
朝の5時に帰宅。昨晩は仕事だと言ってたけど、朝まで飲み歩いてるだけの様だった。大分泥酔してる。機嫌がいいみたいで鼻歌を歌ってた。「これからは、週1回だけ帰る。酒は止めない」と言った。これが夫の出した答えだった。

朝の5時に帰宅。昨晩は仕事だと言ってたけど、朝まで飲み歩いてるだけの様だった。大分泥酔してる。機嫌がいいみたいで鼻歌を歌ってた。「これからは、週1回だけ帰る。酒は止めない」と言った。これが夫の出した答えだった。

「俺は帰らない。」家出した夫が言った言葉。
泥酔した夫が夜中の3時にに玄関で怒り狂ってる。帰ってきた。
とうもろこしご飯
米をセットして、とうもろこしを剥き、横半分に切り、縦方向に身を切り離す。
芯の部分と身をセットした米の上に乗せて炊く。炊きあがったらバターとパクチーを入れる。炊く時に塩をひとつまみ入れるか、炊きあがりにナンプラーで塩見をつける。

簡単で最高です。
ご飯を作る気力がない日に。

数日、ちゃんと食べていなかったように思う。米を炊き、味噌汁を作って、ぬか床からぬか漬けを出す。明太子、納豆。梅干しをご飯にのせて、頂きます。

毎晩泥酔して夜更けに帰宅する夫に、泣いて怒った。
私の感情を露わにしたらいけないってずっと我慢してたけど、限界だった。
夫は向き合う事が多くなればなる程にお酒も色々も悪化する。わかってたのに怒ってしまった。
夫はそのまま家出した。

別に特別な日じゃないけど、今日は鰻ちらし。
お酒や色々な毎日がずっと続いてる。コロナも、この毎日からも早く抜け出したい。長い長いトンネルにまた入ったんだと思う。

30才そこそこで、師匠の元を独立してぷらぷらしていた私は日々明太パスタに埋もれていた。弟子入りしてみたものの、やっぱり商業は合わないと直ぐにやめたくなったアシスタント業、師匠に迷惑をかけたくないの一心で続けた。そんなアシスタント業をふんわり卒業した頃だった。夫がやっていたバーの料理を私が担当していて、口うるさい夫(本人曰く「全国をツアーで回っているから俺はグルメなんだ。」そう、だけど真実は闇。)を唸らせる料理を色々と考案した。パスタは幼少の時にボンゴレ狂になって以来、いつしかパスタのパの字も出てこなくなって数十年。明太パスタなんて人生で片手くらいしか食べたことが無かった。魚の卵と麺だけなんて、身体に悪くて変な食べ物だなぁと思っていた。どうしてこのレシピに辿り着いたのか全く覚えてないけど、色々がちょっとずつ変化してこうなった。超がつくジャンクレシピ。
当時、何者にもなれない先の見えない不透明な毎日の連続の中でぼんやりしてた。若さ故か苦しくは無いけれど、心のどこかが寂しかった。今更後悔しても遅い。周りの子と足並み揃えて写真大学でもスタジオでも出て写真をきちんと学んでおけば、もっともっとスマートに写真を生業に出来ただろうに。お金をかけて必死に大事に育ててくれた親が泣くのも無理が無い。親のせいにするのは申し訳ないけど、親がヒッピーだったから悪いんだ。そんなスピリッツが絶対私の身体のどこかにいるはずだ。
言い訳だけど。だけど、いい事がひとつ。明太パスタが大好物になった。ピンク色のパスタを見ているだけでうっとりする。大分遠回りをしてきたけれど、明太パスタが好き。

冷蔵庫にあると安心する。冷えた煮浸しをぼーっとタッパのまま食べる。

1年半ほど男性のカップルの食卓を撮っていた時に教えてもらったレシピを思い出して作ってみた。多分ちょっと間違った。これはこれで美味しいけれど、彼が作った方が断然美味しかった。

お昼は夫とマックを食べた。久しぶりの夫との外食。楽しかったと思う。だけど、楽しい時をどう楽しんだらいいのかよくわからなかった。
食事を済ませて直ぐに夫は出かけた。「どこに行くの?」そう聞くと、「色々。」いつも通りだ。「俺は仕事で忙しいんだよ、また連絡する。」「夜から打ち合わせだから。」同じ言葉を台詞のように話す夫。そこには血が通っていない何かがいるみたいだ。
今夜の夫の夜食にスンドゥブチゲを作る。これからは馬鹿になろうと思う。あれから夫からお酒の話は一切無い。今が楽しければいいんじゃないか。もう面倒な事は考えたくない。私は、ただ平和で生きたいだけ。


しばらく家を不在にしてた夫が九州土産だと言って醤油を持って帰ってきた。夫はそういう時に嬉しそうな顔をする。だいたいわかる。今から嬉しい顔をするぞーってなるから。醤油好きな私としては、醤油を貰うのはめちゃくちゃ嬉しいのだけど、本当はその顔の方が嬉しい。
友達と会えるようになった数日、みんなが口を揃えたように「自粛生活エンジョイしてたよ~。」と言てった。なんだか一人だけ浦島太郎みたいな気分。夜は友人らと渋谷で焼肉を食べて帰宅。コロナで世界が一変したのに、東京にいる友人達はいつもと変わらない。
夫は今日も闇酒場だと思う。作った煮卵が冷蔵庫で冷えたままだ。渋谷からの帰り道。夜がずしりと重い。高台にある我が家までの一本道が好きだった。夜になると遠くに見える首都高が光って見えるのが気に入ってた。だけど今日は違う。いつまでこの地獄は続くんだろう。帰らない夫を待つ夜は長い。だけど大丈夫、明日こそきっといい日がくる。明日こそ世界は私を傷つけない。

「やっちゃんから鰻が送られてきたから一緒に食べようよ。」
何日ぶりだろう。夫との食事。夫は最近は私の目を見て話さない。今までのように夫と触れ合っていた時間は0秒となった。お酒も色々も完全に始まった。信じたく無いけど、始まってる。
今日もどこで、明日もどこで何をしているのかも知らないし、何を想って何を考えてるのかもわからない。何も話さない。ただ、私が話しかけると苛ついたり、逃げるように出かけていく。「一ヶ月、黙ってて。」と言われたから、頑張っているんだろうと信じて黙っていたけど、もうとっくにその日も過ぎた。今度は7月。夫の誕生日にライブがあってそこでCDをリリースするから、それまで何も言わないでと言ってた。同じ家に寝ているのに私の知ってる夫はもうずっといない。毎日不安だけが続いてる。兄から送られてきた鰻は上等のものだったらしいけれどあまり味がしなかった。

二ヶ月前、近所の遊歩道で私の胸に泣いて飛び込んできたナオコが今は隣で笑ってる。「私、やっぱり女の子がいいの。男の子でもいいかもしんないけど。」ナオコは女の子と恋してた。素敵な恋だったと思う。私は二人と友達で、どちらのことも大好きだった。
端正な顔立ちで、明るくて、優しくて、一緒にいると空気が明るくなるような子なのに、どこか影がある。恋人だったあの子もそういう不器用さに惚れたんじゃないか。けど、もしかしたら、ナオコは恋人のお陰で闇を持て遊ぶことが出来んだろうなって。愛がナオコを駄目にさせていたようにも見える。二人の恋愛がダメだったんじゃなくって、愛がきっとそうしたんじゃないか。「別れてから、、当たり前なんだけど喧嘩をしなくなって、穏やかに話ができたりして、また前にもどったみたいな気になっちゃってさ。けどダメだって言われて。私、本当バカだよね。」笑いながら言った。ナオコはもう前のナオコじゃない、新しい仕事も見つけて、とにかく今は必死に明るくしてるけれど、だけど、それも何だかナオコらしく見えて素敵だった。
2ヶ月前のナオコ、今思い出しても胸が冷やっとする。コロナで色々がおかしかった所為もきっとあるけど、怖かった。この子、このまま突然にいなくなったりしないよね。彼女の眼差しはどこにも焦点が合ってない。ただただ真っ暗に見えた。だけど、今日は大丈夫だった。とにかくもう振り返らない。そう心に決めているように見えた。夫が出張から帰って来る。夜が遅いというのでポークカリーを作って寝る事にした。冷めたカレーはきっと美味しいと思う。

こないだ作ったイカご飯の肝と残った身の部分で塩辛を少しだけ作っておいた。夫は今日から遠くへ行くのだそう。きっと平和な夜が来るはず。6月1日。勝手に新しい気分でいっぱいにしてる。せっかくだから新しいことを沢山やってみよう。やって見たことが無いこと。今日はスタイリストのリナちゃんと作品撮りの話をした。とにかく毎日を変えたい。
手を伸ばしても押せない自分の背中をどうにかこうにかして前へ進めようとしてる。えぐられた痛みでさえも反動にして前へ前へと。立ち止まったらきっと涙が溢れて何も見えなくなるのだから。新しいことや新しい世界は私をきっと救ってくれる。写真の仕事を始めたのもそう。夫が酒に溺れるのと一緒に家庭に堕ちてゆく私を私が救う為に写真の仕事を始めた。また同じようにやればきっといい。私が頑張っていればそのうち夫も変わってくれるはず。
“お願いだから、絶対にお酒を飲まないで。” 夫にメールした。もし、このまま毎日飲酒を続けたら、必ずまたあの日がやってくると思った。だけど、またSとの出張。中目黒の酒場に一人で飲みに来る年下の男。昼に会うと静かなのに、お酒を飲むとニヤニヤと笑って話しかけてくる。内装やインテリアの会社をしているらしく、ときどき夫に仕事をくれる。店づくりは夫が好きな仕事の一つだ。夫も喜んで手伝っているし、音楽だけじゃ安定しない事も含めてとても有難い話ではある。だけど、本当は素直に喜べない。中目黒にある数軒の飲み屋でSとペンで書いてあるボトルを見たことがある。「スーちゃん、Sのボトル飲んでええで。」2年前の酒乱が始まる前のこと。なんだか夫はSに飼いならされた犬みたいに見えた。Sといるとお金を使わないのだそう。仕事で使う洋服を買ってもらった、ご飯をご馳走してもらった、子供みたいに喜んでいた。だけど、夫がお酒をやめると誓ったのと同時にSとは疎遠になった。だけど、また。
考えても仕方が無い。またなんて思ってない。思いたくない。今日から6月1日。新しい月。弱音なんて吐いてる場合じゃない。

街を歩くカップルや家族だとかが楽しそうに笑っている姿を見ると、とても温かい気持ちになる。素敵だな。いい光景だな。世界はまだ優しいようで安心する。私の心は冷め続けてる。少しでも温めて欲しいのだけど沼の底みたい。今夜もきっとまた夜中だろう。
以前にフォローしあった夫の飲み仲間のインスタで夫が遊んでる様子を見かけた。外出の自粛なんて全く無視の夫の行動。音楽は作ってないみたいだった。私は一人で自粛してる。誰かに会いたいけど、今は安易に人には会えない。寂しさや虚しさ、恐怖ばかりが募ってる。

「今から行っていい?」「うん。いいよ。」安眠用とかリラックスするハーブティーを袋に入れて待ち合わせの場所に向かった。友達は私の胸でぽろぽろと泣いてる。ずっと強い人だと思ってた。真っ直ぐで丁寧で、自分の道を真っ直ぐに歩く強い人。だから、きっと彼女との失恋も一歩ずつ乗り越えてるんだと思ってたけど、彼女の前では弱かった。「こんな気持ちは苦しくて嫌だよ。」って何度も流れてくる涙を子供みたいに拭ってる。「仕方ないよ。好きだったんだから。」全然いい事が言えなかった。だけど、本当だから、本当にそうだから。苦しむ友達を私には救えない。苦しむしかないよ。今は。だって、好きってそうゆう事だもの。
夫が今日は食卓に座った。昨日までの悪夢が嘘みたいで一瞬で過去が今になる。この男のために私は何百回と泣いた。悔しいくらいに泣いた。だけど仕方ないよ。私も友達のようにこの男の前では弱い。きっと夫もそうだと思う。私の前では弱い。

久しぶりに美容院へ行った。和美ちゃんに教えてもらって1年くらい前から通ってる美容院で、最近店を改装した。改装後の美容院には旦那さんもいた。ペットのワンちゃんも一緒にサロンに出勤してる。毛に覆われた人形みたいにもふもふのワンちゃん。
今日は髪を染めてから10cmくらいカット。夫婦二人が私の髪を触ってる。二人で時々小さな声で言葉を交わしてる。「この薬は強めだから、ここだけにして。」「うん。わかった。」なんだかすごくほっとした。夫婦っていうのは、男と女というのはこんなに優しい距離の中にいてもいいんだ。傷つけあったり、強がったりしなくても、穏やかでいられるんだ。そうだ。世界って優しい場所だった。すっかり忘れてた。
幸せになるのは、私が想像しているよりもずっと簡単なのかもしれない。久しぶりに心が温かくなってゆく気がした。雨が上がった代官山は少し生ぬるい空気が漂っていて、水たまりに光る夕陽がキラキラして見える。もしかしたら私達の生活もまた前みたいに戻るんじゃないか。どうかお願い。叶わない夢を願うみたいに心の奥で祈った。正直、最近は毎日が嘘つきだ。本当じゃない。
今朝、珍しく夕飯の献立を聞いてきた夫。今日は帰ってくるのだそう。久しぶりの夕飯。久しぶりの夫。話したいことは沢山あるけど、とにかくなんだか嬉しかった。ずっと朝から嬉しかった。だけど、夜の20時。食卓に並んだ食事をよそに時間だけが勝手に過ぎていく。電話を鳴らしてみる。「今日は遅いって言った。りょうさんと飲んでるから。」イライラしているのが電話からも伝わってきた。おかしい。この怒り方、おかしい。お酒を飲んでる事を私に堂々と公言してる。夫は私の前では今でも禁酒している事になっている筈なのに。現実も時間も全てがぐちゃぐちゃになっていくのは2年前と一緒だ。またあれが本当に来るんだろうか。
私の身体がどんどんと硬直していくのがわかる。恐怖に飲み込まれそう。携帯を取ってあかりちゃんにメールした。「ごめん。電話していい?」何かを察したのか直ぐに電話をくれた。「すーちゃん、どうした?」あかりちゃんの声。一気に全身の緊張が解けていく。喉が悲しみでジリジリと焼けてるみたい。言葉が出ない。言わなきゃ。ダメだ。言わなきゃ。唾を沢山飲み込んで、全身の力を振り絞って言った。「お酒始まっちゃったの。」
家の前にタクシーが止まる音。バタンとドアが閉まり玄関が思いっきりに開いた。「ごめん。帰ってきた。」電話を切った。鬼の様な形相の夫。リビングの床に横になりずっと怒ってる。「りょうさんと仕事で久しぶりに会ったから、高田馬場で19時から二杯飲んだだけ。」夫は怒り続けてる。何に怒っているのか何を言ってるのかよくわからない。時計を見ると22時45分。夕方の電話では19時より早く帰るかもと言っていた。
夜中にベッドでフジモンにメールをした。フジモンはカウンセリングを勉強しているしきっと何かを教えてくれる筈。「よしみちゃん、とにかく落ちついて。今日はゆっくりと休もう。」フジモンは何度も私に落ち着く様に言ったけれど、私の話なんてどうでもいいから夫をどうしたらいいのか教えて欲しいと思った。とにかく怖くて堪らないし、過去と現実がごった混ぜになり正気でいられなかった。フジモンが言ってた双極性障害っていう病気。初めて聞いた。夫はアル中じゃないのだろうか?

夜中の3時に夫が帰宅。今夜もお酒の匂いが酷かった。突然に始まった私への無視に耐えきれなくなり携帯を見た。最低なのはわかってる。だけど、私達が壊れていく理由をどんな事でもいいから知りたかった。
答えは正解、いや不正解。夫のことを周りの人が時々教えてくれる。案外、硬派だよ。浮気はしないよ。あいつはピュアだから。どれが本当でどれが嘘なのかわからない。だけど、帰らない理由は中目黒の酒場を飲み歩き、夜中に複数の女性と知り合いLINEを交換していた。どうやらその女性達からは独身だと思われているようなやりとりだった。
夫は浮き沈みが激しい。それはどういうわけか数ヶ月スパンで変わる。沈んでいる時は、声が小さくまるで死んだ魚のような目になり、外出しても直ぐに家に帰ってくる。逆に調子がいい時は、世界の王様にでもなったように偉そうで、動きは機敏で言葉が溢れてくるようにお喋りになる。そんな時はキャバクラに行ったり、女性にちやほやされるのをとても喜んでるようだった。「ミュージシャンやってて、事業をやってねんけど、店をプロデュースしてて、デザイン出来るで。こんなん作ってて、芸能人の何とかさんにも出てもらってんねん。アーティストのなんとかさんと知り合いやで。知らん?マンガの何とかっていう曲の人やで。今度、中目黒に新しい店作ろうと思ってんねんけど。」そう言って出会ったばかりの人に名刺を渡してるのを何度も見たことがある。だけど、ミュージュシャン以外は本当と言っていいのかわからない。こんな時の夫は、adobeのイラストレーターで名刺を作ればデザイナーで、資本が全くなくても不動産に店舗物件を探しに行けば事業家。知り合いの店の立ち上げに関わったらプロデューサー。だけど夫にとって全て嘘じゃない。
ああ、またあの時期が来たんだと思った。だけど、どうして私に嘘をつき続けるんだろう。特定の人と浮気をしている感じじゃない。毎日のように見知らぬ女と深夜に会い、LINEを交換して、気があった女性からは好意をほのめかすような連絡が続いていた。だけど、夫は “ありがとう。”とか、”また飲みましょう。” みたいな会話で終わらせてるようだった。そして、また次の女性へ。夫が女性を欲しているのはわかったけれど、SEXしたいとか、羽目を外したいとか単純な欲求ではなさそうだった。
コロナが来る直前まで私達は普通の夫婦で週末が来る度にデートをしていたし、時報がなるように「今夜の夕飯なに?」と外出先から毎日のようにメールが入った。私の作った料理は嬉しそうに食べ、写真に撮っては「これで店をやろう!」と言うのが口癖だった。お酒だってやめると約束をしてからは全く飲まなかった。「そろそろ子供のことを考える?」ある日の友人らの会話に触発されて聞いてみると「俺はすーちゃんと二人で十分幸せだよ。」と言ったのは2、3ヶ月前の話。
夫の事がわからない。だけど、またあれが始まった気はしてる。

今夜は久しぶりに夫と夕飯を食べた。どれぐらいぶりだろう。ブリが美味しかったようで、何度も美味しいと言ってた。「今はアルバムを作っていて大事な時だから6月まで何も言わないで。」最近よく聞く言葉。私達の日常が非日常になってから、置いてかれているのは私だけで夫にとって私は存在しないみたい。何かに夢中で楽しくて仕方がないんだろうっていう感じはしてる。彼らしいと言えばそうだし、何だかオカシイと言えばそう。頑張ってるのなら応援したい。それに、お酒の事も知ってるけどやっぱり黙ってる。夫のお母さんにも秘密にしてる。またお酒に戻ったと聞いたら夫に電話やメールをしまくったり、夜眠れなくなっただの、心療内科へ行っただのってなるから。ただ、ひたすら耐えてる。怖いけれど怖くないふりを、まるで今夜だって当たり前の夕飯かのように振る舞った。

夫が癇癪を起こしてしまった。しばらく現実が上手く理解できないままに数日が過ぎた。撮影現場まで車で送って貰った時のこと。朝から少し機嫌が悪そうで、家を出る間際にも「どうして送らなきゃいけないの?」「先週からお願いしてたよ。いいよって言ってたよね。」そもそも変な会話だった。車に乗った瞬間、急に癇癪が始まった。まくし立てるような怒り方やその話の中身も全く何を言ってるのかよくわからない。ただ、とにかく何かをぶつけたい。言葉が溢れるように次から次へと無抵抗の私に降りかかり、感情は一気に剥き出しになっていく。病に犯された犬が隣で牙を出して吠え続けるみたいな感じ。だけど、知ってる。これは今日が初めてじゃないから。冷静に何度も何度も「これから仕事だからやめて。」と伝えた。夫はハンドルを思いっきりに叩いたり、大きな声で暴言を吐き続けた。
15分くらい怒り続けると急にピタリと止まった。彼が普通じゃない事はよく知ってる。出会った時からおかしい人だと思ってた。だけど、それが何なのかよくわからなかった。良い面も沢山あるし、だけど悪い面については見た事も聞いた事もないようなもの。音楽仲間も中目黒の酒場の皆も誰もがそれは知っていたようだったけど、彼等の間ではそれを才能だとか、アウトローでカッコいい奴と呼ぶらしかった。よくわからない夫だったけれど、世間ではまるで勇者のように扱われているみたいだった。アーティストだから仕方ないのか。私が気づくまでにも大分長い時間がかかった。
今日みたいな日が失くなる様にと何十回、何百回と二人で長い時間をかけて、平和で穏やかな暮らしができるようにと二人で頑張ってきたと思う。夫は二度と傷つけないと誓い私と結婚を決めた。だから今日みたいな日は来ないはず。これは何かの間違えで、世界がコロナが悪い。だって私達は二人で約束をしたのだから。そうして結婚を決めたのだから。
涙を拭って「コーヒーは要らない」と言って車を降りた。今日の仕事は初めての雑誌。ずっとやりたかった仕事で頁もきちんと貰える仕事。どうして今日だったんだろう。収まりがつかない気持ちのままに写真を撮り続けた。二年前の酒乱の時みたい。平穏な日々が突然に失われていく。毎日が恐怖と不安で一杯となり、世界がずしりと重くのしかかってくるやつ。淡々とシャッターを切ったけれど、整理がつかない出来事に全身で怯え続けた。
撮影が終わって、夫にメールした。”こんな酷い事は止めて欲しい。感情を抑えられなかったり、どうにかなってしまうのは仕方ない事だと思う。だけど、傷つける事は止めて欲しい。” 私は夫への怒りをもう我慢出来ない。
連絡がないままにあっという間に夜がきて、夜中に少し酔っ払って帰宅した夫が小さな声で「ただいま」と言った。「おかえり」。口から出た私の言葉を聞いたのが最後。一気に眠りについた。安心と恐怖が表裏一体で私の身体一枚で支えてる。私の一番大切な人が、一番安全な場所が、一番に信じて頼ってきた人が、私達を壊していく。とにかく、今日は優しいものが食べたい。毎日がおかしい。世界がコロナでおかしいだけじゃない。私達の毎日が少しずつおかしくなっていく。


実家っぽい春巻きを作りたくなってスーパーへ走った。うちのは具沢山でケチャップをつけて食べる春巻き。あの春巻きが食べたい。せっせと具を炒めて春巻きを巻いていく。皮が余って数本だけベトナム風春巻きと自家製スィートチリソースを作った。何の連絡もなく急に夕方過ぎに帰宅した夫。
「春巻き作ったんだけど食べる?」「うん。」ベッドに横たわって春巻きを食べ始めた。「こっちの方が美味しい。」ベトナム風の方を気に入ったらしい。食卓を囲んだわけではないけど、久しぶりの夫との食事。私もベッドの脇に座り春巻きを食べた。
まるで昨日までの日々が嘘みたいに夫は前の夫だった。それだけでもう十分な気がした。過去は過去で今は今だ。色々を掘り返したところで何かが良くなるわけじゃない。お互いに何が悪いのかぐらいわかってる。私が夫を責めたって夫の気持ちも私の気持ちも、もう元に戻れないのだから。夫に出来る精一杯の何かは私への甘えで、それを見つけた私に出来ることは隣で春巻きを頬張ることだと信じてる。じんわりと全身が満たされていった。

水餃子のレシピがだんだん板についてきた。最近は青菜とかきのこが気に入っていて、チキンスープを入れるとジューシーな感じになる。あと油も多め。餃子の中身で巻き方を変えたりして餃子を私なりに習得している。楽しい餃子ライフ。

最近やっぱりおかしい。「大変な時こそ家族で頑張ろうよ。」月初に夫に言った言葉が悪かったのかなと後悔してる。夫との関係は日に日に悪くなる気がした。理由は全くわからない。夫は家にいなくなり、口も殆ど利かない。そして、お酒はもうちゃんと始まったらしい。ここにはない愛を取り戻すかのように夫の為に頑張ろうとする私がどこかにいる。定期的に合わせて取っていた休みは、もう一ヶ月以上延期。食卓はひとりぼっちになり、タイミングよく夕飯を一緒に食べれても、夫は会話しない。5分で食べ終えてベッド。「たまにはゆっくりしようよ。」何十回と言ったと思う。「今、忙しいから疲れてる。」同じ返事しかしない。忙しい理由はわからない。毎日出かけ先からのひつこくやってくるメールや電話もパタリと失くなった。
もし、コロナ前の忙しくて堪らなかった毎日なら何とかなったかもしれない。だけど、こう社会が東京が仕事が毎日が止まった今はありありとそれが体当たりしてくる。絶対に想像しちゃいけない。これは何百回と誓ったけれどダメだった。またバカっぽい女と遊んでるのかなとか、また仕事しないで中目黒の酒場の人たちと遊んでいるのかなとか。事細かく想像してしまう。今に始まったわけじゃない。夫には色々な問題があった。だけど、全てを乗り越えた筈だ。とにかく、落ち着こう。唐揚げは失敗する料理のトップ5に入る。それに私は唐揚げが食べられない。だけど夫の好物。今日は唐揚げを作った。祈るみたいに食事を作り続けてる。

4年前の写真の整理をしていたら、納豆パスタの写真がでてきた。午前10時30分。さっき遅めの朝食にトーストを食べたばかり。2、3分冷たくなったブラックコーヒーを勢いよく流し込んだけど、もう我慢ならない。キッチンへ走る。湯を沸かし冷蔵庫の中に使えそうな材料がないか探す。パスタの何が好きって、乳化が好き。フライパンの中で私の想うままに素直に乳化してくれる感じが気持ちがよくてやめられない。それに、オリーブオイルの味が好きだから根本的に私と乳化は相性がいいと勝手に思ってる。納豆パスタ愛おしい。いただきます。

やっぱり花椒はホールの方が美味しい。

友達はいい。夫が出来ないことでも、友達はしてくれる。例えばお喋り。本当、どうでもいい話をしてるだけで楽しい。夫とはどうでもいい話なんてしない。夫が一方通行で喋ってるくらいで私は基本的に梃子と話してる。だけど不満だとも思わない。どこかでずっと恋人だった頃の夫の影が今でもある。彼は特別であって欲しい。けど、特別じゃないからこそ友達はいい。結果の無いストーリーを永遠に喋ったって、それがつまんなくたって、時には誰かの悪口だって、明日には変わっちゃうようなことだってお喋りしていい。なんでも許される。だって、友達だから。だけど、結構私を支えてくれてるし、それは友達にしか出来ない。だから、友達っていい。夕方に2時間くらい友達と電話でお喋りした。早く友達に会いたい。

夫と電話で喧嘩した。昨晩、仕事だと言って嘘をつき酒を飲んでいた。そして今夜も。電話の向こうで発狂していた夫が帰宅したのは夜中の1時半。小さな声で「ごめんなさい」と言ってるのが聞こえた。本当は先月から夫の酒がまた始まってる事に気づいてた。怒る時もあったけれど、その殆どは知らないフリをしていた。私が怒れば怒るほどにもっと飲んでしまう気がするから。本当はすごく怖い。連日の飲酒が引き金になりそうで怖い。だからこそ、平然としていたようにも思う。何事も無かったように彼が振る舞える日があるのなら私も知らないフリをする。だけど、表立った世界とは関係なく私の不安は的中していたのかもしれない。夫の様子は日に日に悪い方へと向かっている気がする。だけど、世界に嘘をついてでも、ここにある日常にしがみついてでも、現実から目を背けてきたのは私達夫婦の希望だと信じるしか無かった。
それに、私の恐怖は別の場所にもいたから、夫だけの所為にもしたくなかった。コロナ。どんどん減っていく仕事。どれだって怖かった。それに「俺は忙しいから。」と、理由も言わずに出かけていく夫の背中を見るのは寂しくてたまらなかった。夜寝る為だけに帰宅する夫とは殆ど話すことも許されない。お酒なんて気のせいで私がただ寂しいだけなんじゃないか。夫は今は忙しいのだからと言い聞かせていたようにも思う。急に世界が色々と変わりはじめて、何が本当で何が嘘なのか殆どに検討がつかない。
だけど、怒らなきゃ良かったと後悔してる。もう少し我慢できたかもしれない。一人ぼっちになった時にいつも思う。夫と一緒にいるようになってから私はより一層に私の気持ちを言わなくなった。我慢強い性格はいいのか悪いのか、どんどん強固なものになっていく。私の声を聞いてくれるのは誰なんだろう。一緒に食べる筈だった煮卵。冷蔵庫にラップをかけてしまっておくと、夫がひとりで全部食べた。