと。」「言葉が形みたいに見えて、聞いた言葉を一時的に置いて記憶しておきながら、体型的に言葉を並べていけるっていうか。次にこれで、さっきはこれでって頭の中で組み合わせして。前はできなかったんだけど。っていうか、実は私、耳が悪いのかな。昔から人の話、聞けないんだよね。たぶん50字以上になると、言葉がぜんぜんわからなくなるっていうか。道を聞いても、最初の角を曲がって以降は覚えてられない。だから、大体、人の話は聞いてない。絵とか形だと記憶しておけるし、道も一度通ったら忘れないんだけど。」「え?どういうこと。」「多分、勉強を初めてから、沢山の文章を読むようになって、文字情報を記憶できるようになって、それがビジュアルと共に構成することで理解できるようになったのかな。勿論、感情的な話はできるよ。どんなに長くても。それは文字情報のことじゃないから。」

周ちゃんはすごく面白い!と言い、目をまんまるくして、私にあれやこれやと質問して、ホリエモンの話をしてた。「それ、似たようなことをホリエモンも言ってたんだよ。」ホリエモンがそうだったていう話ではないけど、確かに似たような話だった。

「それ、noteに書いた方がいいよ!すごく面白いよ。」って、周ちゃんはしきりに言ってた。

なんだか、ちょっと心の病気と似てるなと思った。心の病を持ってる人は、気づかない場合が多い。正確には気づいているけど、気づけない。大体の人はきっと、病と言えば、風邪のように寝込んだり、怪我のように動けなくなることだと思ってる。だけど、心の病はいきなりやってくるものもあるけど、時間の連なりの中で起こっていくものも多い。

他人から見たら困難そうに見えるものでも、本人にとっては日常であり、それを補うなにかもある。だから気づけない。

私のは、あまりに文章からかけ離れた生活をしていたからで、似たような感覚を受ける人も少なからずいると思う。けど、noteに書くほどのことかな。まぁ、いいや。とりあえず、周ちゃんは楽しそうだった。

6月14日

Journal 14.6,2023


朝、散歩に行く前に1Fの機材入れを整理していると、来週に使う撮影用の機材がないことに気づいた。え?嘘でしょ。どこ?え、忘れた?まさか。捨てるのが得意な癖に忘れ物には異常にふだんから神経を尖らせてる。その理由はよくわからないけど、必ず、自分がいなくなる場所を見返す癖があるのはずっと昔からそうだ。全然、記憶にない。けど、勉強を始めてからというもの、私の殆どの記憶は勉強で消費されていってると思う。「昨日の中華さ。」「え?なんの話。」「え?!」こないだの周ちゃんの驚いた顔を忘れられない。酷くけげんな顔をしてた。

手帳を開いて、その機材の在処を記憶をたよりに探してみると、4月4日。LEEの撮影だった。まじか。スタジオに連絡するも、忘れ物はありませんと直ぐに回答があった。だよね。スタジオさんなら直ぐに連絡をくれる筈だ。まさか、電車?あんなに大きな機材、電車に忘れるかな。幾つか乗り継いでる。あちこちに電話や警察の遺失物検索のページで探しながら、同時に新しい機材が直ぐに手に入るか調べた。44,000円。大きくため息。

中々繋がらない電話が繋がって、それらしき物が清瀬駅を経由して飯田橋の警視庁遺失物センターにあるとのこと。今日は周ちゃんは飯田橋の本社にいる。朝、いきなり本社へ行くと言い出し、出かけて行った。こんな事ってあるもんだな。周ちゃんに連絡して代理で取りに行ってもらうことにした。

なんだか機材探しであっという間に昼も過ぎて、撮影の準備をして、遅い午後から仕切り直して心理的アセスメントの勉強。ネットで試験の傾向を探してみると、”5回落ちてます。”とか、”この試験が受からな過ぎて留年しました。” “この教科のために5、6冊読みましたが全然わかりません”とかとか。不安になるコメントばかりだった。試験内容も全くよくわからない。構成既成概念が、妥当性が、信頼性係数が、。なにこれ。教科書はもう読み終えたのに、なんのことだか全くわからない。雨雲が広がっていくみたいに、気持ちがどんどん暗くなっていった。この試験、本当に受かるんだろうか。

なんか、私、ダメだ。こんなに勉強してるのに、。どうして上手くいかないんだろう。そもそも、普通にフォトグラファーとして頑張って仕事してるだけで良かったんじゃないか。そしたら、友達とも遊べただろうし、好きな物を買って、週末は好きなようにお酒を飲んでいた筈だ。周ちゃんとだって、あちこちにドライブへ行って。もっともっと本当は料理がしたいし、仕事もしたい。なんでわざわざ、こんなに大変なこと始めちゃったんだろう。バカみたい。心理学は楽しいけど、なんだか医療みたいな話も多いし、統計学みたいな数学的なことや、哲学のように概念の話もあるし、もうなんなの。

だめだ。プールに行こう。”周ちゃん、何時に帰る?” “じゃあ、18時ね。” 参考書とプールの支度を持って駅前へ向かい、西武で生ワカメと発酵バターと食パンを買った。なんか全てが上手くいかないような気がして哀しかった。けれど、夏みたいな夕方の風はやさしくて、せめてもだねと思った。

今日のプールは混んでる。ふくよかな女性がいて、最初はダイエットの為に通ってるのかなと思ったけど、多分、昔に水泳を競技としてやっていた人なのかもしれない。海の生き物みたいに水の中をするすると泳いでいく。なんて素敵なんだろう。綺麗だな。しばらく呆然と見てた。人って、その人にしかできないことがある。なんだか、すごく感動した。

「夕飯の支度をしてないの。」「じゃあ、あそこの中華行ってみる?」帰りがけに寄った中華。店内はガラガラだったけれど美味しかった。「今日は飲ませて。」ビールとレモンサワーを飲んで、帰りにセブンでポテチとビールを買って帰った。周ちゃんはダイニングテーブルで梅仕事を始めて、私はソファーでビールを飲みながらLINEニュースを開いた。ひさだな。最近は携帯も殆ど触らなくなった。「周ちゃん!広末涼子が不倫だって!知ってる?」「どうでもいいけど、知ってる。」周ちゃんは何度も枕詞のように、「どうでもいい」と言ってた。広末涼子のことが好きだったのかな。それとも、芸能ニュースをバカにしてたのかな。どうでもいいネタをニュースしたっていいじゃんと思った。不倫か。広末涼子は幼馴染の佳代ちゃんと同じ高校で隣の席だったと聞いたことがある。私にとってはそれぐらいの記憶で、同じポケベル世代ってだけ。記事には2度の不倫だと書いてあったけれど、昔、薬物の話もあった気がする。人って変わらないんだろうなと思った。家族がいるのに、そんなに自分の人生が大事なのか。なんだか、昔を思い出すようで少しだけ辛くなった。

今日はもう嫌だ。勉強はしない。

ハヤシライス

Journal 12.6,2023


今夜はハヤシ。今日は久しぶりに家でずっとひとりだった。やっぱりひとりの時間が好きだなと思う。周ちゃんは先週から毎日ミュージアムへ出勤できるようになり、そのおかげで私の時間も戻ってきた。「今日は充実してたんだ」と伝えると、「勝算はなに?」と周ちゃん。「うーん、天気かな。」とだけ言い食事を続けた。

今日は本屋でダビンチを読んだそうで「今月のダビンチに書いてあったんだけど、リリさんが最近プールに行き始めたんだって。」と言ってた。「あら、我が家と同じだね!」と笑った。プールに行きたい。一昨日も行ったけど、もう行きたい。こんなにプールにハマるとは思わなかった。周ちゃんも私も春から通い始めたプールにすっかりハマってる。水の中で静かに身体が沈んでいく感じがたまらない。世界からいなくなれるような感じが気持ちがいい。日々には色々があるけれど、プールでは勝手にするすると流れていく感じもいい。夏にリリさんとビールを飲みながらプールの話をしたいなと思った。

夕方に角田さんからメールが入っていた。大事なメールだった。直ぐには返せなくて、大切に読んでから返すことにした。多分、前はもっともっと夢みがちな毎日だった。今はその逆で、現実のことをよく考えてる。ついた傷については、どう痛いのかなとか、してもらった優しさについては、どうしてこんなに嬉しいんだろうとか。

だからって、現実から逃げちゃいけないとも思わない。そうやって今を生きてる友人や、大変な人のことも知ってる。ただ、私は逃げないほうが調子がよかっただけ。角田さんとの新しい制作は、目的があるようでないからいい。一番素敵だなと感じるのは、いつも誰かのことを考えてること。目の前のことをちゃんと見てるんだなって感じる。それに、未来の話をしないのも好きだなと思うことの一つ。

がんばろう。がんばりたい。

6月11日

Journal 11.6,2023

朝は少しだけ寝坊した。起きたのは5時半。

勉強とは別に進めてる認知行動療法の独学。これが結構面白い。以前にちょっと嫌なことがあって、勉強の一貫に認知行動療法を使ってセルフケアしてみようと思ったのがきっかけだ。自分が実験台なら失敗しても成功しても、どちらにせよ勉強は出来るし、効果があればラッキーだなって。

勉強前に本を片手に療法を試してみる。なるほど、なるほどね。

ちょっと前から考えていたこと。noteに心理学の勉強の合間にメモしているようなことを書いてみようかなって。だけど、noteはいまいちわからない。以前に別の企画でちょこっと書いたことがあったけど、使い方もよくわからず、どうにもしっくりとこなかった。それに、あれはライターとか文章が上手い人が書いている印象がある。綺麗な文章、私には書けないよな。どうしようかな、。ぼんやりと考えているうちにあっという間に半年くらい経った。

なんでもひとりで解決しようとするのは私の癖だ。やっぱり周ちゃんに相談してみよう。なんだか今日はそう思った。「あのね。」「なに。」「これ美味しいね。」「うん。それで、なに?」「うーんと。」朝食を食べながら、話したいのに言い出せない私。

「ちょっと、note気になってて。心理学のこととか、。」周ちゃんは直ぐに「いいじゃん!」と賛成の声をあげた。それに少し嬉しそうだ。それから、使い方とか、どうやって書いたらいいとかアドバイスを沢山くれた。周ちゃんはフィールドワークの記事をnoteで書いている。

「タイトルどうしよう。」「noteには記事のタイトルはあるけど、それ以外だとマガジンがあるよ。」「あ、違うよ。どういう感じでいこうかなって。フォトグラファーです。なのか、心理学科の大学生です。なのか。中年の女の独学日記とか。」「あーなるほどね。それはプロフィールに書くものだね。」「そうか。じゃあ記事のヘッダーにタイトルみたいの入れたいんだけど。」「”人には言えないこともある。” これを手書きで書くの、どう?なんか変?」「うーんと。ピンクの手書きはゆるくて賛成だけど、この文章だとちょっと暴露とか、悪いことをこれから言いますみたいな感じがしちゃうかな。心理学日記、くらいの気軽さがいいと思うよ。例えば、”心理学を勉強してみて感じたこと” とかね。わかりやすいのがいいよ。」「ぐちゃぐちゃとか?」「うーんと。それはわかりずらいから、だらだらとか。」「むにゃむにゃは?」「いいね!寝言みたいでいいじゃん。よしみいつも寝言言ってるし。それに、独り言っぽくていい。」「あはは。確かに。じゃあ、むにゃむにゃ日記? いや、”今日もむにゃむにゃ考えてる” にしよう。」

日々気になってること、仕事や写真、友達、人間関係とかとか自分に起きたことを心理学的に解決してみたり、考えてみたり。私ひとりで楽しんでやってることが誰かのためになるならいいけど、本当に書けるのだろうか。

“今日もむにゃむにゃ考えてる” ネーミングは最高に気に入ってる。

6月1日

Journal 01.6,2023

周ちゃんにブチ切れた。私は周ちゃんの家政婦じゃない。周ちゃんだってそんなつもりはないかもしれないけど、実質そんな感じになってる。家事の殆どは私。ミュージアムへの送り迎え。待ち時間は、駐車場やファミレスで時間潰しながら勉強してる。とは言ったって、そんな移動中の勉強は集中できないし、細切れの時間を上手に使うのは難しい。そして、今日も朝4時前に起きた。もう睡眠不足と苛立ちが限界だった。

だって、周ちゃんが倒れてからもうすぐ1ヶ月。確実に多くの時間がロスになってることは確か。写真撮りたい。仕事したい。勉強したい。友達に会いたい。遊びたい。買い物したい。ワイン飲みたい。

5月26日

Journal 27.5,2023


来週の予定だった美容院。夏に向けて大人っぽいボブにでもしてもらおうかと考えていた。だけど、急遽いけなくなったので、今日思い立ってパーマをかけてきた。

なんだか、レポートを出してから、急に寂しくなった。勉強は寂しい。今まで以上に友人とは遊べなくなったし、日記を書く時間も減った。お酒も我慢してる。写真だけは撮ろうと思っているけど、それにしたって孤独だ。

” 寂しい。” パリのまゆみちゃんへの手紙に書いてみた。「孤独なの。」一昨日に周ちゃんにも相談してみた。

好き好んで中年になって大学に行き始めたのは私だ。勉強はとにかく楽しいし、ずっと勉強してる。それと同時に私の過去が、私が持っていたものがどんどん失われていくのも感じてる。

こんな気持ちになりながら勉強したくない。寂しいと感じるのは仕方ないこと。だって自然現象みたいなものだもの。けど、。なんだか不意にずっと同じような髪型してる自分が、変わらない人の性格みたいに見えた。

人は簡単には変われない生き物。生物として命が曝されるくらいな状況にならないと、中々重い腰が上がらないらしく、脳はできるだけ無駄な資源を使わないようにとしてるのだと何かで読んだことがある。生命維持のために。変わりたがらないワタシがいたとしても、変わりたい私はここにいる。そう、ワタシの考えもわかるけれど、私は努めることができる。

全然ちがう想定外の感じにしよう。インスタで髪型を探してみると、クルクルパーマの女の子がでてきた。「今日はどうしますか?」「この髪型にしてください。」

別に誰かにお願いされて私をやってるわけじゃない、どんどん捨てちゃえばいいと思った。帰り道、ショーウィンドウに写るクルクルになった私がいた。なんか別人。けど、いいかも。

料理家の角田さんと新しいプロジェクトが始動してる。ワクワクやドキドキもあるけど、今回のプロジェクトは今までの制作のように興味や、自分が得たい欲望の為のものじゃない。なんだか、試みに近い感じだ。それは、角田さんとの偶然の出会いであったり、その人柄に受けた影響であったり、周ちゃんとの結婚や新しい土地での生活、私が過去に経験した色々とか沢山の理由が含まれている。ただ、気があってとか、盛り上がってやろうとしてることじゃない。

今まで閉ざされた世界ばかりに私の注意が引いていたのは、そういう世界のことが知りたかったからだろう。だけど、たぶん心理学の勉強の影響もきっと大きい。心理学って人の心を知る学問かと思っていたけど、人の事を救うために作られた学問だったから。

やることは今まで通り写真を撮ったり映像を撮ることだけど、矢印が指し示す方向は、より広い場所へ、より多くの人のために向けられ始めてる。角田さんは料理も、料理以外でも、いつもその先に誰かがいる。今の私も同じ気持ちがある。家族や友達にできることは、沢山の人にもできると信じてる。

新しいことを始めよう。

5月23日

Journal 23.5,2023


なんだか、やっぱりまだ疲れてる。

昼は周ちゃんを車でミュージアムへ送った。周ちゃんの打ち合わせが終わるまでタリーズでPCを開いて勉強のスケジュールを立てたり、メールを送ったり、溜まっていた色々を片付けた。あと、美容院の予約と、まつ毛パーマの予約もした。もう女を忘れてしまいそうなくらいに今の私はいろいろと酷い。せめて下着だけでもと思うけれど、あいにくの生理でデカパンを履いてる。いくら体調が悪いからって周ちゃんに愛想をつかされそうだ。

それに、昨日に続いて、まだ泣きたい病は続いてる。朝から雨も降ってる。焼き鳥屋にでも行きたい。こないだ、アキちゃんは時々、焼き鳥屋にひとりで行くっていう話を聞いたけど、本当にあの娘はいい。女って生き物を十分過ぎるくらいに楽しんでる。彼女ほど楽しんでいたら、「残ってるのはロクでもない男ばっかり」なんて、中年女の愚痴も世界から消失するんじゃないか。いい男っていうのは、結構あちこちにいる。焼き鳥屋にだっているのだから。

それに、パリのまゆみちゃんだってそうだ。届いたばかりのまゆみちゃんとHUGOさんの似顔絵、ダイニングテーブルに飾ってるからか、食事をする度に思う。いい女だねって。

私はまゆみちゃんのほんの一部しか知らない。だけど、幾つかの事は知ってる。20代も終わりにさしかかると、東京って街は刺激的な場所ではなくて、ただ流行を繰り返しているだけなんだって事に皆、薄々と気づき始める。私達が出会ったのもそんな頃だった。だからって、東京から出ていく友達は殆どいない中、まゆみちゃんはひとり退屈な東京からパリへと飛んだ。

パリでは何度か引っ越しをしたし、仕事も幾つか変わった。パリはとても素敵な街だ。けれど、それは、いつもまゆみちゃんを幸せにしてくれたわけじゃないことも知ってる。どうにも上手く行かない日だって沢山あっただろうし、寂しい夜の話も聞いたことがある。

定期的に届くカラフルな封筒に入った手紙には、暮らしの中にある小さな幸せの話がいくつも書いてあった。街にお気に入りのカフェを見つけたよ、仲良くなった友達がいい話をしてたの、よしみちゃんのインスタを見て同じご飯を作ったよ。遠いい異国で女がひとり生きていく大変さは、姉からよく聞いてる。日々の小さな小さな幸せは、ポイントカードにスタンプを押していくみたいに一つ、また一つとふえて行き、HUGOさんと出会った日も、きっとスタンプが押されていた。

“今日はデートしたよ。楽しかった。どうなるかはわからないけどね。” と記してあった手紙から1年ちょっと。結婚したのは驚いたけど、私から言わせてもらえば、必然だった。まゆみちゃんと生きるのはきっと楽しいだろう。小さくても、パリの街のあちこちで幸せを見つけてくるから。

幸せって、小さいことの積み重ねな気がする。それに、幸せは特別なことではなくて、日々に埋もれるくらいにありふれたものの方が丁度いい。日々の中で一つずつ丁寧に貯めたものは、そう簡単には無くならないし、増えたら人にもあげられる。

ああ、早く二人に会いたい。まゆみちゃんおめでとう。アイラブユー。

5月21日

Journal 21.5,2023

朝にレポートを終わらせて、午後は少しノンビリと過ごした。野菜の植え替えや雑草をぬいたり、数週間手入れできていなかった庭が少しだけ綺麗になって、なんだか日常がまた戻ってきたようで嬉しかった。忙殺されていた日々の中で、あれやこれやと、やらなきゃいけない事の殆どを中身も見ずにしまい込んだ1ヶ月。こうして今日も平和に流れているならば、大して必要なことでは無いのかもしれない。そう考えてみると、生きる上で大切なことはあまりない気もした。

周ちゃんの体調は昨日より今日って感じで、ここ数日でどんどん良くなってきてる。今日はリハビリに外食してみる事にした。家から30分のところにある饂飩屋さん。人が沢山並んでる。どうやらマツコの番組に出てたらしい。こういう店はだいたい美味しくない。周ちゃんに「店を変える?」って聞くと、「せっかくだし、並ぼう。」とのことだった。饂飩は案の定、美味しくなかった。けど、隣の夫婦かカップルが美味しいねって楽しそうに食べてるのを聞いて、なんだか気分は良かった。味っていうのは、複合的なものだから。誰がつくって、何処で食べて、どんな食材で、有名っていうのも最近じゃ味のひとつだ。それが美味しいと思うその人の心が味わってる。

夕飯はモツの野菜炒め。余ったモツは明日焼きそばに入れようってなった。

5月20日

Journal 20.5,2023


昨日あたりから周ちゃんの体調がいい。「少し、リハビリをしよう。」周ちゃんを連れて、ドライブがてら買い物へ出かけた。来週締め切りのレポートが1本残ってる。けど、そんなに難しくない。精神疾患なんちゃらっていう科目。少しくらい出かけたって大丈夫。

昨晩は元夫が夢にでてきた。私は会いたくないと拒絶を続けてたけど、会わなきゃいけないっていう夢だった。どうしていきなり出てきたのか。けど、その夢を見せてるのは私自身だ。今度の課題の教科書では、元夫の病気の事も載ってる。その頁は、読まなくても読んでもスルスルと入ってくる。なんなら加筆もできるくらいに沢山の事を見てきた病のこと。

これ以上は考えるのをやめよう。過去は過去だ。今や過去を未来をぐちゃぐちゃにすると、生きるのが苦しくなる。

5月12日

Journal 12.5,2023

テーブルの上の芍薬が気づけば枯れていた。全く気づかなかった。右手の痛みは今日もしくしくと続いてる。周ちゃんは目を開けて食事をすることが出来ないみたいで、おにぎりを作ってる。一日に何回おにぎりをつくるんだろうか。握るたびに手が痛い。一日でも早く良くなってほしい。レポート提出まで一週間を切った。それから、周ちゃんの誕生日までも一週間。

5月10日

Journal 10.5,2023


母から電話。来週の誕生日のことだ。「ママは24か31がいいかな。ずっと仕事が忙しくて、そこしかダメ。」「わかった。予約入れておくから。」誕生日は母が好きな浅草のレストランに行く約束をしてる。母がいつからそこに通ってるのか知らないけど、子供の頃からそのレストランの名前はよく耳にしていた。

「それで、周ちゃんはどう?」「早いねぇ。あっちゃんに聞いたの?」女っていうのはほんとうにすごい。私が離婚した時も殆ど人に会ってないのにあっという間に広まったもんだなと思ったけれど、悪い話ほど光よりも早いスピードで飛んでいく。

母とは周ちゃんの体調のこと、それからとばっちりを受けた父や兄、カイトの体調の話。庭のゴーヤの苗をあげるだの、姉の家の庭になってるロメインレタスがすごいだのって、どうでもいい話をぺちゃくちゃと30分以上話してた。子供の頃はおばさん達のどうでもいい話が長くて退屈で、「もう、明日になっちゃうよ!」って母に本気で怒っていたけれど、自分がいざそのおばさんの年齢になってみると、どうでもいい話っていうのは時間をあっという間にたいらげる。母との電話を切って、しばらく和室で勉強していると2階から周ちゃんが降りてくる足音がした。ガチャン。そのままトイレへ。

めまいは止まったのかな。そう思った瞬間になんだかいつもと違う音がした。あれ、もしかして。直ぐにgoogle mapを開いて総合病院を探した。いや、嘘だよね。いや、嘘なら嘘でいい。母の言葉、本当にならないよね。「よしみを未亡人にしないでよ。」「ママ、それはそれだよ。仕方ないでしょ。けど、若いうちに病気で死なれるのは嫌だな。」周ちゃんのお父さんは脳の病気で亡くなった。周ちゃんも頭痛持ちで、神経質で、いろいろと細かくて優しくて真面目で。そして、数日前の吐き気とめまい。いまは多分。トイレで嘔吐を繰り返してると思う。

数十分して出てきた周ちゃんは洗面所で手や口を洗ってる。「周ちゃん。吐いてたよね。病院、やっぱり行こう。」昨晩、明日は整体へ行こうかなと話してた。前に同じようなことがあった時に整体へ行ったら大分楽になったのだそう。けど、私はあまり賛成じゃない。その整体は周ちゃんの紹介で行ったことがあるけど、結構なヤブだった。悪い先生じゃないのはわかる。けど、背中ぎっくりの私の背中を押していた。背中ぎっくりは背中の筋肉が破れる症状。破れたところを触ったらますます悪化する。

「明日の朝の状況で整体に行くか、脳外科に行くか考えよう。私、車だすからね。」

急いであちこちの病院へ電話をかけた。うちに来るなら紹介状が必要だの、それだけの症状じゃ何科だかわからないだの、感じの悪い電話が続いた。一昨日に行った耳鼻科へもう一度電話するようにと言われ、電話番号を調べると休診日。マジか。周ちゃんはどんどん衰弱していってる。なんか気がないっていうか、存在がどんどん無くなっていくような。どうしよう。

「今から行ってもいいですか?数日前に行った病院が休みで。」「はい。大丈夫ですよ。ぜひお越しください。」

何時間病院にいたんだろう。診察室へ入った周ちゃんは1時間くらい出てこなかった。だけど、きっと大丈夫。診察室の中にいれば、先生がいる。点滴でも打ってるのか、倒れて寝ているのかどちらかだろう。鞄いっぱいに持ってきた参考書を診察室の出口をちらちら見ながら読み続けた。

「熊谷さん?」看護婦の女性に呼ばれて診察室へ入ると目をつぶった周ちゃんがいた。病名は、良性発作性頭位めまい症。名前の通り突発性の病気で原因も不明だが、一度かかると再発率は20%と高確率の病気。今回は脳には異常はないとのことだった。良かった。

帰宅したのは13時を過ぎていた。家を出るときに、朝ご飯を食べていなかったし、空腹でイライラしたら嫌だなと思ってキッチンにあった残り物のご飯を急いでラップで包み鞄に放り込んだ。すっかり忘れてた。具も味もない白いおにぎりは参考書に潰されて底の方でぺっちゃんこになってる。ラップから少しだけはみ出した米がipadの先にベッチャリとついていた。ああ、そうって思っただけで、濡れたティッシュを持ってきて拭いた。こういう時は感情が変になってるのだろう。うんともすんともしない。

午後は午前できなかった分を取り戻そうと急いで勉強を始めたけど、なんだか上手く進まない。今やってるところが難しいからかもしれないし、まだ気が動転しているのかもしれない。それに、今日はいつもなら停められないような地下の狭いギリギリの駐車場に停めたり、慌ててチェンジレバーをパーキングにしないでエンジン切ったり、病院でも先生に沢山の質問をしていた。なんだかなんなんだろう。私じゃないみたいだった。ものすごく慌てていたけど、強くてしっかりもしていた。

焼きそら豆

野菜, Journal 09.5,2023

午後過ぎに周ちゃんがミュージアムから帰ってきた。吐き気とめまいが酷いらしい。夕飯も私がそら豆を口に含む度に美味しいとうるさいから、きっとつられて食べていたのかもしれない。昨日病院で薬を処方してもらってたけど、症状は悪化してる。

カツオ丼

Journal 07.5,2023


周ちゃんが数日ぶりに帰宅した。漁師みたいに灼けた肌。ちょっと別人みたい。帰ってすぐにハグをしたら溶けるみたいにホッとした。だけど、数日間のひとり暮らしはやっぱり最高だった。私が大金持ちだったら、東京かどこかに絶対別邸をつくるだろう。マンションの小さな一室じゃなくて、ちゃんと綺麗に光の入る、ベッドもダブルベッドの別邸を。それは夢のまた夢の話だけど。

午前に納品を終えて、急いで電車に乗って代々木公園へ向かった。夕方前に青山のアップルストアの予約をいれてる。買ったばかりのapple pencilが壊れたからだ。夏みたいな天気の今日。風だけは台風みたいにビュービュー吹いていた。代々木公園、思い出の場所だ。本当にここではよく遊んだ。仕事をサボったり、デートをしたり、写真も沢山撮った。渋谷は私が一番好きな街なのかもしれない。今ほど流行っていなかった奥渋や上原も好きな場所だった。自転車であちこちを走った。朝が来るまで好きなだけ思いきりに遊んだ。クリスマスにデートしたレストラン、ビルの一角にある友達の古着屋、代々木公園の交番前交差点で恋に落ちたこともある。その彼とは宮益坂の交差点で深夜に長いキスをした。

今日は山形からでてきたざおー家族と、昔よく遊んでたメンツが集まって代々木公園でピクニック。みんなそれぞれに家族が出来て、お母さんやお父さんになってたり、立派になっていたりと、話す事が沢山あるような気もしたけど、何から話していいのかわからないような。結局、最近あったような事だけを話した。後は風が強くて、砂埃がいろいろを持っていってしまったように思う。

色々と想うことがあるはずなのに、思い出せないことが沢山ある。だけど、思い出のことよりも、時間は変わったんだってことを考えてた。みんなとは20代の頃に出会ったけれど、今は40代そこそこ。もう、誰も渋谷では遊ばない。

駅前で生カツオを見つけて買って帰った。カツオの叩きを作って、ご飯を炊いて酢飯にしてカツオ丼を作った。久しぶりの周ちゃんとのご飯。私と結婚してくれてありがとう、不意にそう思った。口には出さなかったけど、代わりに周ちゃんが大好きだよと伝えた。

昼間、和美ちゃんが「よしみちゃん、幸せになって本当に良かったね。」って言ってた。今が完全な幸福?とは言えないけど、昔の私と比べたら180度違う世界を生きてる。家は安心で安全な場所に変わった。夫にもう振り回されることはない。寝ないで仕事に行くこともないし、泣きながら仕事へ向かうことも無くなった。撮影中にものすごい数の着信が携帯電話に残ることも無くなった。歯の奥をぐぅっと食いしばらなくなり、代わりによく笑うようになった。

時間はみんなそれぞれに自由に与えられている筈なのに、私はどうしてあんなに苦しい場所にいたんだろう。夫のことを愛していたからだけど、本当にそれだけだったんだろうか。

時々、今でも考えるけど、答えはきっとノー。

4月25日

Journal 25.4,2023


朝の3時半、目覚ましは20分後に鳴る予定。起きたくない。しばらく目をつぶっていたけど、頭の中だけが混乱しつづけてる。結局、今から逃げたって意味がないことくらいわかってる。30分もしないうちに諦めてベッドから起き上がった。昨晩は周ちゃんにしがみついて寝た。私の苛々や不安を知ってるのか知らないのか、何も言わずに周ちゃんは本を読んでた。

もう生まれてから何度もやってるから知ってる。この不安は悲しい不安だ。信じていたものが失われていくときのもので、人それぞれに色々な悲しみがあると思うけれど、私の場合、信頼が消えていく時にじわじわと深い悲しみがやってくる。

逆に言えば、人を信じることが好きなんだろう。そうして生きることがわたしの生き甲斐なのかもしれない。未だ夜が続く真っ暗な世界の中で教科書を開いて、ぼんやりと考えていた。

携帯を開くと姉からLINEが入っていた。”なんかあった?” 簡単に説明すると、”だから関わるなって言ったじゃん!” と直ぐに返答があった。あっちは前日の15pmくらい。”修行じゃん。ラッキーだね♡” とまたメールが入った。肩の力がどっと抜けていく。

昨日も作業の合間に何度も考えていた。問題はきっと私がこんな気持ちになってしまう性質だってこと。だから、人を信じるのをやめたらいいとか、関係性をいきなりシャットダウンしたらいいって事じゃない。またやっちゃった、。でもいいけど、世の中にはそうゆう人がいるんだ。で終わらさなきゃいけない。

わざわざ友達や周ちゃんに慰めてもらう事でもない。だって、話したらもっと悲しくなるし、怒りだす人もいるだろう。私の見方を増やしたところで、非の有所を探し当てたところで、私の心はどうにもならない。そんな姿形のない幽霊みたいな気持とは戦わなくていい。

それにしても姉は姉らしくて、いつもいい事を言う。だよねって思った。前に進むには、いつまでも哀しんでる場合じゃない。行動するのみ、だ。

夕方に久しぶりに成田さんから電話があった。来週の撮影の話だったけど、成田さんの彼女の話を聞いたりして結局30分近く電話をしていた。恋が忙しくて仕事どころじゃないらしい。本人が悩んでるところ申し訳ないけどかわいくて仕方がなかった。「ムズかしいです〜!」って電話の向こうで悶絶する姿になんだか気付けば気持は明るくなっていた。

さぁ、前へ進もう。辛いこともあれば、いいこともある。私に平穏を取り戻してくれたのは、人を大切にする人たちだった。