鰤とカボスの味噌汁

Journal 31.10,2020

夕方にふと、7月22日、夫の誕生日の夜の事を思い出す。彼の本心がどこにあろうが、あの夜はやっぱり帰るべきだった。私の夫である前に、ひとりの男として、ひとりの人として、自分の家に帰って欲しかった。

「今夜は少し遅くなる、だから朝に話そう。」夜中になっても帰らない彼に連絡を入れるのは止めた。私が幾ら信じても、それは無力だから。

ずっとずっと前から私は彼の事を知ってたように思う。出会った時、この人はいつか私を捨てるかもしれないって感じた。あれは予感じゃない。彼の仕草に、その言葉の端々に見えてたのかもしれない。私の事だけは捨てない、そうは思えなかった。沢山の人を裏切って、沢山の人が離れていくのを見た。あまり気持ちの良い光景じゃなかった。

彼の通う中目黒の酒場が、どうしても好きになれなくて、馴染めなかった理由はわかってる。昼間とのギャップのある彼を人間らしくて、弱くて、面白い、可愛い、と言う男や女が気持ち悪かったから。一度でいいから、家に来て、彼に殴られてから、同じ言葉を吐いて欲しいと、何度も、何度も心で願った。

彼がまたお酒に溺れていくには、あまりに全てが簡単過ぎたんだ。

酒場が自分の居場所じゃない。そこには楽しい事があるかもしれないけど、そこに答えは無いのに。後悔しても遅いけど、私が後悔してもどうにも出来ないけれど、どうか、帰って欲しかった。

10月30日

Journal 30.10,2020

東京の我が家に帰ると、ポストに少し前に撮影した雑誌の献本が入ってた。
ぺらぺらとめくる。付箋の貼ってあるページにポストカードが挟んである。編集の成田さんからだ。ミミズみたいな文字が愛らしい。

夫のお酒が大変だった時期、すがる想いで西原理恵子さんの本を手に取った。西原さんの夫はアルコール依存症で亡くなった。そういう事が書いてある自伝。本の中で依存症の夫との結婚生活の事を “地獄だった” と表現する言葉にすごく救われた。地獄の事を知ってる人がこの世にいるんだ。

東京に帰った今日は3週間ぶりの心療内科の通院日。
先生には旅行の事は秘密にしたけど、人と時々お酒を始めた事と、今は辛く無い話と、3kg太った事を報告した。先生は嬉しそうに聞いてくれる。「お酒は一杯目はいいんだけどね。」って。その言葉が身に沁みてわかる。そう、一杯目まではいい。

カメラの話だとか関係の無い話を談笑する。「他に何かありますか?」先生が最後に言った。夫の双極性障害の事が頭を過ぎる。多分、彼はこれから鬱になると思う。暴れて沢山の人を傷つけて我儘やりたい放題した後に、誰か側に一人だけ置いて、ようやく自分の時間に入る。

いや、やっぱりやめよう。もう心配しない。考えてもいけない。「大丈夫です!有難うございました。」気持ちよく挨拶して診察室を出た。

私は妻をやめる。夫がした事は現実になってゆく。お互いに死ぬまで持つ事になる現実。大切だった時間よりも苦しかった時間の方が今も強烈に私の中に残ってる。だけど、もう明日も明後日も、明々後日も地獄は来ない。夕飯はピェンロー鍋にした。鍋をよそう度にテーブルに置いてあるミミズ文字が何度か目に入る。人間ってなんて愛らしい生き物だろう。ここは大丈夫。目の前に広がるこの世界は愛に富んでる。


和歌山県の勝浦

Journal 29.10,2020

旅はいい。やっぱりいい。
知らない場所に来て、大きく深呼吸をすると、すっきりする。囚われていた何かが、私から少し離れた所にいるのが見える。東京に帰ったらあっという間にまた堕ちてゆくんだろう。想像がつくけど世界が広い事を知れただけでいい。私はあれから離れて遠い場所ににいけるんだ。

海をじっと眺めると「水平線はいいんだよ。」と言う父を思い出す。父は海が大好きだ。水平線、大人になればなるほどに、好きになる。真っ直ぐに伸びる水の線。勝浦は海の町。海ばっかり見た。水平線をずっと眺める。どこまでも行けるんだ。世界は広いからね。

熊野古道

Journal 28.10,2020

「こっちおいで、お月さんが見えるよ。」海を見ていたおばちゃんが、お湯からあがる時に声をかけてくれた。空を見上げると、明るい月。「あ、綺麗!」

ホテルの露天風呂。目の前にある海から波の音がする。晴れた夜の海が子供の頃から大好きだ。夜が来て真っ黒になってしまった海は怖いけれど、月が明るいから何だか安心する。すんと、胸が静かになる、すごく気持ちがいい。

何だか、今、優しい気持ち。優しい人達といるからかな。

昼間、熊野古道を必死に歩いた。久しぶりに無心になって歩いた。びっしょりかいた汗や、足に溜まった疲れが、私を癒していく。

伊勢2日目

Journal 27.10,2020

伊勢に行った。
「伊勢に行きたいの!行こうよ。」うちでトランプしながら、友人にお願いした。友人って最高だと思う。

私の色々を知らなくたって、側にいてくれる。深く話せない私に、聞いてきたりしない。一緒に今を楽しんでくれる。

夜に、たまちゃんと宿の近くの銭湯に行った。お風呂に入りながら「辛い日ってどうする〜」って話をした。お風呂に浸かりながら、辛い日の話をのほほんと出来る友人がいるって、何だか幸せだなぁって。

伊勢1日目

Journal 26.10,2020

近所の友達、しみるさん、たまちゃん夫婦と、今むと伊勢に来た。この面子は、とても落ち着く。声を荒げる人は誰一人いないし、麦酒を呑んだって楽しく笑ってる。誰一人として、悪態つかないし、大声をあげたりしない。穏やかな男の人を見ると少し不思議な気持ちになる。私が忘れてた世界。

初めて食べた伊勢うどん。
ふわふわで、甘くて濃くて、麦酒にぴったりだった。

雑魚と紫蘇の柚子胡椒パスタ

Journal 25.10,2020

姉が朝から彼氏の話で怒ってる。喧嘩をしたそう。人の悩みっていうのは、簡単に聞こえる。窓から差し込む光が温かい。

「相手のした事は異常だと思うよ。私も姉の考えに賛成だけど、彼も同じ様に姉がわからないって言ってる。どちらが悪いじゃなくて、どうするかを考えるなら、答えはお互いに受け入れる。だけど、ただ一方だけが相手の苦痛を受け入れるだけなら、手を引くしかないよ。彼は苦しくて、自分を救う為に起こした行動だから。それに気づけないなら、苦しみをぶつけ続けるよ。彼は辛いと思う、苦しいでしょうよ。だけど、救われない。」

するすると言葉が手を取るように、想像する彼の痛みさえも大事に運ぶように口から出てくる。何だか自分に言ってるみたいだった。離れれば、離れる程に、自分がした過ちの大きさに気づく。どうして、私は彼を庇い続けたんだろう。

ピェンロー鍋

Journal 24.10,2020

ミュージュシャンを撮った。夫がよく似てると言われる人。だけど全然似てなかった。表舞台の人は何を考えているのかわからない、上手だから。別にそれでいいと思う。ただ、そういうのを、お互いに折り合いをつけるのが難しい。だから私は人を撮るのが下手くそだ。料理みたいに、私の言う事を聞いて、って言えないから。

数年前に写真家の吉祥丸さんが「何も考えないで撮る。」って言ってた。若いのに何だかすごいなって。吉祥丸さんの写真が群を抜いて、いい意味が何となくわかった。師匠もそう、似た様な事を言ってた。「撮れない日は諦める。」

夫を信じる事をやめなきゃいけないって決めてから、世界を諦める事にした。期待するから辛くなる。何だか思った。私、少しだけ、人を撮るのが上手になったかもしれない。

ピェンロー鍋
白菜 1/4
鳥手羽元(鶏肉なら何でも)
豚バラ
干し椎茸

春雨
ごま油 おたま1〜2
※塩と唐辛子、飽きたら甘い醤油で食べます。

豆もやしご飯

Journal 22.10,2020

昨年、料理家さんのアトリエでキムチ作りをした。その時に教えて貰った豆もやしご飯。韓国ではよく食べるんだそう。冷蔵庫に残ってた豆もやしを見て急に思い出した。あ!あれを作ろう。

双子の兄と姉がこれからの事を一緒に進めてくれてる。兄弟LINEで双子のやりとりが続く。夫の事をぼろくそに言ってる。ふざけないと、現実を受け止められないんじゃないか。夫が最低な事は知ってる。出会った時から最低だった。だけど、いい所も沢山あって、けど、最低な所は本当に最低だった。一緒にいて、変わったのに、夫は変われたのに、また戻っちゃった。これから何が起こるのか想像が出来る。だけど、もう見ない。

急に色々が動き出してる。前へ進む為に準備してきた事が、本当に前へ進むと思うと怖くなった。最近はずっと調子が良かったけど、少し頑張りすぎたのかな、午後から頭痛が酷い。4時に麦酒1本とオオゼキにみどり寿司を買いに行く。飲まない方がいいのはわかってる。もっと辛くなる。だけど、飲まなくても今日は辛い。これから沈殿した何かみたいになる。

夫がいなくて寂しい。ひとりぼっちの家が本当は寂しくて堪らない。この家をぺっちゃんこにして捨ててしまいたい。

豆もやしご飯

豆もやし
ごま油



梅干しご飯と火鍋の残りとアボガドマヨ。

Journal 21.10,2020

昨日から急に嬉しい事がやってくる。
まず、伊勢丹で驚くほどに気に入ったコートを見つけた。仕事の時、その辺にぱっと脱ぎ捨てても気にならないような黒とか、少し防水機能があるようなコートにしようって思って探してたんだけど全然いい感じのが無い。頭の中ではもう300着以上試着してる。伊勢丹でおねーさんとお喋りしながら色々なブランドの色々なタイプのコートを7着くらい試着した。私が欲しいのとは全然条件の違うコートが1枚。袖を通した瞬間にこれ!って。けど、予算だってずっと超えているし、黒じゃなくてベージュだ。私の大好きな薄いベージュ。「ちょっと、5分考えて来ます。」って言って、1分で戻って買った。正直、好きすぎて着たく無い。

それに、頼んでた来年度のほぼ日手帳が届いた!毎年誕生日の頃に買って、早々と新しい年の物を使うのが私の新年を迎えるスタイルだ。何だか無性にドラえもんのが欲しくなって、いい歳だし、子供っぽいかなぁって思ったけれど、誰になんと言われようが、もういい!ドラえもんがいい!!ってドラえもんがやってきた。早速開封して、にんまりやって、今は大事にデスクの引き出しにいる。来月の誕生日をスタンバってくれてる。ドラえもんに、時には哀しい事も書く日もあるだろう。だけど、大丈夫。だってドラえもんだから。

午後から、8年間のアルコールの記録に目を通す。これはこれから大切な記録として私から離れていく。自分の感情を乗せないように記さないと、冷静に文章に目を通す。何だか自分の事じゃないみたい。優しい夫はどこにいったんだろう。思い出を必死に真っ黒に塗りつぶしてる。外はもう真っ暗。ああ、お腹空いた。

米をお鍋にセットして浸水させてる間に風呂に入る。風呂上がりに、火をつけてぱぱっと炊く、残り物の火鍋を温めて、アボガドにマヨをかける。茶碗に米を山盛りにして、上にのせて炊いた昆布、梅干しをちょこん。余りに可愛くって、走ってカメラを取りに行った。

バターチョコレートサンドとミントティー

Journal 20.10,2020

朝食はバターチョコレートサンドとミントティーにする。姉と電話で喋りながら食べる。「あのさ、淑美、もしかして未だ戻りたいなんて思ってないよね?」

夜、渋谷で後藤さんと会った。もし運命とか縁というものがあるなら、彼女との出会いはそういうものな気がする。大学生の時にバイトしてた、渋谷の桜ヶ丘にあったWIRED CAFFEの先輩。APCのデニムに白のコンバースが後藤さんのスタイルだった。数年前に近所の居酒屋で遠くのテーブルに白のコンバースを履いてる女性がいる。見上げると17年ぶりの後藤さんがいた。

偶然の再会から1年後くらい。当時よく一緒に仕事をしてたミオちゃんの上司だって事を知る。嘘でしょ?って、あまりに偶然が重なった。こんな再会ってあるもんだ。

「困った事があったらいつでもいいから連絡して。」
私が一番大変だった時、直ぐに家に駆けつけてくれた。私達の間にあった十数年の年月は、あっという間になくなった。「考えたって仕方ないんだから。考えない。進むしか無いんだから。」後藤さんは離婚を控えてる。長い決断を一人で乗り越えた。きっと大変だっただろう。だけど大人な対応だった。もう結婚はしないって。

こういう人と家庭を持ったら、男は幸せに生きれると思う。前向きで過去を振り返らない。淡々と今日を笑って過ごす。「だって、悩んでる時間勿体無いじゃん!」今夜も大きな笑顔で笑ってる。ほっとする笑顔。

何かに宙ぶらりんとなった私は、行ったり来たりを繰り返してる。わかってる、わかってるのに、この現実を受け止められない。私の心には未だ、夫がいる。

鍋のシメに山椒饂飩

和食 19.10,2020

また人が亡くなった。
師匠のアシスタントで一度現場で立ち会った事がある。四人組の女の子達。普通の女の子、高校生みたいにずっとおしゃべりしたり、悪ふざけしてた。可愛らしいなって思った。変わった名前のバンド名だったから覚えてる。赤い公園。何年前だろう。ずっと前。

何だか思った。
夫の様に弱いと言われる人は絶対に死なない。死ぬのは私みたいな方なんじゃないか。皆が言う。「彼は弱いからって。」夫は言う。「俺が弱いからって。」何度、夫は私に泣きついてきただろう。その度に私は私の声を飲み込んだ。私は強いからって。強い方が強くなればいいって。夫が失態を犯したのに、私が強くなる。そうやって私は、女というものは強くなるもんだと勘違いをしていった。

誰一人として私を弱いねって言わなかったし、あの朝、りょーこちゃんからのメッセージを読んで初めて私っていう人が弱い事を知った。

姉が言う。
「じゃあさ、彼は毎日胃が痛いの?彼は身体壊した?彼は仕事出来なくなった?苦しんでる?毎日泣いてる??食事が喉を通らない?あなたは彼に傷つけられて、こんなに酷い事になってしまった。じゃあ、彼は今何してる??女と遊んでたよね。また酒呑んでたよね。ライブとか出来てんでしょ。普通にご飯食べてるよね??いい加減にしなよ。」

夫が病気だからって未だに庇い続ける私に姉が怒った。怒ってる姉をよそに、私のどこかが言葉の意味に敏感に反応する。ほんと、確かに。

夫はコロナが始まってから毎朝、ツイキャスっていうのをやってる。酒で散々喚いた朝だって平気な顔をしてやってた。夫のそういう姿に毎朝傷ついた。今、どういう心境で笑って喋ってるんだろう。家族が隣で苦しんでるのに、そんなに楽しそうに笑える?売れるのが一番大事な夫にとって仕事は家族より大切なのかもしれない。だけど、本当にそうなのかな。夫が母親を邪険にするのを思い出す。何度も優しくしてあげてってお願いした。心のどこかでああいう親子にはなりたくはないって思って見た。私なら絶対にあんな事出来ない。お母さんに絶対にあんな酷い事したくない。夫にとって家族って何なんだろう。

人が死ぬのはやっぱり辛い。自死を選んだ彼女の気持ちはわからないけれど、少しだけわかる気がした。あの時の感覚を一生忘れない。酒に溺れるのと一緒に最悪な日々が重なっていった夏頃、強度なストレスで生きると死ぬの間をふらふらとしてた、もしかしたら半分死にかけてたと思う。食べても食べても痩せていく身体。鏡に映る自分に驚いた。胸のふくらみはぎゅっと小さくなって、あばらがゴツゴツと腹の上まで続いてる。ズボンだけじゃない。下着もブカブカだった理由にようやく納得した。夜中の音に目が覚めると、心臓がバクバクして恐怖なのに、夫が帰ってきてくれたんだという安堵がぐちゃぐちゃになって今にも破裂しそうだった。それなのに、後ろから押されるようにやってくる恐怖に追い立てたれる。目の前は真っ暗闇でずんずんと黒い壁が目の前に迫ってくる。その中に、貧血で倒れる時みたいに倒れてゆく身体。ああ、これから倒れるってわかってるのに、手も足も動かない。倒れたく無いのに助けてっていう声も出ない。このまま暗闇に堕ちるのに、もうどうにもできない。もう遅い。降参するしか無い瞬間がじんわりと確実にやってくるあの感じ。もしかして、これが死ぬって事なのかなって。


もうあそこには行かないって決めてる。

さぁ、食事をしよう。もう大丈夫。哀しい事の次には、希望のある事をしよう。寒い日は鍋。独りだってシメまでやる。最後は饂飩と山椒。鶏の出汁や野菜の旨味がたっぷり。白菜なんて1/4個くらい、とろとろにしちゃえばあっという間に食べれる。温かい。温かくて美味しい鍋。ぴりっとした山椒がお腹いっぱいでも食べれる。本当に美味しい。

白菜と鶏肉の鍋
鳥手羽元
白菜
禰宜
豆腐
醤油
みりん
昆布
山椒

東京

Journal 18.10,2020

用事があって新宿を歩く。何だかすごい人。
伊勢丹に行って直ぐに帰る。もう嫌。

帰って久しぶりにチューハイを呑む。東京目黒ハイサワーっていうチューハイ。成城石井にしか売ってない。お気に入りのチューハイ。

直ぐに酔っ払う。テレビをつけるとサザエさん。
いつになったら私はもう少し楽になれるのかな。結婚っていうのは、人生にとって大きい事だと思う。昨年に夫と生命保険をかけあった。夫は不摂生ばかりしてるから、きっと私より夫が先に死んじゃうのかなって、だけどそれがいいって思った。私は強いから大丈夫。正月には夫の実家の近くでアンティークのチェストを買って、東京に帰ってきたら吉祥寺で北欧アンティークのテーブルを買った。10年後、20年後、この家具がどうなるのか、すごく楽しみだなって。昨年の新婚旅行でデンマークに行ってから、北欧家具が好きになったから。家族の様に家具を大切にする。そういう文化が素敵だって思って、長く使える家具を選んだ。ずっと一緒にいようって。ずっと一緒にいたかった。出来る事なら。

心療内科の先生からお酒は飲まないようにって言われてた。その言葉がよくわかる。お酒を飲むと何かが、ぐっと溜まる。ずっとそこに停滞してしまう。

早く寝よう。お願いだから、今日を終わりにしよう。明日が来れば、明日っていう日はいつだって新しくなる。

ヌテラトースト

パン 17.10,2020

家のドアを開けると、張り替えたばかりの畳の匂いがした。久しぶりの家。ああ、いい香り。窓を開けて、掃除機をかける。石垣島とは全然違う風だな。冷たくて、少しひりひりする。ここの空気は未だ私には優しくない。現実に一気に戻ってしまった。

本当の事を言うと、今も寂しい。
どんなに酷い事をされようが、急にお酒に戻ってしまった夫に、この現実に、一生私は消化出来ないまま死んでいくんだろう。夫を嫌いにはなれない。夫を今でも好きだと思う。夫にお酒を呑ませた人を憎んでる。そんな下らない事を考えても意味が無い事なんてわかってるけれど、彼がいなければ。一日に何度も頭を過ぎる。彼が夫に大量にお酒を呑ませなければ。

飲み友達に作ってもらった会社の事を何度も聞いた。「家族で話そう。大事な事だから、何の会社か教えて。」夫は家で椅子に座る時間でさえ作らなかった。なんだか変わっていく自分から逃げ続けてるように見えた。ほんの数ヶ月前はソファーで肩を並べて毎日の様に一緒にテレビを見て、一緒に食事をしてた。今は違う夫が同じ言葉だけを放ってる。「俺は忙しんだよ!邪魔すんな、うざったいんだよ。」機嫌が悪い時は「お前ぶっ殺すよ。」って殴りかかってきた。ぶっ殺すっていう言葉は夫に会うまで誰かに言われた事は一度も無かったけど、この8年間でシャワーみたいに浴びた。初めて聞いた日は、私は殺されるの?って真剣に受け止めた。

この先も悲しみは癒えないと思う。だけど、仕方ない。心と身体が、東京を離れて元気を取り戻してきた。こういう事なんだ。もう元には戻れない。勘違いしてた。幸せだった頃の私に戻れる気がしてた。平穏だけを知ってる私がもうすぐ帰ってくる。違う、これからは、この傷と一緒に生きていくって事なんだ。胸がえぐられるような気持ちも、人に裏切られた悲しみも、人に手をあげられた苦しみも、男が大声で「ぶっ殺すよ。」っていうのも、全部、私の中のまま。

今日は姉の息子マルコスの誕生日。ヌテラを見るとマルコスを思い出す。ヌテラ狂の甥。石垣島のホテルで小さいパックになってるヌテラを見つけて、嬉しくなって幾つか持って帰ってきた。甘い物はそんなに好きじゃないけど、朝食はヌテラトースト。彼のダディ、ニコちゃんが死ぬ間際に「お前がこれからはボスだからな。」マルコスにそう言ったって聞いた。今日で11才になったマルコス。今、彼の心のどこにその言葉はいるんだろう。お誕生日おめでとう、大好きだよ。

西表島

Journal 15.10,2020

緑色の中をずっと車で走る。ずっと緑。上は青。ずっとずっとそう。人が優しい。穏やかだ。目をつぶって深呼吸を沢山する。

今の私には東京が辛い。千葉で生まれて、直ぐに東京の学校に通って、ずっとずっと東京で暮らしてきた。優しい人の側にいたい。優しい場所で安全に暮らしたい。東京が嫌いってわけじゃない。だけど、ここに来て感じる事は、やっぱり狭い場所にいたって事。あの地獄は池尻大橋のマンションにある一室の出来事だった。外に出たら、世界はずっと優しかった。美しかった。伸び伸びと深呼吸をする。通りがバンを走る度に怯えなくてもいい。街角で帽子のつばを深く被らなくてもいい。ここには夫の影はいない。

ずーっとずっと先まで見える景色に安心する。ずっと青とか、ずっと緑っていい。今日は心から言葉が出て来ない。すごく、いい。すごく、調子がいいって事だと思う。

ソーキ汁定食

Journal 14.10,2020

ソーキ汁定食。ご飯と汁のセット。シンプルですごくいい。汁には、空芯菜、昆布、冬瓜、豚肉が入っていた。コレーグースをたっぷり入れて戴く。最高だね。何も考えないで、空や海を見て、移動する車の中で昼寝をした。こういう風に全身で何かを思いっきりに感じれる時間って久しぶり。身体が喜んでる。頭よりもずっと身体の方が素直で色々な事を知ってる気がした。広大な景色を目の前にしてファインダーを覗く時にいつも思う。なーんてちっぽけなんだろうって。写真って本当ちっぽけ。さっさとカメラを投げ出して、景色の中に全身で埋もれる。あー気持ちい。

石垣島

Journal 13.10,2020

久しぶりに東京を離れた。
気持ちがすごく楽だ。朝目覚めた時に新しい場所にいる。それだけで、ずっと楽。

気づいた事がある。
夫が暴れても、それが病気だと言うなら私は夫を支えなきゃいけない。だけど、夫が私に手をあげても、病気だと言わないなら私はただ庇ってる事になる。現実は同じなのに。病気でも病気じゃなくても、現実はどっちでもいいんだって思った。

私はずっと夫が病気だからと思って我慢してきた。我慢して乗り越える事が私の出来る事だと思っていた。

石垣島は今日は曇ってる。

ねぎそば

Journal 11.10,2020

お腹が空いた。もうすぐ2時だ、お昼食べなきゃ。

以前なら次から次へと入って来る仕事を綺麗にこなしてた。とにかく時間がない、朝から晩まで時間がない、だから効率的にやるには、記憶の浅いうちにデーターを仕上げる。だけど、今は何でもいい。いいタイミングでいい。夫の世話が無くなった私にはたっぷり時間がある。心の言う通りにしていたら、あっという間に週末には仕事が溜まっていた。

朝から作業をして、納品を終えると同時に寂しさがやってきた。朝から曇っていた空から陽射しが部屋に差し込む。すごく寂しい。その後ろには未だ怒りもいる。この苦しみに何の意味があるんだろう。べったりと心にこびりついてるそれを何度も何度も拭ったけど、取れない。取れたとしても、また翌朝には出てくる。決めようと思う。

もう許さない。前に進む為に。

ねぎそば
中華麺
ねぎ
黒酢
ごま油
中華だし


目玉焼きトースト

Journal 10.10,2020

2週間ぶりの心療内科。
「先生、実は、薬は3日目で吐き気が止まらなくってやめちゃいました。だけど、お酒はずっと飲んでません!心も体もすごくいいです。」

私の元気な様子に先生はびっくりしてた。笑顔で言う。
「よく頑張りましたね。お酒は睡眠に障害を与えるし、どうしても枯渇していってしまうからね。いい状態で良かったです。何があったのかな。」

1週間前、夫が鍵をポストに入れていった。
それが理由なのかわからない。だけど、私はこの2週間で見違えるように元気を取り戻した。もう怖く無い。まだ完全じゃないけど、今日は前へ向かってる。

2週間前、病院に中々着かなかった。
246を三茶に向かって歩く。歩いても歩いても進まない。歩くって、こんなに大変なんだって。身体が重くて、足を前へ運ぶのが、歩くことが、どこかへ向かう全てが辛い。生きるってこういう事なんだ。時間が流れている以上、私は生きるしか選べないんだ。ここで全てを止めたい止まりたいのに、時間も止まって欲しいのに止まらない。目の前の世界がテレビのノイズみたい。何も聞こえないのに煩くて堪らない世界が重く私にのしかかった。

チーズトーストを焼いて、その上に目玉焼きをのせて、ケチャップをかける。ぱくぱくと頬張ると、お皿の上にゆっくりとしたスピードで黄身が落ちていった。なんだか音が聞こえてきそう。黄色い黄身。すごく綺麗。慌てて食べないでしばらく見ていよう。静かに時間の中に落ちていく。

チーズトースト
6枚切りの食パン
スライスチーズ
目玉焼き2つ
ケチャップ

キムチチャーハン

中華 09.10,2020

朝一番で納品を終えてベッドに入る。外はずっと雨。昨日、友人に送ったメールがずっと胸にある。もう苦しみたくない。大事な友達だから伝えたかった。私はただ、私の味方になって欲しかった。もう私を責めたくないから。

みんな誰だって自分の人生を生きてる。想いやるにも体力がいるし、相手の事に踏み入るのは簡単じゃない。友人は、私の事で沢山、沢山、傷ついた筈だ。だけど、私の気持ちは私にしかわからない。話せるうちは元気だって言うけど、話せない事だって沢山ある。人前では明るく振る舞うから元気だって思われても、誰にも見せられない顔だってある。みんなそう。私だけじゃない。苦しみはいつだって自分のもの。

段々と痛みや恐怖が薄れていって、意識が世界へと少しずつ、少しずつ向けられるようになってきた。視界だけじゃない、感情もだ。前へ進むと、何かにつまずく。そうやって私の中に疑問が生まれてゆくのを感じる。

姉に電話した。話し出したら止まらない、少し私は怒ってる。声を荒げて話す私に、姉は言った。

「 誰にもわからないから。」

「親だって家族だって友達でも。あなたが受けてきた苦しみは誰にもわからない。私は沢山の話を聞いたけど、私が知ってる痛みは一部に過ぎない事だってわかる。わかってるから。もう誰かの声に耳を傾けないでいい。肝に命じて、自分を守って。わかった。自分を守れるのは自分だからね。」言葉の全てが綺麗に聞こえた。

この苦しみは今も私の腹の中。
友人にわかって欲しいと思うのは間違ってたんだと思った。

「あなたも悪いんだからさ、彼にもあなたにも良い相手が出来るから。」今まで献身的に支えてくれた友人が急に突拍子も無い事を言い出した。そして、離婚が決まってから彼女とはパタリと会わなくなった。理由は仕事が忙しいと言ってたけど、本当の所はわからない。離婚を選択すれば、必然的に彼を公に非難する事となる。それは、病気の事も暴力やお酒の色々も全て明るみとなるっていう意味だ。優しくて面倒見のいい彼女がいつも言う言葉。「病だから仕方ないんだよ。すごく彼も辛いんだよ。」真っ直ぐな瞳だった。私はあの言葉を裏切った事になったのかもしれない。

 

夕飯

和食 08.10,2020

結婚してから手帳に書き続けている日記がある。久しぶりにぱらっと読み返した。日々、夫の事を記してる。怒ってしまった事、言ってしまった事、喧嘩した事。私の気持ちは書いてない。私が改める事と、今をどう楽しむか知恵を振り絞る事ばかりを記している。手帳の最後に今年叶えたい夢100という頁があって、毎年同じ言葉をゆっくりとした丁寧な字で綴ってある、綺麗に並べるように綴ってある。

夫の音楽がうまくいきますように、夫が仕事で稼げるようになりますように、夫の夢が叶いますように。

夫に会社を作ってあげた呑み友達が酔っ払って言う。「あなたは悪い所、無いの?」その日は夫が仕事を放って泥酔して行方不明になり大変だった夜。私は家で夫を待っていた。電話の向こうで、いつも無口な男が饒舌に意地悪を言って、ケタケタと笑ってる。時間は夜中の1時過ぎ。結局、いつもの様に朝まで寝れなくて、一度泣いてから撮影に行った。彼は夫のパートナーだと言うけど、家で起こってる事は何1つ知らない。そしてきっと夫が酒を止めている事も知らなかったのかもしれない。いつも中目黒でお酒を飲み歩いてる。のっぺらぼうみたいな顔の人。夫と散々遊び歩いてると聞いていたけど、俺はいつも一緒にいるわけじゃないと言ってた。どうして私に嘘をついたんだろう。それとも夫が嘘をついていたのか。

過去に記した言葉が私を救う。もう私を責めないでいい。私、夫を大切にしてきたんだった。

今日は頭が痛い。だけど、楽しかった。だんだん撮れるようになってきた。数週間前、カメラを持つ手に力が入らなくなくて、怖くなった。あれから、少しずつ、少しずつ。少しずつ、写真を撮ってる。もう大丈夫。しっかりと手に収まってる。

撮影の後、お喋りしながら笑って帰った。写真も、写真に関わってくれる人もありがとう。本当にありがとう。

夕飯
ご飯
きのこと茄子の味噌汁
アボガドと納豆
焼き鮭とキムチマヨ

ポキ

Journal 07.10,2020

昨晩、ベッドで考えてた。

今日1日に起こって感じた事について。色々がするするとわかってくる。夫との過去をずっと探してる。救えなかった事だけじゃない。何が悪かったんだろう。私達がこうなる事は最初からわかってたのかな。

2年前の酒乱が始まるまで、ずっと仲良しだった。お酒や暴力があっても、夫はとにかく謝った。それは本心だったと思う。僕は変わりたい。その言葉も本心だったから、私の隣で謝り続けたんじゃないか。

私が夫の音楽に興味無かろうが、夫が私の写真に興味無かろうが、そんなのはどうでもいい。ただ、一緒にいたかった。それだけで十分だった。

茄子のミートパスタ

洋食 06.10,2020

パスタを食べて昼寝をした。
最近、何か一つ作業をしたら、休む。これを繰り返してる。大丈夫だと思っても、思った様に身体が動かなくなるから、大事をとって休み休み。ぼんやり目が覚める。14時58分。ぼんやりしてる。

今、なんだっけ。起きて洗面所へ向かう。あ、遅刻だ。どうしよう。確か15時過ぎに家を出る予定だった。鼓動がばくばくと全身で鳴ってる。どうしよう、私、今日撮れない。床にへたりと座った。落ち着け、落ち着け。ゆっくりと深呼吸する。私が今立っている場所は、ぎりぎりの場所。一歩間違えると直ぐにまた落ちてしまう。だけど、大丈夫。深呼吸して。下を見ないで。落ち着いてそこから離れれば、いつもの場所にいける。大丈夫。大丈夫。

ゆっくりと起き上がる。深呼吸を繰り返す。大丈夫。私、支度10分で出来るから。何も考えないように支度を済ませて家を出る。あ、風が気持ちがいい。あーあ、遅刻だな。

目の前で電車が行っちゃった。あーあ。何だか思った。世界は怖くない。虚しくて仕方なかった世界も、本当は虚しくないのかもしれない。夫との生活の中には行き場の無い寂しさたちが何も言わずにいた。それはもしかして今と変わらないのかもしれない。今でもやり直せそうな気がする。だけど違う。わかってる。夫は変わらない。変わるのは私。もう怖くない。

秋刀魚の刺身

Journal 05.10,2020

「大事で大好きな友達だよ!」「ずっと我慢してたのは、バカなんかじゃなくって愛情深いからだよ。」数日前、りょーこちゃんから貰ったメールが胸にずっとある。彼女の言葉は私を救う。私は何ヶ月もずっと、私を責め続けている。

3年前の春だったかな、りょーこちゃんから数年振りにFBのメッセンジャーが入る。「久しぶり。よしみちゃん、お料理撮ってるの?」料理写真を始めた頃だった。菊地食堂の写真を見てくれたのかな。嬉しかった。お仕事をお願いしたいっていう連絡だった。それまでは、私も師匠にならって人を撮ってた。料理を撮ってみたい、だけど。

自分で作って自分で撮って日記を書く。やってみよう。それが菊地食堂の始まり。そのうちに夫の酒乱の時期に入った。苦しかった。だけど、とにかく作って撮って書いた。気づいたらお仕事も増えて、ぽんぽんって、うまく撮れた。私は技術を持って無い。学校もスタジオも通ってないし、人を得意とする師匠についてたから、いつもちょっと申し訳ないような気持ちだった。だけど、好きな料理の写真が撮れる事がとっても嬉しくて楽しかった。壊れた家庭の中で正気を失ってゆく自分を捨てて、私は写真に向かった。地獄の毎日の中にはもう生きる目的が少しだって残ってなかったから、私の居場所は写真しか無かった。私が沢山の料理写真を撮り続けるようになった頃、夫の酒乱は霧の様に消えていた。

まやかしみたいな1年だったように思う。あれから2年後、すごい勢いでまたアレは春に帰ってくる。アレは夫の闇に潜んでただけ、夏が終わる頃に夫は夫を捨ててた。蝉の抜け殻みたいに、するって。私に料理写真を与えてくれた夫には感謝してる。夫じゃなきゃ、私はここまで来れなかったと思うから。

私には大好きな言葉がある。
「よしみちゃんの好きなように撮って。」りょーこちゃんが現場で言う言葉。この言葉が私は大好きだった。彼女はいつも私を信じてくれる。彼女の強さが私に勇気を与えてくれた。

今年は久しぶりに秋刀魚を焼かなかったな。夫は焼き魚が好きで、よく焼いた。何だかずっとずっと昔の事みたい。もう、この家を出よう。夫の抜け殻が残るこの家にはいたくない。私はきっと夫の帰りを待ってしまうだろうから。

秋刀魚の刺身
秋刀魚の刺身
にんにく醤油 [にんにくを甘い醤油に漬けたもの]

こてっちゃん

Journal 04.10,2020

お腹が空いた。
夫が帰らなくなってから寂しかったけど、夫がいた時も寂しかった。最近は寂しくない。深夜過ぎた頃にうとうとして、棚の上にある時計を見るのが本当に嫌いだった。キッチンには冷めきった夕飯。当たり前のように嘘をつく夫の帰りを待つ時間。あんな夜は二度と味わいたくない。

無性にこてっちゃんが食べたくなった。こうやってお腹が空く感じも何だか久しぶり。オオゼキにこてっちゃんを買いに行く。フライパンにごま油をひいて、スライスしたニンニクを炒め、こてっちゃん、ピーマンの順に焼く。ピーマンは軽めの焼き加減がいい。やっぱり温かいご飯は美味しい。

食事

Journal 03.10,2020

一昨日「眠い眠い」って言ってたら、友達に「自律神経が乱れてるんじゃない?」って。そうか。確かに、私の自律神経は長いストレス生活でぼろぼろだ。心はもう全然辛くない。だから薬はやめたけど、この眠さは自律神経。確かに。発酵食品を食べよう。きちんとした食事を食べよう。自分の身体も、自分の人生も、自分で責任持ってやろう。これからはもう自分が苦しくなるような人とは一緒にいちゃいけない。家族や友達が哀しむから。大切な人は世界にたった一人じゃないって事が良くわかった。大切なのは私を傷つける人じゃなくて、私を大切にしてくれる人みんな。だから、私は私の事を大切にしよう。

梅干し饂飩

Journal 02.10,2020

朝5時。普通に目が覚めた。何ヶ月ぶりだろう、この感じ。
姉から電話がくる。色々とこれからの事を話した。姉は、夫のした事は絶対に許される事じゃないって思ってたけど、私が別れを決意するまで待ってたんだよって。何ヶ月も待ってたって。いつも病気だからって彼を庇う私が気づいてくれる日を待ってたんだよ。本当によく頑張った。もう隠さないでいい。大丈夫。って。なんだか、すごくほっとした。本当に長かった。コロナが始まって直ぐに夫は酒に溺れた。私は守りたかった。だけど守れなかった。もう、諦めていいんだ。

「今日は久しぶりに一日予定を入れたの!」「うん。無理しないで。」そう言って電話を切った。午後を過ぎた頃、撮影中に目が回る。また吐き気。何だか倒れそうな気がして先に現場を出た。氷川神社だ。なんとなく吸い込まれるように入った。知らない道、知らない場所、大きな木だとか手水舎の水が光に反射してきらきらしてる、綺麗。朦朧とする世界の中でぼーっと歩いた。遠くに中学生みたいな子達が座ってる。近づくと、写真家のななちゃん、編集の山若君とお友達がいた。何だか夢の中みたいな光景だった。

3人とお別れして、編集のあきちゃんの事務所に行く。今日はeatLoveの作品をあきちゃんに見せる約束をしてたから。ふらふらする。血の気が引いてくのがわかる。目の前がぐるぐるして事務所の前のコンクリートに腰掛けた。私はいつまでこのグレーな世界にいるんだろう。

遠くから手を振ってるあきちゃんが見える。何だかすごくほっとした。あきちゃんはいつも元気だ。あきちゃんみたいになりたいって思う。弱い自分がいても隠さないし素直だし、今に負けようとしない。私みたいに弱い自分に蓋をしたりしない。

帰ってベッドに横たわった。身体は元気なのに頭の中が濁ってる。すごく疲れた。今日は楽しい事ばかりだったのに。姉との電話を思い出したら、涙がポロポロと溢れてきた。テコが私の胸の上にへばりついてずっと顔を舐めてる。私、今幸せだ。苦しいけれど、幸せ。これは嬉しい涙。だから今日はもうちょっと泣こう。

林檎

Journal 01.10,2020

昨日、やっちゃんがバスの中で言ってた。「秋は果物が美味しいからね。毎日、本当に幸せなの。今日は梨、今日はぶどうって食べてるんだよ。」うちに泊まって、すっぴんのまま出てきたやっちゃんの満面の笑み。やっちゃんって、時々、子供みたいだなって思う。「うん。私も果物食べてみる。」やっちゃんとバイバイしてから、スーパーに寄って梨を探したけど、高いのしか無くて林檎を買った。ぺろっと一個食べた。林檎、久しぶりだな。美味しい。

朝の10時、玄関がガチャガチャとなった。鍵を開けようとする音がする。姉に急いでメールを打とうとするけど手が震えてる。心臓が飛び出しそうだ。身体が夫を怖がってる。鍵は2つしてるから入っては来ない。だけど、もし、大家さんにもう一本の鍵を借りて入って来たら。聞こえなかったと言い訳出来るようにヘッドホンを手に持つ。数分してガチャガチャは消えた。

弁護士さんのところに行った帰りに、林檎を一つ買って帰る。弁護士さんいい人だった。「まずは家を出ましょう。安心出来ると思う所に引っ越しましょう。」他人に話せば話すほど、何かが見えてくる。私達夫婦に起こった事はただの酒乱でも、ただの喧嘩でも無かったんだ。すごく怖くなった。私が頑張れば頑張るほどに夫を庇う事になってたんだ。

何だかやっちゃんの笑顔が忘れられなくてまた林檎が食べたくなった。もう抗うつ剤止めよう。今日でまだ3日目だけど、もう要らない。だって今、1ミリも哀しくない。大丈夫。林檎すごく美味しかったから大丈夫。

茄子のミートグラタン

洋食 30.9,2020

抗うつ剤2日目。昨日に引き続き吐き気が止まらない。日中はずっと眠くて変なあくびが出る。畳にひいた布団でごろごろする。太陽が当たって気持ちがいい。隣でやっちゃんが来月に行く沖縄のツアーを取ってくれてる。何もしたくない。胃痛と吐き気と光の中で溜息ばかりが出てくる。本当に疲れた。

夕飯に茄子のミートグラタンを作る。上手に出来た。グラタン綺麗だな。

やっちゃんとUber

Journal 29.9,2020

撮影が夕方までだったから、夕飯はUberにした。
せっかく泊まりに来てくれたのにごめんね。何だか頑張って作る気力が今日は出なかった。「私、初Uberだよ。」嬉しそうなやっちゃん、良かった。

本当は映画を見る筈だったんだけど、お喋りして早めに寝た。心療内科の結果を話したら、びっくりした顔してた。多分気を使ってくれたんだろう。薬の副作用なのかな、吐き気と胃痛で食欲が無い。ずっと世界に麻痺してるような感じでぼんやりしてる。誰かが側にいてくれるだけでほっとする。